刀鍛冶の少女

昼前にはバーニングエイトからモビーディックに戻ってきた。新世界のわりには、比較的安全な航海だったと思う。照りつける日差しと、それを反射する水面。冒険日和といった天気で、少しナイーブになっていた心も癒される。昼メシを食べたら、甲板で昼寝と洒落込もう。俺はストライカーを格納すると、皆が待っている食堂に足を運んだ。

「いい加減、通い妻なんかしてねぇでアケビを連れてこいよい」
「ぐっ!?……ゴホ、ゴホ!」

向かいに座ったマルコが、なにかとんでもないことを言った。飯が喉に詰まってむせる。慌てて水を摂り一緒に流し込んだ。涙目になりながら、マルコに抗議の視線を送った。

「見てられねぇんだよい。さっさと連れてこい」
「けど、アケビにその気がねぇ……」
「おいおい、火拳ともあろうもんが弱気だな!? 俺たちゃ海賊だぜ?」

いつの間にか、席を移動してきたサッチまで会話に加わる。サッチの顔はそりゃもう面白いもんを見たがっている顔だ。マルコは呆れ顔でため息を吐く。

「好きな女くらい、奪わなくてどーすんだよ!」
「奪うって……そんな無理強いしたくねぇよ」
「別に無理強いじゃなくたって、呼び出す口実はいくらでもあるだろよい。そんくらいの仲には見えるが?」

ぐっ、と言葉に詰まると、二人に笑われた。そうは言われても、「友達」の烙印を押されたばかりの俺には辛いものがある。

「そんな仲良くねぇよ……」
「おいおいおいおい! 本気で弱気だな? なんかあったのか?」

サッチに突っ込まれたので、別に隠すことでもないし昨日の夜のことを話してやった。ああ、それで充分なんて思ったのに改めて言葉にすると凹む。俺の話を聞き終わると、サッチとマルコは顔を見合わせた。

「……やっぱり、さっさと迎えに行けよい」
「うん、俺もそう思うぞエース」
「お前ら今の話聞いてたのかよっ!」
「聞いた上で言ってんだよい」

大の男二人に哀れみの視線を向けられてはたまらない。絶賛失恋中の俺は、早々にその場を後にした。甲板に出て、心地よい日差しの中寝転んだが、眠気なんて訪れなかった。


それから一週間、アケビとは電話で話すだけにとどまっていた。次に会った時、俺はなにをしでかすか怖かった、ようで。アケビは前と変わらず、明るい声で電話をかけてきた。それが救いのような絶望のような。とにかく、彼女の声を聞く度に、切なくて会いたい気持ちを募らせていた。今夜もアケビがかけてきそうな時間帯には部屋にいて、青い子電伝虫を眺める。我ながら滑稽だと思う。聞けば聞くほど辛いのに、それがやめられねぇんだ。プルプルプル、予想通りに電伝虫が鳴く。

「…………エースだ」
「こんばんは! アケビです! 聞いてください、今日ですね……」

アケビの毎日の話を聞くのは、楽しかった。こんな話をされるのは俺だけなんだろうな、と思えば優越感もあった。故郷を懐かしむような暖かさを感じながら、相槌を打っていた。

「……エース、最近元気ないですか?」
「え」
「あんまり、エースから話してくれることが減ったので」

急に寂しそうな声を出されて、途端に胸が悲鳴を上げる。取り繕うように、とにかく声を出さなければ。

「そ、そんなことねぇよ? 元気、元気! いつも通りだ!」
「本当ですか……? あ、私のが年下だからって遠慮してます?」
「それもねぇよ!」

見当違いな心配に、安心させるようすぐ否定した。なのに、そうしたらアケビは無言になった。嫌だ、イヤだ。頼む、置いて行かないでくれ……。

「アケビ、」
「寂しいです」

はっきりと、でも本当に小さくアケビはそう言った。俺の中で、何かが切れる音がした。

「もう、お散歩には来てくれないんですか」
「行く」
「え、」
「今すぐ会いに行く」

俺は電伝虫を繋いだまま、部屋の外に出た。これ以上、会わないでいるのは無理だと思った。アケビじゃない、俺がだ。あんな声を出されて、顔が見えないなんて耐えられなかった。

「じゃあ、待っています!」

嬉しそうないつもの声に戻った。少し安心した。俺を信じて待っていてくれることが、何より嬉しかった。

(好きな女くらい、奪わなくてどーすんだよ!)

何故だかサッチの言葉が頭に響く。そうだよな、俺達は海賊だもんな。「友達」はずっと一緒だって、アケビにも言ったしな。そんな言い訳を用意しては、俺のこの衝動に理由をつけようとしていた。
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