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俺があきちゃんの存在を知ったのは、中学3年の冬だった。
「佐鳥賢くん、いますかぁー!」
友達と昼飯を食べている最中、突然廊下側から大声で名前を呼ばれた。一瞬、教室は静まり返る。びっくりしたけど、とにかく立ち上がって廊下の方へ向かった。声の主は、プリントを握ってそれで顔を隠していた。
「えっと、さっき呼んだのって君?」
「あ、う、はい」
さっきと打って変わって小さな声。彼女がプリントを少しだけ胸元に落とすと、恥ずかしがる黒目と目があった。
「あの、数学の小テスト、廊下に落ちてて、」
そう言って持っているプリントを差し出す。顔は真っ赤でりんごみたいだと思った。
「え、わざわざこれだけのために?」
「うん、名前書いてあったし……」
決して点数の良くない小テストを受け取る。お辞儀をして、彼女は離れていく。
「あ、ありがとうね!」
振り向きもう一度お辞儀をすると、ぱたぱたと走っていった。真面目だけど、ちょっと変わった子だなと思った。
次に会ったのは、交番だった。
学校の帰り道、任務がなかったので、ぶらぶらと街を散歩していた。ハンバーガーをおやつに食べて、そろそろ帰ろうか、と思ったら足に何かがぶつかった。見てみると、女の子の財布が落ちていた。シンプルなデザインの中折の財布だ。女の子が困っているだろうと思って、最寄りの交番に届けに行った。
「あー、さっき財布落としたって子が来たんだよ。連絡してみるね」
交番のおじさんは、落とし主と思われる子に電話してくれた。待っている間、必要な書類にサインをする。どんな子か知りたくて、落とし主が現れるまで待つことにした。
「すみません、財布届いたって連絡もらったんですけど」
「あ、」
やって来たのは、この前小テストを届けてくれた子だった。俺の存在に気づくと、びくっと肩を揺らしてお辞儀をした。その様子が可笑しくて笑ってしまった。
「あの、佐鳥くんが届けてくれたの?」
彼女は俺の名前をしっかり覚えてくれていた。
「うん、ハンバーガーショップの前に落ちてた」
「ありがとう……どうしようかと思ってたの」
頬を赤く染めて、ふにゃりと微笑む彼女にズッキュンハートを射抜かれた。可愛い。
「この財布で間違いないかな?」
「はい、私のです。ありがとうございます」
笑顔に見惚れているうちに、彼女は手続きを済ませて財布を受け取った。大事に両手で財布を持ち、頭を下げて交番を出て行く。
「あ、待って!」
「!?」
慌てて交番を飛び出て呼び止めた。驚いた顔で振り向かれる。
「名前! 教えてくれないかな?」
「あ、早乙女あきです。」
「そっか、あきちゃんね!」
本当はもっと色々聞きたかったけど、あきちゃんが足早に去って行ったのと、緊張したせいでそれ以上は聞き出せなかった。
とどめを刺されたのは、中学の卒業式の日。
卒業式自体は至って平凡に、滞りなく終わっていった。それなりに感慨深かったけど、涙が出るほどでもなくて、あー終わったんだなあって感じだった。いつもより早い下校、春の訪れを感じる日差しを背に、のんびり歩いていた。しばらくして、道路を挟んで反対側の道に、見覚えのある背中を見つけた。あきちゃんかな、と道路越しに横並びになって、確認した。あきちゃんだった。声をかけずに、様子を観察していたら、急にあきちゃんはしゃがみこんだ。
「??」
具合でも悪いんだろうか、心配していたら、にこにこ顔で立ち上がった。その手には、タンポポの綿毛。それを楽しそうに、嬉しそうに、飛ばして歩いていった。
「……!!」
その行動は15歳の女の子がするにしては幼いものだったけど、俺の心を鷲掴みにした。彼女の纏う不思議な雰囲気に、釘付けになったんだ。
春休みを終えて、高校に上がった。同じ高校にあきちゃんも通うことを知った俺は、積極的に話しかけるようにした。話をしてみたら、彼女もボーダー隊員だった。健気に頑張るあきちゃんを見て、俺はますます彼女が好きになった。最初はドギマギしていた彼女も、今では悩みを相談してくれるまでになった。俺の恋は順調だと思っていた。
「菊地原くんがね、師匠になってくれたんだ」
思わぬライバルの登場だった。こんなことなら、木虎を紹介すればよかった。歌川じゃないだけマシだっただろうか。同い年というだけで、言い知れぬ不安感に襲われた。
「今日、菊地原くんが稽古つけてくれるんだ」
「そーなんだ! 良かったじゃん」
今日も狙ってあきちゃんと一緒の帰り道。努めて明るく接するけど、内心は穏やかじゃない。菊地原のことだから、あきちゃんにキツく当たったりしてないだろうか。いや、優しくされて惚れられても困るんだけど。
「……なんかあったら、佐鳥に相談してね。力になるから」
「? うん。佐鳥くんにはいつも助けてもらってるよ?」
