刀鍛冶の少女

今年のクリスマスは特別だ。なんてったって日曜日だし。大好きなエースと一日中遊べる。エースと冬を迎えるのは3回目になる。15歳の今頃に、いじめに遭っていた私を、エースが助けてくれたのが始まり。その頃のエースは喧嘩っ早くて、私が黙っていじめられているのが目障りだったらしい。私は私で、自分の怪我をいとわないエースにヤキモキして、お節介を焼くようになった。そうして、二人でいることが多くなっていった。エースは、私の良き理解者で、兄のような存在なのだ。そんなエースと、クリスマスを過ごすのは実は初めてである。だって、エースにはたくさんの友達がいて、愛すべき兄弟がいるから。私はいつも誘われなくて、寂しい思いをしていた。けれど、ヤキモチなんか焼きたくなかった。エースが笑顔なら、それでよかった。でも、今年のクリスマスは違った。エースから、お誘いがあったのである。私はそれはもう嬉しくて、3日も前から服装やプレゼントに悩んで、寝不足になっていた。それでも、当日の今日、眠気なんて吹き飛んでいる。待ち合わせの駅前、掲示板に寄りかかるエースを見つけると、私は一目散に駆け寄った。

「エース! すいません、待たせちゃいましたか?」
「……いや、今来た」

それから、エースは無言で私をまじまじと見つめる。どうしよう、なにか変だったかな。

「エース?」
「……可愛い、格好だな今日」
「!! か、可愛くなんて、ないです!」
「いや、俺だって分かるって。……今日のためにオシャレしたんだろ?」
「そ、それは……しましたけど……変ですか?」
「だ、から。可愛いって言ってんだろ。何回も言わせんな」

照れ臭そうにそっぽを向くエースに、私も恥ずかしくて俯いてしまう。ドキドキと心臓が速くなって、調子狂うなぁ。困ってなにも言えずにいると、そっと手を差し出された。

「今日は、人多いだろうから。迷子にならないように、手、繋いでおこうぜ」
「!! うん」

大きな手の平に、私の手を重ねる。優しく包まれて引き寄せられる。歩き出したエースは心なしか早足で、私は背中を見つめながら歩いた。どこに行くかなんて、聞いてない。そんなこと、どうでもよかった。クリスマスにエースを独り占め出来る。これ以上嬉しいことはない。私は、自然とエースの腕に抱きついて歩いていた。

「#アケビ#、その」
「はい?」
「いや……なんでもないです」

今日は今年一番の寒さと聞いた。けれど、寒さなんて全く感じなかった。エースといる喜びを噛みしめるたび、体温は上がっていくようだったから。周囲の喧騒も、時間の流れも、なにもかも気にならなかった。歩いてるだけで幸せだなんて、エース以外には考えられないことだ。

「……#アケビ#、嬉しそうだな。そんな楽しみだったか?」
「もちろん! だってエースを独り占めに出来るクリスマス、初めてですもん! 嬉しいに決まってます」
「お、う。そっか……うん。俺も」
「??」
「うん……」

上機嫌な私と打って変わって、エースはどことなく緊張してるようで、口数もいつもより少ない。エースが黙ったら、私も黙ってついていった。そうして、辿り着いたのは、河川敷の橋の下だった。人気はまばらで、たまに自転車やランニングをしている人が通るくらい。川の水は流れているが、とても冷たそうで触れる気にはなれない。風が通り抜け、思わずエースに抱きついてしまった。

「ここ、日陰で寒いですね」
「……あー! 馬鹿! 俺のバカ! 無理! アホ!」
「!? エース??」
「誘ったの俺だよな? 女の子、クリスマスに昼間から誘っといて! 俺、なにしてんだよ……」

急に叫び出したと思ったら、へなへなと座り込んでしまったエースに戸惑う。とりあえず、コンクリートの地面は冷たいことを覚悟して、私も隣に座った。

「……呆れるだろ、幻滅していいぞ。なっんのデートプランも思いつかなかったんだよ」
「うん」
「なにしたら、#アケビ#喜ぶのかとか。どこ行ったら、笑ってくれんのかとか。一週間は考えたけどなんも思いつかなくて」
「気にしなくていいのに」
「気にするに決まってんだろ! こんなチャンス、二度とねぇかもしれねぇんだぞ!」
「……なんのチャンスですか?」
「!! それ、は…………」

疑問を口にすれば、口をつぐんでしまった。見つめても、見つめ返してはもらえない。交わらない視線に、少しずつ不安になってくる。

「エース、こっち向いて欲しいです」
「……ん」

やっと私を映した瞳は、迷い子のように揺れていて。助けを求めているようだった。やがて、目を瞑るとまたそっぽを向いてしまう。

「ダメだ、見られたくねぇ。情けねぇ……」
「私は見てたいです、ダメですか?」
「かっこ悪りぃ」
「関係ないです。エースのこと、大好きなので」

びくっとエースの肩が揺れた。まずいことを言っただろうか、と思考を巡らせているうちに、突然エースに抱き寄せられていた。

「エース?」
「……敵わねぇよ、#アケビ#には」
「え、なにがですか?」

エースは深呼吸をすると、一層強く私を抱き締めた。聞こえてくるのは、エースの心音だけ。その音と、私のそれが、徐々に重なっていく。

「#アケビ#、好きだ。誰よりも。一生、俺の傍にいて欲しい」

その言葉に目を見開いた。何故だろう、気がつけば涙が流れていた。エースは人気者で、愛されていて。私なんかが独占していい人ではないのに。それなのに、この人は、私の一生が欲しいと言うのだ。他のどんな人よりも。

「エース、本当? エースも、私が好き?」
「当たり前だろ……#アケビ#が思ってる100倍は好きな自信ある」
「嘘、だぁ」
「俺が一回でも、お前に嘘吐いたことあったかよ」
「な、いぃ…………」

いよいよ涙は洪水を起こして、止まらなくなった。泣き出した私に、今度はエースが困る番だった。

「なんで泣くんだよ……泣き虫は、嫌だぞ」
「ごめんなさい……嬉しくて」
「……泣き虫でも、好きなのなんて#アケビ#くらいだ」

優しく背中を撫でる手が、温かくて愛おしい。3年目にして、私の片想いは実ったようだ。本当は、もっと早く結ばれていたのかもしれないけれど。祝福するように、粉雪が舞い始めた。クリスマスは、まだ始まったばかりだ。
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