刀鍛冶の少女
……エースが朝食を置いてどっかへ行ってしまった。仕方ないので、エースが残していった分まで食べ、食器を片付けた。さて。エースと遊びたいので、私は船内
を探し回ることにした。まずは、甲板の上。今日は少し曇ってはいるが、気温は暖かく過ごしやすい天気だ。今日もどっかりと座り、白ひげさんはお酒を煽っている。
「白ひげさん、エース見ませんでしたか?」
「ん? なんだおめえ、はぐれたのか?」
「エース、朝ご飯の途中でどっかいっちゃったんです……」
それを聞くと、白ひげさんは首を傾げた。それに合わせて、私も首を傾ける。可笑しかったのか、白ひげさんは笑い出した。
「グラララ……素直だなあアケビは。なんだ、喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩なんでしょうか……エースの様子が変だったので、理由を聞いたら『理由なんてねぇ』って出て行っちゃたんです」
自分で言っていて悲しくなってきた。肩を落とす私に、白ひげさんは優しく声をかける。
「馬鹿息子め……アケビは悪くないし、エースも照れてるだけだろう。どこにいるかは分からねぇが、迎えに行ってやれ」
「分かりました。探してみます。ところで、照れてるってどうしてですか?」
そう質問すると、白ひげさんは困ったように固まった。そうして少し悩んだ後、
「エースに直接聞いてみろ。お前の気持ちと一緒にな」
と、教えてくれた。白ひげさんに頭を下げると、私は言われた通りにエースを迎えに船内を歩き回った。歩きながら、私の気持ちについて考える。私は、エースが大好きで、いつも一緒にいたいと思っている。離れていても平気だけど、今みたいに突き放されると、悲しい。これを伝えれば、エースは照れなくなるのだろうか。そこまでは分からなくて、ちょうど操舵室で作業をしていたマルコさんに尋ねてみた。マルコさんは、私の話を聞くと深くため息を吐き黙ってしまった。
「それじゃ多分、また逃げ出すよい…………」
「ええっなんでですか」
「お前の気持ちがこっ恥ずかしいからだよい」
「??」
私の気持ちが恥ずかしい? といういことは、この気持ちは情けないものという事なのだろうか。分からずに混乱していると、またマルコさんはため息を吐いた。
「お前、恋って気持ち知ってるか?」
「分かりません!」
「そんな元気に返事するとこじゃないよい」
恋。なんとなーく言葉は聞いたことがある。気持ちの名前なのは知っているが、どういったものなのかは分からない。しかし、それとエースがいなくなった事は、なにか関係があるのだろうか。
「いいか、恋ってのは、相手の事が好きでしょうがなくなることだ」
「うん」
「一緒にいるとドキドキしたり、相手に触れてみたくなったり、もっと知りたいと思ったり……心当たりはねえかよい」
「うーん…………」
私がエースを思う気持ちに、近いような気がする。が、エースが照れる事となんの関係があるのだろう。私の気持ちの名前を知ったところで、この気持ちに変化があるわけでもない。
「私のこの気持ちが、恋に近いことは分かったんですけど、じゃあなんでエースは逃げるんですか」
「…………もういい。とにかく、エースに会ったら寂しいとだけ伝えておけ」
寂しい、か。確かに、寂しい。嘘ではない。ならば、マルコさんの言う通りに、伝えてみよう。私はマルコさんにお礼を言うと、また船内を探しはじめた。キッチン、医務室、会議室、エースの部屋……一通り船内を回ったが、見つけることは出来なかった。あと、探していないのは、倉庫だけだ。
「よし、倉庫に行こう」
私は暗くて埃の多い倉庫に、足を踏み入れた。
アケビから逃げ出して、三時間ほど経った。俺は自分が情けないやら恥ずかしいやらで、倉庫から出られなくなっていた。酒樽と木箱の隙間に入り込み、足を抱えてうなだれる。自分からアケビを船に連れて来ておいてこんな様じゃ、嫌われたって仕方がない。アケビがバーニングエイトに帰ると言い出すのを想像して、胸が痛む。ぎゅっと自分の体を抱える力を強くすると同時に、キィと扉が開く音がした。びく、と身体が震えたのが馬鹿馬鹿しい。
