longseries-2-
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7月1日、俺の誕生日。まだ梅雨明けしていなくて、初夏の爽やかな晴れ模様とはいかなかった。雨の降りだしそうな空の下、俺はまだベットの中だ。
「お兄ちゃんお誕生日おめでとう。早くしないと遅刻するよ?」
「あー! 分かってるよもう!」
「なんで不機嫌なのよ……いいから早く降りてきてよね」
あわよくば、珠莉先輩に一番最初におめでとうを言ってもらえるかと、ベットの中で賭けていたのに、妹に早々に阻止された。まあ、それが本題じゃないからいいんだけど……問題は「珠莉先輩が俺の誕生日を覚えているのか?」ということだ。日にちは伝えた、昨日だけど。そう、6月中に上手く切り出せなくて、結局前日に突然、
「俺、明日誕生日なんですよ」
と、切り出す図々しい後輩になってしまった。さすがに覚えてるかな、祝ってくれるかな。期待に胸が膨らみ、なかなかベットから出る決心がつかない。だが、そもそも先輩と当校を毎日しているだけで、それ以外、一日に接点はない。だから、遅刻してしまえば機会すら逃すことになる。俺は、覚悟を決めてベットから抜けだした。外では雨音が鳴り出している。珠莉先輩を、雨のなか待たせる訳にはいかない。朝食は諦め、早々に家を出る。
「あんた、また朝食抜くの?」
「それどころじゃないの!」
母さんに止められたが、振り切って外へ。傘に雨粒がぶつかって、結構大きな音をたてる。珠莉先輩と待ち合わせの十字路に向かうまでに、ズボンはびしょ濡れだ。幸い、珠莉先輩はまだ来ていない。いつもドキドキしてるけど、今日は一段と心音がうるさい気がする。
「おはよう佐鳥くん。すごい雨だね」
「お、おはようございます!」
珠莉先輩はピンク色の傘を一度、くるりと回した。そうしていつも通りに歩き出す。
「 佐鳥くん?」
「あっ、すみません。今行きます!」
まだ、会ったばっかりだ。まだ、通学路は半分以上ある。期待で胸が押し潰されて苦しい。早く、解放して欲しい。
「今日一日中、雨なのかなぁ。髪の毛広がっちゃう」
「珠莉先輩、髪の毛綺麗ですよね。秘密あるんですか?」
「んーお手入れは気にかけてるけど」
他愛のない話の中に、今日が俺にとって特別な日であることを伝える隙間を探すけど、やっぱり本当は珠莉先輩から言ってほしくて言い淀む。そんな俺に気づいてない珠莉先輩は、いつも通りだ。いつも通り、俺の大好きな人。
「珠莉先輩、」
小さな声が、雨に掻き消される。次の言葉も引っ込んだ。だけど、貴女は拾ってくれて。
「佐鳥くん、なにか言った?」
綺麗に微笑む顔を見たら、ねだることなんて出来なかった。
「なんも言ってないっす」
「そっか」
雨はいよいよ強くなる。俺の気持ちは冷え込んでいく。そうして、終着点まで到着した。学校に着いた。
「じゃあ、今日も頑張ろうね佐鳥くん。ばいばい」
「はい、珠莉先輩。ばいばい」
ばいばい、の声が掠れた。それに気づいて欲しいかった、なんて俺は落ち込みすぎだろうか。
ボーッと過ごして、いつの間にか昼休みだ。太一も日佐人も半崎も、誕生日を祝ってくれて、そん時はちゃんと笑えたし、嬉しかったけど。たった一人、一言もらえないだけで、こんなに心って空っぽになるもんなんだな。別に珠莉先輩が俺の誕生日を覚えておくことは、義務なんかじゃないのに。寝てるフリして、机に突っ伏した。
「ごめんくださーい。佐鳥くん、いますか?」
聞き間違えるはずのない声が聞こえて、ビックリして顔を上げた。俺を見つけると、珠莉先輩は戸惑うことなく俺の席までやってきて、袋を差し出した。……購買のパン?