あきちゃんは鈍感だから、俺の意図になんて気づいてはいないだろうけど。小首を傾げた仕草に、ちょっとだけ憎らしくなった。
「佐鳥賢くん、いますかぁー!」
友達と昼飯を食べている最中、突然廊下側から大声で名前を呼ばれた。一瞬、教室は静まり返る。びっくりしたけど、とにかく立ち上がって廊下の方へ向かった。声の主は、プリントを握ってそれで顔を隠していた。
「えっと、さっき呼んだのって君?」
「あ、う、はい」
さっきと打って変わって小さな声。彼女がプリントを少しだけ胸元に落とすと、恥ずかしがる黒目と目があった。
「あの、数学の小テスト、廊下に落ちてて、」
そう言って持っているプリントを差し出す。顔は真っ赤でりんごみたいだと思った。
「え、わざわざこれだけのために?」
「うん、名前書いてあったし……」
決して点数の良くない小テストを受け取る。お辞儀をして、彼女は離れていく。
「あ、ありがとうね!」
振り向きもう一度お辞儀をすると、ぱたぱたと走っていった。真面目だけど、ちょっと変わった子だなと思った。
次に会ったのは、交番だった。
学校の帰り道、任務がなかったので、ぶらぶらと街を散歩していた。ハンバーガーをおやつに食べて、そろそろ帰ろうか、と思ったら足に何かがぶつかった。見てみると、女の子の財布が落ちていた。シンプルなデザインの中折の財布だ。女の子が困っているだろうと思って、最寄りの交番に届けに行った。
「あー、さっき財布落としたって子が来たんだよ。連絡してみるね」
交番のおじさんは、落とし主と思われる子に電話してくれた。待っている間、必要な書類にサインをする。どんな子か知りたくて、落とし主が現れるまで待つことにした。
「すみません、財布届いたって連絡もらったんですけど」
「あ、」
やって来たのは、この前小テストを届けてくれた子だった。俺の存在に気づくと、びくっと肩を揺らしてお辞儀をした。その様子が可笑しくて笑ってしまった。
「あの、佐鳥くんが届けてくれたの?」
彼女は俺の名前をしっかり覚えてくれていた。
「うん、ハンバーガーショップの前に落ちてた」
「ありがとう……どうしようかと思ってたの」
頬を赤く染めて、ふにゃりと微笑む彼女にズッキュンハートを射抜かれた。可愛い。
「この財布で間違いないかな?」
「はい、私のです。ありがとうございます」
笑顔に見惚れているうちに、彼女は手続きを済ませて財布を受け取った。大事に両手で財布を持ち、頭を下げて交番を出て行く。
「あ、待って!」
「!?」
慌てて交番を飛び出て呼び止めた。驚いた顔で振り向かれる。
「名前! 教えてくれないかな?」
「あ、早乙女あきです。」
「そっか、あきちゃんね!」
本当はもっと色々聞きたかったけど、あきちゃんが足早に去って行ったのと、緊張したせいでそれ以上は聞き出せなかった。
とどめを刺されたのは、中学の卒業式の日。
卒業式自体は至って平凡に、滞りなく終わっていった。それなりに感慨深かったけど、涙が出るほどでもなくて、あー終わったんだなあって感じだった。いつもより早い下校、春の訪れを感じる日差しを背に、のんびり歩いていた。しばらくして、道路を挟んで反対側の道に、見覚えのある背中を見つけた。あきちゃんかな、と道路越しに横並びになって、確認した。あきちゃんだった。声をかけずに、様子を観察していたら、急にあきちゃんはしゃがみこんだ。
「??」
具合でも悪いんだろうか、心配していたら、にこにこ顔で立ち上がった。その手には、タンポポの綿毛。それを楽しそうに、嬉しそうに、飛ばして歩いていった。
「……!!」
その行動は15歳の女の子がするにしては幼いものだったけど、俺の心を鷲掴みにした。彼女の纏う不思議な雰囲気に、釘付けになったんだ。
春休みを終えて、高校に上がった。同じ高校にあきちゃんも通うことを知った俺は、積極的に話しかけるようにした。話をしてみたら、彼女もボーダー隊員だった。健気に頑張るあきちゃんを見て、俺はますます彼女が好きになった。最初はドギマギしていた彼女も、今では悩みを相談してくれるまでになった。俺の恋は順調だと思っていた。
「菊地原くんがね、師匠になってくれたんだ」
思わぬライバルの登場だった。こんなことなら、木虎を紹介すればよかった。歌川じゃないだけマシだっただろうか。同い年というだけで、言い知れぬ不安感に襲われた。
「今日、菊地原くんが稽古つけてくれるんだ」
「そーなんだ! 良かったじゃん」
今日も狙ってあきちゃんと一緒の帰り道。努めて明るく接するけど、内心は穏やかじゃない。菊地原のことだから、あきちゃんにキツく当たったりしてないだろうか。いや、優しくされて惚れられても困るんだけど。
「……なんかあったら、佐鳥に相談してね。力になるから」
「? うん。佐鳥くんにはいつも助けてもらってるよ?」
あきちゃんは鈍感だから、俺の意図になんて気づいてはいないだろうけど。小首を傾げた仕草に、ちょっとだけ憎らしくなった。