刀鍛冶の少女

気まずい。こんな時間は初めてだ。食事が終わって、いつものようにアケビの部屋の縁側で話そうと思ったものの、何を言ったらいいか分からねぇ。アケビも、あれから黙ったままだ。縁側で背中を丸めて座る背中を、切なく見つめる。隣に行く勇気が出ねぇ。情けねぇな。意識しちまったら、こんなにも遠くなるもんなのか。だったらこんな気持ち、やっぱり知らないフリが出来ていたらよかったのに。

「…………アケビ」
「なんですか」
「……なんか、怒ってんのか?」
「……分かんないんです」

溢れてこぼれてしまったアケビの名前。恐る恐る尋ねれば、アケビの声も振り絞るようなもので。キュッと胸が締め付けられて、込み上げてくる想いが熱くて。俺だって、どうしたらいいのか分からねぇよ、アケビ。

「なにが、分かんねぇの」
「エースの事と、自分の事」
「俺のことはともかく、アケビのことも分からねぇのか?」

こくり、と頷く。そんな仕草ひとつですら、俺は胸を焦がす。ドクドクと主張する心臓を、冷やすように縁側から風が吹き込む。今日は少し冷え込みそうだ。

「……アケビ、寒くねぇか? 閉めた方が」
「今はこれが心地いいからいいんです」
「そっか」

それから、また無言が続く。辛いような、ずっとこのままでもいいような不思議な感覚だ。アケビは、自分が分からないと言った。俺だって、それは分からない。だから苦しい。でも、俺のことなら教えられるじゃねぇか。そう答えが出たけれど、口の中が乾いて、心臓が加速し過ぎて。言葉にならない。

「あのな、アケビ」
「??」

ようやく絞り出した声で、やっと振り向いた彼女の顔は、不安そうで儚かった。伝えなくちゃ。そう脳が指令を出していた。

「俺、アケビが好きだ」
「!! 私もエースが好きです!」

パッと花が咲くように、笑顔でそう言われた。俺はその光景を受け入れるまで数秒かかってしまう。あまりにも、当たり前だと言うように、キレイに笑うから。身体も心も言うことなんて聞かない。ただ、俺は力なくその場に座り込んでいるだけだ。近寄ってきたアケビを、瞬きひとつせず見つめた。

「なんだ、おんなじ気持ちなんですね!」
「あ、ああ……?」
「エースが私のこと、好きでよかった! ごちゃごちゃ悩んだけど、エースも私もお互いが好きで!」

望みたくない言葉、望んじゃいけない言葉。けれど、好きと繰り返すその唇に、違和感を覚える。

「これが、「友達」ってことなんですね! 私、初めて出来ました!」

友達。それもう、ずっと前から俺は思ってたが。俺が伝えた言葉が、ちゃんと分かってもらえてないことに、俺は大きく息を吐いた。それは安堵にも似ていた。身体から力が抜けていく。

「エース?」
「そうだな、俺達は「友達」だ。だから、ずっと一緒にいなきゃいけねぇんだ」

ああ、俺はなんて卑怯なんだろう。何も知らない彼女にとって、ただ一人の友達になりながら。知らないことをいいことに、都合のいいことを教えて。

「エースとずっと一緒なら、嬉しいです!」

それでも無邪気に喜んでくれる君の、ただ一人の友達でいよう。今は、それで充分すぎる。そう思った夜だった。
11/27ページ
スキ