「エースー? いますかー?」
アケビの声だ。返事なんて出来ずに、俺は息を潜める。一歩、一歩、アケビが近付いてくる足音がする。遂に俺の目の前まで来ると、アケビは足を止めた。顔は上げずに、アケビのつま先を見つめる。
「エース、なんで隠れてるんですか?」
「………………アケビの顔、見れねえから」
多分、アケビには答えにならないだろう。しばらく、沈黙が続いた。アケビはゆっくりとその場に座ると、そのまま動かずにじっとしていた。五分か十分か。もっと長いようにも感じられたそれは、俺の唇から水分を奪った。しかし、アケビにはこの重い空気は感じられないようで、いつものように元気そうだった。
「…………アケビ、なんで楽しそうなんだよ」
「え? そんなの、エースといるからに決まっています」
笑顔で告げられる言葉に、息が詰まる。
「さっきまで、エースを探していて寂しかったんです。あ! それから、私のこの気持ちは恋と呼ぶんだと、マルコさんが教えてくれました」
マルコの名前が出て、心が曇ったのは一瞬で。アケビの言葉を噛み砕くほど、頭に熱がいってわけが分からなくなる。身体全体が心臓になったようで、耳にうるさく心拍音が響く。
「エースを見つけられてよかった。長いかくれんぼみたいでしたね」
「…………俺も、寂し、かった」
やっとの思いで、出てきたのはその言葉だけで。それなのに、アケビは笑みを深くして俺に飛びついてきた。俺の膝に顎を乗せて、俺を包もうと手を伸ばして。顔を上げてしまえば、幸せそうな色のアケビの瞳と目が合って。見ていれなくて、でも突き飛ばすなんて出来なくて、誘い込むように俺はアケビを抱きしめた。一瞬、アケビの身体が強張る。でもすぐに力が抜けて、俺にすべてを委ねてきた。
「エース、あったかーい」
「そうかよ」
もうなにも考えらんねぇや。余計なことは全部忘れて、日が暮れるまでアケビを抱きしめていた
を探し回ることにした。まずは、甲板の上。今日は少し曇ってはいるが、気温は暖かく過ごしやすい天気だ。今日もどっかりと座り、白ひげさんはお酒を煽っている。
「白ひげさん、エース見ませんでしたか?」
「ん? なんだおめえ、はぐれたのか?」
「エース、朝ご飯の途中でどっかいっちゃったんです……」
それを聞くと、白ひげさんは首を傾げた。それに合わせて、私も首を傾ける。可笑しかったのか、白ひげさんは笑い出した。
「グラララ……素直だなあアケビは。なんだ、喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩なんでしょうか……エースの様子が変だったので、理由を聞いたら『理由なんてねぇ』って出て行っちゃたんです」
自分で言っていて悲しくなってきた。肩を落とす私に、白ひげさんは優しく声をかける。
「馬鹿息子め……アケビは悪くないし、エースも照れてるだけだろう。どこにいるかは分からねぇが、迎えに行ってやれ」
「分かりました。探してみます。ところで、照れてるってどうしてですか?」
そう質問すると、白ひげさんは困ったように固まった。そうして少し悩んだ後、
「エースに直接聞いてみろ。お前の気持ちと一緒にな」
と、教えてくれた。白ひげさんに頭を下げると、私は言われた通りにエースを迎えに船内を歩き回った。歩きながら、私の気持ちについて考える。私は、エースが大好きで、いつも一緒にいたいと思っている。離れていても平気だけど、今みたいに突き放されると、悲しい。これを伝えれば、エースは照れなくなるのだろうか。そこまでは分からなくて、ちょうど操舵室で作業をしていたマルコさんに尋ねてみた。マルコさんは、私の話を聞くと深くため息を吐き黙ってしまった。
「それじゃ多分、また逃げ出すよい…………」
「ええっなんでですか」
「お前の気持ちがこっ恥ずかしいからだよい」
