荒船部屋
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荒船哲次という男は、とても意地悪だ。私の反応が面白いのかなんなのか知らないけど、とにかく意地悪。付き合う前も、その意地悪によく振り回されていた。一番酷かったのは、公園で買い食いしてだべっていた時のことだ。食べてたお菓子を横領するのはいつものことで、私には哲次のお菓子はくれない。それくらいのことはいいのだ。お菓子を食べ終わって、私はジャングルジムに登ったのだ。「馬鹿は高いところが好きなんて言うよな」って馬鹿にされながら。登りきって、一番てっぺんに腰かけて、下にいる哲次と話していたら、
「受け止めてやろうか?」
なんて言うから。
「え?」
「受け止めてやるよ。して欲しいだろ?」
私が哲次のこと好きなのは本人よく分かった上でこの申し出。映画かなんかの影響で、気まぐれなんだろうとは思ったけど、そんなロマンチックなこと断る理由もなく。一応トリオン体に換装して、
「絶対? 絶対受け止めてくれる?」
「おう、気が変わらないうちに早くしろよ」
って言うから、信じて飛び降りたのだ。腕を広げる彼に向かって。しかし、その腕は私を迎えることなく引っ込められた。さっと身を引いた哲次の前に、ズシャッと膝から崩れ落ちたのだった。
「いったーー!!」
「はははは、だせぇ!」
大笑いする彼に流石に私も泣いて、慌てて悪かったとなんも悪びれずに謝られたのだった。
「あーそんなこともあったなぁ……。最悪だな俺」
哲次は情けない顔で、心底申し訳なさそうにそう言った。そんな弱気な表情は初めて見る。昨日から、哲次は様子がおかしい。やけに甘ったるく、可愛いだとか好きだとか、ストレートに伝えてくるのだ。そんなことは付き合ってからも初めてのことで、私はどうしたらいいか戸惑っていた。
「今なら素直になんでも答えるぞ? して欲しいことねぇの?」
って言うから、ダメ元でお姫様抱っこ、とリクエストしたら、本当にしてくれるくらいには甘い。しかも、
「このまま外に出てもいいけど?」
なんてとんでもないことを言う。そんな恥ずかしいことは無理、と断って降ろしてもらった。他には? と訊かれて、さっきのジャングルジムの話をしたのである。
「本当に悪かった。痛かったか? あの時」
「トリオン体だから痛くはなかった、けど。ショックではあった」
「そうだよなぁー……ごめん」
こんなにも素直に、しかも過ぎたことを謝られるなんて、本当にらしくないと思う。彼はどうしてしまったんだろう。本当に荒船哲次なんだろうか? 弱々しく、優しく腕を引かれて抱きとめられる。私の存在を確かめるように、体のラインをなぞられてこそばゆい。こんなに優しい手つきには覚えがないのだ。ずっと望んでいたことのはずなのに、いざ叶うとどうしたらいいか分からなくなる。どうしたらいいか分からなくて、
「哲次、」
と用もないのに名前を呼ぶ。
「なんだ?」
その返事すら、慈しみに溢れていて。混乱して、素直に嬉しいという気持ちにすら辿り着けない。
「哲次、哲次」
「どうした、ちゃんとここにいるぞ」
「うん、うん……」
元来甘えたの私は、戸惑いながらも私より随分と硬い胸に頬ずりする。それを哲次は黙って受け入れている。機嫌良さそうに前後に身体を揺らしながら。
「なあ、今から公園行こうか?」
「うん?」
「リベンジ。させてくれよ」
すぐに理解が出来なかった。なぜなら、あのジャングルジムの件は私の中でもう終わったことだったから。怒ってないし謝って欲しくもない。それでも、哲次が行こうというなら断る理由はない。頷いて、外に出るために上着を手に取った。
