longseries-2-
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5月2日は、特に何もない日のはずだった。ただ、梅雨入り前の長雨が続いているだけで、いつか晴れる日のはずだった。始まりは、犬飼くんからのメールだ。
『鳩原ちゃんから、何か聞いてる?』
なんのことか分からず、戸惑った。昨日の夜も普通にメールのやり取りをして、どちらともなく寝落ちたはずだ。
『なんのこと? 特に変わったことはないけど……』
『そう、なら忘れて』
それきり、犬飼くんから返信は来なくなった。なにか嫌な予感だけが残った。そうして、日が暮れる頃に麟児に教えてもらいたい勉強があって、メールを送った。が、宛先不明で返ってきた。
「…………!?」
もう一度。丁寧に確認して送る。やはり返ってくる。昨日まで届いたのに。混乱していると、今度はメールを受信した。アドレスは麟児からだった。余計に頭はこんがらがる。
『これは日付指定で送信している。俺はもうお前の前に現れない。理由は言えない。ごめんな。』
画面の文字が滑っていく。認識出来ない文字が並んでいる。
『お前の幸せを、心から祈ってる。元気でな』
そう伝える麟児の顔は何故か浮かぶのに、声だけ再生されない。そのまま、崩れていく、ドロドロと。
「なん、で……」
震えた指から携帯が滑り落ちる。身体から力が抜け、膝から崩れ落ちる。そうして、ことの始まりを思い出す。
『鳩原ちゃんから、何か聞いてる?』
まさか、と思い、携帯を拾い直し、未来ちゃんにもメールを送った。『今、どこにいるの?』と。宛先不明で返ってきた。
「嘘、嘘嘘うそ……」
血の気が引くとは、このことを言うのだと、他人事のように思った。呆然と窓の外を見れば、陽は沈んで夜の帳が下りてきていて。気付けば瞳から涙が流れていて、でも声は出なくて。理解したくないけれど、納得はしてしまった。そこから思考は戻れなくて、きっとそれは正解だった。でもじゃあ、どうして? どうすれば? 私はこの結果を回避できたというのか。麟児がなにか隠しているのは知ってた。でも、彼が踏み込ませなかったからどうしようもなかった。未来ちゃんの事情も知ってた。でも、だからと言って人を撃てない彼女を近界に笑顔で送れるほど、私は人として強くない。本部の判断は、正しかったと思う。だから、いけなかったの? あまり大げさに励まさなかったけど、側にはいたはずなのに。それなのに、どうして。誰もなにも言ってくれなかったの?
私はあの日から、強くなれてなどいなかった?
ハッと意識が現在に戻った時には、ボーダー本部の屋上にいた。風が私の長い髪を翻す。未来ちゃんが好きだと言ってくれた、私の黒髪。触れて、引きちぎりたいような衝動に駆られる。けれど、やめた。痛そうだし。私は屋上の縁に立ち、下を見下ろした。それから、地平線を見た。一線を境にぽつぽつと点いた街灯が、星屑のようで綺麗だった。上を向いた。星々に手が届きそうだった。手を伸ばす。
「あ、」
重力に従って、私の身体は緩やかに落下した。
『鳩原ちゃんから、何か聞いてる?』
なんのことか分からず、戸惑った。昨日の夜も普通にメールのやり取りをして、どちらともなく寝落ちたはずだ。
『なんのこと? 特に変わったことはないけど……』
『そう、なら忘れて』
それきり、犬飼くんから返信は来なくなった。なにか嫌な予感だけが残った。そうして、日が暮れる頃に麟児に教えてもらいたい勉強があって、メールを送った。が、宛先不明で返ってきた。
「…………!?」
もう一度。丁寧に確認して送る。やはり返ってくる。昨日まで届いたのに。混乱していると、今度はメールを受信した。アドレスは麟児からだった。余計に頭はこんがらがる。
『これは日付指定で送信している。俺はもうお前の前に現れない。理由は言えない。ごめんな。』
画面の文字が滑っていく。認識出来ない文字が並んでいる。
『お前の幸せを、心から祈ってる。元気でな』
そう伝える麟児の顔は何故か浮かぶのに、声だけ再生されない。そのまま、崩れていく、ドロドロと。
「なん、で……」
震えた指から携帯が滑り落ちる。身体から力が抜け、膝から崩れ落ちる。そうして、ことの始まりを思い出す。
『鳩原ちゃんから、何か聞いてる?』
まさか、と思い、携帯を拾い直し、未来ちゃんにもメールを送った。『今、どこにいるの?』と。宛先不明で返ってきた。
「嘘、嘘嘘うそ……」
血の気が引くとは、このことを言うのだと、他人事のように思った。呆然と窓の外を見れば、陽は沈んで夜の帳が下りてきていて。気付けば瞳から涙が流れていて、でも声は出なくて。理解したくないけれど、納得はしてしまった。そこから思考は戻れなくて、きっとそれは正解だった。でもじゃあ、どうして? どうすれば? 私はこの結果を回避できたというのか。麟児がなにか隠しているのは知ってた。でも、彼が踏み込ませなかったからどうしようもなかった。未来ちゃんの事情も知ってた。でも、だからと言って人を撃てない彼女を近界に笑顔で送れるほど、私は人として強くない。本部の判断は、正しかったと思う。だから、いけなかったの? あまり大げさに励まさなかったけど、側にはいたはずなのに。それなのに、どうして。誰もなにも言ってくれなかったの?
私はあの日から、強くなれてなどいなかった?
ハッと意識が現在に戻った時には、ボーダー本部の屋上にいた。風が私の長い髪を翻す。未来ちゃんが好きだと言ってくれた、私の黒髪。触れて、引きちぎりたいような衝動に駆られる。けれど、やめた。痛そうだし。私は屋上の縁に立ち、下を見下ろした。それから、地平線を見た。一線を境にぽつぽつと点いた街灯が、星屑のようで綺麗だった。上を向いた。星々に手が届きそうだった。手を伸ばす。
「あ、」
重力に従って、私の身体は緩やかに落下した。