longseries-2-
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「……きて。起きて珠莉りん」
優しい声で意識が引き戻される。どうやら、教室で居眠りしていたようだ。西日が射す放課後の3-Bで、王子と私の2人きりだった。私が突っ伏していた机の前の席を、王子は占領してこちらを観察していた。
「どうしたの? 酷くうなされてるように見えたけど」
「ううん、なんでもないよ。よく覚えてもいないし」
「そっか、ならよかったよ。最後の授業終わってから寝てたけど、お疲れかい?」
「そうかもね」
「お疲れ様」
王子はするりと私の髪に触れた。別に嫌な気はしない、王子と私の仲だし。王子はさも今思いついたような顔をして、ロッカーから折り畳みのチェス盤を持ち出してきた。本当は最初から遊びたくて、私を起こしたのだろう。
「このあと任務ある?」
「夜間だから、少し時間あるよ」
「うん、僕も今日はフリーだから、付き合ってよ」
ひとつひとつ、駒をチェス盤に並べて準備する。静かな時間だ。日の入りは日に日に短くなっている。秋は、もうすぐそこだ。
「あのさ、珠莉りん」
「? なぁに王子」
「……いや、なんでもない。始めようか」
お先にどうぞ、と王子は手を広げた。私は駒を動かす。次のターンは王子が。そして私が。ゲームが終わるまで、チェックメイトまでその時間は続く。私は口元に手を当て、長考する。ふと、視線を王子に戻すと、じっとこちらを見て微笑んでいた。
「……随分と余裕だね」
「そりゃそうさ、珠莉りん相手だもの」
「そんなに勝差、あったっけ?」
「ないね。珠莉りん相手だからね」
「ちょっと、いつも手を抜いてるってこと? 嫌、そんなの」
「……違うよ。それだけ、珠莉りんが手強いってこと」
「ふーん……?」
少々、納得はいかなかった。私なんかより、王子の方が賢いと思っているから。勝差がないなんて言ったけど、本当は嘘で、よくて6対4くらいだ。チェスは王子のがずっと強い。どうなってるんだろう、王子の頭の中。今度は私が、王子を見つめる。ひどく整った顔と、長い睫毛が綺麗だと思った。
「…………そんなに見つめられると、集中出来ないんだけど」
「なによ、さっきは王子も私のこと見てたでしょ」
「見てたけど、さぁ」
王子はチェス盤からも私からも逃れるように視線を逸らす。それから、髪をかき上げた。長く吐かれたため息が、艶っぽく感じた。
「……続けるよ。さぁ、君の番だ」
その一手はかなり厳しく、私は完全に追い込まれていた。流石、としかいいようがない。導かれるように、私は最後の一手を終わらせた。
「チェックメイト」
私の王は倒されて、勝者は王子一彰となった。私はひとつ伸びをする。
「はぁー負けた負けた! 次はオセロがいい!」
「珠莉りん、オセロ好きだよね」
「うん、好きー分かりやすくて」
一瞬、空気がぎこちなくなった気がした。あれ、と思い王子を見ると、下を向いていて、まずいことを言っただろうか、と不安に駆られる。けれど、それは一瞬のことで、王子はすぐに顔を上げて笑ってみせた。
「じゃ、次は珠莉りんのレベルに合わせて、オセロにしようか」
「あっ、馬鹿にして! 絶対勝つんだから」
チェス盤を片しながら、今度は私のロッカーからオセロ盤を持ち出す。王子とのたわいのない、穏やかな時間が、私の清涼剤だった。どんなに平和のために日常を犠牲にしても、それでも残った私の平穏な時間が、王子との時間である。
優しい声で意識が引き戻される。どうやら、教室で居眠りしていたようだ。西日が射す放課後の3-Bで、王子と私の2人きりだった。私が突っ伏していた机の前の席を、王子は占領してこちらを観察していた。
「どうしたの? 酷くうなされてるように見えたけど」
「ううん、なんでもないよ。よく覚えてもいないし」
「そっか、ならよかったよ。最後の授業終わってから寝てたけど、お疲れかい?」
「そうかもね」
「お疲れ様」
王子はするりと私の髪に触れた。別に嫌な気はしない、王子と私の仲だし。王子はさも今思いついたような顔をして、ロッカーから折り畳みのチェス盤を持ち出してきた。本当は最初から遊びたくて、私を起こしたのだろう。
「このあと任務ある?」
「夜間だから、少し時間あるよ」
「うん、僕も今日はフリーだから、付き合ってよ」
ひとつひとつ、駒をチェス盤に並べて準備する。静かな時間だ。日の入りは日に日に短くなっている。秋は、もうすぐそこだ。
「あのさ、珠莉りん」
「? なぁに王子」
「……いや、なんでもない。始めようか」
お先にどうぞ、と王子は手を広げた。私は駒を動かす。次のターンは王子が。そして私が。ゲームが終わるまで、チェックメイトまでその時間は続く。私は口元に手を当て、長考する。ふと、視線を王子に戻すと、じっとこちらを見て微笑んでいた。
「……随分と余裕だね」
「そりゃそうさ、珠莉りん相手だもの」
「そんなに勝差、あったっけ?」
「ないね。珠莉りん相手だからね」
「ちょっと、いつも手を抜いてるってこと? 嫌、そんなの」
「……違うよ。それだけ、珠莉りんが手強いってこと」
「ふーん……?」
少々、納得はいかなかった。私なんかより、王子の方が賢いと思っているから。勝差がないなんて言ったけど、本当は嘘で、よくて6対4くらいだ。チェスは王子のがずっと強い。どうなってるんだろう、王子の頭の中。今度は私が、王子を見つめる。ひどく整った顔と、長い睫毛が綺麗だと思った。
「…………そんなに見つめられると、集中出来ないんだけど」
「なによ、さっきは王子も私のこと見てたでしょ」
「見てたけど、さぁ」
王子はチェス盤からも私からも逃れるように視線を逸らす。それから、髪をかき上げた。長く吐かれたため息が、艶っぽく感じた。
「……続けるよ。さぁ、君の番だ」
その一手はかなり厳しく、私は完全に追い込まれていた。流石、としかいいようがない。導かれるように、私は最後の一手を終わらせた。
「チェックメイト」
私の王は倒されて、勝者は王子一彰となった。私はひとつ伸びをする。
「はぁー負けた負けた! 次はオセロがいい!」
「珠莉りん、オセロ好きだよね」
「うん、好きー分かりやすくて」
一瞬、空気がぎこちなくなった気がした。あれ、と思い王子を見ると、下を向いていて、まずいことを言っただろうか、と不安に駆られる。けれど、それは一瞬のことで、王子はすぐに顔を上げて笑ってみせた。
「じゃ、次は珠莉りんのレベルに合わせて、オセロにしようか」
「あっ、馬鹿にして! 絶対勝つんだから」
チェス盤を片しながら、今度は私のロッカーからオセロ盤を持ち出す。王子とのたわいのない、穏やかな時間が、私の清涼剤だった。どんなに平和のために日常を犠牲にしても、それでも残った私の平穏な時間が、王子との時間である。