longseries-2-
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「…………お腹、空かないか?」
それは苦し紛れに出した話題で。無言の緩やかな時間が嫌いなわけじゃないけど、退屈させているのではと不安が勝った。珠莉は夕陽を眺めながら、チャイティーの入った紙カップを傾ける。
「んーそうでもない。お昼遅かったし……あ、でも鋼くんはお腹空いたよね」
「ん、まぁ」
このあとはどうしようか。珠莉と夕飯を食べてもいい。誘ってもいいだろうか。そわそわしてるのを悟られないようにしながら、きっかけを探す。
「鋼くんって一人暮らしだよね。ちゃんと食べてる?」
「うん、それなり」
「なに食べるの?」
「カップ麺の日もあるし、簡単に料理する日もあるよ」
「へぇ、偉いなー」
珠莉はよく俺のことを、偉いと褒めてくれる。別段、大したことではないと思うのだけど、前にそんなことはないと否定したら、「私は出来ないから」と酷く寂しそうな顔で言われてしまったので、何も言わないことにした。
「食べてみたいなぁ、鋼くんが作るご飯」
「え」
「食べてみたい」
膝を抱えてぽつりと溢された言葉に、固まってしまう。俺が何も返さないから、珠莉はこちらに顔を向けた。また、寂しそうな顔。
「…………じゃあ、来る? 俺の家」
思わず、そう答えていた。声が喉に張り付いた感じがする。
「うん! 邪魔じゃなければ!」
珠莉の笑顔には警戒心なんて欠片もなくて、この子に悪いことなんて出来っこないと思った。身体を揺らして喜ぶ姿は、子供っぽい。荒船が彼女を「手のかかる子供」と愚痴っていたのを思い出す。
(荒船に怒られるかな、俺)
珠莉の具合が悪いかも、と連絡をくれたのは荒船だ。そして、そう連絡したことを珠莉に伝えるな、と言ったのも。珠莉に気遣わせないその態度は、カッコいい。
「…………行こうか?」
また沈黙に耐えられなくて声をかける。話すだけなのに、無駄に緊張してしまっていることは分かっている。それが意味するところも、なんとなく。
「うん、行こう!」
土埃を払って、立ち上がる。とりあえず、材料買いにスーパーだな。献立を考えながら、2人で商店街に向かった。
家が近づくと、ものすごく不安になってきた。本当に家に上げてしまってもいいんだろうか。珠莉は隣で鼻唄を歌っていて、なんだか恨めしくも思う。
「あの、本当に大したものは作れないからな?」
「? うん」
「散らかってるし」
「うん」
あまりにも平然としているので、こっちが変なことを言っている気分だ。ため息が出てしまう。
「??」
「………ちょっとここで待ってて」
外にいてもらい、部屋の中をチェックする。干しっぱなしの洗濯物を衣装ケースに押し込んで、散らかった雑誌を部屋の隅に追いやって。整理整頓出来ている、とは言えないが、とりあえず座るところはある。もう一度、息を深く吸い込んで吐いた。玄関を開けて、珠莉を呼ぶ。
「いいよ、入って」
「お邪魔しまーす」
部屋に入ると、珠莉はキョロキョロと中を見回した。けれど、特になにも言うことはなく、やがてフローリングに座り込んだ。
「いいね、なんか城って感じで」
「城?」
「城っていうか、秘密基地?」
いいなーと、珠莉はのびのびとくつろぎ始めた。クッションを渡せば抱き抱える。……お尻に敷いて、って意味だったんだけど。
「じゃあ、作るね」
「あっ手伝うよ!」
狭い台所に、2人で並ぶ。俺が材料を切って、珠莉には米を研いでもらった。なんとなく、手際を注視してしまう。
「どうかした?」
「あ、いや。……結構料理とか、するの?」
「出来なくはないけど、あんましないよー」
「得意料理とかある?」
「んー缶詰のパスタ?」
……珠莉が言ったように、簡単に「食べたい」と言えればよかったんだけど。荒船は食べたことあるのかな。
「あと手伝うこと、ある?」
「大丈夫、ありがとう」
珠莉を座らせて、手早く豚肉とキャベツを炒める。メニューは回鍋肉にした。調理の素を使えば、失敗しないかと思って。
