刀鍛冶の少女

バーニングエイト、刀鍛冶「鬼徹一派」のお客様向けの電伝虫が鳴る。こんなに朝早くから鳴るのは珍しいが、職人の朝は早い。難なく受話器を取ると、棟梁十代目鬼徹は大声で電話に出た。

「はい! こちら、刀鍛冶「鬼徹一派」……なんだい、親父さんか! こんな朝早くどうした?……おう、そうかい。エース君が……いよいよだな。……なに? 今更約束を違える気はねぇですよ! 元々、俺はあんたの船のクルーでさぁ! ……はい、ちゃんと送り出しますよ、あの娘の「親父」としてさ。……だから、くれぐれもよろしく頼んます」

大声での会話に、いよいよかと男共は思った。可愛い妹分との生活も、今日が最後になる。別れというのは、何の節目もなくやってくるものだ。皆、悟られてはいけないと、普段通りの作業をした。「お前がいなくても、俺達は刀を作り続ける」ーーそんな無言の約束がなければ、あの箱入り娘は家を出ないだろう。だから、いつも通りの朝を演じた。

「棟梁、仕事の依頼ですか?」
「ん? まぁ、そんなもんだ。ところでアケビ、ーー」

当の本人は、全く気付いてない様子だ。それでいい。そうでなければーーそうでなきゃ、俺達は引き止めてしまうだろうから。


朝、急に棟梁から今日は一日休みと言われた。なんでも、「一週間真面目に働いた褒美」だって。そんなもの貰ったのは初めてな気がする。一ヶ月休みなく働いた時もなかったような……? 少し違和感を覚えたが、今日はちょうどエースが散歩に来ると言っていたから、都合が良いと思った。エースはいつ来るだろうか? 「すぐ行く」とは言っていたけど、流石に出るのは朝だろうし、お昼頃かな。丸一日、自由にエースと行動出来るのはそれこそ初めてなので、ワクワクする。どこに行こう? なにをしよう? 友達と遊ぶことも私はしたことがないから、たくさんエースに教えてもらおう。エースには友達がいっぱいいそうだから……その時、胸がちくっと痛んだ気がした。

(??)

痛みはすぐに消えていった。なんだろうか。エースのこととなると、知らないことばかりが起こる。

「アケビー! エース来たぞー!」
「!? はーい、今行く!!」

流石に早くないか? と思ったけど、それよりも会いに来てくれた嬉しさが勝った。自分の部屋を飛び出し、玄関まで駆けていった。

「エース!!」
「うわっと……危ね!」

勢いあまってエースに飛び込んでしまった。けれど、びくともせずにエースは受け止めてくれた。えへへ、と笑って見せるが、エースの顔がぎこちないので、

「! どっか痛くした?」

と心配した。なんでもない、とエースは顔を逸らす。やっぱり、ちょっと前からエースは様子が変だ。今日、その理由も聞けたらいいな。

「エース、今日私一日休みなんです!」
「! そうなのか?」
「はい! だからたくさん遊んでください!」

跳ねてはしゃぐ私をなだめるように、エースは私の頭をぽんぽんと撫ぜた。あぁ、これ心地いいな。

「アケビー!」
「はい! なんですか棟梁!」

急に棟梁に呼ばれ、身体がシャキッとする。ドスドスと棟梁は私の元にやって来ると、私のリュックと刀を一振手渡してきた。この刀は、棟梁の作だ。

「どうせお前ら二人でいたら、面倒事起こすんだ。アケビも自衛出来るようにしておけ!」

面倒事、というのはしばらく前の喧嘩のことだろう。確かに、棟梁の刀があれば自衛出来る。私はリュックを背負い、刀を腰に差した。

「ありがとうございます! じゃあ、いってきます!」

棟梁と家族の皆に手を振って、私はエースと一日の冒険に出かけたのだ。


アケビの姿が見えなくなるまで、皆が作業をする手を止めていた。そうして、またいつも通りの作業を始めた。しかし、所々からすすり泣く声が漏れる。

「な、泣くんじゃねぇよお前ら……別にもう会えねぇわけじゃねぇ」
「けど、けどよ……もう俺達、アケビの飯食うことないんだと思うと……」
「うるせぇ、俺達の作る飯なんてだいたい皆一緒だろうがぁ」

口々に弱音を吐く彼らを、一喝するように棟梁が声を荒げる。

「情けねぇこと言ってんじゃねぇぞ、お前らぁ! うちの一番弟子の門出だ、涙なんて必要ねぇ! 男らしく見送りやがれ……うおおおん!」
「棟梁が一番泣いてるじゃないですかぁ」

アケビの大事な家族の家から、しばらく泣き声が止まることはなかった。
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