富豪の息子と男娼さん
僕、[#ruby=財前恭蔵_ざいぜんきょうぞう#]は、お金持ちだ。
すまない、語弊がある。正しくは僕の父親が大企業の社長で、僕は跡取り息子なので、将来的にお金持ちになる予定だ。今はまだ大学四年生なので、お小遣い程度しか持っていない。
親がお金持ちである以外に、これといって取り柄はない。……僕は自分に自信がないのだ。背も高くないし、頭脳も平々凡々、運動神経は馬鹿にされるレベル。イジメやカツアゲには頻繁に会うし、金銭をせがまれるのも慣れっこだ。
そんな僕が、初めて好きになった人は、同い年の同性だった。名前を天王晋太郎 という。彼と出会ったのは、人気のない路地裏で、その時僕は不良からカツアゲをされていた。通りかかった晋太郎は、多人数の不良を一蹴して僕を助けてくれた。晋太郎が振り向いて僕を見た時、薄い色素の髪から覗く[#ruby=薄氷色_アイスブルー#]の瞳が美しくて、僕は恋に落ちた。
それから、僕はなりふり構わず彼にアピールした。通っている学校を調べ、御礼と称し贈り物を続け、なんとかメアドと電話番号を教えてもらい、一世一代の告白をした。
ーー結果、僕はこっぴどくフラれた。ハッキリと。けれども、僕は諦めきれず、彼との交流をなんとか続けてもらっている。晋太郎はいわゆるツンデレ……の、デレが極端にない感じだけれど、僕にとっては求めてやまない人物なのだ。
晋太郎に会うのは月に二回あればいい方で、元々生活圏が違うから道端でバッタリ、なんてことも少ない。だから珍しく繁華街に足を踏み入れた僕の、視界の端に彼が映った時は、初めて会ったあの日のようなドキドキに襲われたんだ。雑踏を颯爽と歩いていく後ろ姿に、手を伸ばしながらついていく。声をかけたいけど、緊張で口の中がカラカラだ。ふいに彼は路地裏に入って、見失いかける。慌てて僕は人をかき分けて、路地の入り口まで押し出された。そこで、目に入った光景は。
晋太郎が、大柄で、明らかに歳上の男と、ホテルに入っていく様子だった。は? はぁ? 何かの見間違いだと僕は目を擦る。目の前にはいかがわしいホテルの看板。二人の姿はない。ああ、やっぱり見間違いか。
いやいやいや、この僕が晋太郎を見間違えるはずはない! 何よりも大好きな彼は、確かにさっきまでここにいたんだ。それは、本当なんだ。じゃあ、さっきの男は、誰? 胸を締めつける激痛に耐えながら、僕は踵をかえし家に帰った。それから、何度目になるか分からない、「食事のお誘い」を、晋太郎に送った。追伸で、「どうしても確かめたいことがある」と、伝えて。
一週間後、晋太郎は僕に会ってくれた。イタリアンレストランのテラスランチコース。晋太郎は食べるペースが速く、あっという間にパスタを平らげてしまった。メインを待ちながら、テラスにやってくる小鳥なんかを眺めていた。パスタを口に運びながら、僕はやっぱり晋太郎は綺麗だと見惚れてしまう。所作は多少ガサツだけれど、男にしては華奢で、指が長くてカッコいい。色白で、モノトーンの洋服を好んで着る。彼は嫌うけど、#薄氷__アイスブルー__#の瞳は、宝石のようで美しい。……僕を映してくれることは、とても少ないけど。そこまで考えて、僕はこの間のシーンを思い出す。キュッ、と胃が縮んで重たくなる。
「で、用はなんだよ」
「えっ」
「なんか確かめたいとか言ってたろ」
興味はなさげに、でも問い詰めるように訊ねられる。僕はフォークを置き、水を飲み干した。
「あの、さ。この前あそこの繁華街に行ったんだけど、その……見失ったんだけどね?」
「あ? ハッキリ言えよ」
「ごめ……!! その、晋太郎のこと見かけたんだけど、」
聞きたくない、知りたくない。けれど、意を決して僕は口に出す。
「一緒にいた、男の人って、誰?」
晋太郎は少し目を見開き、キョトンとした顔になった。それから、しばらく考えたあと、
「あぁ、多分パトロンだわ」
と、あっけらかんと言った。
「ぱ、パトロン?」
「あァ」
「それは……その、肉体的な関係を持つ的な」
「それ以外なにがあるんだよ」
「そ、それはつまり、売春では」
「だからそうだよ」
なんでもないように、彼は言う。傷ついてないように、彼は言う。それが僕は胸が張り裂けるくらい、悲しくて。
「なんで、そんなこと」
「なにがいいのか知らねぇけど、高く買ってくれるんだよ」
「だから、なんで」
お金なら、僕がいくらでも用意するのに。
「お前も買うか? 安くしてやるよ」
ニヤリ、と不敵に彼は笑う。いつも強くて激しい君が好きだ。けれど、そんなことは言って欲しくない。自分を傷つけるようなこと、して欲しくない。
「買うよ、晋太郎のこと。いくらでも買う。君の一生でも、全てでも、買う。僕が買うから、もうそんなことするなよ」
泣きそうになりながら、僕は言う。君に値段なんてつけられないけれど、言い値で僕が買ってやる。
