この世に果てはないらしいよ?
「ん?」
ボーダー本部ではよく迷う。1人で歩くなと言いつけれる始末。まぁ守る道理はあるものの、守らずに破らないと不自由で仕方ない。しかし、本当に見たことない道に来た。壁が真新しいのかやけに白い。突き当たりに部屋がひとつ。まぁどうせ誰かしら開発部のジャンキーに会えるだろう。そう思って扉に手をかけた。パスワードは同じらしい。
「どもっーす……」
私が声を出した瞬間、パッと明かりがついてまばたきした。誰もいない。誰もいないのに不自然なほどにコーラの空きボトルとか、解析途中のトリガー、散乱した工具。私はこれらが意図的に配置されてるのが分かった。何故と問われても知らないが、直感的にそう思うのである。不気味さに2歩後ずさった。それでも前を見続けていた。背中を蹴られたような衝撃が走り、中央のデスクに打ちつけられ。デスクの上はめちゃくちゃになった。どれも壊れなかったし、こぼれなかった。こわれなくてよかったね。母親ならそう言うだろうとよぎり、寒気がした。私を蹴飛ばした相手は、私の背中でなにやら足踏みをして、なんなら鼻唄を歌っている。怒りが湧くことはなく、ただただ私は身体を起こす。なにかはコアラのように私の背に抱きついて、全貌が掴めない。
「だれ?」
「それが相手を訊ねる最小単位かい?」
「そうじゃない?英語ならwho?」
「のんのん。僕、日本語が好きなんだ」
首に触れてきた手は、ゴツゴツと石のような感触で少しヒヤリとして、角が鋭利なために緊張感がある。もちろん、人の手ではない。私はそっと相手の手に触れて、離すように促した。あっさりと解放され、背中の生き物は足元まで降りてきた。……犬?……猿?原始的なサルの仲間が1番近い形態と思う。
「君、選ばれたんだよ。覚えてる?」
「選んだ覚えはないけど……」
「そりゃそうだ。僕も選んだつもりはない。でも、今生は大成功な予感がするよ?」
「そうなんだ。よかった、のかな?」
「分からない。分からないけど、今はただ僕に訪れた幸福を祝福してくれないかな」
辺りを見回す。機材や工具ばかりで、相手が欲しそうなものは見当たらないし。祝福というのは、もっとシンプルな愛情表現だ。
「おめでとう、名前も知らないなにかさん」
「うん、うん!君の胸の中、落ち着くなぁ」
抱き上げてやると、なにかはぬくもりを確かめるようにぎゅうぎゅう抱きついたあと、そっと私の胸から降りた。
「やっぱり君、選ばれたんだ」
「そなの?」
「はじめましてで、僕を祝福してくれるニンゲン。壱号機」
「ほーん豪勢」
「おなまえをおしえて?親から貰ったものでもいいし、そうありたいなまえでもいいし」
私は少し迷ったが、両親から貰った名前を愛しているのを思い出し、口に出した。
「りこ。莉子だよ」
「いい名前だねぇ」
名乗らないまま、にっこり弧を描いた唇。おどろおどろしくてキュートだった。私は少しかかんで、大きな耳を撫でてやった。目を丸くして、きょとんとしている。
「あなたのなまえは?」
「ネオジムドープ、ヤグ」
呟いて、彼は瞳にたくさんの涙を溜めて、こぼした。小さく、父さん、と祈るような声を出した。私は今は聞かなかったことにして、ヤグを抱き抱える。
「どうする?お前はなにがしたいの」
「んと……実はなにもしちゃいけないの」
ヤグは涙を拭き取ると、もう一度だけ私の胸に身体埋めて、離れた。
「今日はここまでにしておこう。次に出逢うことがあるなら、奇跡として僕は覚悟を決める」
「今から決めておいた方がいいねぇ」
そう私が返答したら、にっ!と嬉しそうに笑った。そこからしばらく意識がなく、気がつけばボーダーの適当な廊下だった。
「おい莉子さん、また床で寝てんのか」
「哲次くん」
「あ、ちょうどいいから莉子さんもトリガーの話しようよ」
「王子」
後輩に回収されて、日常に戻っていく。ネオ、ジムドープ、ヤグ。名前を覚えられない私が、珍しく呪文のように唱えて、覚えていた。
