longseries-2-
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日課の自己鍛錬を終えて、ホットミルクを飲む。遠征の出発は明日だ。隊は今日一日休みをもらっている。昼間は久々に兄の墓参りに行った。今の俺を兄はどう思うのか、考えているが当然答えなどない。死人は黙して語らない。ただ、涙雨かのように帰り道に冷たい雨が降った。
自宅で遠征前最後の夕食を摂る。メニューはしばらく食べられないであろうカツカレー。食後は、部屋の気になる場所を綺麗に片付けていく。必要最低限の物しかない部屋は、すぐ整頓された。時計を見る。約束の時刻の20分前だ。俺は最近衣替えで出したコートを羽織り、雨の中出かけた。珠莉に一目、会っておくために。前の遠征の時、珠莉に会う前に太刀川に捕まり、冷やかされたのを思い出す。先を急ぐ俺を「彼女にでも会いに行くのか?」と。俺は「違う」と思うよりも大声で否定したのを覚えている。あの時より季節は移り変わったが、珠莉への俺の想いは変わっただろうか。変わりはしないな、と思う。今もう一度同じことを訊かれても、「違う」と答える。しかし、じゃあ珠莉は俺にとってなんなのかと言われると、答えに困ってしまう。別に結論を誰かにせっつかれるわけでもなし、考える必要はないのだが。
信号機が青に変わる。道の向こう側に珠莉が見える。足早に歩み寄り、言葉を交わそうとした。が、珠莉の様子がおかしいことにすぐ気付いた。
「珠莉? 具合が悪いのか」
「えっと、風邪ひいちゃったみたいで」
情けなくてすみません、と言いながら珠莉は咳き込む。
「なんで、」
なぜ何も言わずに出てきたのか? 珠莉に無理をさせたことが嫌で、問い詰めてしまう。だが、俺は心配でたまらないのだ。
「だって、会わなかったら後悔します。絶対」
珠莉の吐息は熱く、白く漂った。珠莉の潤んだ瞳が俺を映す。俺は返答に困ってしまう。俺が珠莉の立場だったらどうする。……きっと、同じことをして同じことを言うだろう。今夜、会えなかったら後悔してしまう。
「……すまない。無理をさせた。会ってくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ」
珠莉がまた咳き込んだので、俺は慌てて背中をさする。
「ごめんなさい風間さん、わたし」
「いい、分かってる」
頭のいい珠莉のことだ。きっと俺に風邪を伝染さないだろうかだとか、迷惑をかけただとか、気にしているのだろう。フラフラと一人で帰ろうとするのが意地らしく、思わず頬に触れて撫ぜた。
「帰ろう、珠莉。送る」
首を振る珠莉の、いつもより熱いだろう手を取って歩き出す。
「心配するな。お前を送った程度で風邪をひくほどやわな鍛え方はしていないし、寝坊もしない」
「ほんとに、すみません」
雨の降る夜道を、二人並んで歩く。明日旅立つこの星に、必ず帰ると誓った。
自宅で遠征前最後の夕食を摂る。メニューはしばらく食べられないであろうカツカレー。食後は、部屋の気になる場所を綺麗に片付けていく。必要最低限の物しかない部屋は、すぐ整頓された。時計を見る。約束の時刻の20分前だ。俺は最近衣替えで出したコートを羽織り、雨の中出かけた。珠莉に一目、会っておくために。前の遠征の時、珠莉に会う前に太刀川に捕まり、冷やかされたのを思い出す。先を急ぐ俺を「彼女にでも会いに行くのか?」と。俺は「違う」と思うよりも大声で否定したのを覚えている。あの時より季節は移り変わったが、珠莉への俺の想いは変わっただろうか。変わりはしないな、と思う。今もう一度同じことを訊かれても、「違う」と答える。しかし、じゃあ珠莉は俺にとってなんなのかと言われると、答えに困ってしまう。別に結論を誰かにせっつかれるわけでもなし、考える必要はないのだが。
信号機が青に変わる。道の向こう側に珠莉が見える。足早に歩み寄り、言葉を交わそうとした。が、珠莉の様子がおかしいことにすぐ気付いた。
「珠莉? 具合が悪いのか」
「えっと、風邪ひいちゃったみたいで」
情けなくてすみません、と言いながら珠莉は咳き込む。
「なんで、」
なぜ何も言わずに出てきたのか? 珠莉に無理をさせたことが嫌で、問い詰めてしまう。だが、俺は心配でたまらないのだ。
「だって、会わなかったら後悔します。絶対」
珠莉の吐息は熱く、白く漂った。珠莉の潤んだ瞳が俺を映す。俺は返答に困ってしまう。俺が珠莉の立場だったらどうする。……きっと、同じことをして同じことを言うだろう。今夜、会えなかったら後悔してしまう。
「……すまない。無理をさせた。会ってくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ」
珠莉がまた咳き込んだので、俺は慌てて背中をさする。
「ごめんなさい風間さん、わたし」
「いい、分かってる」
頭のいい珠莉のことだ。きっと俺に風邪を伝染さないだろうかだとか、迷惑をかけただとか、気にしているのだろう。フラフラと一人で帰ろうとするのが意地らしく、思わず頬に触れて撫ぜた。
「帰ろう、珠莉。送る」
首を振る珠莉の、いつもより熱いだろう手を取って歩き出す。
「心配するな。お前を送った程度で風邪をひくほどやわな鍛え方はしていないし、寝坊もしない」
「ほんとに、すみません」
雨の降る夜道を、二人並んで歩く。明日旅立つこの星に、必ず帰ると誓った。