「お腹空いてきた」
「そら、よかった」
回鍋肉を炒め終えて、お米が炊けるまでしばらく談笑した。珠莉の反応はゆったりとしていて、いつだって素直で、話していて安心する。安心感と緊張感が引っ張りあって、むず痒くなる。そのうち、お米は炊けた。
「ごめん、お茶碗ないから平皿で」
「あ、全然。大丈夫でーす」
小さなテーブルに、大皿に盛った回鍋肉と、お米を盛ったお茶碗と平皿。
「いただきます」
しっかり手を合わせて言う姿に、やっぱり安心というか、温かい気持ちになる。
「あ、回鍋肉美味しい!」
「ほんと?」
「うん、美味しい」
大口で頬張る彼女にほっとして、俺も箸を伸ばす。回鍋肉と米を一緒に口に運ぶ。
「!!」
何故だか、お米が美味しい気がする。気のせいかな? 気のせいだったら、浮かれてるみたいで恥ずかしいけど。
「なんか、お米美味しい気がするんだけど」
「えー普通に炊いただけだよ?」
「炊き方が上手いのかも」
「そんなことあるかなー」
山盛りに作った回鍋肉は、あっという間になくなって。俺も食べるけど、珠莉も結構食べる。珠莉はお米をおかわりした。
「ごちそうさまでした!」
「お粗末さま」
珠莉は食器を下げると、進んで洗い物をしてくれた。今度は俺が座って待つ。ふと、今のシチュエーションがあまりにも同棲してる2人みたいで、熱が上がった。
「びしょびしょになった」
「…………ふふっ」
振り向いた彼女があまりにもずぶ濡れだったので、笑ってしまう。
「下手くそなんだよねー皿洗い」
珠莉はまた俺の隣に座って、おしゃべりを始める。……ずっとそうしていたかったけど、時間が気になり始める。時計を見る素振りをすると、珠莉は見るからにしょげた顔をする。散歩帰りの子犬みたいだ。
「そろそろ帰った方がいい?」
「そうだな、遅くなるし」
「うん、そうだね」
珠莉は立ち上がると、大きく伸びをした。俺も立ち上がり、送る準備をする。
「お邪魔しました、ありがとう」
「うん」
「…………また遊びに来ていい?」
そんな寂しそうに笑われたら、断れるわけないだろ。
それは苦し紛れに出した話題で。無言の緩やかな時間が嫌いなわけじゃないけど、退屈させているのではと不安が勝った。珠莉は夕陽を眺めながら、チャイティーの入った紙カップを傾ける。
「んーそうでもない。お昼遅かったし……あ、でも鋼くんはお腹空いたよね」
「ん、まぁ」
このあとはどうしようか。珠莉と夕飯を食べてもいい。誘ってもいいだろうか。そわそわしてるのを悟られないようにしながら、きっかけを探す。
「鋼くんって一人暮らしだよね。ちゃんと食べてる?」
「うん、それなり」
「なに食べるの?」
「カップ麺の日もあるし、簡単に料理する日もあるよ」
「へぇ、偉いなー」
珠莉はよく俺のことを、偉いと褒めてくれる。別段、大したことではないと思うのだけど、前にそんなことはないと否定したら、「私は出来ないから」と酷く寂しそうな顔で言われてしまったので、何も言わないことにした。
「食べてみたいなぁ、鋼くんが作るご飯」
「え」
「食べてみたい」
膝を抱えてぽつりと溢された言葉に、固まってしまう。俺が何も返さないから、珠莉はこちらに顔を向けた。また、寂しそうな顔。
「…………じゃあ、来る? 俺の家」
思わず、そう答えていた。声が喉に張り付いた感じがする。
「うん! 邪魔じゃなければ!」
珠莉の笑顔には警戒心なんて欠片もなくて、この子に悪いことなんて出来っこないと思った。身体を揺らして喜ぶ姿は、子供っぽい。荒船が彼女を「手のかかる子供」と愚痴っていたのを思い出す。
(荒船に怒られるかな、俺)
珠莉の具合が悪いかも、と連絡をくれたのは荒船だ。そして、そう連絡したことを珠莉に伝えるな、と言ったのも。珠莉に気遣わせないその態度は、カッコいい。
「…………行こうか?」
また沈黙に耐えられなくて声をかける。話すだけなのに、無駄に緊張してしまっていることは分かっている。それが意味するところも、なんとなく。
「うん、行こう!」
