プロトタイプ/試金石
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明け方、遠くでアラートが聞こえる。ガチもんのやつ。#琴羽#さんは聞き届けると、慌てることなくスーツに着替えた。
「めんどくない?」
「スーツは慣れると楽だよ。保栄がいつも締まらない服着てるからね、私くらいはちゃんとしたの着ないと」
ほたか、って名前が出ると、自分のテンションが下がるのは知っていた。この人がいなくなる時はなんもかんもサガる。でもそれは、会った時にはバチバチにアガるってことで。アガるのもサガるのも、人に振り回されるのはゴメンだ。自分のつま先の方向は自分で決めてる。踏みこむ時のスパイクだって、お気に入りを履く。そういう自分の中のお約束を、ちょっとずつアップグレードして、静かに語りかけてくる人。#琴羽#さんはパンツスーツに着替え終えて、シリアルに牛乳を注いで食べていた。
「お昼には一度帰ってくるけど、出かけるなら鍵ここね」
「うん」
「夏休みだからって、あんまだらけるなよ?」
「…………あんたとゆるーく過ごすの、だらけてるわけじゃないよ」
「いやだらけてるだろ……三門市なんて観光に来るとこじゃない」
確かにな。アラートと地響き、空は暗くて、空気は砂埃が混じってごわごわしている。でも、だって。朝霞琴羽が生活してる場所に、俺居座ってみたい。そのうちによく分からなくなって、去ることを惜しまれてみたい。どんな表情するのかな。ねぇ、全部見せてよ。
「ともかく、仕事です。ボーダーに来てもダメだかんね。どうしても誰かと話したいなら、アポ取ってあげるけど?」
「……いや、いい。テキトーに成り行きでじょいん」
「この街じゃ危ねぇぞって何回言っても聞かねぇんだからまったく」
#琴羽#さんはため息を吐いた。それだけのことがなんだか嬉しい。#琴羽#さんが、俺の心配をしてくれている。生まれてこの方、家族から心配されたこと碌になくて。だからかな、琴羽さんには甘えたくなる。
「今日はmurmurの更新、ある?」
「え、えー……そんな暇ないよ」
琴羽さんはスマホを取り出して、音楽配信サイトをバーっとスクロールして、俺にAirDrop起動させて。1曲だけ共有してくれた。
「深い意味、ないから。じゃあ、いってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
寝巻きのまんま、琴羽さんを見送った。三門市に友達はいない。そもそも、名古屋から1時間半はかかるんだ。わざわざ来るやつなんざ。琴羽さんと共通の知り合いは、ネットでのやり取りが濃いから、わざわざ会おうとはならないみたいで。AirDropの中身は「酔いどれ知らず」だった。とりあえず内緒のプレイリストに入れて、あとでリピート再生。お返事は音楽に包んでラブレターにするか、ストレートな口説き文句で困らせるか。どっちでもいいな、どっちも好きだもんな。なんで好きなのか、あまり考えなくなってきている。なんだか、悲しくなるからさ。サガること、自分から飛び込むなんて馬鹿馬鹿しいだろ。アガることだけしていたいよ、そこにあんたがいたら最高潮。だから、ね。あんま俺のこと、遠ざけたりしないでよ。
「めんどくない?」
「スーツは慣れると楽だよ。保栄がいつも締まらない服着てるからね、私くらいはちゃんとしたの着ないと」
ほたか、って名前が出ると、自分のテンションが下がるのは知っていた。この人がいなくなる時はなんもかんもサガる。でもそれは、会った時にはバチバチにアガるってことで。アガるのもサガるのも、人に振り回されるのはゴメンだ。自分のつま先の方向は自分で決めてる。踏みこむ時のスパイクだって、お気に入りを履く。そういう自分の中のお約束を、ちょっとずつアップグレードして、静かに語りかけてくる人。#琴羽#さんはパンツスーツに着替え終えて、シリアルに牛乳を注いで食べていた。
「お昼には一度帰ってくるけど、出かけるなら鍵ここね」
「うん」
「夏休みだからって、あんまだらけるなよ?」
「…………あんたとゆるーく過ごすの、だらけてるわけじゃないよ」
「いやだらけてるだろ……三門市なんて観光に来るとこじゃない」
確かにな。アラートと地響き、空は暗くて、空気は砂埃が混じってごわごわしている。でも、だって。朝霞琴羽が生活してる場所に、俺居座ってみたい。そのうちによく分からなくなって、去ることを惜しまれてみたい。どんな表情するのかな。ねぇ、全部見せてよ。
「ともかく、仕事です。ボーダーに来てもダメだかんね。どうしても誰かと話したいなら、アポ取ってあげるけど?」
「……いや、いい。テキトーに成り行きでじょいん」
「この街じゃ危ねぇぞって何回言っても聞かねぇんだからまったく」
#琴羽#さんはため息を吐いた。それだけのことがなんだか嬉しい。#琴羽#さんが、俺の心配をしてくれている。生まれてこの方、家族から心配されたこと碌になくて。だからかな、琴羽さんには甘えたくなる。
「今日はmurmurの更新、ある?」
「え、えー……そんな暇ないよ」
琴羽さんはスマホを取り出して、音楽配信サイトをバーっとスクロールして、俺にAirDrop起動させて。1曲だけ共有してくれた。
「深い意味、ないから。じゃあ、いってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
寝巻きのまんま、琴羽さんを見送った。三門市に友達はいない。そもそも、名古屋から1時間半はかかるんだ。わざわざ来るやつなんざ。琴羽さんと共通の知り合いは、ネットでのやり取りが濃いから、わざわざ会おうとはならないみたいで。AirDropの中身は「酔いどれ知らず」だった。とりあえず内緒のプレイリストに入れて、あとでリピート再生。お返事は音楽に包んでラブレターにするか、ストレートな口説き文句で困らせるか。どっちでもいいな、どっちも好きだもんな。なんで好きなのか、あまり考えなくなってきている。なんだか、悲しくなるからさ。サガること、自分から飛び込むなんて馬鹿馬鹿しいだろ。アガることだけしていたいよ、そこにあんたがいたら最高潮。だから、ね。あんま俺のこと、遠ざけたりしないでよ。
