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彼女は戦線を退いてから、自分に自信をなくしていた。
界境防衛機関、ボーダー鈴鳴支部。隊員たちが任務から戻ると、支部内は料理のいい匂いに満たされていた。
「お疲れ様、みんな。もう、遅いから、ここでご飯食べていきなさい」
「やっほーい! あきさんの手料理だー!」
「あ! 太一、あんたじっとしてなさい!」
「太一、配膳は俺たちでやるから座ってろ」
落ち着きない別役を、今と村上は慌てて席に座らせた。
「あきさんも座っててください」
そう言って来馬は椅子を引く。
「ありがとう、来馬君」
あきは杖をテーブルに立てかけ、席についた。
「ビーフシチューとポテトサラダがあるから、よそってもらえる?」
「はーい」
温かい料理がテーブルに並べられていく。その様子を、彼女は満足気に見つめた。
「いただきまーす!」
両手を合わせてから、料理が口に運ばれていく。じっくり煮込まれたシチューに、隊員達は舌鼓を打った。
「うっまーい!」
「本当、今度作り方教えてください」
感想を素直に述べる2人とは対照的に、男性2人は黙々とスプーンを動かす。よほど美味しいらしい。
「美味しく食べてもらえてよかったわ」
「こんだけ美味かったら、あきさん超いいお嫁さんになりますね!」
「あっ、こら太一……」
別役の言葉に、微笑んでいた彼女の表情が曇った。今は気まずそうにあきを見つめる。やがて、彼女は曖昧に笑った。
「そうね、なれたらね」
「…………どうして、忍田さんのプロポーズ断ったんですか」
今度は村上が踏み込んだことを尋ねる。うつむいて黙ったまま、彼女は答えない。
「忍田さんとお付き合いして長いんでしょう? 皆、結婚するんだろうと思ってました」
「ちょっと、鋼くん」
「忍田さんのこと、好きなのに、どうしてですか」
「……この足じゃ、ね。一緒の歩幅で歩けないでしょう?」
左足をさすりながら、そうこぼす。近界民との闘いで負傷し、後遺症が残った足。この傷を受けた時から、彼女は愛しい人と結ばれることを諦めていた。強いその人の隣に立つには、自分はあまりに弱くなってしまったと。
「……別に一緒の歩幅でなくてもいいんじゃないですか」
今まで黙っていた来馬が口を開く。あきは顔を上げて来馬を見た。来馬は優しく笑いかける。
「歩幅が違うから、相手の存在に気がつけるし、優しくなれるんじゃないかな。大事なのは、歩幅が同じことじゃなくて、歩幅を合わせて、一緒に歩くことなんじゃないでしょうか」
それを聞いて彼女は瞼を閉じ、一言呟いた。
「尚更、一緒にはなれないわ」
食事の後片付けを終え、あきは支部の戸締りを始めた。学生である隊員達は、一足先に帰宅している。忘れ物がないかを確認し、パソコンの電源を落とし、正面玄関に鍵をかけて、裏口から外に出る。今夜は冷え込んでいて、左足の傷が痛む。杖をつきながら表通りに出ると、彼女が会いたくなかった人物が立っていた。
「お疲れ様、あき」
「……真史さん」
忍田は微笑みながら歩み寄ると、あきから鞄を取り上げ横に並んだ。言葉を交わさないまま、ゆっくりと夜道を歩き出す。他の歩行者が二人を追い越して歩いていく。それを、苦しげに彼女は見送った。
「……今年もなんだかんだで終わるな」
「……そうね」
「年末はどちらの家で過ごす? 去年みたいにあきの家にお邪魔していいかな」
「……いいですよ。年越しそばとおせち作りますね」
「…………なぁ、来年は一緒に暮らさないか」
その言葉に、彼女は立ち止まる。歩みを止め、忍田はあきに向き合った。あきは忍田から視線をそらす。忍田は構わずに、彼女の手を取る。
「この間の指輪、やっぱり受け取ってはもらえないだろうか?」
「……受け取れません」
「何故? 私のことが、嫌になったか」
彼女は首を横に振る。困ったように忍田は笑った。
「じゃあ、私が頼りないかな」
「……私じゃ、真史さんに釣り合わないよ」
絞り出すようにそう告げる。忍田は目を丸くし、食い下がった。
