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来た。ついにこの時が来てしまった。
ランク戦を終え、1度自宅に戻った私は、母に浴衣を着せてもらった。髪も結って、ちりめんのかんざしをつけた。待ち合わせまで、あと30分。
「…………」
「あっはっはっは。なに今から戦場に行くみたいな顔してるの」
母は笑うが、私はそれどころじゃない。だって、荒船君とお祭りに行くのだ。ある意味戦場である。
「いつも近界民相手に戦ってるくせに。ほら、笑いなさい。恋愛運逃げるよ?」
鏡の前で笑顔を作る。とてもぎこちなくて、それが可笑しくて笑った。
「そうそう。女は笑顔でなくちゃね。それで荒船君落としてきなさい!」
ああ、そういうこと言わないで母さん。また緊張する。待ち合わせまで、あと25分。
待ち合わせまで、あと10分。集合場所の神社には、加賀美ちゃん、熊谷ちゃん、恵さん、瞳ちゃんが来ていた。
「わあ、あきちゃん、浴衣かわいい!」
『加賀美ちゃんも、綺麗だよ!』
すらりと細身な加賀美ちゃんの浴衣はとても絵になる。いつにも増して美人だなぁ。
「あ、荒船くん」
「!!」
加賀美ちゃんの視線は、私の後ろに向けられている。まだ心の準備出来てない。とっさに加賀美ちゃんの背中に隠れた。
「ちょっと、あきちゃん、なに隠れてるの」
「早乙女、浴衣なのか?」
「そう、かわいいんだよーほら、出てきて!」
「う、わ」
加賀美ちゃんに腕を引っ張られ、荒船君の前に立たされる。あ、荒船君も浴衣だ。顔を上げると、バッチリと目があってしまう。
「っ、…………」
「…………」
荒船君なんか喋って! いたたまれないから喋って!
「……あー、似合ってる。可愛い、ぞ」
「!!」
褒められた。可愛いって。うわ、うわあ。のぼせあがって、頭爆発しそうだ。
『あるがとう』
「?? ああ、ありがとうか」
気づいたら加賀美ちゃんは熊谷ちゃん達と喋っている。というか、なんで皆私から少し距離置いてるの? 荒船君も、私の横から動かない。心臓が痛いんですけど、助けてください。
「…………」
「…………!!」
お願い荒船君、喋って! 沈黙に耐えられません。かといって自分から話しかける余裕がありません。
「…………」
「…………っ」
「……あ、穂刈」
「待たせた、悪い」
穂刈君がやってきて、荒船君と話し始めた。その隙に、私は女子メンバーの方へ逃げ込む。
「なんで戻ってきちゃうの~!」
加賀美ちゃん、無理です。荒船君がかっこよくて耐えられません。
しばらくして全員集まったので、通りの屋台を見て回る。私は加賀美ちゃんと並んで歩いた。荒船君の後ろ、数メートルを。
「ほら、荒船君に声かけてきなよ」
『無理無理無理無理!』
加賀美ちゃんが私の肩をこずく。今日の加賀美ちゃんは、ものすごくノリノリだ。私の反応を見て、にやにやと楽しんでいる。その笑顔が、イタズラを思いついた顔に変わる。
「荒船くーん、あきちゃん金魚取ってほしいって!」
「!!?」
加賀美ちゃんの声かけに、荒船君が振り向く。私の横には、丁度金魚すくいの屋台。加賀美ちゃんと荒船君を交互に見ているうちに、荒船君はもう目の前。
「金魚可愛いねーって話してたの。荒船君取ってあげてよ」
加賀美ちゃん、私そんな話してないよ!? 荒船君はもうおじさんからポイをもらってしゃがんでしまった。おろおろする私に、ぐっと加賀美ちゃんは親指を立てる。ああ、なんていい笑顔。
「ほら、どれとって欲しいんだよ」
「!!」
声をかけられて、慌てて荒船君の横にしゃがむ。近い、距離近い。隣をなるべく意識しないように、金魚に目を走らせる。あ、尾がヒラヒラしていて、黒、白、赤の混じった子。あの子可愛いな。これ! と指を差す。
「おし、こいつだな」
荒船君は袖をまくって、真剣な表情になる。その動作一つ一つにときめいてしまう。ポイは目当ての子の下を潜る。掬い上げたが、尾っぽが激しく動いて、破けてしまった。
「あー惜しいな、兄ちゃん」
「……もう一回、頼む」
「!!」
いやいや、流石にそこまでしてもらうのは悪い。荒船君の腕を掴み首を横に振るが、荒船君は財布から小銭を出してポイと交換してしまった。じゃあ、せめてと自分のお金を渡そうとするけど、
「いいから、やらせろ」
と断られてしまった。なんか火をつけてしまったようだ。任務やランク戦の時のような、熱い眼差しになっている。すーっとポイは金魚を追いかける。金魚はすいすい逃げていく。ポイを掬い上げると、金魚と水の重みで破けてしまった。
「…………」
「はは、慌てちまったな。いいよ、兄ちゃん2回もやってくれたから、そいつおまけしとくよ。」
そう言って、おじさんは金魚を掬って袋に入れて持たせてくれた。会釈して、屋台を出る。横を見て荒船君の顔を伺うと、悔しいみたいで、決まりの悪い顔をしていた。思わず、可愛いと思ってしまった。
「そういや、加賀美と穂刈どこ行った?」
「!!」
いつの間にか、2人きりになっていたことに気づく。周りを見回すが、加賀美ちゃんも穂刈くんもいない。その時、ヴーと携帯のバイブがなった。確認すると、加賀美ちゃんからメール。
『花火の席取っておくから、それまで荒船君と2人で行動すること!』
え、えー! そんな、後生な! いや、嫌なわけじゃないんだけど、身が持たないよ!