土埃を払って、立ち上がる。とりあえず、材料買いにスーパーだな。献立を考えながら、2人で商店街に向かった。
家が近づくと、ものすごく不安になってきた。本当に家に上げてしまってもいいんだろうか。珠莉は隣で鼻唄を歌っていて、なんだか恨めしくも思う。
「あの、本当に大したものは作れないからな?」
「? うん」
「散らかってるし」
「うん」
あまりにも平然としているので、こっちが変なことを言っている気分だ。ため息が出てしまう。
「??」
「………ちょっとここで待ってて」
外にいてもらい、部屋の中をチェックする。干しっぱなしの洗濯物を衣装ケースに押し込んで、散らかった雑誌を部屋の隅に追いやって。整理整頓出来ている、とは言えないが、とりあえず座るところはある。もう一度、息を深く吸い込んで吐いた。玄関を開けて、珠莉を呼ぶ。
「いいよ、入って」
「お邪魔しまーす」
部屋に入ると、珠莉はキョロキョロと中を見回した。けれど、特になにも言うことはなく、やがてフローリングに座り込んだ。
「いいね、なんか城って感じで」
「城?」
「城っていうか、秘密基地?」
いいなーと、珠莉はのびのびとくつろぎ始めた。クッションを渡せば抱き抱える。……お尻に敷いて、って意味だったんだけど。
「じゃあ、作るね」
「あっ手伝うよ!」
狭い台所に、2人で並ぶ。俺が材料を切って、珠莉には米を研いでもらった。なんとなく、手際を注視してしまう。
「どうかした?」
「あ、いや。……結構料理とか、するの?」
「出来なくはないけど、あんましないよー」
「得意料理とかある?」
「んー缶詰のパスタ?」
……珠莉が言ったように、簡単に「食べたい」と言えればよかったんだけど。荒船は食べたことあるのかな。
「あと手伝うこと、ある?」
「大丈夫、ありがとう」
珠莉を座らせて、手早く豚肉とキャベツを炒める。メニューは回鍋肉にした。調理の素を使えば、失敗しないかと思って。
「お腹空いてきた」
「そら、よかった」
回鍋肉を炒め終えて、お米が炊けるまでしばらく談笑した。珠莉の反応はゆったりとしていて、いつだって素直で、話していて安心する。安心感と緊張感が引っ張りあって、むず痒くなる。そのうち、お米は炊けた。
「ごめん、お茶碗ないから平皿で」
「あ、全然。大丈夫でーす」
小さなテーブルに、大皿に盛った回鍋肉と、お米を盛ったお茶碗と平皿。
「いただきます」
しっかり手を合わせて言う姿に、やっぱり安心というか、温かい気持ちになる。
「あ、回鍋肉美味しい!」
「ほんと?」
「うん、美味しい」
大口で頬張る彼女にほっとして、俺も箸を伸ばす。回鍋肉と米を一緒に口に運ぶ。
「!!」
何故だか、お米が美味しい気がする。気のせいかな? 気のせいだったら、浮かれてるみたいで恥ずかしいけど。
「なんか、お米美味しい気がするんだけど」
「えー普通に炊いただけだよ?」
「炊き方が上手いのかも」
「そんなことあるかなー」
山盛りに作った回鍋肉は、あっという間になくなって。俺も食べるけど、珠莉も結構食べる。珠莉はお米をおかわりした。
「ごちそうさまでした!」
「お粗末さま」
珠莉は食器を下げると、進んで洗い物をしてくれた。今度は俺が座って待つ。ふと、今のシチュエーションがあまりにも同棲してる2人みたいで、熱が上がった。
「びしょびしょになった」
「…………ふふっ」
振り向いた彼女があまりにもずぶ濡れだったので、笑ってしまう。
「下手くそなんだよねー皿洗い」
珠莉はまた俺の隣に座って、おしゃべりを始める。……ずっとそうしていたかったけど、時間が気になり始める。時計を見る素振りをすると、珠莉は見るからにしょげた顔をする。散歩帰りの子犬みたいだ。
「そろそろ帰った方がいい?」
「そうだな、遅くなるし」
「うん、そうだね」
珠莉は立ち上がると、大きく伸びをした。俺も立ち上がり、送る準備をする。
「お邪魔しました、ありがとう」
「うん」
「…………また遊びに来ていい?」
そんな寂しそうに笑われたら、断れるわけないだろ。