刀鍛冶の少女

なにか急かされる気分にさせられる肌寒い風が吹く。ドラゴンさんに連れられてやって来たのは、とある秋島だった。どうも白ひげのナワバリだが、海軍や世界政府も出入りする特殊な島だと聞いている。大通りをひとつ東側に入り、商店街を抜けると今日の目的地に到着した。刀鍛冶「鬼徹一派」の工場だ。今日の任務は「「鬼徹一派」の勧誘」と「新たな武器の確保」だった。大きすぎるくらいの門を潜ると、その門の似合う大柄な男が正座で待ち受けていた。

「ようこそ、お越しくださいました。革命軍のリーダーなんてお方にお会い出来て、光栄に思いやす」

丁寧に頭を下げる彼は、ここの頭であろうか。ドラゴンさんも俺の一歩前に出て頭を下げたので、俺もならう。

「こちらこそ、お目通り感謝する。単刀直入に尋ねる。革命軍に入る気はないか?」
「電伝虫でもお伺いしてましたが……お断りさせていただきます。こちらにも事情と矜恃がありまさぁ。ただ、うちの弟子達はどう言うか分かりやせん。時間があるなら、口説いてまわってくれて構わねぇですよ」
「……それは、革命軍に引き抜いても良いと?」
「弟子の進路まで親である俺が口出しは出来ねぇ。けど俺の息子なら、同じことを言うでしょうよ」

そう言って彼は不敵に笑った。なるほど。一筋縄ではいかなそうだ。

「分かった……控えめにあたらせてもらおう。それから、刀剣の発注についてなのだが」
「そのことだが……あんだけの金を積んでもらえるなら、三百振りは用意させてもらいましょう」
「三百振り……!? 破格だ!」

思わず俺は声を上げた。ここの刀の値段が、一級品なのは知っている。どんな悪党にも、金さえあれば刀剣を作ると悪い噂も聞いた。しかしながら、ここの刀を持てば確実に強くなれるとも。だから、だいたい百五十ほど手に入るよう金を積んだのだ。この提案にはドラゴンさんも驚いたのか、目を見開いていた。

「俺ぁ、なにもあんたらが嫌いなわけじゃねぇ。むしろ好きな方だ。変革を求めて刀剣を取ろうとする勇気は尊い。そんな奴らの為に、俺らは刀を打ってんだから。だから、これくらいのことはさせてもらいやす」

そう言って男は、今度は優しい笑顔を見せた。けど、それはうちに来てくれるのと同義ではないのだろうか。

「不思議そうな顔をしているな、小僧。だがな、俺達はどこにも属しちゃなんねぇのさ。武器を作る以上、チャンスは平等に与えられるべきだ。俺達は、平等と自由を愛す。だから、これで手を打ってもらいやす」

心うちを読まれたようで、恥ずかしく思う。俺は言われたことを噛み砕こうと試みたが、どうにも時間がかかりそうだ。はっと気が付けば、ドラゴンさんが中へと案内されていて慌てて背中を追った。店になっていた玄関を抜けると、広い居間のような場所があり、その奥に高炉が立ち並んでいる様だった。

「お前らぁ、暇な奴ぁ来い! 仕事の依頼だぁ!」

そう男が叫ぶと、奥からぞろぞろと職人が姿を現した。俺達を出口に一番近い場所に座らせ、そこから円を描くように職人達が座った。ざっと十人ほどだろうか。ドラゴンさんの真向かいには頭の男が座る。職人の面々の姿形には統一感はないが、服装は皆似たり寄ったりだった。そんな中、頭の男の横に座る少女が俺は気にかかった。彼女も刀鍛冶なのだろうか。

「三百振りってーと、相当な大仕事だな」
「久方ぶりだ、腕がなる」
「どんな刀を作る? それぞれ均等に割り振るか?」
「……誰が使うか分からないのであれば、ハザマの兄者の刀が適任でしょう。三百振り作れ」
「おい、ふざけんなよ! アケビ!」

