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「やっぱり夏と言えばこれだよねこれ!」
賛同する人はいない。それでも浮き足立って私は展示会場を目指す。今日はなんてったって、大好きな恐竜の博覧会に行くのだ。夏に開催かれることの多い恐竜博。少し遠くても、必ず足を運んでいる。電車を乗り継いで、駅から歩いて10分。ようやく辿り着いた会場は人でいっぱいだ。家族連れとかカップルが大半で、私みたいな歳の女が1人っていうのは見かけないけど。前売り券を買っているので、スムーズに会場に入ることが出来る。エスカレーターを降って、オープニングムービーが流れる広場を通り抜ける。勘違いしてる人が多いが、博覧会では決して並ぶ必要はない。自由に、好きなところから見ていいのだ。だから、とりあえず一周して、気になるところやよく見れなかったところを周回するようにしている。平均して5回以上、3時間以上は恐竜博にいることが多い。化石というものは生命のエネルギーに溢れている。かつてこの大地を闊歩していたのだ、ここにその証拠が残っている! そう誇らしく主張している化石たち。それに人間の手が加わり、展示されることで恐竜化石はアートになるのだ。私はそう思っている。来る度にワクワクして、新鮮なエネルギーを吸収するととても元気になれるのである。
(あっ、あれ世界初公開の新種の化石だ!)
だいたい目玉は大型の恐竜になりがちだが、恐竜博には最先端の恐竜研究の成果が集まっている。小型恐竜の化石を皆が素通りする中、近くまで行きじっと見つめる。
「えっなにこれ、羽じゃなくて膜があるの!?」
獣脚類というグループは鳥に進化した、というのが最近の通説で、羽が生えている恐竜はたくさんいるのだが、この恐竜はコウモリの様な飛膜を持っていたらしい! 思わず声を上げると、隣にいた男性の肩が揺れるのが見えた。申し訳なくてちらっと横を見ると。
「…………辻ちゃん?」
「…………こ、こんにちは。早乙女さん」
めっちゃ小さい声で挨拶される。こんなところで知り合いに会えるとは思っていなかった。
「ねえ、これすごくない!? 面白すぎない!?」
「うん、うん……。スゴイね」
思わず辻ちゃんが女性が苦手なことを忘れて、ぐいぐい話しかけてしまった。辻ちゃんを見れば顔が真っ赤で、茹で上がったみたいだった。
「ごめん、私すごい恐竜好きで……一緒に周らない?」
「お、俺、見るの時間、かかるから……」
「全然いいよ!」
辻ちゃんは困った様に口をパクパクさせた。これだと、折角の恐竜を集中して見れないだろう。それは可哀想なので、
「じゃあ、別々にしよっか? ごめんね、話しかけちゃって」
「そんなこと、ない」
「ありがと。じゃあね!」
「…………楽しんでね」
小さい声だったけど、精一杯な辻ちゃんの優しさが感じられてほっこりした。さて、私は恐竜に集中し直したが、別段会場が広いわけでもないので、結局割と近いところに辻ちゃんがいる感じだった。けれど、辻ちゃんのことなど忘れて、私は夢中で恐竜を全身で堪能した。恐竜の起源はここまで明らかになったんだ、とか。今回当時のイメージイラスト書いてる人は好きな人だ、とか。中でも心を惹きつけられたのは、スピノサウルスの全身復元骨格だった。最新の研究に基づいて復元されたポーズは生き生きとしていて、展示の照明なども最高に良かった。目の前に椅子が欲しいところだが流石になくて、私はスピノサウルスの前を行ったり来たりした。いろんな角度から写真を撮り、落ち着くと少し離れて立ち止まって眺めた。うん、やっぱりいい。
「……すごいね」
急に話しかけられて、今度は私が驚く番だった。いつの間にか辻ちゃんが隣に立っていて、一緒にスピノサウルスを見ていた。
「ね! すごいよね! 水中で生活してたって! 今までも魚食なのは知ってたけど、ここまで水中に適応した形だったんだね!」
また勢いで話してしまった。しまった、と思ったが、辻ちゃんはふふふと笑い出した。
「本当に好きなんだ、恐竜」
「うん、大好き!」
答えれば、また辻ちゃんは表情を固くして赤くなった。
「……心臓に悪いな」
「??」
辻ちゃんは首を横に振る。それから、目線をスピノサウルスの方へ戻した。私も、そうした。
「視界の端ですごく楽しそうに見てるから、俺集中出来なくて」
「なんかごめん。」
「いや、その。褒めてる。……キラキラしてて、可愛いよ」
思いもよらない言葉に、私まで頬が熱くなる。そんな風に自分のことを受け止めてくれたのが嬉しかった。
「ねえ、やっぱり一緒に見ようよ。恐竜の話したい」
「うん、俺も聞きたい」
横を確認すれば、辻ちゃんも笑っていた。私からすれば、辻ちゃんの方がキラキラしてる。それに、なんか落ち着く。しばらく、スピノサウルスの前で言葉なく立ち尽くした。
「…………よし。行こう! 私まだ最後の方よく見てないんだ!」
辻ちゃんの手を引っ張り、私は歩き出した。
「ちょ……手、手を」
慌てる辻ちゃんなどお構いなしに、ぎゅっと私は手を握った。私の話を聞いてくれる貴重な人だ、今日1日は絶対に離さない!