外に出ても、哲次は優しいままだった。哲次から手を繋いできて、初めて恋人繋ぎをされた。いつもは誰かの前で恋人らしいことなど、嫌がるし怒るのに。心なしか口数も多くて、本当に機嫌がいいようだ。
「ほんとに、どうしたの? なんかあった?」
「いや? なんもねーけど。ねーけど、さ」
目を細めて、繋いだ手に力が込められて。
「ここ数日、2人でのんびり出来なかっただろ?」
「うん。私がいろいろ予定あったからね」
「そう。お前、他の奴にばっか構うから。俺イライラしてたんだけど」
基本、哲次は私が他の男と仲良くするとイライラする。普通のことかもしれないが。ただ、私は男友達のが多いのだ。女子のキラキラした会話に入るのが辛いから。それでもイライラされるのは、独占欲で、好かれてる証拠なのだと最近になって自覚出来るようになった。
「ごめん」
「別に謝んなくていいけど。イライラしてたから、俺またお前に冷たくしちまうかもとか不安でさ」
冷たいこと、気にはしてたんだと少し驚く。私が哲次を好きで、哲次は好きじゃない。そんな期間が長くて、つれないことなど慣れっこだったから。それも哲次だしと受け入れていた。
「けど、2人きりになってお前の顔見てたら、だんだん嬉しくなってきて。どうしたんだろうな? なんかもう、なにしてても可愛いんだよ」
なにかとんでもなく素敵な、最上級の愛情を贈られている気がして、恥ずかしくてうつむいた。哲次はなにか魔法にでもかけられたんじゃなかろうか。
「黙ってんのは、照れてんのか?」
「そうだよ……」
「いつもと逆だな」
愛を受け取るって、こんなにも照れ臭いものなのか。私は哲次に、今まで少し申し訳ないことをしてたかもしれない。
公園について、しばらくはブランコに乗って話していた。日が暮れて、警戒区域に近いこの公園に、今は2人きりだ。ブランコに乗っているのに、哲次が後ろから抱きしめてくるもんだから漕げやしない。
「哲次、私ブランコ漕ぎたい」
「子供だな~まったく」
軽口はいつものことだが今日は声が柔らかい。
「押してやるよ」
背中を押してもらってブランコに乗るなんていつぶりだろうか。だんだん大きくなる揺れに、身体は浮遊感に包まれる。
「わっ高い、高い! もういい!」
「はははは!」
調子乗って押してくるあたり、やっぱり意地悪だと思う。少し安心した。私の知ってる哲次だ。けど、ブランコを止めてくれて、
「怖かったな~ごめんな」
と私を抱きしめる哲次は知らない。また私は黙ってしまった。それでも構わずに哲次は私を愛でる。どっかのネジが数本、飛んでしまったのではないかと心配だ。
「っと、ブランコしに来たわけじゃなかったな。ジャングルジムだジャングルジム」
手を引かれて、ジャングルジムの前まで連れて来られる。前に登ったときよりも、塗装が剥がれたところが多くなった気がする。黙って登れと促されるので、渋々私は足をかけた。てっぺんまで登ると、下を見るのが怖い。前は大丈夫だったのに。
「いつでもいいぞ。絶対受けとめてやるから」
「本当に?」
「ああ。約束する」
トリガーを忘れてきたことが悔やまれる。受けとめてもらえるとは思っても、流石に怖い。怖がっている私に気づいて、
「怖いか? やめとくか?」
と下から声がする。
「やる。して欲しい。」
「分かった。じゃあ、3、2、1で飛べよ?」
頷くと、微笑んだのが見えた。それから、そっと口が開いた。
「3、2、1、」
ゼロ、と心の中で唱えて、思いっきり飛び降りた。
「うわ、っと」
目をつぶってる間に、ドスンっと身体同士がぶつかった衝撃があって、哲次がよろけて後ろに転んだ。目を開けたら、哲次の上に私が覆いかぶさっていた。
「ごめん、怪我してない!? 大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫。あきは? どこも痛めてないよな?」
「うん」
