三角錐で見る夢
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トルキエ暦75年、酒月ラク9日の夜。1人の男が泉の都フォンテの酒場で飲んでいた。
「あーーーーもっとお酒ちょうだい!!」
金の詰まった袋を叩きつけて、ガブガブと酒を煽る。牡牛団エル・トーロ団長のエルバッハは、珍しく誰にも近寄ろうとせずに1人で飲んでいた。
「珍しい飲み方すんじゃねーか団長? なんかあったかー?」
「べっつにー? いつも通りだよ」
そう言いつつも、明らかに機嫌が悪そうなので他の団員達もなにも突っ込まないことにした。
(あれかな、女にでもフラれたかな?)
(タウロじゃ女は、団長の好きな金で買えるのにか?)
(いや、案外…………)
ヒソヒソ話に舌打ちをして、エルバッハはジョッキを飲み干す。そうして、手持ちの金がもうないことに気付き店を出た。悪い酔い方をしていて、千鳥足になる。
「あーもー! なんなんだよチクショー」
道端に座り込むと、船を漕ぎだす。そうして、遠い昔の思い出へと想いを馳せた。
#リジュ#.ちゃんに初めて会ったのは、彼女が8歳の時。彼女の兄ーーリザンと意気投合して、彼の実家に遊びにいったのが初対面だった。町外れの丘の上に建つ、のどかな一軒家の前で薪割りの音が響く。薪割りをしているのはとても小さな女の子で……クリっとした深緑の瞳がこちらを見上げた瞬間、なんて可愛い子なんだろうと思った。
「君がリジュちゃんかぁ。可愛いね!」
素直に口にして褒めると、頬を染めてもじもじと手遊びをする。目線を合わせるためにしゃがんだ。なかなか合わない視線に、なんだかじれったくなった。
「お、おにいちゃん、だあれ?」
「オレはねぇ、君のお兄ちゃんのお友達だよ」
「あにうえの?」
「そ。エルバッハって呼んでね!」
丁寧に俺の名前を口に出して、覚えようとする君。ようやく合わせてくれた目は、本当に綺麗だ。思わず、頬に手を伸ばすーー。
「人攫いかよ、お前は」
「あ、痛っ」
頭上から友の声がする。リザンはリジュちゃんを背中の後ろに隠すと、彼女を叱った。
「怪しい奴についてっちゃダメだって、兄さんと約束しただろ?」
「いや、オレ怪しい奴じゃないんだけど?」
「どうだか……うちの妹は将来有望だからな」
ニヤッと笑うリザンの意図するところを察して、今度はオレが赤くなる番だった。そうだ、この娘はまだ8歳で、オレはリザンより2つ歳上の17歳。口説くにしたってちょっと気が早いってもんだ。でも、それにしたって。
「お前の妹にしては、美人すぎない?」
「そう思うだろ? だからお兄さんは心配なんだよ」
リザンがリジュちゃんの頭を撫でる。それを羨ましいと思ってしまった辺り、オレは初めから彼女の虜だったかもしれない。
リジュちゃんはオレによく懐いた。彼女の兄の、数少ない友達というのが大きかったのだと思う。リザンの目を盗んで、膝の上に彼女を置く。
「エルバッハは、あにうえと同じようへい?」
「んー傭兵だけど、あいつほど気高くはないかなー」
山の楽団オルケスタ・デ・モンターニャとして生まれ持っての傭兵であるリザンに、オレは敵うはずもない。オレは故郷を追われて、落伍おちて傭兵になったんだから。
「オレは高く買ってくれる奴に尽くすだけだよ。せっかく身体張って働くんだ、高値つけてくれる奴がいいに決まってる」
「わぁ……カッコいい!」
「、カッコいい? そう?」
なぁに9歳も歳下の、しかも8歳のガキにドキドキしてんだか……。
「じゃあ、将来……オレのお嫁さんになる?」
自分のくしゃみで、目が覚める。酔って忘れようとしたのに、うたた寝でこんなこと思い出すなんて。オレってば、そんなにあの子のこと好きだったのかな。
