荒船部屋
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
哲次と鋼君、どちらも選べない時期があった。好意を寄せて優しくしてくれる鋼君と、冷たくどんどん意地悪になる哲次と。周りは、「鋼君にしとけば?」と言う人が多かったけど、どうしても哲次を切り捨てられずにいた。
そんな状態だから、鋼君はどこか焦ったように私に愛を求めた。
「2番目でも愛人でも、なんでもいいから。いなくならないでくれ」
そんな切ない顔、させたいとは思わなかった。選べない自分が嫌でも、鋼君の優しさから離れられなくなっていった。
それから、鋼君は性急に関係を結びたがった。私は受け入れるのを戸惑った。興味がないわけじゃないけど、やっぱりはじめてのことは大事な気がしたから。けれど、鋼君とはその先を想像出来ても、哲次とはあまりイメージが湧かないでいた。哲次も、私にそういうことを求めたことがなかった。だから、聞いてみたのだ。
「男の人ってどうしてもそうなの?」
「エッチって、痛いのかな」
「そんなに気持ちいいのかな」
そう聞いたら、呆れた様に頭を軽くはたかれた。
「鋼に気なんて使わなくていい。お前が望むタイミングでそういうことすればいい。勢いでするもんじゃないだろ」
いつものように、まるで父親のようにそう言われて、安心した。けれど、その後の
「けど、気持ちが通じ合って繋がるのって気持ちいいんだろうな」
という言葉にたまげた。哲次は、もうそういう経験があるものだと思ってたから。
「えっ、したことあるんじゃないの?」
そう訊けば、眉を寄せて苦い顔をした。
「ああ? 誰とすんだよ」
それはもう当然のことのように言われた。
哲次に片想いを4年以上してきて、一回だけ哲次に彼女が出来たことがあった。それはもうショックだった。3ヶ月ほど続いたその交際。その時、哲次はもうそういうこと、済ませたもんだと思っていた。その当時を知ってるのは、私の友達だとカゲくらいのものなので、カゲに相談というか報告というか、話に行った。
「哲次って経験なかったんだね」
言えば、思い出したようにカゲが笑った。珍しく、機嫌良さそうに私に話し始めた。
「とっておきの話、してやろうか?」
「あいつ、付き合ってからもずっとお前のこと心配してたんだよ。じゃあ早乙女と付き合えば? って言ったら、『あいつ依存してダメになるから』ってよ。なんでも『あきが最近、俺に依存しすぎだから、ちょっと離れてやりたくてOKした』そうだ」
そんなこと、一言も言われたことなかった。驚いて言葉を失くしていると、カゲは更に続ける。
「『あいつは一人の男のせいで腐ってしまうようなしょーもない女じゃねぇんだよ。もっといろんなこと出来るし、面白いこと考えるし、自由に輝ける奴なんだ』とも言ってたな。そんで、俺に彼女に勧めてきやがって! 丁重に断ったら、安心したよーな顔して、『まあ、あんな女相手出来るの俺くらいだよな』なんて嬉しそうに話してやがったぜ」
そんなに考えてくれていたなんて、知らなかった。しかも、そんな前から。私は馬鹿だから、哲次から優しさを受け取り損ねてきたのだと思った。いつだって、哲次が1番に私の傍に寄り添ってくれていたのだ。
「まあだから、俺から言わせりゃ、お前の恋はとっくに成就してんだわ。なんでこんなにこじれてんのか意味分かんねー」
ゲラゲラとカゲは私達を笑う、遠慮なく。今からでも遅くないだろうか。
「やっぱり、私は哲次が好きだ」
「だろーな」
「伝えてくる」
「おう。まあ頑張れよ」
ポンポン、とカゲは肩を叩く。余計な感情が落とされていくように感じた。私は、走って哲次に会いにいった。誰よりも私のことを人として尊重してくれて、だからこそ一緒にいて欲しい彼に会いにいった。
「哲次!」
「……んだよ、あき」
広いボーダーの本部の、廊下を歩く背中に声をかける。こんなにも早く見つかるのは、きっと運命ってやつだと思う。
「哲次に彼女が出来たときのこと、カゲから聞いたの」
「はあ? なんでそんな昔のこと」
「哲次、ありがとう。いつも見てくれてて。やっぱり哲次が1番好き。誰よりも好き」
私の頬よりも哲次の頬のが多分真っ赤で。
「なんだよ……急に。カゲに何言われたんだ」
「『こんなとこで腐っちまう女じゃない! 』みたいなこと」
「…………!!」
「本当? そう言った?」
「さあ? カゲが嘘吐く理由がねーだろ」
「じゃあ、本当なんだ?」
「……っ、あー!! そんなことも言った気がしますね!!」
ぷいっと背中を向けて、早足で私から離れようとする。追いかけて、その背中に抱きついた。
「だあー!! 離れろバカ!」
「嫌だ、離さない! 哲次のこと、好きだもん!」
「分かったから! 離れろ!」
離すと、帽子を目深に被らされて前が見えなくなる。そのまま、手を引かれてどこかに連れて行かれる。
「どこ行くの?」
「うるせぇ、黙ってろ」
