longseries-2-
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A級部隊長の定例会議が終わり、俺は風間隊室でシフトの整理をしていた。もう少し経つと、遠征組はスケジュールの関係で防衛任務を間引かなければならなくなる。B級に負担してもらいつつ、有志で組む混成部隊を挟んでいく。混成部隊に設楽珠莉の名前を多く見つけ、あぁ俺の見ていないところでまた頑張っているなと、どこか兄になったような気分でその名前を眺めていた。穏やかな気持ちで作業を続けていると、呼び鈴が鳴った。モニターを確認すると、この気分を作ってくれた人物が立っていた。
「珠莉か、いいぞ入って」
「失礼します」
隊室へ通すと、俺の向かいのソファーにゆっくりと腰を下ろす。そうして、読みかけらしい本を開いた。
「待ってろ、コーヒーでも淹れてくる」
「あぁ、いいですよそんな……続けてください。待ってますから」
にこやかに微笑み、珠莉は給湯室お借りしますね、と奥へ行った。カチャカチャとカップの擦れる音、コポポと注がれるコーヒーの音はしっかりと2杯分で、運ばれてくると砂糖が1つ、ミルクが2つと完全に俺の好みの配分だった。
「合ってますよね?」
「あぁ、完璧だ」
「よかった」
そう言うと珠莉はまた優しく笑った。それを見て、俺はとても安心する。最初に出会った頃には、考えられなかった表情だから。
ちょうど四年程前、三門市は大規模侵攻に見舞われ、ボーダー本部が誕生した。当初はまだ大々的に募集はかけてなかったはずだが、それでも嵐山や三輪辺りはすぐに入隊してきた。珠莉もその一人だった。その頃の珠莉はろくに睡眠も取れずに、目の下に大きな隈を作っていて、髪は短く丁度換装体の小南のような風貌だった。初めは攻撃手を志望したため、よく俺とは模擬戦を行った。
「日常を……平和を取り戻す……」
ぶつぶつとそう唱えては、刃を握り込む手にさらに力を込めていた。その様子は痛ましくて、相対するのを戸惑うほどだ。だが幸い……彼女にとっては不幸にも、珠莉に攻撃手としての才能はなかった。トリオン兵はなんとか倒せても、人間を攻撃することは彼女には出来なかったのである。
「絶対……平和を取り戻す……!!」
トリオン体で涙を流しながら、なんとか俺を殺そうとする珠莉を、可哀想だと思うなんて酷いことだろうか。それでも、俺は見ていられなかった。
「珠莉、もういい。もう、大丈夫だ。十分やった」
「風間さん……」
「大丈夫だから」
そっと、珠莉の手から刃を解いた。握り込んでいた手の平から、うっすらトリオンが漏れていた。
「違う道を探そう。お前が戦える術は、きっとあるから」
その後、狙撃手のポジションが確立した。当時、たくさんの人間が東さんに師事したが、俺からも嘆願し珠莉を狙撃手に推した。結果、珠莉は狙撃手に落ち着き、現在がある。
「風間さん、どうしました?」
「ん?」
「なんだか、少しぼんやりしてるようだから」
コーヒーを口に含み、また笑う彼女。この笑顔を守ることが、俺の使命であるように感じている。
「いや、なんでもない」
作業を続ける。穏やかな時間が流れて、こんな街の中にあるのに平和だ、なんて勘違いをする。そんなまやかしを越えて、ようやく作業が終わる。
「待たせてすまなかった」
「いえ、こればかりは。しっかり受け渡したいですから」
そう言って、珠莉は1通の手紙を差し出す。
「こちら、今月分の遺書です」
「ああ、確かに預かった。……これは俺の分だ」
手紙を交換し、大切にしまう。それではこれで、と珠莉は去っていった。いつからだっただろうか、いつ死ぬとも分からない兵士であると、忘れないためにお互いの遺書をやり取りするようになった。俺は中身は見てない。珠莉がどうしているかは知らない。でも、もし旅立つ時が来るとしても。託してあるから、安心できるのだ。俺にとって、設楽珠莉とはそんな存在だ。
「珠莉か、いいぞ入って」
「失礼します」
隊室へ通すと、俺の向かいのソファーにゆっくりと腰を下ろす。そうして、読みかけらしい本を開いた。
「待ってろ、コーヒーでも淹れてくる」
「あぁ、いいですよそんな……続けてください。待ってますから」
にこやかに微笑み、珠莉は給湯室お借りしますね、と奥へ行った。カチャカチャとカップの擦れる音、コポポと注がれるコーヒーの音はしっかりと2杯分で、運ばれてくると砂糖が1つ、ミルクが2つと完全に俺の好みの配分だった。
「合ってますよね?」
「あぁ、完璧だ」
「よかった」
そう言うと珠莉はまた優しく笑った。それを見て、俺はとても安心する。最初に出会った頃には、考えられなかった表情だから。
ちょうど四年程前、三門市は大規模侵攻に見舞われ、ボーダー本部が誕生した。当初はまだ大々的に募集はかけてなかったはずだが、それでも嵐山や三輪辺りはすぐに入隊してきた。珠莉もその一人だった。その頃の珠莉はろくに睡眠も取れずに、目の下に大きな隈を作っていて、髪は短く丁度換装体の小南のような風貌だった。初めは攻撃手を志望したため、よく俺とは模擬戦を行った。
「日常を……平和を取り戻す……」
ぶつぶつとそう唱えては、刃を握り込む手にさらに力を込めていた。その様子は痛ましくて、相対するのを戸惑うほどだ。だが幸い……彼女にとっては不幸にも、珠莉に攻撃手としての才能はなかった。トリオン兵はなんとか倒せても、人間を攻撃することは彼女には出来なかったのである。
「絶対……平和を取り戻す……!!」
トリオン体で涙を流しながら、なんとか俺を殺そうとする珠莉を、可哀想だと思うなんて酷いことだろうか。それでも、俺は見ていられなかった。
「珠莉、もういい。もう、大丈夫だ。十分やった」
「風間さん……」
「大丈夫だから」
そっと、珠莉の手から刃を解いた。握り込んでいた手の平から、うっすらトリオンが漏れていた。
「違う道を探そう。お前が戦える術は、きっとあるから」
その後、狙撃手のポジションが確立した。当時、たくさんの人間が東さんに師事したが、俺からも嘆願し珠莉を狙撃手に推した。結果、珠莉は狙撃手に落ち着き、現在がある。
「風間さん、どうしました?」
「ん?」
「なんだか、少しぼんやりしてるようだから」
コーヒーを口に含み、また笑う彼女。この笑顔を守ることが、俺の使命であるように感じている。
「いや、なんでもない」
作業を続ける。穏やかな時間が流れて、こんな街の中にあるのに平和だ、なんて勘違いをする。そんなまやかしを越えて、ようやく作業が終わる。
「待たせてすまなかった」
「いえ、こればかりは。しっかり受け渡したいですから」
そう言って、珠莉は1通の手紙を差し出す。
「こちら、今月分の遺書です」
「ああ、確かに預かった。……これは俺の分だ」
手紙を交換し、大切にしまう。それではこれで、と珠莉は去っていった。いつからだっただろうか、いつ死ぬとも分からない兵士であると、忘れないためにお互いの遺書をやり取りするようになった。俺は中身は見てない。珠莉がどうしているかは知らない。でも、もし旅立つ時が来るとしても。託してあるから、安心できるのだ。俺にとって、設楽珠莉とはそんな存在だ。