荒船部屋
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人前でこそ、俺の前でこそ、こいつは甘ったるくて優しい女を演じているが。実際のところ、こいつの本質はそこにない。
「哲次?」
見上げてくる口元には白いそれ。一瞬、本当に煙草に見えてドキリとする。飴を弄びながら、考え事をしてるように遠い目をする。
「……どうした、聞くぞ?」
「んー……」
眉を寄せ、白い棒に指をあてる。煙草に見えるわけだ、こいつは煙草を吸っているつもりで、飴を舐めている。世界の空気に反発するように、反抗的に。けれど決して踏み誤らずに。こんな時のあきは、言ってしまえば不良少女だ。そんな簡単にカテゴライズされることも、こいつは嫌うんだろうが。
「なんかさ、イライラすんだよ」
「おう。」
「中途半端に熱い輩見てるとさ。生温いんだよ」
ふーっと落ち着かせるように長く息を吐く。撫でてやろうと思って手が伸びるが、睨まれるような気がしたのでやめた。
「やる気のない私よりも、本気じゃないの、本当にムカつく」
言葉に普段にはない刺々しさが出てきた。本音を言えば、俺はこいつのこういうとこが好きだ。冷え切ったナイフみたいに、周囲を傷つける危うさが。
『そーいうの、本当に腹立つからやめてくれる?』
初めて交わした印象に残ってる言葉は、これだ。心底軽蔑したように吐き捨てられた言葉。びっくりした。女がこんな顔すんのかって。切れ長な瞳で凛と佇むその姿は、俺が男であることを忘れるくらいだった。女だということに満足しない。いつだって、高くて深い場所を目指している。実はそういう奴だ、あきは。
「真面目すぎんだよ、あきは」
「哲次ほどじゃない」
「俺、そんな真面目じゃねーよ」
少なくとも、自分も相手も傷つけてしまうほどじゃない。こんなに鋭い棘を持っているクセに、こいつはそれをひた隠しにする。それで自分の手が真っ赤に染まってしまっても。
「言えばいーじゃねえか、嫌なことがあるんなら」
「……喧嘩になるし、どうせ理解されない」
諦めたように、目線を伏せる。受け入れてもらえなかったことも、2回や3回じゃないのも、俺は知ってる。知ってるから、もっと頑張れとは言えない。泣いた顔を、もう見たくはない。
「そうか。……無理すんなよ」
言えば、黙って俺の袖をキュッと握った。その小さな手が、愛おしくて。俺も黙って包んでやった。
「……普通になりたかった」
そう言って涙を堪えてる横顔に、手を添えてやりたいけど。そうしてしまったら、本当に泣いてしまうだろうから。見て見ぬフリだ。今そうしたら、あきはまた傷つく気がするから。
「…………どんなお前も好きだよ、俺は」
「そーいう話じゃない」
遂には袖口で目をこすった。強くあるには弱すぎて、弱者でいるには強すぎる。そんなアンバランスさが、ずーっと彼女の首を絞め続けている。ガラス細工のような心に、俺は恋をした。
「じゃあ、俺には話せよ。もっと、本当のお前を見せてみろ」
「見せてる、話してる」
しゃくりあげながら、あきは無自覚に嘘を吐く。もう耐えきれなくて、抱き寄せてしまった。途端に、あきは声を上げて泣き出した。
「うええ、ひっく、てつじ、」
「大丈夫だから、お前の居場所はここにあるから。安心しろよ、」
どんなに粉々に砕かれても、全部拾い集めて元に戻してやるから。それで俺の手が傷ついても。構いやしない。
「俺は裏切ったりしないからな」
ぽろぽろと零れる涙で、俺の服が湿っていく。どうか、強くあれ。自由であれ。お前の底力を、俺は出会ってからずっと信じてんだよ。
「哲次?」
見上げてくる口元には白いそれ。一瞬、本当に煙草に見えてドキリとする。飴を弄びながら、考え事をしてるように遠い目をする。
「……どうした、聞くぞ?」
「んー……」
眉を寄せ、白い棒に指をあてる。煙草に見えるわけだ、こいつは煙草を吸っているつもりで、飴を舐めている。世界の空気に反発するように、反抗的に。けれど決して踏み誤らずに。こんな時のあきは、言ってしまえば不良少女だ。そんな簡単にカテゴライズされることも、こいつは嫌うんだろうが。
「なんかさ、イライラすんだよ」
「おう。」
「中途半端に熱い輩見てるとさ。生温いんだよ」
ふーっと落ち着かせるように長く息を吐く。撫でてやろうと思って手が伸びるが、睨まれるような気がしたのでやめた。
「やる気のない私よりも、本気じゃないの、本当にムカつく」
言葉に普段にはない刺々しさが出てきた。本音を言えば、俺はこいつのこういうとこが好きだ。冷え切ったナイフみたいに、周囲を傷つける危うさが。
『そーいうの、本当に腹立つからやめてくれる?』
初めて交わした印象に残ってる言葉は、これだ。心底軽蔑したように吐き捨てられた言葉。びっくりした。女がこんな顔すんのかって。切れ長な瞳で凛と佇むその姿は、俺が男であることを忘れるくらいだった。女だということに満足しない。いつだって、高くて深い場所を目指している。実はそういう奴だ、あきは。
「真面目すぎんだよ、あきは」
「哲次ほどじゃない」
「俺、そんな真面目じゃねーよ」
少なくとも、自分も相手も傷つけてしまうほどじゃない。こんなに鋭い棘を持っているクセに、こいつはそれをひた隠しにする。それで自分の手が真っ赤に染まってしまっても。
「言えばいーじゃねえか、嫌なことがあるんなら」
「……喧嘩になるし、どうせ理解されない」
諦めたように、目線を伏せる。受け入れてもらえなかったことも、2回や3回じゃないのも、俺は知ってる。知ってるから、もっと頑張れとは言えない。泣いた顔を、もう見たくはない。
「そうか。……無理すんなよ」
言えば、黙って俺の袖をキュッと握った。その小さな手が、愛おしくて。俺も黙って包んでやった。
「……普通になりたかった」
そう言って涙を堪えてる横顔に、手を添えてやりたいけど。そうしてしまったら、本当に泣いてしまうだろうから。見て見ぬフリだ。今そうしたら、あきはまた傷つく気がするから。
「…………どんなお前も好きだよ、俺は」
「そーいう話じゃない」
遂には袖口で目をこすった。強くあるには弱すぎて、弱者でいるには強すぎる。そんなアンバランスさが、ずーっと彼女の首を絞め続けている。ガラス細工のような心に、俺は恋をした。
「じゃあ、俺には話せよ。もっと、本当のお前を見せてみろ」
「見せてる、話してる」
しゃくりあげながら、あきは無自覚に嘘を吐く。もう耐えきれなくて、抱き寄せてしまった。途端に、あきは声を上げて泣き出した。
「うええ、ひっく、てつじ、」
「大丈夫だから、お前の居場所はここにあるから。安心しろよ、」
どんなに粉々に砕かれても、全部拾い集めて元に戻してやるから。それで俺の手が傷ついても。構いやしない。
「俺は裏切ったりしないからな」
ぽろぽろと零れる涙で、俺の服が湿っていく。どうか、強くあれ。自由であれ。お前の底力を、俺は出会ってからずっと信じてんだよ。