「とりあえず、2人で見て回るか。」
荒船君がこちらを見て、目が合う。びっくりして、勢いよく首を縦に振った。
荒船君の横を黙って歩く。いや、私からは話しかけられないのだけど。色々な意味で。祭りの参道はとにかく人が多い。癖で声を出さない私を、お構いなしに押しのけていく。遂には、ぞろぞろと歩く男の子のグループに行く手を遮られてしまった。
「あ、」
荒船君の姿が見えなくなる。胸を隙間風が通るような、不安とも淋しさとも言える感情に囚われる。思わず、手を伸ばした。
「!!」
手の平を温かいものに包まれる。そのまま、ぐいっと引っ張り出された。
「大丈夫かよ」
荒船君の顔が近い。繋がれた手が熱い。ただただ何度も首を縦に振る。
「……お前なんか、今日緊張してる?」
「う、」
これにも、首を縦に振るしかない。恐る恐る肯定すると、
「普通にしてろよ、その……俺まで緊張するだろ」
と言われた。その顔はほんのり赤い気がする。祭りの喧騒が、遠くのように聞こえる。
「……行くぞ」
そう言うと、荒船君は私の手を引いて歩きだした。荒船君と手を繋いでいる。嘘みたいだ。緊張するな、なんて無理だよ。
「お、射的」
射的の屋台を見つけると、荒船君は足を止めた。どうやら、挑戦するようだ。
「早乙女、どれ取って欲しい」
射的の景品を見る。正直、荒船君が取ってくれるなら、どれでもいい。けど、ちょっと欲張ってもいいかな。
『大っきい抱っこちゃんがいい!』
「よしきた」
荒船君は銃を構える。ああ、かっこいい。横顔、指先、瞳。見ていてドキドキしてしまう。
パンッ
発射された弾は見事に景品に命中し、景品は倒れた。
『すごい! 流石だね!』
「これくらい当然だろ」
荒船君は淡々と景品を倒していく。屋台のおじさんの顔が青くなっていった。
『いっぱい取ったねー』
「調子乗って取り過ぎた、悪い」
『おじさん真っ青になってたね』
両手一杯に景品をぶらさげ、神社の賽銭箱を目指して歩く。今年受験生だし、一応お参りしないと。小銭を投げ入れ、ガランガラン、と鈴を鳴らして、手を合わせた。神様、どうかこの恋を叶えてください。違った。今年ちゃんと大学受かりますように!