アケビ、と呼ばれた少女は聞こえないフリ、といった様子で首元に手を当てた。そこでハッとする。彼女の首元から右肩にかけて、酷い火傷の跡があったからだ。

「お前こそ刀作るの速いんだから、三百振り作れ!」
「……私の刀は使用者に合わせた一点物が殆どです。平均的な刀を作るのは苦手だ」

もう言うことはないとばかりに、彼女は立ち上がり奥へ引っ込もうとした。

「作業を残してきました。戻っても平気ですよね? 棟梁」
「あぁ、好きにしろ」
「こら逃げんなアケビ!」
「うるせーよ、ハザマ! 三百振り作れ!」
「十二代目の兄貴も酷いな!?」

十二代目と呼ばれた男がハザマをはたく。どうやら、ハザマと呼ばれる彼の立場は弱いようだ。……俺は仕事をする為に立ち上がった。

「あの娘か?」
「はい。勧誘してみます」

勧誘とは言ったが、俺は彼女に興味があっただけかもしれない。奥に立ち入ったが、頭の男も職人達もなにも言わなかった。少し辺りを探すと、地面にそのまま座り込み刀を研ぐ少女の姿を見つけた。

「こんにちは、少しいいかい?」
「作業しながらでよければどうぞ」

後ろから話しかければ、振り向きもせずそう言われた。俺は話をする為に、そこらへんに散らかる道具を避けて彼女の正面に座った。

「俺は革命軍のサボ。君の勧誘をしに来た」
「……アケビと申します。答えはノーで決まっていますが、なにかあればどうぞ」

バッサリ。そんな言葉が似合う鋭さだった。けれど、俺は怯まずに話を続ける。

「アケビ。君は世界に不満を覚えたことはないか? おかしいと思ったことは?」
「……ないですね。職業柄いろんな方とお話しますが、どんな方であれうちの刀を必要としています。だから、私はここで刀を作る」
「……それが、世界を滅ぼそうとする悪人でも?」
「必要としているなら、そんな人も刀を持つべきです」

目線はずっと研いでいる刀に向けたまま、彼女は淡々と答えていく。悪人であれ、刀を持つべき。それに引っかかって黙っていると、彼女はこう付け足した。

「刀剣にも斬りたくないものはあります。私が心を込めて打っているから。持ち主の心に呼応した時、刀は最大限の力を発揮します」
「???」
「どんな聖人も悪人も、刀剣と心を合わせなければ本当の力は出せません。逆に言えば「強い思い」があれば、刀剣は必ず応えてくれます」

そこでアケビは初めて俺の方を見た。ぞくり、と寒気に似たなにかが背中を走った。小さく年下のこの少女の迫力に、俺は息を飲んだ。

「だから、一緒には行けません。私はどこまでも平等で、自由でありたいからです。私一人の思惑で、持ち主の心を揺るがすわけにはいかないのです。分かってください」
「……君は剣そのもののような人だな」
「?」
「いや、思っただけさ」

彼女が作る刀剣は、持つ人に立ち上がる勇気を与えるのだろう。直感でそう感じた。それを知ってるから、邪魔しない為に敢えて平等でいると。そう彼女は言っているのだと解釈した。

「素敵な職人だね、君は」
「……それほどでもないですよ」

アケビは照れ臭そうに、年相応の笑顔を見せた。ドキリ、とときめく心臓。さっきまでの緊張感と違う、あまりにもギャップのある笑顔にやられた。

「こんな私を、誘ってくれてありがとうございます。一緒に行けなくてすいません」
「いや、いいさ。そんな考え方もあるのかと勉強になった」
「ならよかったです。あ、ここから集中するので、多分お話聞けません」

そう言ったきり、本当にアケビは喋らなくなったし俺の方を見ることもなくなった。けれど、俺は許す限り彼女が刀剣を生み出す作業を見つめ続けた。18歳の俺には、どれも新鮮に神聖な作業に見えた。
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