荒船部屋
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哲次から夏祭りに誘われた。暑い中出かけようとしない彼にしては、珍しいお誘いに思う。去年は穂刈に誘われて皆んなで行ったが、浴衣を着なかったら哲次に文句を言われた。そこで、今年は名誉を挽回する為に浴衣を着用。歩きにくいが、彼氏の為と思えばまぁ我慢出来る。日の長い夏の夕刻、気温はまだまだ下がらない。西日に照らされて、腕を組み待つ哲次の元に早足で近寄る。
「ごめん、待った?」
「…………いや」
哲次は去年と同じ、浅緑色の浴衣だ。聞けば、お爺ちゃんから譲って貰った物だとか。キャップ被ってなきゃ、渋くて似合うのになぁ。立ち止まっていると邪魔になってしまうくらい、周りは人でごった返している。とりあえず、歩き出すことにした。
「浴衣どう? 似合う?」
「……まぁ」
「えーそれだけ?」
照れ屋な彼のことなので、そんなもんかと気を抜いたのだが。
「元が可愛いんだから、何着ても似合うだろ」
さらり、と言われた一言で、顔に熱が集まる。私の沈黙に、自分が何を言ったのか自覚したようで、哲次も黙り込んでしまった。祭りの喧騒が、遠く聞こえる。付かず離れずの微妙な距離感で歩いていると、
「あれ? 早乙女さん?」
と、小学生の頃の級友に声をかけられた。普段なら会うこともないのだが、こういう場所だとエンカウントするものだ。
「久しぶり! 元気?」
「うん、元気してるよ」
たわいもない会話をしながら、哲次の方を見れば、気付いてないようでどんどんと先に行ってしまう。声を出そうにも、級友が熱心に話しかけてくるので、そうもいかず。結局、十分は話し込んでしまった。
「じゃあ、また! せっかくだから今度ゆっくりご飯行こう!」
「うん、ありがとう」
新しい連絡先を交換し、新たに結び直された縁。帰ったら連絡してみよう。そう考えながら、どこかへ行ってしまった相方を探す。神社の本殿まで来て、連絡した方が早いかと携帯を取り出した。と、同時に着信。
「はい、もしもし?」
『悪りぃ、見失った。どこにいる?』
「いや、私が友達に捕まっちゃったから……ごめん」
『いいから。どこだ?』
「えーと、じゃあ本殿の裏で待ってる」
人混みを避け、本殿の裏の生け垣に軽く腰掛けた。ぼんやりと空を見れば、一番星が輝き出している。祭りはまだまだ盛り上がるようで、お囃子や笑い声がこだましている。早く迎えに来ないかな。
「あれ? あきさん一人?」
「あっ、あきさん! 秀次見なかったー?」
思いがけないお迎えが来た。出水君と米屋君は私の両サイドに腰掛けると、わいわい談笑を始める。
「俺ら、太刀川隊と三輪隊のメンバーで来たんすけど。早々に逸れちゃって!」
「そうそう。あ、あきさん、焼きそば食べる?」
「えっ、いいの? 食べるー」
「あきさん、浴衣似合うっすね! 可愛いー」
後輩のおべっかに気分良く焼きそばをいただいていると、頭上に影。
「げっ荒船さん」
「おう、お前ら。人の彼女と何してんだ?」
「あ、違うよ? 米屋君たちも逸れたんだって。で、焼きそばくれたの」
「はぁ? お前も簡単に餌付けされてんじゃねぇよ!」
ビシッとデコピンをされ、額を抑える。そのまま、無理矢理引っ張り起こされて、手を繋がされ連行される。
「米屋君、出水君! 焼きそばごちそうさま!」
「いえいえ! お邪魔しましたー!」
手を振る彼らは苦笑していた。それから察するに。恐る恐る隣を見れば、不機嫌顔の哲次と目が合った。
「…………なんか、言うことは」
「えーごめん?」
「チッ」
舌打ちはよくないと思うなぁ。ご機嫌斜めの彼氏を、どうなだめたものか。引きずられる様に歩いていると、足元の石に躓いた。
「わっ」
「!! あぶねっ」
突進するような形で哲次にすがると、咄嗟に受け止めてくれた。近づく距離にドキッとする。
「ごめん、ちょっと歩きにくくて……」
「……いや、俺も悪かった」
身体を離そうとすると、グイッと引き寄せられた。驚いていると、耳元で声が。
「けど、こっからは独り占めさせろ。じゃねぇと誘った意味がねぇ」
恥ずかしくて固まっていれば、トン、と離れていく肩。してやったりな顔。機嫌は直ったようだけど、私はパニックで後ずさりする。
「なんだよ、させてくれねぇのか?」
