刀鍛冶の少女

昨晩の雨が嘘のように晴れ渡った今日。バーニングエイトの刀工は今日も忙しく刀を作る。注文分の仕上げが終わった私は、兄弟子の作刀を見学したり、新しい刀を考案することに時間を使っていた。暇潰しに庭で新作の試し斬りでもしようか、と思ったところで玄関先から私を呼び出す声を聞いた。

「アケビ、お前にお客さんだぞ~」
「はーい、今行きます」

広い作業場を横切り玄関まで行くと、眩しい笑顔でエースが立っていた。よっ! と手をかざす彼にならい私も手を挙げるが、彼の服がびしょ濡れなことに気づいて慌てた。そう、昨日は大雨。ここに来るまでの海の様子を想像したらぞっとした。

「ちょ、エース! びしょ濡れ! 風邪ひきますよ!」
「ん? こんくらいヘーキだぜ? にしても、ひでぇ雨だったな!」
「そんな天気の中、来なくても……出発時は晴れてたんですか?」
「いや、大荒れ!」
「なんで来たんですか!?」

私は呆れながら、急いでタオルを取りに工場に戻る。適当に引っつかんで、エースに投げて寄越した。相変わらずエースは笑っている。

「ちょっと散歩に来たんだよ。なんかアケビに会いたかったし」
「はあ………………」

にっといい笑顔で言われれば、それ以上は言えなくなる。私なんかに会いに来るために、嵐の中舟を出す人なんてきっと彼くらいだろう。心配で仕方がないのだが、嬉しいようなこそばゆいような。複雑な気分になる。とりあえず、お風呂を沸かして、彼の服を干して。替えの服を兄から借りて来よう。私はエースを中へ案内した。
彼が風呂に入っている間に、お茶と茶菓子を用意する。実は彼がここへ散歩に来てくれるのは今回が初めてではない。いつもお茶を出すうちに、彼の好む濃さを覚えてしまった。茶菓子にはどら焼きを選んだ。この島では有名なワノ国菓子のお店のものだ。こうやっておもてなしをすることは慣れているのだが、彼が相手となると心持ちは変わる。喜ぶ顔を思い描いて、温かい気持ちになる。いつ来てくれても、面倒だと思ったことはない。嵐の中やってくるのは控えてほしいが……。これが、世間で言う「友達」というものなのだろうか? 捨て子で職人に拾われて育った私にはよく分からない。

「ふぅー。いい湯だった! あんがとな!」
「それはよかったです。お茶入ってますよ」
「お、いつも悪ぃな! アケビはいい子だ~」

ぐしゃっと頭を撫でられる。エースはたまにお兄ちゃんになるのだ。よく弟さんの話をするので、その影響なんだろうと思う。庭に面した私の自室で、縁側に二人で腰掛ける。お茶を飲みながら、ゆっくり傾き出した太陽と爽やかな風を感じながら話す。どら焼きをかじり出したエースに、私の分のどら焼きを半分にして渡した。その半分もエースが食べる。

「いつもお前、おやつ半分俺にくれるけど、なんで?」
「え、そういえばなんででしょう」

エースが来ると食べ物を半分にして渡す。これが自分の中で当たり前のルールになっていた。なんでだっただろうか。少し考えて、すぐに答が出た。

「好きな人には、たくさん食べてほしいですから」
「!?……おう、そっか」

そう言うと、エースの食べるスピードが落ちた。いつもより大事そうに食べるけれど、どこか緊張しているような顔なので少し寂しく思う。見たいのは、幸せそうにがっつく彼の顔だから。

「あんこ、口の端についてますよ」

親指ですくい取り舐めとれば、今度は真っ赤になって食べる手を止めた。こちらを凝視して、少し睨まれているよう。

「……エース?」
「あー……なんでもねえ。なんでもねえよ」

ぐいっとお茶を飲み干す。ああ、おかわりをいれてこなくちゃ。
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