「そんなことはない。私は、あきでなきゃダメなんだよ。」
「…………真史さんは優しいから、そう言うんだわ」
キッと彼女は彼を睨んだ。その反応に忍田は面食らう。忍田の手を振りほどき、彼女は叫ぶ。
「真史さんは、優しいから! こんな私に同情してそんなこと言うのよ!」
「……違う」
「私は、貴方と一緒には戦えない、歩けもしない! 嫌なのよ、貴方のお荷物になるのは。助けて欲しくなんてないの!」
「あき、」
「もう放っといてよ……私は、一人で大丈夫だから……」
そう言って、その場に泣き崩れてしまった。忍田は眉を寄せ、ため息を吐いた。その反応に、あきは分かってくれたと安心する。しかし、涙は次から次へと彼女の頬をつたう。
「……助けて欲しいのは、私の方なんだがな」
忍田はもう一度あきの手を取ると、彼女の体を引っ張り起こした。そのまま、彼女を腕の中に閉じ込める。離れようとするのを、力で抑え込みながら語りかけた。
「毎日、君と一緒に起きて、同じ家に帰ってきて、同じものを食べて、一緒に眠る。ただ、それだけでいいんだ。それ以上は望まない。欲しくもない。あきが一人で大丈夫でも、私はもう君がいない生活は考えられない。君が可哀想だからじゃない、あきを愛しているから。だから君と結婚したいだけだ」
やがてあきは大人しくなった。忍田は頭を撫でながら、なお続ける。
「私はあきが大事だから、そんなに自分を卑下しないでくれ。荷物だなんてとんでもないよ。あきがいるから、毎日頑張れるし、戦い続けられる。今までも、これからも。ずっと、側にいて欲しいんだ」
ついにはあきは、忍田の服を握りしめて、胸の中で声を上げて泣き出した。子供をあやすように、忍田は優しく背中を叩く。
「今すぐじゃなくていい。君がその傷を乗り越えたら、そしたら、結婚しよう。私は、いつまでも待つから」
言葉の代わりに、彼女は大きく頷いた。涙を指ですくい、優しく彼女にキスを落とす。
「あき、愛している。世界中の誰よりも、君が好きだ」
「うう……うわああん!」
子供のように泣きじゃくる彼女が泣き止むまで、忍田は彼女を抱きしめた。
界境防衛機関、ボーダー鈴鳴支部。隊員たちが任務から戻ると、支部内は料理のいい匂いに満たされていた。
「お疲れ様、みんな。もう、遅いから、ここでご飯食べていきなさい」
「やっほーい! あきさんの手料理だー!」
「あ! 太一、あんたじっとしてなさい!」
「太一、配膳は俺たちでやるから座ってろ」
落ち着きない別役を、今と村上は慌てて席に座らせた。
「あきさんも座っててください」
そう言って来馬は椅子を引く。
「ありがとう、来馬君」
あきは杖をテーブルに立てかけ、席についた。
「ビーフシチューとポテトサラダがあるから、よそってもらえる?」
「はーい」
温かい料理がテーブルに並べられていく。その様子を、彼女は満足気に見つめた。
「いただきまーす!」
両手を合わせてから、料理が口に運ばれていく。じっくり煮込まれたシチューに、隊員達は舌鼓を打った。
「うっまーい!」
「本当、今度作り方教えてください」
感想を素直に述べる2人とは対照的に、男性2人は黙々とスプーンを動かす。よほど美味しいらしい。
「美味しく食べてもらえてよかったわ」
「こんだけ美味かったら、あきさん超いいお嫁さんになりますね!」
「あっ、こら太一……」
別役の言葉に、微笑んでいた彼女の表情が曇った。今は気まずそうにあきを見つめる。やがて、彼女は曖昧に笑った。
「そうね、なれたらね」
「…………どうして、忍田さんのプロポーズ断ったんですか」
今度は村上が踏み込んだことを尋ねる。うつむいて黙ったまま、彼女は答えない。
「忍田さんとお付き合いして長いんでしょう? 皆、結婚するんだろうと思ってました」
「ちょっと、鋼くん」
「忍田さんのこと、好きなのに、どうしてですか」
「……この足じゃ、ね。一緒の歩幅で歩けないでしょう?」
左足をさすりながら、そうこぼす。近界民との闘いで負傷し、後遺症が残った足。この傷を受けた時から、彼女は愛しい人と結ばれることを諦めていた。強いその人の隣に立つには、自分はあまりに弱くなってしまったと。
