longseries-2-
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「あ、雅人くん。おはよう」
「……あぁ」
昔馴染みの女と、学校の廊下で出くわす。こいつの事は嫌いじゃない。だが、苦手だ。
「C組はもう夏休みの課題出た? 早めにやらないとまた終わらないよ?」
「うっせー余計なお世話だ」
珠莉のこう、お節介なところが苦手なわけじゃねぇ。でも、このお節介な性質が、彼女の周囲に影響する。
「珠莉りん、おはよ」
「! 王子、おはよう」
「ちょっと宿題終わらなかった所があるから、見せてくれない?」
「えーいいけど」
俺から珠莉を引き剥がすと、王子はこちらに釘を刺すような視線を寄越した。そんないちいちアピールしなくても分かってるっつーの。取りゃしねぇよ。さっさと行けと手で合図した。
設楽珠莉という女は、昔からよくモテる奴だった。まぁ、分からなくはない。フツーに可愛い部類の顔をしてるし、仕草も思わせぶりなところがある。ドジなところも、愛嬌だろう。本人がまったくもって気が付いていないのが不思議なくらいだ。珠莉を苦手に感じてしまうのは、簡単に言えば男からのやっかみがうっとおしいから。……この件に関して、俺は幼い頃嫌な思い出がある。その時の恐怖が染みついて、俺は珠莉とは一定の距離を保っている。
いくつの時だったかは忘れたが、俺と珠莉が公園の砂場で遊んでいたことがあった。俺が作りたいように遊び、それを珠莉が笑顔で手伝う感じで楽しんでいた。あぁ、珠莉の笑顔は可愛いと思う。それはこの頃からそうだった。砂場でふたりきり、夢中で遊んで、俺も珍しく気を抜いて笑った。それがいけなかったと思う。
「珠莉、母さんたちが呼んでる」
ぶわっと背中に悪寒が走った。俺の背後に立ったなにかは、俺が感じたことのない感情を容赦なく刺してきた。それに向かって変わらない笑顔で、珠莉は立ち上がり俺の横を通り抜ける。行ってはダメだと、反射的に腕を掴みそうになった。
「珠莉の友達か? 悪いが、俺たちはもう帰るんだ」
振り向いて目にしたのは、冷たい目だが口元だけは笑っている歳上の男と、その男の手を笑顔で取る珠莉の姿だった。
「うん」
俺は、伸ばした手を引っ込めた。手を振る珠莉を黙って見送った。その後、気分が悪くなり泣きながら帰ったのを覚えている。……それきり、珠莉とふたりきりになるのは、なんとなく避けてきた。またあの化け物が現れる気がして。
(あいつ、誰だったんだろーな)
化け物の正体は、結局今日まで知らない。知りたくもねぇ。でも、あんな奴にも笑顔を振りまく珠莉は、やっぱり凄いのかもしれねぇ。今日まで、彼女が俺に向ける感情も、特に変わってない。歪みなく、真っ直ぐに受け取れるそれは、いつでも心地が良い。
(あれ、意外と俺も)
苦手と言いつつ、結構気に入ってんじゃねーか。ケッと自分を笑い飛ばした。あんな女を取り合うなんて、俺はぜってーゴメンだっての! けど。……幸せくらいは、願ってやるよ。不幸が降り注ぐなら、露払いくらいはしてやるからな。だから、あの化け物だけは絶対選んでくれるな。あの時の感情を思い出し、俺はひとつ身震いした。
「……あぁ」
昔馴染みの女と、学校の廊下で出くわす。こいつの事は嫌いじゃない。だが、苦手だ。
「C組はもう夏休みの課題出た? 早めにやらないとまた終わらないよ?」
「うっせー余計なお世話だ」
珠莉のこう、お節介なところが苦手なわけじゃねぇ。でも、このお節介な性質が、彼女の周囲に影響する。
「珠莉りん、おはよ」
「! 王子、おはよう」
「ちょっと宿題終わらなかった所があるから、見せてくれない?」
「えーいいけど」
俺から珠莉を引き剥がすと、王子はこちらに釘を刺すような視線を寄越した。そんないちいちアピールしなくても分かってるっつーの。取りゃしねぇよ。さっさと行けと手で合図した。
設楽珠莉という女は、昔からよくモテる奴だった。まぁ、分からなくはない。フツーに可愛い部類の顔をしてるし、仕草も思わせぶりなところがある。ドジなところも、愛嬌だろう。本人がまったくもって気が付いていないのが不思議なくらいだ。珠莉を苦手に感じてしまうのは、簡単に言えば男からのやっかみがうっとおしいから。……この件に関して、俺は幼い頃嫌な思い出がある。その時の恐怖が染みついて、俺は珠莉とは一定の距離を保っている。
いくつの時だったかは忘れたが、俺と珠莉が公園の砂場で遊んでいたことがあった。俺が作りたいように遊び、それを珠莉が笑顔で手伝う感じで楽しんでいた。あぁ、珠莉の笑顔は可愛いと思う。それはこの頃からそうだった。砂場でふたりきり、夢中で遊んで、俺も珍しく気を抜いて笑った。それがいけなかったと思う。
「珠莉、母さんたちが呼んでる」
ぶわっと背中に悪寒が走った。俺の背後に立ったなにかは、俺が感じたことのない感情を容赦なく刺してきた。それに向かって変わらない笑顔で、珠莉は立ち上がり俺の横を通り抜ける。行ってはダメだと、反射的に腕を掴みそうになった。
「珠莉の友達か? 悪いが、俺たちはもう帰るんだ」
振り向いて目にしたのは、冷たい目だが口元だけは笑っている歳上の男と、その男の手を笑顔で取る珠莉の姿だった。
「うん」
俺は、伸ばした手を引っ込めた。手を振る珠莉を黙って見送った。その後、気分が悪くなり泣きながら帰ったのを覚えている。……それきり、珠莉とふたりきりになるのは、なんとなく避けてきた。またあの化け物が現れる気がして。
(あいつ、誰だったんだろーな)
化け物の正体は、結局今日まで知らない。知りたくもねぇ。でも、あんな奴にも笑顔を振りまく珠莉は、やっぱり凄いのかもしれねぇ。今日まで、彼女が俺に向ける感情も、特に変わってない。歪みなく、真っ直ぐに受け取れるそれは、いつでも心地が良い。
(あれ、意外と俺も)
苦手と言いつつ、結構気に入ってんじゃねーか。ケッと自分を笑い飛ばした。あんな女を取り合うなんて、俺はぜってーゴメンだっての! けど。……幸せくらいは、願ってやるよ。不幸が降り注ぐなら、露払いくらいはしてやるからな。だから、あの化け物だけは絶対選んでくれるな。あの時の感情を思い出し、俺はひとつ身震いした。