荒船部屋
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病院で過ごす1日がこんなに長いとは思いもしなかった。計画入院、術前1日、術後4日の5日間、大学病院の病室で過ごす。奇しくも彼氏の勤め先である。良性の腫瘍の除去だが、お腹に穴を開けたのでそれなりに痛い。手術は昨日の午後一番で、麻酔で眠ってる間に終わった。あっさり。その場に哲次はいなかったけど。なんでも、親しい人のオペには参加出来ないのだそうだ。それもそうか、とは思ったが、少し心細かったり。手術の後はうつらうつら眠り続けた。翌朝は6時に起こされて、そこからお見舞いはあったものの、夜までなにもすることがない。日中は漫画を読んだりネットをしたりして、なんとか誤魔化していたが、夜になっていよいよ暇になった。1日が長い。眠くない。しかもお風呂に入れていないので、いたるところが痒い。お腹も空いたが、食べることは出来ない。TVも見れるが、バラエティなど見て笑おうものならお腹に鈍痛である。参った。22時になり消灯もされてしまい、いよいよ動けなくなる。眠くないぞう。とりあえず、枕元の簡易照明をつけて音楽を聴いていた。すると、ベッドを覆うカーテンが揺れる。
「……面会時間、過ぎてますよー」
「うるせぇ、俺は医者だぞ」
仕事着のままの哲次は、遠慮なくベッドの淵に座った。そして断りなくパジャマの上着をめくる。
「ちょ、なに?」
「出血はしてねぇな。キズ、痛えか?」
「まあ、それなり」
「今日歩けたか?」
「歩いてるよ。トイレ1人で行ってるし」
「そうか」
安心したように微笑むと、パジャマを元に戻した。働いている時の哲次は、患者さんに今の表情を見せるのだろうか。柄にもなく妬いてしまうのは、それなりに私も弱ってるのか。哲次を背に横を向くと、
「なんだよ、彼氏が来たってのに。なに不貞腐れてんだ」
「別に? 遅いんだもん」
「勘弁しろよ、忙しいんだ」
いつもならこんなこと言えばイラつかれるのだが、今日は困ったような優しい声だった。視線だけ戻せば、心配そうな瞳とかち合う。すっと手が伸びてきて、皮脂でベタついた私の頭を撫でる。それから、大事そうに右手を握られた。
「悪かったよ」
「なにが?」
「最近かまえてなくて」
繊細な指先が私の手の甲を撫でる。王子様のように、ひとつキスを落とした。
「急に、なに」
「いや、急に倒れることってあるんだよな、人間って。思い知った。今回はこの程度で済んだけど」
「……いつも見てるんじゃないの、そんな現場」
「まあな。けど、どっかでお前は大丈夫だとか、馬鹿なこと思ってた」
ふーっと長く息を吐く。大丈夫でないと困るだろう、哲次が。いつも忙しいし疲れているし。私は甘える側じゃない。強い哲次に、私は必要なのかと疑問に思ったことも1度や2度じゃない。
「大丈夫だよ、私は」
「……何言ってんだ、不健康を絵に描いたような生活してるくせに」
「それは哲次もでしょ。それに私、煙草もお酒もしないもん」
「徹夜とかすんだろ……あーもう! 話逸らすんじゃねぇよ!」
逸らしたのは哲次じゃないかな。思っても口にはせず黙っていた。薄暗い照明が、久々に見る哲次の表情を照らす。出会った頃から変わらない、照れ臭そうな顔。
「…………あきが大事なんだよ」
ぽつりとこぼされた言葉は、いつもより弱々しかった。
「もっと優しくすればよかった、もっと触れ合ってればよかった、もっと一緒にいればよかった。そんな風に、思いたくねぇんだ」
「……うん」
まるで死に際のようじゃないか、そんな重い言葉。けれども温かいそれは、私の涙腺を刺激する。
「泣くなよ、傷に響く」
「泣いて、ない」
「……もうちょっと、俺と一緒にいてくれるか」
それじゃ嫌だ。そんな不確かな約束より欲しいのは。
「ずっとがいい」
「!! ……ああ、ずっと一緒にいるよ」