「ごめんね佐鳥くん、私……昨日言われてたのにすっかり忘れてて」
「え、そんな別に」
いいんですけど、なんて俺は嘘つきだ。珠莉先輩は困った顔から、とびきりの笑顔に変わる。
「お誕生日おめでとう、佐鳥くん。生まれてきてくれて嬉しいわ」
あ、やばい。ちょっと泣きそうだよ俺。おめでとうの一言だけでよかったのに。顔も絶対真っ赤になってる。顔会わせられない。
「購買のパンで申し訳ないけど、食べてね!」
「ありがとうございます、すごく、すごく嬉しいです」
持ち前の元気で明るく誤魔化すことが出来ない。本当はもっと嬉しいことを、ちゃんと貴女に伝えたいのに。
「佐鳥くん、もしかしてお腹いっぱい?」
「いや、そんなことないです! 食べられます」
検討違いな心配に、思わず笑みがこぼれた。よかった、バレてないしがっかりもされてない。
「あ、雨。晴れたね」
窓から急に日差しが差し込む。俺の気持ちも、10分前とは比べ物にならないくらい晴れやかだ。誕生日おめでとう、俺。生まれてきて、本当によかったよな。
「お兄ちゃんお誕生日おめでとう。早くしないと遅刻するよ?」
「あー! 分かってるよもう!」
「なんで不機嫌なのよ……いいから早く降りてきてよね」
あわよくば、珠莉先輩に一番最初におめでとうを言ってもらえるかと、ベットの中で賭けていたのに、妹に早々に阻止された。まあ、それが本題じゃないからいいんだけど……問題は「珠莉先輩が俺の誕生日を覚えているのか?」ということだ。日にちは伝えた、昨日だけど。そう、6月中に上手く切り出せなくて、結局前日に突然、
「俺、明日誕生日なんですよ」
と、切り出す図々しい後輩になってしまった。さすがに覚えてるかな、祝ってくれるかな。期待に胸が膨らみ、なかなかベットから出る決心がつかない。だが、そもそも先輩と当校を毎日しているだけで、それ以外、一日に接点はない。だから、遅刻してしまえば機会すら逃すことになる。俺は、覚悟を決めてベットから抜けだした。外では雨音が鳴り出している。珠莉先輩を、雨のなか待たせる訳にはいかない。朝食は諦め、早々に家を出る。
「あんた、また朝食抜くの?」
「それどころじゃないの!」
母さんに止められたが、振り切って外へ。傘に雨粒がぶつかって、結構大きな音をたてる。珠莉先輩と待ち合わせの十字路に向かうまでに、ズボンはびしょ濡れだ。幸い、珠莉先輩はまだ来ていない。いつもドキドキしてるけど、今日は一段と心音がうるさい気がする。
「おはよう佐鳥くん。すごい雨だね」
「お、おはようございます!」
珠莉先輩はピンク色の傘を一度、くるりと回した。そうしていつも通りに歩き出す。
「 佐鳥くん?」
「あっ、すみません。今行きます!」
まだ、会ったばっかりだ。まだ、通学路は半分以上ある。期待で胸が押し潰されて苦しい。早く、解放して欲しい。
「今日一日中、雨なのかなぁ。髪の毛広がっちゃう」
「珠莉先輩、髪の毛綺麗ですよね。秘密あるんですか?」
「んーお手入れは気にかけてるけど」
他愛のない話の中に、今日が俺にとって特別な日であることを伝える隙間を探すけど、やっぱり本当は珠莉先輩から言ってほしくて言い淀む。そんな俺に気づいてない珠莉先輩は、いつも通りだ。いつも通り、俺の大好きな人。
「珠莉先輩、」
小さな声が、雨に掻き消される。次の言葉も引っ込んだ。だけど、貴女は拾ってくれて。
「佐鳥くん、なにか言った?」
綺麗に微笑む顔を見たら、ねだることなんて出来なかった。
「なんも言ってないっす」
「そっか」
雨はいよいよ強くなる。俺の気持ちは冷え込んでいく。そうして、終着点まで到着した。学校に着いた。
「じゃあ、今日も頑張ろうね佐鳥くん。ばいばい」
「はい、珠莉先輩。ばいばい」
ばいばい、の声が掠れた。それに気づいて欲しいかった、なんて俺は落ち込みすぎだろうか。
ボーッと過ごして、いつの間にか昼休みだ。太一も日佐人も半崎も、誕生日を祝ってくれて、そん時はちゃんと笑えたし、嬉しかったけど。たった一人、一言もらえないだけで、こんなに心って空っぽになるもんなんだな。別に珠莉先輩が俺の誕生日を覚えておくことは、義務なんかじゃないのに。寝てるフリして、机に突っ伏した。
「ごめんくださーい。佐鳥くん、いますか?」
聞き間違えるはずのない声が聞こえて、ビックリして顔を上げた。俺を見つけると、珠莉先輩は戸惑うことなく俺の席までやってきて、袋を差し出した。……購買のパン?
「ごめんね佐鳥くん、私……昨日言われてたのにすっかり忘れてて」
「え、そんな別に」
いいんですけど、なんて俺は嘘つきだ。珠莉先輩は困った顔から、とびきりの笑顔に変わる。
「お誕生日おめでとう、佐鳥くん。生まれてきてくれて嬉しいわ」
あ、やばい。ちょっと泣きそうだよ俺。おめでとうの一言だけでよかったのに。顔も絶対真っ赤になってる。顔会わせられない。
「購買のパンで申し訳ないけど、食べてね!」
「ありがとうございます、すごく、すごく嬉しいです」
持ち前の元気で明るく誤魔化すことが出来ない。本当はもっと嬉しいことを、ちゃんと貴女に伝えたいのに。
「佐鳥くん、もしかしてお腹いっぱい?」
「いや、そんなことないです! 食べられます」
検討違いな心配に、思わず笑みがこぼれた。よかった、バレてないしがっかりもされてない。
「あ、雨。晴れたね」
窓から急に日差しが差し込む。俺の気持ちも、10分前とは比べ物にならないくらい晴れやかだ。誕生日おめでとう、俺。生まれてきて、本当によかったよな。