「う、うるさい! バカ!」
くつくつ笑いながら差し出された手を、握ってさっさと歩き出す。
「おいおい、また転ぶぞ」
「知らない!」
素直じゃない二人の、夏の夜が更けていく。アンバランスな恋は、きっといつまでも巡っていく。
「ごめん、待った?」
「…………いや」
哲次は去年と同じ、浅緑色の浴衣だ。聞けば、お爺ちゃんから譲って貰った物だとか。キャップ被ってなきゃ、渋くて似合うのになぁ。立ち止まっていると邪魔になってしまうくらい、周りは人でごった返している。とりあえず、歩き出すことにした。
「浴衣どう? 似合う?」
「……まぁ」
「えーそれだけ?」
照れ屋な彼のことなので、そんなもんかと気を抜いたのだが。
「元が可愛いんだから、何着ても似合うだろ」
さらり、と言われた一言で、顔に熱が集まる。私の沈黙に、自分が何を言ったのか自覚したようで、哲次も黙り込んでしまった。祭りの喧騒が、遠く聞こえる。付かず離れずの微妙な距離感で歩いていると、
「あれ? 早乙女さん?」
と、小学生の頃の級友に声をかけられた。普段なら会うこともないのだが、こういう場所だとエンカウントするものだ。
「久しぶり! 元気?」
「うん、元気してるよ」
たわいもない会話をしながら、哲次の方を見れば、気付いてないようでどんどんと先に行ってしまう。声を出そうにも、級友が熱心に話しかけてくるので、そうもいかず。結局、十分は話し込んでしまった。
「じゃあ、また! せっかくだから今度ゆっくりご飯行こう!」
「うん、ありがとう」
新しい連絡先を交換し、新たに結び直された縁。帰ったら連絡してみよう。そう考えながら、どこかへ行ってしまった相方を探す。神社の本殿まで来て、連絡した方が早いかと携帯を取り出した。と、同時に着信。
「はい、もしもし?」
『悪りぃ、見失った。どこにいる?』
「いや、私が友達に捕まっちゃったから……ごめん」
『いいから。どこだ?』
「えーと、じゃあ本殿の裏で待ってる」
人混みを避け、本殿の裏の生け垣に軽く腰掛けた。ぼんやりと空を見れば、一番星が輝き出している。祭りはまだまだ盛り上がるようで、お囃子や笑い声がこだましている。早く迎えに来ないかな。
「あれ? あきさん一人?」
「あっ、あきさん! 秀次見なかったー?」
思いがけないお迎えが来た。出水君と米屋君は私の両サイドに腰掛けると、わいわい談笑を始める。
「俺ら、太刀川隊と三輪隊のメンバーで来たんすけど。早々に逸れちゃって!」
「そうそう。あ、あきさん、焼きそば食べる?」
「えっ、いいの? 食べるー」
「あきさん、浴衣似合うっすね! 可愛いー」
後輩のおべっかに気分良く焼きそばをいただいていると、頭上に影。
「げっ荒船さん」
「おう、お前ら。人の彼女と何してんだ?」
「あ、違うよ? 米屋君たちも逸れたんだって。で、焼きそばくれたの」
「はぁ? お前も簡単に餌付けされてんじゃねぇよ!」
ビシッとデコピンをされ、額を抑える。そのまま、無理矢理引っ張り起こされて、手を繋がされ連行される。
「米屋君、出水君! 焼きそばごちそうさま!」
「いえいえ! お邪魔しましたー!」
手を振る彼らは苦笑していた。それから察するに。恐る恐る隣を見れば、不機嫌顔の哲次と目が合った。
「…………なんか、言うことは」
「えーごめん?」
「チッ」
舌打ちはよくないと思うなぁ。ご機嫌斜めの彼氏を、どうなだめたものか。引きずられる様に歩いていると、足元の石に躓いた。
「わっ」
「!! あぶねっ」
突進するような形で哲次にすがると、咄嗟に受け止めてくれた。近づく距離にドキッとする。
「ごめん、ちょっと歩きにくくて……」
「……いや、俺も悪かった」
身体を離そうとすると、グイッと引き寄せられた。驚いていると、耳元で声が。
「けど、こっからは独り占めさせろ。じゃねぇと誘った意味がねぇ」
恥ずかしくて固まっていれば、トン、と離れていく肩。してやったりな顔。機嫌は直ったようだけど、私はパニックで後ずさりする。
「なんだよ、させてくれねぇのか?」
「う、うるさい! バカ!」
くつくつ笑いながら差し出された手を、握ってさっさと歩き出す。
「おいおい、また転ぶぞ」
「知らない!」
素直じゃない二人の、夏の夜が更けていく。アンバランスな恋は、きっといつまでも巡っていく。