誓うように、キスをされた。今日の哲次は王子様のようだ。
「退院したら、いっぱい甘やかしてやるから。覚悟しとけよ?」
「えー……」
「そこは素直に喜んどけよ」
私だって照れ臭いのだ。顔を背けれるのに構わず、もう一度瞼に口づけられた。
「おやすみ。もう寝ろよ?」
「うん、哲次」
「なに」
「…………寝るまで一緒にいて」
裾を握って小さい声で言った。今夜くらい、甘えてみよう。微笑まれて、哲次は椅子に座り私の右手をまた握った。麻酔のように急速に瞼が降りるのは、彼がくれる安心感のせいだ。彼の存在の大きさを再確認しながら、眠りに落ちた。
「……面会時間、過ぎてますよー」
「うるせぇ、俺は医者だぞ」
仕事着のままの哲次は、遠慮なくベッドの淵に座った。そして断りなくパジャマの上着をめくる。
「ちょ、なに?」
「出血はしてねぇな。キズ、痛えか?」
「まあ、それなり」
「今日歩けたか?」
「歩いてるよ。トイレ1人で行ってるし」
「そうか」
安心したように微笑むと、パジャマを元に戻した。働いている時の哲次は、患者さんに今の表情を見せるのだろうか。柄にもなく妬いてしまうのは、それなりに私も弱ってるのか。哲次を背に横を向くと、
「なんだよ、彼氏が来たってのに。なに不貞腐れてんだ」
「別に? 遅いんだもん」
「勘弁しろよ、忙しいんだ」
いつもならこんなこと言えばイラつかれるのだが、今日は困ったような優しい声だった。視線だけ戻せば、心配そうな瞳とかち合う。すっと手が伸びてきて、皮脂でベタついた私の頭を撫でる。それから、大事そうに右手を握られた。
「悪かったよ」
「なにが?」
「最近かまえてなくて」
繊細な指先が私の手の甲を撫でる。王子様のように、ひとつキスを落とした。
「急に、なに」
「いや、急に倒れることってあるんだよな、人間って。思い知った。今回はこの程度で済んだけど」
「……いつも見てるんじゃないの、そんな現場」
「まあな。けど、どっかでお前は大丈夫だとか、馬鹿なこと思ってた」
ふーっと長く息を吐く。大丈夫でないと困るだろう、哲次が。いつも忙しいし疲れているし。私は甘える側じゃない。強い哲次に、私は必要なのかと疑問に思ったことも1度や2度じゃない。
「大丈夫だよ、私は」
「……何言ってんだ、不健康を絵に描いたような生活してるくせに」
「それは哲次もでしょ。それに私、煙草もお酒もしないもん」
「徹夜とかすんだろ……あーもう! 話逸らすんじゃねぇよ!」
逸らしたのは哲次じゃないかな。思っても口にはせず黙っていた。薄暗い照明が、久々に見る哲次の表情を照らす。出会った頃から変わらない、照れ臭そうな顔。
「…………あきが大事なんだよ」
ぽつりとこぼされた言葉は、いつもより弱々しかった。
「もっと優しくすればよかった、もっと触れ合ってればよかった、もっと一緒にいればよかった。そんな風に、思いたくねぇんだ」
「……うん」
まるで死に際のようじゃないか、そんな重い言葉。けれども温かいそれは、私の涙腺を刺激する。
「泣くなよ、傷に響く」
「泣いて、ない」
「……もうちょっと、俺と一緒にいてくれるか」
それじゃ嫌だ。そんな不確かな約束より欲しいのは。
「ずっとがいい」
「!! ……ああ、ずっと一緒にいるよ」
誓うように、キスをされた。今日の哲次は王子様のようだ。
「退院したら、いっぱい甘やかしてやるから。覚悟しとけよ?」
「えー……」
「そこは素直に喜んどけよ」
私だって照れ臭いのだ。顔を背けれるのに構わず、もう一度瞼に口づけられた。
「おやすみ。もう寝ろよ?」
「うん、哲次」
「なに」
「…………寝るまで一緒にいて」
裾を握って小さい声で言った。今夜くらい、甘えてみよう。微笑まれて、哲次は椅子に座り私の右手をまた握った。麻酔のように急速に瞼が降りるのは、彼がくれる安心感のせいだ。彼の存在の大きさを再確認しながら、眠りに落ちた。