鬼退治の前に

派手に行くぜえ!」

戦闘の最中、笑いながら鬼を屠っていく男に、女はため息を吐いた。そこら中に飛び散る血。鬼の血であれば日光に当たれば消えるが、今は室内で鬼と戦っている。色濃く残るそれを、夜明けまでには隠さなくてはならないだろう。

「隠の身にもなってほしいわ」

そう愚痴るも、男ーー宇髄天元には聞き入れられないだろう。女はもう一つため息を吐くと、鬼の首をへし折り、引きちぎるようにして、鬼に藤毒を仕込んだ。鬼は青ざめて絶命していく。他の鬼が女に飛びかかるも、すぐに反応され遠くに蹴り飛ばされた。蹴り飛ばされた先の壁にめり込むと、先ほどの鬼と同じように青ざめて絶命した。

「今回も派手にやったじゃねえか」
「不本意。わざとじゃない。壁めり込ませるとか、面倒だわ」

呆気なく鬼の群れは退治され、そこにはまだまだ余裕といった感じの二人が残された。興奮気味に宇髄は女ーー早乙女あきに話しかける。それに顔をしかめてあきは答えた。

「お前やっぱり優秀だよなぁ。派手に俺の継子になれや」
「んー……考えとくのでよろ」
「お前、この前もそう言ったじゃねえか!」
「いやあ、地味な私に派手な天元様の継子は務まりませぇん」
「しっらじらしいな……!」

生意気に断るあきに、宇髄はデコピンをしようと素早く近付いた。そのスピードにしっかりとついていき、華麗にかわすあき。しばらく、狭い室内で二人は鬼ごっこのように動き回った。ついさっきまで、本物の鬼を退治していたのに。近寄りがたいその場にそろーりと、様子を伺うように隠が顔を見せる。それにあきは気づくと、動きを止めて宇髄の手首を抑えた。しかし、鍛えているとはいえ女の力で宇髄を抑えられるわけもなく、思いっきりデコを指で弾かれた。

「痛っ! 本気でやらなくてもいいじゃないよ!」
「うるせえ、俺様に生意気言うからだ!」
「あのう……隠蔽に入っても……」
「あっ、はーい。よろ。私も手伝いますね」

宇髄との戯れをやめ、あきは隠の手伝いを始めた。あきは隠の出身なのだ。その地味な作業を、宇髄は面白くなさそうに見つめる。そうして、いきなりあきの身体を担ぐと、その場を離れようとする。

「ちょっと! 私まだ仕事してるんだけど!」
「そんな地味な仕事はお前の仕事じゃねえ」
「あーもう! 天元様のその偉そうなとこ嫌い!」
「あぁん……?」

あきの発言に、宇髄は青筋を立てて怒りをあらわにした。ぞく、と背筋が凍り、あきは冷や汗をかいて黙り込んだ。宇髄はゆっくりとあきを下ろすと、その場に正座させる。

「誰が、お前に体術を教えたと思ってんだ?」
「…………天元様です」
「お前にいつも仕事持ってきてんのは?」
「…………天元様」
「飯を毎度奢ってるのは誰だったかなー?」
「ああもう、全部天元様ですよ! 申し訳ありませんでした!」
「分かりゃいいんだよ、分かりゃな」

ぽん、と頭を撫でると、宇髄は軽く微笑んだ。あきは、顔がいいって得だよなあとぼんやり思う。

「おら、ボサッとしてんな。派手に朝飯食いに行くぞ。ついて来い」

そう言うと、宇髄はその場から忽然と消えた。その様を見て、またあきはため息を吐き、急いで駆け出す。

「全く、人使いの荒い上司」
「なんか言ったかー!?」
「いいえ、なにも!!」
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