「……別に一緒の歩幅でなくてもいいんじゃないですか」
今まで黙っていた来馬が口を開く。あきは顔を上げて来馬を見た。来馬は優しく笑いかける。
「歩幅が違うから、相手の存在に気がつけるし、優しくなれるんじゃないかな。大事なのは、歩幅が同じことじゃなくて、歩幅を合わせて、一緒に歩くことなんじゃないでしょうか」
それを聞いて彼女は瞼を閉じ、一言呟いた。
「尚更、一緒にはなれないわ」
食事の後片付けを終え、あきは支部の戸締りを始めた。学生である隊員達は、一足先に帰宅している。忘れ物がないかを確認し、パソコンの電源を落とし、正面玄関に鍵をかけて、裏口から外に出る。今夜は冷え込んでいて、左足の傷が痛む。杖をつきながら表通りに出ると、彼女が会いたくなかった人物が立っていた。
「お疲れ様、あき」
「……真史さん」
忍田は微笑みながら歩み寄ると、あきから鞄を取り上げ横に並んだ。言葉を交わさないまま、ゆっくりと夜道を歩き出す。他の歩行者が二人を追い越して歩いていく。それを、苦しげに彼女は見送った。
「……今年もなんだかんだで終わるな」
「……そうね」
「年末はどちらの家で過ごす? 去年みたいにあきの家にお邪魔していいかな」
「……いいですよ。年越しそばとおせち作りますね」
「…………なぁ、来年は一緒に暮らさないか」
その言葉に、彼女は立ち止まる。歩みを止め、忍田はあきに向き合った。あきは忍田から視線をそらす。忍田は構わずに、彼女の手を取る。
「この間の指輪、やっぱり受け取ってはもらえないだろうか?」
「……受け取れません」
「何故? 私のことが、嫌になったか」
彼女は首を横に振る。困ったように忍田は笑った。
「じゃあ、私が頼りないかな」
「……私じゃ、真史さんに釣り合わないよ」
絞り出すようにそう告げる。忍田は目を丸くし、食い下がった。
「そんなことはない。私は、あきでなきゃダメなんだよ。」
「…………真史さんは優しいから、そう言うんだわ」
キッと彼女は彼を睨んだ。その反応に忍田は面食らう。忍田の手を振りほどき、彼女は叫ぶ。
「真史さんは、優しいから! こんな私に同情してそんなこと言うのよ!」
「……違う」
「私は、貴方と一緒には戦えない、歩けもしない! 嫌なのよ、貴方のお荷物になるのは。助けて欲しくなんてないの!」
「あき、」
「もう放っといてよ……私は、一人で大丈夫だから……」
そう言って、その場に泣き崩れてしまった。忍田は眉を寄せ、ため息を吐いた。その反応に、あきは分かってくれたと安心する。しかし、涙は次から次へと彼女の頬をつたう。
「……助けて欲しいのは、私の方なんだがな」
忍田はもう一度あきの手を取ると、彼女の体を引っ張り起こした。そのまま、彼女を腕の中に閉じ込める。離れようとするのを、力で抑え込みながら語りかけた。
「毎日、君と一緒に起きて、同じ家に帰ってきて、同じものを食べて、一緒に眠る。ただ、それだけでいいんだ。それ以上は望まない。欲しくもない。あきが一人で大丈夫でも、私はもう君がいない生活は考えられない。君が可哀想だからじゃない、あきを愛しているから。だから君と結婚したいだけだ」
やがてあきは大人しくなった。忍田は頭を撫でながら、なお続ける。
「私はあきが大事だから、そんなに自分を卑下しないでくれ。荷物だなんてとんでもないよ。あきがいるから、毎日頑張れるし、戦い続けられる。今までも、これからも。ずっと、側にいて欲しいんだ」
ついにはあきは、忍田の服を握りしめて、胸の中で声を上げて泣き出した。子供をあやすように、忍田は優しく背中を叩く。
「今すぐじゃなくていい。君がその傷を乗り越えたら、そしたら、結婚しよう。私は、いつまでも待つから」
言葉の代わりに、彼女は大きく頷いた。涙を指ですくい、優しく彼女にキスを落とす。
「あき、愛している。世界中の誰よりも、君が好きだ」
「うう……うわああん!」
子供のように泣きじゃくる彼女が泣き止むまで、忍田は彼女を抱きしめた。