賛同する人はいない。それでも浮き足立って私は展示会場を目指す。今日はなんてったって、大好きな恐竜の博覧会に行くのだ。夏に開催かれることの多い恐竜博。少し遠くても、必ず足を運んでいる。電車を乗り継いで、駅から歩いて10分。ようやく辿り着いた会場は人でいっぱいだ。家族連れとかカップルが大半で、私みたいな歳の女が1人っていうのは見かけないけど。前売り券を買っているので、スムーズに会場に入ることが出来る。エスカレーターを降って、オープニングムービーが流れる広場を通り抜ける。勘違いしてる人が多いが、博覧会では決して並ぶ必要はない。自由に、好きなところから見ていいのだ。だから、とりあえず一周して、気になるところやよく見れなかったところを周回するようにしている。平均して5回以上、3時間以上は恐竜博にいることが多い。化石というものは生命のエネルギーに溢れている。かつてこの大地を闊歩していたのだ、ここにその証拠が残っている! そう誇らしく主張している化石たち。それに人間の手が加わり、展示されることで恐竜化石はアートになるのだ。私はそう思っている。来る度にワクワクして、新鮮なエネルギーを吸収するととても元気になれるのである。
(あっ、あれ世界初公開の新種の化石だ!)
だいたい目玉は大型の恐竜になりがちだが、恐竜博には最先端の恐竜研究の成果が集まっている。小型恐竜の化石を皆が素通りする中、近くまで行きじっと見つめる。
「えっなにこれ、羽じゃなくて膜があるの!?」
獣脚類というグループは鳥に進化した、というのが最近の通説で、羽が生えている恐竜はたくさんいるのだが、この恐竜はコウモリの様な飛膜を持っていたらしい! 思わず声を上げると、隣にいた男性の肩が揺れるのが見えた。申し訳なくてちらっと横を見ると。
「…………辻ちゃん?」
「…………こ、こんにちは。早乙女さん」
めっちゃ小さい声で挨拶される。こんなところで知り合いに会えるとは思っていなかった。
「ねえ、これすごくない!? 面白すぎない!?」
「うん、うん……。スゴイね」
思わず辻ちゃんが女性が苦手なことを忘れて、ぐいぐい話しかけてしまった。辻ちゃんを見れば顔が真っ赤で、茹で上がったみたいだった。
「ごめん、私すごい恐竜好きで……一緒に周らない?」
「お、俺、見るの時間、かかるから……」
「全然いいよ!」
辻ちゃんは困った様に口をパクパクさせた。これだと、折角の恐竜を集中して見れないだろう。それは可哀想なので、
「じゃあ、別々にしよっか? ごめんね、話しかけちゃって」
「そんなこと、ない」
「ありがと。じゃあね!」
「…………楽しんでね」
小さい声だったけど、精一杯な辻ちゃんの優しさが感じられてほっこりした。さて、私は恐竜に集中し直したが、別段会場が広いわけでもないので、結局割と近いところに辻ちゃんがいる感じだった。けれど、辻ちゃんのことなど忘れて、私は夢中で恐竜を全身で堪能した。恐竜の起源はここまで明らかになったんだ、とか。今回当時のイメージイラスト書いてる人は好きな人だ、とか。中でも心を惹きつけられたのは、スピノサウルスの全身復元骨格だった。最新の研究に基づいて復元されたポーズは生き生きとしていて、展示の照明なども最高に良かった。目の前に椅子が欲しいところだが流石になくて、私はスピノサウルスの前を行ったり来たりした。いろんな角度から写真を撮り、落ち着くと少し離れて立ち止まって眺めた。うん、やっぱりいい。
「……すごいね」
急に話しかけられて、今度は私が驚く番だった。いつの間にか辻ちゃんが隣に立っていて、一緒にスピノサウルスを見ていた。
「ね! すごいよね! 水中で生活してたって! 今までも魚食なのは知ってたけど、ここまで水中に適応した形だったんだね!」
また勢いで話してしまった。しまった、と思ったが、辻ちゃんはふふふと笑い出した。
「本当に好きなんだ、恐竜」
「うん、大好き!」
答えれば、また辻ちゃんは表情を固くして赤くなった。
「……心臓に悪いな」
「??」
辻ちゃんは首を横に振る。それから、目線をスピノサウルスの方へ戻した。私も、そうした。
「視界の端ですごく楽しそうに見てるから、俺集中出来なくて」
「なんかごめん。」
「いや、その。褒めてる。……キラキラしてて、可愛いよ」
思いもよらない言葉に、私まで頬が熱くなる。そんな風に自分のことを受け止めてくれたのが嬉しかった。
「ねえ、やっぱり一緒に見ようよ。恐竜の話したい」
「うん、俺も聞きたい」
横を確認すれば、辻ちゃんも笑っていた。私からすれば、辻ちゃんの方がキラキラしてる。それに、なんか落ち着く。しばらく、スピノサウルスの前で言葉なく立ち尽くした。
「…………よし。行こう! 私まだ最後の方よく見てないんだ!」
辻ちゃんの手を引っ張り、私は歩き出した。
「ちょ……手、手を」
慌てる辻ちゃんなどお構いなしに、ぎゅっと私は手を握った。私の話を聞いてくれる貴重な人だ、今日1日は絶対に離さない!