longseries-2-
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突き抜けるような青空と、容赦ない日差しに恵まれた日になった。あの日から四年経った今日、この街は喪に服していた。ボーダーの広報担当である俺は、当然この式典に出席している。「大規模侵攻慰霊の日」。土砂降りの雨の中で失った、1200人以上の人を忘れないための日であり、400人以上の人の帰りを待つための日だ。……市長の挨拶が、どこか遠く聞こえる。式典は粛々と進行していった。
「佐鳥くん、お疲れ様」
「珠莉先輩」
式典が終わり、献花へと皆が向かう中、珠莉先輩が声をかけてきた。穏やかな笑みを浮かべ、どこか安らいでいるように見える。
「今年も晴れてよかったよね」
「そうっすね。やっぱり、雨とかだと、ね」
先輩の笑みが、一層儚くなった。俺は胸が痛い。言葉を探していると、1組の老夫婦が珠莉先輩に寄ってきた。
「珠莉ちゃん、今年も来てくれたのね、ありがとう」
「勿論です。私には恩がありますし、なによりあの日を忘れるなんて出来ませんから」
「そうね……息子もきっと、喜んでいるわ。これからも、防衛よろしくね」
「はい。必ずお守りします」
涙ぐむ婦人の肩を抱き、老夫はこちらに軽くお辞儀した。そうして、去っていく。
「……珠莉先輩、今の人は?」
「あぁ、とても品の良い方でしょう? 懇意にしてもらってるの」
老夫婦の背中を見送りながら、なんでもないように次の言葉を紡いだ。
「大規模侵攻の時にね、あの夫婦の息子さんが私の代わりに亡くなっているの」
「えっ……それは、どういう」
「大規模侵攻の日、休みの日だったでしょう? 私の実家は被害がなかったんだけど、私、友達と2人でお出かけしてたんだ。そこで、初めてトリオン兵を見た。2人で走ったんだけど、簡単に追いつかれてね」
先輩は今起きたことを話すように、表情を険しくした。恨み憎しみが、新鮮に映し出されていた。
「殺されそうになったその時、庇ってくれたのが、さっきのご夫婦の息子さん……隆治さんなの」
珠莉先輩の声は、決して暗くはなかった。むしろ、明るく振る舞っているようにさえ聞こえた。それがあまりにも痛ましかった。
「…………なんで、分かったんですか? あの時の状況で、自分を助けてくれた人の名前を覚えてるなんて」
俺の知り合いにも、大規模侵攻で辛い思いをした奴はごまんといる。けれど、当時知り合いじゃない犠牲者の誰かのことを、そうやって覚えている人は初めてだ。みんな、自分が生き残ることで精一杯だったはずなのに。
「……隆治さんが殺された時、すぐあとに小南ちゃんが駆けつけてくれてね。トリオン兵を倒してくれたの。小南ちゃんは、「早く逃げなさい」って言ったんだけど」
先輩は当たり前だと言うように。
「どうしても、助けてくれた人の名前を確認したくて、隆治さんの血に濡れた財布から保険証を見つけて、それで知ったんだよ」
言葉が出なかった。その時の様子を想像する。降り始めた雨、まだトリオン兵がやってくる脅威の中、血塗れの男性に触れて名前を探す先輩の姿を。その行為がどれほど危険で、どれほど優しいかなんて、きっとこの人は知らない。
「…………そうだったんですね」
「うん。ごめんね、こんな話……でも、思い出せてよかったわ」
ありがとう、そう笑った珠莉先輩は陽の光を背中に受けて、女神のように見えた。優しさも恐ろしさも備えた、女神のように見えたんだ。
「献花用のお花、もらってくるね」
立ち去る先輩の背中は、俺よりずっと小さいのに。その肩にいったい、どれだけの物を乗せているのだろう。俺はまだ、珠莉先輩のことを知らない。
「佐鳥くん、お疲れ様」
「珠莉先輩」
式典が終わり、献花へと皆が向かう中、珠莉先輩が声をかけてきた。穏やかな笑みを浮かべ、どこか安らいでいるように見える。
「今年も晴れてよかったよね」
「そうっすね。やっぱり、雨とかだと、ね」
先輩の笑みが、一層儚くなった。俺は胸が痛い。言葉を探していると、1組の老夫婦が珠莉先輩に寄ってきた。
「珠莉ちゃん、今年も来てくれたのね、ありがとう」
「勿論です。私には恩がありますし、なによりあの日を忘れるなんて出来ませんから」
「そうね……息子もきっと、喜んでいるわ。これからも、防衛よろしくね」
「はい。必ずお守りします」
涙ぐむ婦人の肩を抱き、老夫はこちらに軽くお辞儀した。そうして、去っていく。
「……珠莉先輩、今の人は?」
「あぁ、とても品の良い方でしょう? 懇意にしてもらってるの」
老夫婦の背中を見送りながら、なんでもないように次の言葉を紡いだ。
「大規模侵攻の時にね、あの夫婦の息子さんが私の代わりに亡くなっているの」
「えっ……それは、どういう」
「大規模侵攻の日、休みの日だったでしょう? 私の実家は被害がなかったんだけど、私、友達と2人でお出かけしてたんだ。そこで、初めてトリオン兵を見た。2人で走ったんだけど、簡単に追いつかれてね」
先輩は今起きたことを話すように、表情を険しくした。恨み憎しみが、新鮮に映し出されていた。
「殺されそうになったその時、庇ってくれたのが、さっきのご夫婦の息子さん……隆治さんなの」
珠莉先輩の声は、決して暗くはなかった。むしろ、明るく振る舞っているようにさえ聞こえた。それがあまりにも痛ましかった。
「…………なんで、分かったんですか? あの時の状況で、自分を助けてくれた人の名前を覚えてるなんて」
俺の知り合いにも、大規模侵攻で辛い思いをした奴はごまんといる。けれど、当時知り合いじゃない犠牲者の誰かのことを、そうやって覚えている人は初めてだ。みんな、自分が生き残ることで精一杯だったはずなのに。
「……隆治さんが殺された時、すぐあとに小南ちゃんが駆けつけてくれてね。トリオン兵を倒してくれたの。小南ちゃんは、「早く逃げなさい」って言ったんだけど」
先輩は当たり前だと言うように。
「どうしても、助けてくれた人の名前を確認したくて、隆治さんの血に濡れた財布から保険証を見つけて、それで知ったんだよ」
言葉が出なかった。その時の様子を想像する。降り始めた雨、まだトリオン兵がやってくる脅威の中、血塗れの男性に触れて名前を探す先輩の姿を。その行為がどれほど危険で、どれほど優しいかなんて、きっとこの人は知らない。
「…………そうだったんですね」
「うん。ごめんね、こんな話……でも、思い出せてよかったわ」
ありがとう、そう笑った珠莉先輩は陽の光を背中に受けて、女神のように見えた。優しさも恐ろしさも備えた、女神のように見えたんだ。
「献花用のお花、もらってくるね」
立ち去る先輩の背中は、俺よりずっと小さいのに。その肩にいったい、どれだけの物を乗せているのだろう。俺はまだ、珠莉先輩のことを知らない。