荒船部屋
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荒船哲次という男は、私にとって救世主みたいな存在だ。中学2年生の時、最初に席が隣になった時からなにかと私を気遣ってくれていた。話していると楽しくて、次第に私は惹かれていった。好きになってひっついてまわった。中3の時、告白したら振られた。好きじゃない、くっつきすぎだって。それでも好きで、私は傍を離れなかった。それに本気で怒られたこともあったけど、哲次は完全に私を突き放すことはしなかった。それだけじゃなく、不登校になりがちで友達の少ない私に居場所をくれた。ボーダーに入って、どうしようか困っていた私の手を引いて、自分の隊に入れてくれた。いつだって私より先を歩いていて、私はこの人のようになりたいと思ったのだ。
だから、彼女になれるとは夢にも思わなかったのだ。3年近く片想いをして、このままこの関係が変わることはないのだと思っていた。今、私は彼の腕の中にいる。この事実が、どうにも現実味を帯びなくて、ふわふわと不思議な幸福感を私にもたらしていた。だけど、顔を見上げる度に、どうして私なんだろうという不安が拭えなかった。哲次の膝の上で、胸に身体を預けるこの態勢が、定位置になりつつある。
「どうした、考え事か?」
付き合いだけは長いから、大抵のことは哲次に見通されてしまう。それすら不安だ、私は哲次を見てきてどれだけのことを知れているだろう。そっと見上げれば、切れ長の瞳が見つめ返してくれる。ああ、なにもこんなにカッコよくなくてもよかったのに。
「哲次、カッコいい」
「んだよ、急に」
「カッコよすぎ、モテちゃうじゃん」
そうこぼして胸に顔を埋めれば、機嫌良さそうに笑われる。
「おーモテるぞ。だから、お前も頑張れ」
もっと女らしくしろ、だとか。もっとしっかりしろ、だとか。付き合う前からずーっと、哲次に言われてきたことだ。求められてきたことを知っている。追いかけたいと思ったのも本当だ。けれど、私は頑張るということに疲れてしまったんだ。それは、哲次に会う前の話。
「嫌だ、そのままで好きになってもらいたい」
「頑固。わがまま」
そんなこと言ったって。君に釣り合うには私はどれほど頑張ればいいのか。やりきれなくて、うっーって胸にすがりついて甘える。すると、ぽんぽんと背中を叩いてくれた。
「一変に変われなんて言ってねーよ。今日は化粧してみるとか、片付け頑張ってみるとか、料理覚えてみるとか。一個ずつでいい。待っててやるから」
父親のようだ、と私の友達は言った。そう言ったら怒るだろうから私は言わないけど、本当にそうだと思う。こんなにもあったかい人なのだ。だから、期待に応えられないのが怖い。
「一生出来ないかもしんない」
「出来るって、お前なら。な?」
な? と諭すように話すようになったのは、付き合うようになってからだ。この優しい音が、たまらなく愛おしく思う。頷いて、哲次の心臓の音に耳を傾けた。規則的な振動と暖かな体温は、私を眠りに誘うのに充分だった。まだ、信じられている。私の可能性を見捨てないこの人の、背中を追いかけていたいのである。
だから、彼女になれるとは夢にも思わなかったのだ。3年近く片想いをして、このままこの関係が変わることはないのだと思っていた。今、私は彼の腕の中にいる。この事実が、どうにも現実味を帯びなくて、ふわふわと不思議な幸福感を私にもたらしていた。だけど、顔を見上げる度に、どうして私なんだろうという不安が拭えなかった。哲次の膝の上で、胸に身体を預けるこの態勢が、定位置になりつつある。
「どうした、考え事か?」
付き合いだけは長いから、大抵のことは哲次に見通されてしまう。それすら不安だ、私は哲次を見てきてどれだけのことを知れているだろう。そっと見上げれば、切れ長の瞳が見つめ返してくれる。ああ、なにもこんなにカッコよくなくてもよかったのに。
「哲次、カッコいい」
「んだよ、急に」
「カッコよすぎ、モテちゃうじゃん」
そうこぼして胸に顔を埋めれば、機嫌良さそうに笑われる。
「おーモテるぞ。だから、お前も頑張れ」
もっと女らしくしろ、だとか。もっとしっかりしろ、だとか。付き合う前からずーっと、哲次に言われてきたことだ。求められてきたことを知っている。追いかけたいと思ったのも本当だ。けれど、私は頑張るということに疲れてしまったんだ。それは、哲次に会う前の話。
「嫌だ、そのままで好きになってもらいたい」
「頑固。わがまま」
そんなこと言ったって。君に釣り合うには私はどれほど頑張ればいいのか。やりきれなくて、うっーって胸にすがりついて甘える。すると、ぽんぽんと背中を叩いてくれた。
「一変に変われなんて言ってねーよ。今日は化粧してみるとか、片付け頑張ってみるとか、料理覚えてみるとか。一個ずつでいい。待っててやるから」
父親のようだ、と私の友達は言った。そう言ったら怒るだろうから私は言わないけど、本当にそうだと思う。こんなにもあったかい人なのだ。だから、期待に応えられないのが怖い。
「一生出来ないかもしんない」
「出来るって、お前なら。な?」
な? と諭すように話すようになったのは、付き合うようになってからだ。この優しい音が、たまらなく愛おしく思う。頷いて、哲次の心臓の音に耳を傾けた。規則的な振動と暖かな体温は、私を眠りに誘うのに充分だった。まだ、信じられている。私の可能性を見捨てないこの人の、背中を追いかけていたいのである。