叩き台

怒涛の連勤を片付け、泥のように眠っていた観音坂独歩の携帯が無情にも鳴り響く。時刻は午前三時過ぎ。皮肉にも反射で出てしまった独歩の耳に、幼馴染の泣き声が届く。

『独歩ちんお助けー!』
「あぁ……? 無理ギブ眠い」
『そこをなんとかー! 店で潰れちゃった子がいて』
「放り出しとけ」
『出来ないよぉー』

わぁわぁと騒ぐ一二三に根負けし、深いため息を吐いて独歩はベッドから這い出た。適当にひっ掴んだ服に着替え、はて店までのタクシー代は一二三持ちだろうかとぼんやりと考えた。
一二三の店に着くと、もうホストは彼しか残っていないようだった。店の奥、店員の休憩室らしき場所で、一人の女が仰向けに眠っている。

「その子最近の常連さんなんだけど、変な男と連れ立ってくるのね、それで怪しいから男の方は締めで追い出したんだけど、潰れちゃって……休んでもらってたんだけど、起きなくて……」

一二三は少し離れた場所から説明した。独歩は女に近づくと、おもむろにカバンに手をかける。

「にゃっ!? ……独歩なにしてんの!?」
「非常事態だから、個人情報漁ってる」
「お、女の子のカバンだよぉ……?」
「知るか」

カバンからはスマホ、財布、名刺入れ、筆記具……それから何故か救急箱、よく分からない笛が出てきた。まだなにか入っているようだが、興味はないので元に戻す。独歩は名刺入れを開けると、本人の名刺がないか探した。

「……この人、名前は?」
「え、佳寿生ちゃん……」
「じゃあここの住所に送ればいいんじゃね」

名刺には彼女の名前、「綺羅星佳寿生」と職場と思われる住所が記載されていた。

「し、仕事場に送るの……?」
「住所の感じからして、多分職場兼自宅だろ。そこに届けて、さっさと帰る」
「いや、佳寿生ちゃん起きるまではいないと!?」

一人で出来ないくせに、と独歩は一二三を睨む。それに罰が悪そうに下を向くが、一二三の意見は変わらなかった。

「お、俺っちの店で飲ませたんだから、最後まで見ないと」
「……なんだ? 惚れたのか、こんな客に」
「違うけど! ちょっと、ちょっとだけ、話しやすいなとは思った」
「まぁいいや。とっとと運んで起きてもらうぞ」
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