刀鍛冶の少女
「刀鍛冶ってなにが出来んだ?」
「……また随分と唐突ですね」
いつものように私の部屋の縁側でエースと話していると、ふとそんなことを訊かれた。刀鍛冶は刀を作る。そんなことは分かっているだろう。ならば、彼のこの質問は「刀鍛冶というのはなんか面白いことは出来ないのか」と、そう言っているよ聞こえる。現に、目を輝かせて期待するように私を見ている。ふう、と私は一息吐き出すと、傍らに置いていた自作の脇差をスッと抜刀した。
「お?」
「少し時間がかかりますよ」
言って、私は刃の方を上にして地面と水平に刀を持った。そのまま、じっと動かさずに耐える。私の集中を感じ取って、エースもじっと刃先を見つめた。やがて、庭にやって来る小鳥達がその刃先に止まる。まるで枝に止まるように。
「え…………」
「刀と呼吸を通わせ、「斬らない」と命じれば、こんなことも出来ます」
とんっと柄を叩けば、どこも斬られることなく小鳥達は飛んで行った。その鳥達を見上げて、エースは黙っている。
「……やっぱ地味、」
「すっげえええ!! どうやったんだ、今の!!」
「わ、」
エースが興奮して私の背中をバシバシ叩くので少し痛い。説明を求められても、感覚で出来ることなので難しいのだが。
「剣士でも達者な方は出来る方もいます。けれど、刀の心は我々刀鍛冶の方が知っていることが多いので……」
「へー! けど、刀鍛冶でも誰でも出来るわけじゃあねぇんだろ?」
「まあ……そうですね。一流に限ります」
「やっぱアケビはすげーんだな!」
そんなニコニコと褒められたところでなにも出ませんよこんにゃろ。エースは私が睨むのをお構いなしに頭をぐしゃぐしゃ撫でて肩を組んだ。
「なぁ、やっぱりうちに」
「まだ行きませんよ」
「なんだよ、そんだけ出来ればもういいじゃねぇか? 「斬らない」ことが出来るってことは、「斬る」ことも出来るんだろ?」
「それは……そうですが」
下手な剣士よりも、刀鍛冶は刀剣の斬れ味を知っている。そして、それを最大限に引き出す術も。けれど、それは純然な剣術の前には役に立たないものだ。私達は、刀剣の心を知っているだけなのだから。
「屈強な海賊に通用するものではないですよ。うちの一派は剣術も研究しますが」
「なんの心配してんだよ。お前は強くなくたっていいんだ。俺が守るんだからよ」
呆れたようなエースの声に顔を上げる。目が合えば、自信たっぷりの笑顔。なんだか顔が熱くて目をそらしてしまった。
「……そんな、一方的に守られるなんて不本意です。それに、私にはまだここでやることがあります」
「……前も言ってたな。なぁ、具体的にお前は何になりたいんだ? どこを目指している?」
途端に真剣な表情になるエース。エースになら、いいかな。私は、棟梁にも他の兄弟子にも話したことのない夢の話を始めた。
「刀鍛冶には、ある伝承があります。炎の神と刀剣の神、その両方に愛された刀工は、刀剣の言葉を解する、と」
「刀剣の言葉を……げする?」
「刀剣の言葉が聞こえて、話をすることが出来るって……そんな言い伝えがあるんです。棟梁ですら、そんな刀工は見たことも聞いたこともないそうですが」
やはり、馬鹿にされるだろうか。誇張された昔話に騙されているって。そんなこと、あり得るはずもないって。
「お前は、それになりてぇのか」
「…………はい」
「そっか。……やっぱりすげぇな、アケビは。少し俺の弟と似てるかも」
「…………?」
「応援するぜ、アケビの夢! 刀の声ってのが聞こえたら、俺にも教えてくれ!」
真っ直ぐ、私の夢を信じてくれた。いつもの変わらない、太陽のような笑顔で包んでくれた。それが嬉しくて、嬉しくて、気付けば涙を流していた。
「お、おい!? なんで泣くんだよ!?」
「だって、嬉しく、て」
本来、刀鍛冶などなれない身分だ。私はただの捨て子だから。そんな私が、刀鍛冶の頂点を目指すなんて。馬鹿にされて当然なのに。エースの一言、一言が私に勇気をくれる。きっと出来るって、信じられる。
「エース、ありがとう」
「おう、いいから泣くな。俺は泣く奴はその、嫌い、だ」
そう言いながらもそっと胸に引き寄せてくれる、貴方の優しさが私は好きだ。
