刀鍛冶の少女
ゆらゆら揺れているのが心地よい。だが、次第に違和感が私を襲った。ひとつに、寒い。エースの背中じゃない。もうひとつ、揺れが大きくなっている。まるで波に揺られているように……それからしょっぱい匂い。……塩?
「ここどこ!?」
「うおっ、急に起きるなよ。危ねえ」
身体を思い切って起こしたら、大きく小舟は揺れた。ここ……海の上? 辺りはすっかり明るくなっていた。どうやら、夜を越したようだ。見渡す限り、空と海の境界が見えるだけで、陸はひとつも見えない。私を絶望と呼ぶべきなにかが包む。震えを抑えるように、自分を抱き締めた。
「おい、アケビ。大丈夫か……?」
「……この船の行く先は、モビーディック号ですか」
「当たり前だろ? 俺の家だからな」
エースの様子は普段と変わりない。状況だけが一変している。私、お休みは一日しか貰ってないのに。
「エース、私帰らなくちゃ」
「どうして?」
「だって、仕事が……」
「仕事なら、モビーディックの上でもあるだろ?」
そういうことではない。確かに、モビーディックの上でも仕事はあるだろうけど。そういうことじゃない。波音が近くに聞こえる。船の下を見れば、深い青がどこまでも続いていそうで。自力で帰れる距離ではないことを、暗示していた。
「……悪りぃけど、俺は海賊だ。欲しいもんは、奪う」
「……エース、」
「アケビのことは、もう帰さねぇ」
あぁ、エースと離れたくないと思ったことが、こんな結果をもたらしたのか。でも、こんなのって。私、家族にちゃんと別れも言っていない。気が付けば、口に塩水が入ってきた。目頭が熱い。
「!! アケビ、泣くなよ」
「だって……エース、海に着いたら起こすって、言いました。嘘つきです」
「っ…………!!」
「私、皆に出て行くなんて、言っていません」
「……アケビ、その」
「帰りたいです……」
そう伝えて、項垂れるしかなかった。船の動力は、エースの炎だ。エースに送ってもらえなければ、私は帰ることが出来ない。
「そう、そうだ。アケビはいい子過ぎるんだ」
「エース……?」
「だから、ちょっと悪いこと覚えよう。俺が教えてやるから。どうせ、数ヶ月したらモビーディックはメンテナンスで、バーニングエイトに行くんだ。そん時に帰ったらいい」
「悪いこと……家出?」
「そ。どうだ? 毎日、俺と遊べるぞ?」
それはとっても魅力的だ。エースと数ヶ月、たくさん遊べる。遊びたい。思えば、私はこれまで生きてきて、刀を作ることしかやってこなかった。刀を作ることは好きだが、もう少し自由が欲しかったのも事実。ちょっとくらい。そう、悪い考えが頭をよぎる。
「じゃあ、ちょっとだけ……ちょっとだけ、悪い子になります」
「!! じゃあ、」
「エースと、たくさん遊びます! たくさん、教えてください」
「おう! 任せろ!」
エースがにかっと笑った。それだけでさっきの絶望が嘘のように、晴れていくのは何故だろうか。兄につけられた火傷の跡が疼くが、気付かないフリをした。もう、帰る心配はしない。ちょっと、ほんのちょっとだけ帰るのが遅くなるだけ。ドキドキを抑えながら、私達はモビーディック号へ向かったのだった。
「ここどこ!?」
「うおっ、急に起きるなよ。危ねえ」
身体を思い切って起こしたら、大きく小舟は揺れた。ここ……海の上? 辺りはすっかり明るくなっていた。どうやら、夜を越したようだ。見渡す限り、空と海の境界が見えるだけで、陸はひとつも見えない。私を絶望と呼ぶべきなにかが包む。震えを抑えるように、自分を抱き締めた。
「おい、アケビ。大丈夫か……?」
「……この船の行く先は、モビーディック号ですか」
「当たり前だろ? 俺の家だからな」
エースの様子は普段と変わりない。状況だけが一変している。私、お休みは一日しか貰ってないのに。
「エース、私帰らなくちゃ」
「どうして?」
「だって、仕事が……」
「仕事なら、モビーディックの上でもあるだろ?」
そういうことではない。確かに、モビーディックの上でも仕事はあるだろうけど。そういうことじゃない。波音が近くに聞こえる。船の下を見れば、深い青がどこまでも続いていそうで。自力で帰れる距離ではないことを、暗示していた。
「……悪りぃけど、俺は海賊だ。欲しいもんは、奪う」
「……エース、」
「アケビのことは、もう帰さねぇ」
あぁ、エースと離れたくないと思ったことが、こんな結果をもたらしたのか。でも、こんなのって。私、家族にちゃんと別れも言っていない。気が付けば、口に塩水が入ってきた。目頭が熱い。
「!! アケビ、泣くなよ」
「だって……エース、海に着いたら起こすって、言いました。嘘つきです」
「っ…………!!」
「私、皆に出て行くなんて、言っていません」
「……アケビ、その」
「帰りたいです……」
そう伝えて、項垂れるしかなかった。船の動力は、エースの炎だ。エースに送ってもらえなければ、私は帰ることが出来ない。
「そう、そうだ。アケビはいい子過ぎるんだ」
「エース……?」
「だから、ちょっと悪いこと覚えよう。俺が教えてやるから。どうせ、数ヶ月したらモビーディックはメンテナンスで、バーニングエイトに行くんだ。そん時に帰ったらいい」
「悪いこと……家出?」
「そ。どうだ? 毎日、俺と遊べるぞ?」
それはとっても魅力的だ。エースと数ヶ月、たくさん遊べる。遊びたい。思えば、私はこれまで生きてきて、刀を作ることしかやってこなかった。刀を作ることは好きだが、もう少し自由が欲しかったのも事実。ちょっとくらい。そう、悪い考えが頭をよぎる。
「じゃあ、ちょっとだけ……ちょっとだけ、悪い子になります」
「!! じゃあ、」
「エースと、たくさん遊びます! たくさん、教えてください」
「おう! 任せろ!」
エースがにかっと笑った。それだけでさっきの絶望が嘘のように、晴れていくのは何故だろうか。兄につけられた火傷の跡が疼くが、気付かないフリをした。もう、帰る心配はしない。ちょっと、ほんのちょっとだけ帰るのが遅くなるだけ。ドキドキを抑えながら、私達はモビーディック号へ向かったのだった。