「穂刈からメール着た。花火場所取ったから来いだってよ」
もう2人きりは終わりか。あんなに緊張したのに、終わりとなると、名残惜しい。荒船君の横を歩きながら、言ってしまおうか、と口を開いては、空気だけ吐き出す。ドキドキと心臓がうるさい。
「おーい、こっちこっち~!」
皆の姿が見えて、そっと、荒船君との距離が離れた。それと同時に、花火が打ち上がった。荒船君の横に座ることは出来なくて、加賀美ちゃんの横を陣取り、夜空を見上げる。
『加賀美ちゃん、ありがとう』
「いえいえ、楽しかった?」
もちろん、答えはYESだ。毎年見てる花火より、今日の花火は一段と綺麗に見えた。
ランク戦を終え、1度自宅に戻った私は、母に浴衣を着せてもらった。髪も結って、ちりめんのかんざしをつけた。待ち合わせまで、あと30分。
「…………」
「あっはっはっは。なに今から戦場に行くみたいな顔してるの」
母は笑うが、私はそれどころじゃない。だって、荒船君とお祭りに行くのだ。ある意味戦場である。
「いつも近界民相手に戦ってるくせに。ほら、笑いなさい。恋愛運逃げるよ?」
鏡の前で笑顔を作る。とてもぎこちなくて、それが可笑しくて笑った。
「そうそう。女は笑顔でなくちゃね。それで荒船君落としてきなさい!」
ああ、そういうこと言わないで母さん。また緊張する。待ち合わせまで、あと25分。
待ち合わせまで、あと10分。集合場所の神社には、加賀美ちゃん、熊谷ちゃん、恵さん、瞳ちゃんが来ていた。
「わあ、あきちゃん、浴衣かわいい!」
『加賀美ちゃんも、綺麗だよ!』
すらりと細身な加賀美ちゃんの浴衣はとても絵になる。いつにも増して美人だなぁ。
「あ、荒船くん」
「!!」
加賀美ちゃんの視線は、私の後ろに向けられている。まだ心の準備出来てない。とっさに加賀美ちゃんの背中に隠れた。
「ちょっと、あきちゃん、なに隠れてるの」
「早乙女、浴衣なのか?」
「そう、かわいいんだよーほら、出てきて!」
「う、わ」
加賀美ちゃんに腕を引っ張られ、荒船君の前に立たされる。あ、荒船君も浴衣だ。顔を上げると、バッチリと目があってしまう。
「っ、…………」
「…………」
荒船君なんか喋って! いたたまれないから喋って!
「……あー、似合ってる。可愛い、ぞ」
「!!」
褒められた。可愛いって。うわ、うわあ。のぼせあがって、頭爆発しそうだ。
『あるがとう』
「?? ああ、ありがとうか」
気づいたら加賀美ちゃんは熊谷ちゃん達と喋っている。というか、なんで皆私から少し距離置いてるの? 荒船君も、私の横から動かない。心臓が痛いんですけど、助けてください。
「…………」
「…………!!」
お願い荒船君、喋って! 沈黙に耐えられません。かといって自分から話しかける余裕がありません。
「…………」
「…………っ」
「……あ、穂刈」
「待たせた、悪い」
穂刈君がやってきて、荒船君と話し始めた。その隙に、私は女子メンバーの方へ逃げ込む。
「なんで戻ってきちゃうの~!」
加賀美ちゃん、無理です。荒船君がかっこよくて耐えられません。
しばらくして全員集まったので、通りの屋台を見て回る。私は加賀美ちゃんと並んで歩いた。荒船君の後ろ、数メートルを。
「ほら、荒船君に声かけてきなよ」
『無理無理無理無理!』
加賀美ちゃんが私の肩をこずく。今日の加賀美ちゃんは、ものすごくノリノリだ。私の反応を見て、にやにやと楽しんでいる。その笑顔が、イタズラを思いついた顔に変わる。
「荒船くーん、あきちゃん金魚取ってほしいって!」
「!!?」
加賀美ちゃんの声かけに、荒船君が振り向く。私の横には、丁度金魚すくいの屋台。加賀美ちゃんと荒船君を交互に見ているうちに、荒船君はもう目の前。
「金魚可愛いねーって話してたの。荒船君取ってあげてよ」
加賀美ちゃん、私そんな話してないよ!? 荒船君はもうおじさんからポイをもらってしゃがんでしまった。おろおろする私に、ぐっと加賀美ちゃんは親指を立てる。ああ、なんていい笑顔。
「ほら、どれとって欲しいんだよ」
「!!」
声をかけられて、慌てて荒船君の横にしゃがむ。近い、距離近い。隣をなるべく意識しないように、金魚に目を走らせる。あ、尾がヒラヒラしていて、黒、白、赤の混じった子。あの子可愛いな。これ! と指を差す。
「おし、こいつだな」
荒船君は袖をまくって、真剣な表情になる。その動作一つ一つにときめいてしまう。ポイは目当ての子の下を潜る。掬い上げたが、尾っぽが激しく動いて、破けてしまった。
「あー惜しいな、兄ちゃん」
「……もう一回、頼む」
「!!」
いやいや、流石にそこまでしてもらうのは悪い。荒船君の腕を掴み首を横に振るが、荒船君は財布から小銭を出してポイと交換してしまった。じゃあ、せめてと自分のお金を渡そうとするけど、
「いいから、やらせろ」
と断られてしまった。なんか火をつけてしまったようだ。任務やランク戦の時のような、熱い眼差しになっている。すーっとポイは金魚を追いかける。金魚はすいすい逃げていく。ポイを掬い上げると、金魚と水の重みで破けてしまった。
「…………」
「はは、慌てちまったな。いいよ、兄ちゃん2回もやってくれたから、そいつおまけしとくよ。」
そう言って、おじさんは金魚を掬って袋に入れて持たせてくれた。会釈して、屋台を出る。横を見て荒船君の顔を伺うと、悔しいみたいで、決まりの悪い顔をしていた。思わず、可愛いと思ってしまった。
「そういや、加賀美と穂刈どこ行った?」
「!!」
いつの間にか、2人きりになっていたことに気づく。周りを見回すが、加賀美ちゃんも穂刈くんもいない。その時、ヴーと携帯のバイブがなった。確認すると、加賀美ちゃんからメール。
『花火の席取っておくから、それまで荒船君と2人で行動すること!』
え、えー! そんな、後生な! いや、嫌なわけじゃないんだけど、身が持たないよ!