ボーダー本部ではよく迷う。1人で歩くなと言いつけれる始末。まぁ守る道理はあるものの、守らずに破らないと不自由で仕方ない。しかし、本当に見たことない道に来た。壁が真新しいのかやけに白い。突き当たりに部屋がひとつ。まぁどうせ誰かしら開発部のジャンキーに会えるだろう。そう思って扉に手をかけた。パスワードは同じらしい。
「どもっーす……」
私が声を出した瞬間、パッと明かりがついてまばたきした。誰もいない。誰もいないのに不自然なほどにコーラの空きボトルとか、解析途中のトリガー、散乱した工具。私はこれらが意図的に配置されてるのが分かった。何故と問われても知らないが、直感的にそう思うのである。不気味さに2歩後ずさった。それでも前を見続けていた。背中を蹴られたような衝撃が走り、中央のデスクに打ちつけられ。デスクの上はめちゃくちゃになった。どれも壊れなかったし、こぼれなかった。こわれなくてよかったね。母親ならそう言うだろうとよぎり、寒気がした。私を蹴飛ばした相手は、私の背中でなにやら足踏みをして、なんなら鼻唄を歌っている。怒りが湧くことはなく、ただただ私は身体を起こす。なにかはコアラのように私の背に抱きついて、全貌が掴めない。
「だれ?」
「それが相手を訊ねる最小単位かい?」
「そうじゃない?英語ならwho?」
「のんのん。僕、日本語が好きなんだ」
首に触れてきた手は、ゴツゴツと石のような感触で少しヒヤリとして、角が鋭利なために緊張感がある。もちろん、人の手ではない。私はそっと相手の手に触れて、離すように促した。あっさりと解放され、背中の生き物は足元まで降りてきた。……犬?……猿?原始的なサルの仲間が1番近い形態と思う。
「君、選ばれたんだよ。覚えてる?」
「選んだ覚えはないけど……」
「そりゃそうだ。僕も選んだつもりはない。でも、今生は大成功な予感がするよ?」
「そうなんだ。よかった、のかな?」
「分からない。分からないけど、今はただ僕に訪れた幸福を祝福してくれないかな」
辺りを見回す。機材や工具ばかりで、相手が欲しそうなものは見当たらないし。祝福というのは、もっとシンプルな愛情表現だ。
「おめでとう、名前も知らないなにかさん」
「うん、うん!君の胸の中、落ち着くなぁ」
抱き上げてやると、なにかはぬくもりを確かめるようにぎゅうぎゅう抱きついたあと、そっと私の胸から降りた。
「やっぱり君、選ばれたんだ」
「そなの?」
「はじめましてで、僕を祝福してくれるニンゲン。壱号機」
「ほーん豪勢」
「おなまえをおしえて?親から貰ったものでもいいし、そうありたいなまえでもいいし」
私は少し迷ったが、両親から貰った名前を愛しているのを思い出し、口に出した。
「りこ。莉子だよ」
「いい名前だねぇ」
名乗らないまま、にっこり弧を描いた唇。おどろおどろしくてキュートだった。私は少しかかんで、大きな耳を撫でてやった。目を丸くして、きょとんとしている。
「あなたのなまえは?」
「ネオジムドープ、ヤグ」
呟いて、彼は瞳にたくさんの涙を溜めて、こぼした。小さく、父さん、と祈るような声を出した。私は今は聞かなかったことにして、ヤグを抱き抱える。
「どうする?お前はなにがしたいの」
「んと……実はなにもしちゃいけないの」
ヤグは涙を拭き取ると、もう一度だけ私の胸に身体埋めて、離れた。
「今日はここまでにしておこう。次に出逢うことがあるなら、奇跡として僕は覚悟を決める」
「今から決めておいた方がいいねぇ」
そう私が返答したら、にっ!と嬉しそうに笑った。そこからしばらく意識がなく、気がつけばボーダーの適当な廊下だった。
「おい莉子さん、また床で寝てんのか」
「哲次くん」
「あ、ちょうどいいから莉子さんもトリガーの話しようよ」
「王子」
後輩に回収されて、日常に戻っていく。ネオ、ジムドープ、ヤグ。名前を覚えられない私が、珍しく呪文のように唱えて、覚えていた。
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