「良かった……」
心底心配して、ホッとした声。上半身だけ起こすと、哲次はぎゅっと腕に私を閉じ込めた。
「ありがとう。愛してる」
パニックを起こしてジタバタする私を、哲次はそれでも離さなかった。いつだって、哲次は急で極端なんだ。それは私にも言えることだから、抵抗なんて出来ないけど。愛情過多で窒息死しそうだ。
「受け止めてやろうか?」
なんて言うから。
「え?」
「受け止めてやるよ。して欲しいだろ?」
私が哲次のこと好きなのは本人よく分かった上でこの申し出。映画かなんかの影響で、気まぐれなんだろうとは思ったけど、そんなロマンチックなこと断る理由もなく。一応トリオン体に換装して、
「絶対? 絶対受け止めてくれる?」
「おう、気が変わらないうちに早くしろよ」
って言うから、信じて飛び降りたのだ。腕を広げる彼に向かって。しかし、その腕は私を迎えることなく引っ込められた。さっと身を引いた哲次の前に、ズシャッと膝から崩れ落ちたのだった。
「いったーー!!」
「はははは、だせぇ!」
大笑いする彼に流石に私も泣いて、慌てて悪かったとなんも悪びれずに謝られたのだった。
「あーそんなこともあったなぁ……。最悪だな俺」
哲次は情けない顔で、心底申し訳なさそうにそう言った。そんな弱気な表情は初めて見る。昨日から、哲次は様子がおかしい。やけに甘ったるく、可愛いだとか好きだとか、ストレートに伝えてくるのだ。そんなことは付き合ってからも初めてのことで、私はどうしたらいいか戸惑っていた。
「今なら素直になんでも答えるぞ? して欲しいことねぇの?」
って言うから、ダメ元でお姫様抱っこ、とリクエストしたら、本当にしてくれるくらいには甘い。しかも、
「このまま外に出てもいいけど?」
なんてとんでもないことを言う。そんな恥ずかしいことは無理、と断って降ろしてもらった。他には? と訊かれて、さっきのジャングルジムの話をしたのである。
「本当に悪かった。痛かったか? あの時」
「トリオン体だから痛くはなかった、けど。ショックではあった」
「そうだよなぁー……ごめん」
こんなにも素直に、しかも過ぎたことを謝られるなんて、本当にらしくないと思う。彼はどうしてしまったんだろう。本当に荒船哲次なんだろうか? 弱々しく、優しく腕を引かれて抱きとめられる。私の存在を確かめるように、体のラインをなぞられてこそばゆい。こんなに優しい手つきには覚えがないのだ。ずっと望んでいたことのはずなのに、いざ叶うとどうしたらいいか分からなくなる。どうしたらいいか分からなくて、
「哲次、」
と用もないのに名前を呼ぶ。
「なんだ?」
その返事すら、慈しみに溢れていて。混乱して、素直に嬉しいという気持ちにすら辿り着けない。
「哲次、哲次」
「どうした、ちゃんとここにいるぞ」
「うん、うん……」
元来甘えたの私は、戸惑いながらも私より随分と硬い胸に頬ずりする。それを哲次は黙って受け入れている。機嫌良さそうに前後に身体を揺らしながら。
「なあ、今から公園行こうか?」
「うん?」
「リベンジ。させてくれよ」
すぐに理解が出来なかった。なぜなら、あのジャングルジムの件は私の中でもう終わったことだったから。怒ってないし謝って欲しくもない。それでも、哲次が行こうというなら断る理由はない。頷いて、外に出るために上着を手に取った。
外に出ても、哲次は優しいままだった。哲次から手を繋いできて、初めて恋人繋ぎをされた。いつもは誰かの前で恋人らしいことなど、嫌がるし怒るのに。心なしか口数も多くて、本当に機嫌がいいようだ。
「ほんとに、どうしたの? なんかあった?」
「いや? なんもねーけど。ねーけど、さ」
目を細めて、繋いだ手に力が込められて。
「ここ数日、2人でのんびり出来なかっただろ?」
「うん。私がいろいろ予定あったからね」