「……また随分と唐突ですね」
いつものように私の部屋の縁側でエースと話していると、ふとそんなことを訊かれた。刀鍛冶は刀を作る。そんなことは分かっているだろう。ならば、彼のこの質問は「刀鍛冶というのはなんか面白いことは出来ないのか」と、そう言っているよ聞こえる。現に、目を輝かせて期待するように私を見ている。ふう、と私は一息吐き出すと、傍らに置いていた自作の脇差をスッと抜刀した。
「お?」
「少し時間がかかりますよ」
言って、私は刃の方を上にして地面と水平に刀を持った。そのまま、じっと動かさずに耐える。私の集中を感じ取って、エースもじっと刃先を見つめた。やがて、庭にやって来る小鳥達がその刃先に止まる。まるで枝に止まるように。
「え…………」
「刀と呼吸を通わせ、「斬らない」と命じれば、こんなことも出来ます」
とんっと柄を叩けば、どこも斬られることなく小鳥達は飛んで行った。その鳥達を見上げて、エースは黙っている。
「……やっぱ地味、」
「すっげえええ!! どうやったんだ、今の!!」
「わ、」
エースが興奮して私の背中をバシバシ叩くので少し痛い。説明を求められても、感覚で出来ることなので難しいのだが。
「剣士でも達者な方は出来る方もいます。けれど、刀の心は我々刀鍛冶の方が知っていることが多いので……」
「へー! けど、刀鍛冶でも誰でも出来るわけじゃあねぇんだろ?」
「まあ……そうですね。一流に限ります」
「やっぱアケビはすげーんだな!」
そんなニコニコと褒められたところでなにも出ませんよこんにゃろ。エースは私が睨むのをお構いなしに頭をぐしゃぐしゃ撫でて肩を組んだ。
「なぁ、やっぱりうちに」
「まだ行きませんよ」
「なんだよ、そんだけ出来ればもういいじゃねぇか? 「斬らない」ことが出来るってことは、「斬る」ことも出来るんだろ?」
「それは……そうですが」
下手な剣士よりも、刀鍛冶は刀剣の斬れ味を知っている。そして、それを最大限に引き出す術も。けれど、それは純然な剣術の前には役に立たないものだ。私達は、刀剣の心を知っているだけなのだから。
「屈強な海賊に通用するものではないですよ。うちの一派は剣術も研究しますが」
「なんの心配してんだよ。お前は強くなくたっていいんだ。俺が守るんだからよ」
呆れたようなエースの声に顔を上げる。目が合えば、自信たっぷりの笑顔。なんだか顔が熱くて目をそらしてしまった。
「……そんな、一方的に守られるなんて不本意です。それに、私にはまだここでやることがあります」
「……前も言ってたな。なぁ、具体的にお前は何になりたいんだ? どこを目指している?」
途端に真剣な表情になるエース。エースになら、いいかな。私は、棟梁にも他の兄弟子にも話したことのない夢の話を始めた。
「刀鍛冶には、ある伝承があります。炎の神と刀剣の神、その両方に愛された刀工は、刀剣の言葉を解する、と」
「刀剣の言葉を……げする?」
「刀剣の言葉が聞こえて、話をすることが出来るって……そんな言い伝えがあるんです。棟梁ですら、そんな刀工は見たことも聞いたこともないそうですが」
やはり、馬鹿にされるだろうか。誇張された昔話に騙されているって。そんなこと、あり得るはずもないって。
「お前は、それになりてぇのか」
「…………はい」
「そっか。……やっぱりすげぇな、アケビは。少し俺の弟と似てるかも」
「…………?」
「応援するぜ、アケビの夢! 刀の声ってのが聞こえたら、俺にも教えてくれ!」
真っ直ぐ、私の夢を信じてくれた。いつもの変わらない、太陽のような笑顔で包んでくれた。それが嬉しくて、嬉しくて、気付けば涙を流していた。
「お、おい!? なんで泣くんだよ!?」
「だって、嬉しく、て」
本来、刀鍛冶などなれない身分だ。私はただの捨て子だから。そんな私が、刀鍛冶の頂点を目指すなんて。馬鹿にされて当然なのに。エースの一言、一言が私に勇気をくれる。きっと出来るって、信じられる。
「エース、ありがとう」
「おう、いいから泣くな。俺は泣く奴はその、嫌い、だ」
そう言いながらもそっと胸に引き寄せてくれる、貴方の優しさが私は好きだ。