「…………ハッ、死んでも御免だ」
そう吐き捨てて、晋太郎は運ばれてきたステーキを食べた。喉を通らない僕を置いて、食後のコーヒーを飲むとさっさと行ってしまった。僕の涙と伝票だけ、残された。
すまない、語弊がある。正しくは僕の父親が大企業の社長で、僕は跡取り息子なので、将来的にお金持ちになる予定だ。今はまだ大学四年生なので、お小遣い程度しか持っていない。
親がお金持ちである以外に、これといって取り柄はない。……僕は自分に自信がないのだ。背も高くないし、頭脳も平々凡々、運動神経は馬鹿にされるレベル。イジメやカツアゲには頻繁に会うし、金銭をせがまれるのも慣れっこだ。
そんな僕が、初めて好きになった人は、同い年の同性だった。名前を
それから、僕はなりふり構わず彼にアピールした。通っている学校を調べ、御礼と称し贈り物を続け、なんとかメアドと電話番号を教えてもらい、一世一代の告白をした。
ーー結果、僕はこっぴどくフラれた。ハッキリと。けれども、僕は諦めきれず、彼との交流をなんとか続けてもらっている。晋太郎はいわゆるツンデレ……の、デレが極端にない感じだけれど、僕にとっては求めてやまない人物なのだ。
晋太郎に会うのは月に二回あればいい方で、元々生活圏が違うから道端でバッタリ、なんてことも少ない。だから珍しく繁華街に足を踏み入れた僕の、視界の端に彼が映った時は、初めて会ったあの日のようなドキドキに襲われたんだ。雑踏を颯爽と歩いていく後ろ姿に、手を伸ばしながらついていく。声をかけたいけど、緊張で口の中がカラカラだ。ふいに彼は路地裏に入って、見失いかける。慌てて僕は人をかき分けて、路地の入り口まで押し出された。そこで、目に入った光景は。
晋太郎が、大柄で、明らかに歳上の男と、ホテルに入っていく様子だった。は? はぁ? 何かの見間違いだと僕は目を擦る。目の前にはいかがわしいホテルの看板。二人の姿はない。ああ、やっぱり見間違いか。
いやいやいや、この僕が晋太郎を見間違えるはずはない! 何よりも大好きな彼は、確かにさっきまでここにいたんだ。それは、本当なんだ。じゃあ、さっきの男は、誰? 胸を締めつける激痛に耐えながら、僕は踵をかえし家に帰った。それから、何度目になるか分からない、「食事のお誘い」を、晋太郎に送った。追伸で、「どうしても確かめたいことがある」と、伝えて。
一週間後、晋太郎は僕に会ってくれた。イタリアンレストランのテラスランチコース。晋太郎は食べるペースが速く、あっという間にパスタを平らげてしまった。メインを待ちながら、テラスにやってくる小鳥なんかを眺めていた。パスタを口に運びながら、僕はやっぱり晋太郎は綺麗だと見惚れてしまう。所作は多少ガサツだけれど、男にしては華奢で、指が長くてカッコいい。色白で、モノトーンの洋服を好んで着る。彼は嫌うけど、#薄氷__アイスブルー__#の瞳は、宝石のようで美しい。……僕を映してくれることは、とても少ないけど。そこまで考えて、僕はこの間のシーンを思い出す。キュッ、と胃が縮んで重たくなる。
「で、用はなんだよ」
「えっ」
「なんか確かめたいとか言ってたろ」
興味はなさげに、でも問い詰めるように訊ねられる。僕はフォークを置き、水を飲み干した。
「あの、さ。この前あそこの繁華街に行ったんだけど、その……見失ったんだけどね?」
「あ? ハッキリ言えよ」
「ごめ……!! その、晋太郎のこと見かけたんだけど、」
聞きたくない、知りたくない。けれど、意を決して僕は口に出す。
「一緒にいた、男の人って、誰?」
晋太郎は少し目を見開き、キョトンとした顔になった。それから、しばらく考えたあと、
「あぁ、多分パトロンだわ」
と、あっけらかんと言った。
「ぱ、パトロン?」
「あァ」
「それは……その、肉体的な関係を持つ的な」
「それ以外なにがあるんだよ」
「そ、それはつまり、売春では」
「だからそうだよ」
なんでもないように、彼は言う。傷ついてないように、彼は言う。それが僕は胸が張り裂けるくらい、悲しくて。
「なんで、そんなこと」
「なにがいいのか知らねぇけど、高く買ってくれるんだよ」
「だから、なんで」
お金なら、僕がいくらでも用意するのに。
「お前も買うか? 安くしてやるよ」
ニヤリ、と不敵に彼は笑う。いつも強くて激しい君が好きだ。けれど、そんなことは言って欲しくない。自分を傷つけるようなこと、して欲しくない。
「買うよ、晋太郎のこと。いくらでも買う。君の一生でも、全てでも、買う。僕が買うから、もうそんなことするなよ」
泣きそうになりながら、僕は言う。君に値段なんてつけられないけれど、言い値で僕が買ってやる。
「…………ハッ、死んでも御免だ」
そう吐き捨てて、晋太郎は運ばれてきたステーキを食べた。喉を通らない僕を置いて、食後のコーヒーを飲むとさっさと行ってしまった。僕の涙と伝票だけ、残された。