「??」
私の気持ちが恥ずかしい? といういことは、この気持ちは情けないものという事なのだろうか。分からずに混乱していると、またマルコさんはため息を吐いた。
「お前、恋って気持ち知ってるか?」
「分かりません!」
「そんな元気に返事するとこじゃないよい」
恋。なんとなーく言葉は聞いたことがある。気持ちの名前なのは知っているが、どういったものなのかは分からない。しかし、それとエースがいなくなった事は、なにか関係があるのだろうか。
「いいか、恋ってのは、相手の事が好きでしょうがなくなることだ」
「うん」
「一緒にいるとドキドキしたり、相手に触れてみたくなったり、もっと知りたいと思ったり……心当たりはねえかよい」
「うーん…………」
私がエースを思う気持ちに、近いような気がする。が、エースが照れる事となんの関係があるのだろう。私の気持ちの名前を知ったところで、この気持ちに変化があるわけでもない。
「私のこの気持ちが、恋に近いことは分かったんですけど、じゃあなんでエースは逃げるんですか」
「…………もういい。とにかく、エースに会ったら寂しいとだけ伝えておけ」
寂しい、か。確かに、寂しい。嘘ではない。ならば、マルコさんの言う通りに、伝えてみよう。私はマルコさんにお礼を言うと、また船内を探しはじめた。キッチン、医務室、会議室、エースの部屋……一通り船内を回ったが、見つけることは出来なかった。あと、探していないのは、倉庫だけだ。
「よし、倉庫に行こう」
私は暗くて埃の多い倉庫に、足を踏み入れた。
アケビから逃げ出して、三時間ほど経った。俺は自分が情けないやら恥ずかしいやらで、倉庫から出られなくなっていた。酒樽と木箱の隙間に入り込み、足を抱えてうなだれる。自分からアケビを船に連れて来ておいてこんな様じゃ、嫌われたって仕方がない。アケビがバーニングエイトに帰ると言い出すのを想像して、胸が痛む。ぎゅっと自分の体を抱える力を強くすると同時に、キィと扉が開く音がした。びく、と身体が震えたのが馬鹿馬鹿しい。
「エースー? いますかー?」
アケビの声だ。返事なんて出来ずに、俺は息を潜める。一歩、一歩、アケビが近付いてくる足音がする。遂に俺の目の前まで来ると、アケビは足を止めた。顔は上げずに、アケビのつま先を見つめる。
「エース、なんで隠れてるんですか?」
「………………アケビの顔、見れねえから」
多分、アケビには答えにならないだろう。しばらく、沈黙が続いた。アケビはゆっくりとその場に座ると、そのまま動かずにじっとしていた。五分か十分か。もっと長いようにも感じられたそれは、俺の唇から水分を奪った。しかし、アケビにはこの重い空気は感じられないようで、いつものように元気そうだった。
「…………アケビ、なんで楽しそうなんだよ」
「え? そんなの、エースといるからに決まっています」
笑顔で告げられる言葉に、息が詰まる。
「さっきまで、エースを探していて寂しかったんです。あ! それから、私のこの気持ちは恋と呼ぶんだと、マルコさんが教えてくれました」
マルコの名前が出て、心が曇ったのは一瞬で。アケビの言葉を噛み砕くほど、頭に熱がいってわけが分からなくなる。身体全体が心臓になったようで、耳にうるさく心拍音が響く。
「エースを見つけられてよかった。長いかくれんぼみたいでしたね」
「…………俺も、寂し、かった」
やっとの思いで、出てきたのはその言葉だけで。それなのに、アケビは笑みを深くして俺に飛びついてきた。俺の膝に顎を乗せて、俺を包もうと手を伸ばして。顔を上げてしまえば、幸せそうな色のアケビの瞳と目が合って。見ていれなくて、でも突き飛ばすなんて出来なくて、誘い込むように俺はアケビを抱きしめた。一瞬、アケビの身体が強張る。でもすぐに力が抜けて、俺にすべてを委ねてきた。
「エース、あったかーい」
「そうかよ」
もうなにも考えらんねぇや。余計なことは全部忘れて、日が暮れるまでアケビを抱きしめていた