「とりあえず、2人で見て回るか。」
荒船君がこちらを見て、目が合う。びっくりして、勢いよく首を縦に振った。
荒船君の横を黙って歩く。いや、私からは話しかけられないのだけど。色々な意味で。祭りの参道はとにかく人が多い。癖で声を出さない私を、お構いなしに押しのけていく。遂には、ぞろぞろと歩く男の子のグループに行く手を遮られてしまった。
「あ、」
荒船君の姿が見えなくなる。胸を隙間風が通るような、不安とも淋しさとも言える感情に囚われる。思わず、手を伸ばした。
「!!」
手の平を温かいものに包まれる。そのまま、ぐいっと引っ張り出された。
「大丈夫かよ」
荒船君の顔が近い。繋がれた手が熱い。ただただ何度も首を縦に振る。
「……お前なんか、今日緊張してる?」
「う、」
これにも、首を縦に振るしかない。恐る恐る肯定すると、
「普通にしてろよ、その……俺まで緊張するだろ」
と言われた。その顔はほんのり赤い気がする。祭りの喧騒が、遠くのように聞こえる。
「……行くぞ」
そう言うと、荒船君は私の手を引いて歩きだした。荒船君と手を繋いでいる。嘘みたいだ。緊張するな、なんて無理だよ。
「お、射的」
射的の屋台を見つけると、荒船君は足を止めた。どうやら、挑戦するようだ。
「早乙女、どれ取って欲しい」
射的の景品を見る。正直、荒船君が取ってくれるなら、どれでもいい。けど、ちょっと欲張ってもいいかな。
『大っきい抱っこちゃんがいい!』
「よしきた」
荒船君は銃を構える。ああ、かっこいい。横顔、指先、瞳。見ていてドキドキしてしまう。
パンッ
発射された弾は見事に景品に命中し、景品は倒れた。
『すごい! 流石だね!』
「これくらい当然だろ」
荒船君は淡々と景品を倒していく。屋台のおじさんの顔が青くなっていった。
『いっぱい取ったねー』
「調子乗って取り過ぎた、悪い」
『おじさん真っ青になってたね』
両手一杯に景品をぶらさげ、神社の賽銭箱を目指して歩く。今年受験生だし、一応お参りしないと。小銭を投げ入れ、ガランガラン、と鈴を鳴らして、手を合わせた。神様、どうかこの恋を叶えてください。違った。今年ちゃんと大学受かりますように!
「穂刈からメール着た。花火場所取ったから来いだってよ」
もう2人きりは終わりか。あんなに緊張したのに、終わりとなると、名残惜しい。荒船君の横を歩きながら、言ってしまおうか、と口を開いては、空気だけ吐き出す。ドキドキと心臓がうるさい。
「おーい、こっちこっち~!」
皆の姿が見えて、そっと、荒船君との距離が離れた。それと同時に、花火が打ち上がった。荒船君の横に座ることは出来なくて、加賀美ちゃんの横を陣取り、夜空を見上げる。
『加賀美ちゃん、ありがとう』
「いえいえ、楽しかった?」
もちろん、答えはYESだ。毎年見てる花火より、今日の花火は一段と綺麗に見えた。