名前なき綺羅星
ここは港町。灯台の明かりが静かに消える頃、トワイライトは大あくびをして目を覚ました。耳の後ろを後ろ足で掻き、腹が減ったなと思う。寝床にしているのは漁港市場の、使わなくなった発泡スチロールが捨てられる場所。発泡スチロールは生臭いが、トワイライトは気にしない。野良猫だもの。発泡スチロールに爪を立てて、キュッキュと音が鳴るのをいつも楽しんでいる。夜中に漁に出た船が帰ってくる。トワイライトは駆け寄るが、屈強な男たちは目もくれずに魚を市場に運んでいく。1人だけ、若い青年が内緒でトワイライトに魚をくれるのだが、今日は休みか。トワイライトは朝焼けの町へ繰り出した。坂の多い町を、屋根から屋根へ、人の庭を横切り、ちょっかいを出した犬に吠えられて、トワイライトは町で一番高いところにある教会まで来た。朝を知らせる鐘の音、シスターが祈りを捧げるのに合わせて、トワイライトは頭を下げる。この猫は大変いたずらっ子で、町ではたびたび厄介ごとを起こすのだが、妙に信心深いのである。シスターが教会から姿を現し、トワイライトを目にする。シスターは一度また教会へ戻り、牛乳を注いだ銀の皿を運んでくる。
「みゃあ」
「今日も元気そうね。貴方にも神のご加護があらんことを。あまりいたずらをしてはいけませんよ」
「ふぅーー」
トワイライトは分かってるんだか聞き流してるんだか、夢中で牛乳を舐めとっている。シスターはため息混じりに笑うと、トワイライトの肩あたりから尻尾までを撫でて、教会へ戻っていった。トワイライトはまたあくびをする。鋭い犬歯が剥き出しになる。それからまた耳の後ろを掻いて、民家の塀に登り、とことこと歩いて行く。町の北側、日当たりがあまりない場所に建てられた二階建ての家。トワイライトは器用に二階の窓の淵に爪をかけ、どん!っと窓を叩いた。それから、縁側へ回る。庭には花が植えられているが、どれも陽の光が足りなくてどこかしょんぼりしている。縁側にしょんぼり顔のちょっと太った猫が顔を見せた。
「兄さん、こんな朝早くになんだよ。僕まだ朝ごはんも貰ってないよ」
「そんなの行きがけになんか見つけりゃいい。探検に行こう!」
「兄さんがこの町で行ったことない場所なんてないだろ?」
「バカだなぁジーク。毎朝毎夜、季節の巡り、同じ場所でも匂いが違うんだぜ?行ったことがない場所は、毎日毎日生まれては消えてるんだ」
「んー。じゃあ尚更、慌てて外に出なくてもいいじゃないか。毎日消えていくものを毎日追いかけてたら、キリがないよ。この縁側で横になって、ゴロゴロしてたって明日には新しくなるんでしょ?それで充分じゃない?」
ジーク、と呼ばれたこの太っちょの猫は、ナハトムジークという。トワイライトとナハトムジークは兄弟だ。トワイライトは野良猫を選んで、ナハトムジークは家猫を選んだ。ナハトムジークの飼い主はトワイライトを家に招こうとは思うが、そこまで裕福ではない。トワイライトもそれを望まない。だから、ナハトムジークを外に連れ出すのだけは、見て見ぬフリで許しているのだ。
「とにかく、朝ごはんを貰ってからにしてよ。その間、ここの庭を見てたらいい」
「しょうがねぇなー。ここは湿ってて、なんだか冷たい庭だ」
トワイライトはナハトムジークが朝飯にありつけるまで、庭をうろうろすることにした。ナハトムジークの飼い主はのそのそと起きてきて、いつもより多めに皿に餌を盛る。トワイライトはなにも知らずに、その多めに盛られた餌を横取りにするのだ。ナハトムジークは、兄は感性は豊かなのに鈍感だと思う。野良猫だからだろうか?自分も野良猫を選んでいたら?いつも考えては見るのだが、あくびのたびに忘れる。ナハトムジークは耳の後ろを前足で掻いた。
「みゃあ」
「今日も元気そうね。貴方にも神のご加護があらんことを。あまりいたずらをしてはいけませんよ」
「ふぅーー」
トワイライトは分かってるんだか聞き流してるんだか、夢中で牛乳を舐めとっている。シスターはため息混じりに笑うと、トワイライトの肩あたりから尻尾までを撫でて、教会へ戻っていった。トワイライトはまたあくびをする。鋭い犬歯が剥き出しになる。それからまた耳の後ろを掻いて、民家の塀に登り、とことこと歩いて行く。町の北側、日当たりがあまりない場所に建てられた二階建ての家。トワイライトは器用に二階の窓の淵に爪をかけ、どん!っと窓を叩いた。それから、縁側へ回る。庭には花が植えられているが、どれも陽の光が足りなくてどこかしょんぼりしている。縁側にしょんぼり顔のちょっと太った猫が顔を見せた。
「兄さん、こんな朝早くになんだよ。僕まだ朝ごはんも貰ってないよ」
「そんなの行きがけになんか見つけりゃいい。探検に行こう!」
「兄さんがこの町で行ったことない場所なんてないだろ?」
「バカだなぁジーク。毎朝毎夜、季節の巡り、同じ場所でも匂いが違うんだぜ?行ったことがない場所は、毎日毎日生まれては消えてるんだ」
「んー。じゃあ尚更、慌てて外に出なくてもいいじゃないか。毎日消えていくものを毎日追いかけてたら、キリがないよ。この縁側で横になって、ゴロゴロしてたって明日には新しくなるんでしょ?それで充分じゃない?」
ジーク、と呼ばれたこの太っちょの猫は、ナハトムジークという。トワイライトとナハトムジークは兄弟だ。トワイライトは野良猫を選んで、ナハトムジークは家猫を選んだ。ナハトムジークの飼い主はトワイライトを家に招こうとは思うが、そこまで裕福ではない。トワイライトもそれを望まない。だから、ナハトムジークを外に連れ出すのだけは、見て見ぬフリで許しているのだ。
「とにかく、朝ごはんを貰ってからにしてよ。その間、ここの庭を見てたらいい」
「しょうがねぇなー。ここは湿ってて、なんだか冷たい庭だ」
トワイライトはナハトムジークが朝飯にありつけるまで、庭をうろうろすることにした。ナハトムジークの飼い主はのそのそと起きてきて、いつもより多めに皿に餌を盛る。トワイライトはなにも知らずに、その多めに盛られた餌を横取りにするのだ。ナハトムジークは、兄は感性は豊かなのに鈍感だと思う。野良猫だからだろうか?自分も野良猫を選んでいたら?いつも考えては見るのだが、あくびのたびに忘れる。ナハトムジークは耳の後ろを前足で掻いた。