あんまりだなぁ、と思うけど。こんなことで彼を選ぶこと、不思議に思う人もいるかもしれないけど。哲次なりに、大事にされてたというのが、あまりに嬉しかったから。愛情表現が幼稚で、有り余ってしまうくらい。どうか、許してね。誰よりも君だけが好きだから。
そんな状態だから、鋼君はどこか焦ったように私に愛を求めた。
「2番目でも愛人でも、なんでもいいから。いなくならないでくれ」
そんな切ない顔、させたいとは思わなかった。選べない自分が嫌でも、鋼君の優しさから離れられなくなっていった。
それから、鋼君は性急に関係を結びたがった。私は受け入れるのを戸惑った。興味がないわけじゃないけど、やっぱりはじめてのことは大事な気がしたから。けれど、鋼君とはその先を想像出来ても、哲次とはあまりイメージが湧かないでいた。哲次も、私にそういうことを求めたことがなかった。だから、聞いてみたのだ。
「男の人ってどうしてもそうなの?」
「エッチって、痛いのかな」
「そんなに気持ちいいのかな」
そう聞いたら、呆れた様に頭を軽くはたかれた。
「鋼に気なんて使わなくていい。お前が望むタイミングでそういうことすればいい。勢いでするもんじゃないだろ」
いつものように、まるで父親のようにそう言われて、安心した。けれど、その後の
「けど、気持ちが通じ合って繋がるのって気持ちいいんだろうな」
という言葉にたまげた。哲次は、もうそういう経験があるものだと思ってたから。
「えっ、したことあるんじゃないの?」
そう訊けば、眉を寄せて苦い顔をした。
「ああ? 誰とすんだよ」
それはもう当然のことのように言われた。
哲次に片想いを4年以上してきて、一回だけ哲次に彼女が出来たことがあった。それはもうショックだった。3ヶ月ほど続いたその交際。その時、哲次はもうそういうこと、済ませたもんだと思っていた。その当時を知ってるのは、私の友達だとカゲくらいのものなので、カゲに相談というか報告というか、話に行った。
「哲次って経験なかったんだね」
言えば、思い出したようにカゲが笑った。珍しく、機嫌良さそうに私に話し始めた。
「とっておきの話、してやろうか?」
「あいつ、付き合ってからもずっとお前のこと心配してたんだよ。じゃあ早乙女と付き合えば? って言ったら、『あいつ依存してダメになるから』ってよ。なんでも『あきが最近、俺に依存しすぎだから、ちょっと離れてやりたくてOKした』そうだ」
そんなこと、一言も言われたことなかった。驚いて言葉を失くしていると、カゲは更に続ける。
「『あいつは一人の男のせいで腐ってしまうようなしょーもない女じゃねぇんだよ。もっといろんなこと出来るし、面白いこと考えるし、自由に輝ける奴なんだ』とも言ってたな。そんで、俺に彼女に勧めてきやがって! 丁重に断ったら、安心したよーな顔して、『まあ、あんな女相手出来るの俺くらいだよな』なんて嬉しそうに話してやがったぜ」
そんなに考えてくれていたなんて、知らなかった。しかも、そんな前から。私は馬鹿だから、哲次から優しさを受け取り損ねてきたのだと思った。いつだって、哲次が1番に私の傍に寄り添ってくれていたのだ。
「まあだから、俺から言わせりゃ、お前の恋はとっくに成就してんだわ。なんでこんなにこじれてんのか意味分かんねー」
ゲラゲラとカゲは私達を笑う、遠慮なく。今からでも遅くないだろうか。
「やっぱり、私は哲次が好きだ」
「だろーな」
「伝えてくる」
「おう。まあ頑張れよ」
ポンポン、とカゲは肩を叩く。余計な感情が落とされていくように感じた。私は、走って哲次に会いにいった。誰よりも私のことを人として尊重してくれて、だからこそ一緒にいて欲しい彼に会いにいった。
「哲次!」
「……んだよ、あき」
広いボーダーの本部の、廊下を歩く背中に声をかける。こんなにも早く見つかるのは、きっと運命ってやつだと思う。
「哲次に彼女が出来たときのこと、カゲから聞いたの」
「はあ? なんでそんな昔のこと」
「哲次、ありがとう。いつも見てくれてて。やっぱり哲次が1番好き。誰よりも好き」
私の頬よりも哲次の頬のが多分真っ赤で。
「なんだよ……急に。カゲに何言われたんだ」
「『こんなとこで腐っちまう女じゃない! 』みたいなこと」
「…………!!」
「本当? そう言った?」
「さあ? カゲが嘘吐く理由がねーだろ」
「じゃあ、本当なんだ?」
「……っ、あー!! そんなことも言った気がしますね!!」
ぷいっと背中を向けて、早足で私から離れようとする。追いかけて、その背中に抱きついた。
「だあー!! 離れろバカ!」
「嫌だ、離さない! 哲次のこと、好きだもん!」
「分かったから! 離れろ!」
離すと、帽子を目深に被らされて前が見えなくなる。そのまま、手を引かれてどこかに連れて行かれる。
「どこ行くの?」
「うるせぇ、黙ってろ」
あんまりだなぁ、と思うけど。こんなことで彼を選ぶこと、不思議に思う人もいるかもしれないけど。哲次なりに、大事にされてたというのが、あまりに嬉しかったから。愛情表現が幼稚で、有り余ってしまうくらい。どうか、許してね。誰よりも君だけが好きだから。