「そう。お前、他の奴にばっか構うから。俺イライラしてたんだけど」
基本、哲次は私が他の男と仲良くするとイライラする。普通のことかもしれないが。ただ、私は男友達のが多いのだ。女子のキラキラした会話に入るのが辛いから。それでもイライラされるのは、独占欲で、好かれてる証拠なのだと最近になって自覚出来るようになった。
「ごめん」
「別に謝んなくていいけど。イライラしてたから、俺またお前に冷たくしちまうかもとか不安でさ」
冷たいこと、気にはしてたんだと少し驚く。私が哲次を好きで、哲次は好きじゃない。そんな期間が長くて、つれないことなど慣れっこだったから。それも哲次だしと受け入れていた。
「けど、2人きりになってお前の顔見てたら、だんだん嬉しくなってきて。どうしたんだろうな? なんかもう、なにしてても可愛いんだよ」
なにかとんでもなく素敵な、最上級の愛情を贈られている気がして、恥ずかしくてうつむいた。哲次はなにか魔法にでもかけられたんじゃなかろうか。
「黙ってんのは、照れてんのか?」
「そうだよ……」
「いつもと逆だな」
愛を受け取るって、こんなにも照れ臭いものなのか。私は哲次に、今まで少し申し訳ないことをしてたかもしれない。
公園について、しばらくはブランコに乗って話していた。日が暮れて、警戒区域に近いこの公園に、今は2人きりだ。ブランコに乗っているのに、哲次が後ろから抱きしめてくるもんだから漕げやしない。
「哲次、私ブランコ漕ぎたい」
「子供だな~まったく」
軽口はいつものことだが今日は声が柔らかい。
「押してやるよ」
背中を押してもらってブランコに乗るなんていつぶりだろうか。だんだん大きくなる揺れに、身体は浮遊感に包まれる。
「わっ高い、高い! もういい!」
「はははは!」
調子乗って押してくるあたり、やっぱり意地悪だと思う。少し安心した。私の知ってる哲次だ。けど、ブランコを止めてくれて、
「怖かったな~ごめんな」
と私を抱きしめる哲次は知らない。また私は黙ってしまった。それでも構わずに哲次は私を愛でる。どっかのネジが数本、飛んでしまったのではないかと心配だ。
「っと、ブランコしに来たわけじゃなかったな。ジャングルジムだジャングルジム」
手を引かれて、ジャングルジムの前まで連れて来られる。前に登ったときよりも、塗装が剥がれたところが多くなった気がする。黙って登れと促されるので、渋々私は足をかけた。てっぺんまで登ると、下を見るのが怖い。前は大丈夫だったのに。
「いつでもいいぞ。絶対受けとめてやるから」
「本当に?」
「ああ。約束する」
トリガーを忘れてきたことが悔やまれる。受けとめてもらえるとは思っても、流石に怖い。怖がっている私に気づいて、
「怖いか? やめとくか?」
と下から声がする。
「やる。して欲しい。」
「分かった。じゃあ、3、2、1で飛べよ?」
頷くと、微笑んだのが見えた。それから、そっと口が開いた。
「3、2、1、」
ゼロ、と心の中で唱えて、思いっきり飛び降りた。
「うわ、っと」
目をつぶってる間に、ドスンっと身体同士がぶつかった衝撃があって、哲次がよろけて後ろに転んだ。目を開けたら、哲次の上に私が覆いかぶさっていた。
「ごめん、怪我してない!? 大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫。あきは? どこも痛めてないよな?」
「うん」
「良かった……」
心底心配して、ホッとした声。上半身だけ起こすと、哲次はぎゅっと腕に私を閉じ込めた。
「ありがとう。愛してる」
パニックを起こしてジタバタする私を、哲次はそれでも離さなかった。いつだって、哲次は急で極端なんだ。それは私にも言えることだから、抵抗なんて出来ないけど。愛情過多で窒息死しそうだ。