今日、1年半ぶりに会ったリジュちゃんは、手紙で書いていた通り王子様に買われていた。オレに向ける笑顔こそ変わらなかったけれど、王子様に向けるそれは、そりゃもう輝いていた。知っていたけど、実際に目の前にした光景はオレには辛くて。駆け寄ってきたリジュちゃんが、今だって可愛くて仕方なかったけど。
「君の雇い主の機嫌を損ねちゃダメだろ?」
そう言って追い返した。よく分かっていない顔が懐かしくて、胸がキュッと締めつけられる。その痛みを、誤魔化したくて酒に頼ったのに、このザマだ。明け方の冷たい風が肌を撫でて寒い。
(いや、いいんだ。いいんだよ。あれで彼女が幸せなら……あんな幼い頃の約束なんて。なのになんでこんなにモヤモヤするの)
「なんでこんなに泣きたくなるのかなぁ……?」
その問いに答えてくれる奴なんかいない。オレはまた一つ、階段を降りていった気分だった。
「あーーーーもっとお酒ちょうだい!!」
金の詰まった袋を叩きつけて、ガブガブと酒を煽る。牡牛団エル・トーロ団長のエルバッハは、珍しく誰にも近寄ろうとせずに1人で飲んでいた。
「珍しい飲み方すんじゃねーか団長? なんかあったかー?」
「べっつにー? いつも通りだよ」
そう言いつつも、明らかに機嫌が悪そうなので他の団員達もなにも突っ込まないことにした。
(あれかな、女にでもフラれたかな?)
(タウロじゃ女は、団長の好きな金で買えるのにか?)
(いや、案外…………)
ヒソヒソ話に舌打ちをして、エルバッハはジョッキを飲み干す。そうして、手持ちの金がもうないことに気付き店を出た。悪い酔い方をしていて、千鳥足になる。
「あーもー! なんなんだよチクショー」
道端に座り込むと、船を漕ぎだす。そうして、遠い昔の思い出へと想いを馳せた。
#リジュ#.ちゃんに初めて会ったのは、彼女が8歳の時。彼女の兄ーーリザンと意気投合して、彼の実家に遊びにいったのが初対面だった。町外れの丘の上に建つ、のどかな一軒家の前で薪割りの音が響く。薪割りをしているのはとても小さな女の子で……クリっとした深緑の瞳がこちらを見上げた瞬間、なんて可愛い子なんだろうと思った。
「君がリジュちゃんかぁ。可愛いね!」
素直に口にして褒めると、頬を染めてもじもじと手遊びをする。目線を合わせるためにしゃがんだ。なかなか合わない視線に、なんだかじれったくなった。
「お、おにいちゃん、だあれ?」
「オレはねぇ、君のお兄ちゃんのお友達だよ」
「あにうえの?」
「そ。エルバッハって呼んでね!」
丁寧に俺の名前を口に出して、覚えようとする君。ようやく合わせてくれた目は、本当に綺麗だ。思わず、頬に手を伸ばすーー。
「人攫いかよ、お前は」
「あ、痛っ」
頭上から友の声がする。リザンはリジュちゃんを背中の後ろに隠すと、彼女を叱った。
「怪しい奴についてっちゃダメだって、兄さんと約束しただろ?」
「いや、オレ怪しい奴じゃないんだけど?」
「どうだか……うちの妹は将来有望だからな」
ニヤッと笑うリザンの意図するところを察して、今度はオレが赤くなる番だった。そうだ、この娘はまだ8歳で、オレはリザンより2つ歳上の17歳。口説くにしたってちょっと気が早いってもんだ。でも、それにしたって。
「お前の妹にしては、美人すぎない?」
「そう思うだろ? だからお兄さんは心配なんだよ」
リザンがリジュちゃんの頭を撫でる。それを羨ましいと思ってしまった辺り、オレは初めから彼女の虜だったかもしれない。
リジュちゃんはオレによく懐いた。彼女の兄の、数少ない友達というのが大きかったのだと思う。リザンの目を盗んで、膝の上に彼女を置く。
「エルバッハは、あにうえと同じようへい?」
「んー傭兵だけど、あいつほど気高くはないかなー」
山の楽団オルケスタ・デ・モンターニャとして生まれ持っての傭兵であるリザンに、オレは敵うはずもない。オレは故郷を追われて、落伍おちて傭兵になったんだから。
「オレは高く買ってくれる奴に尽くすだけだよ。せっかく身体張って働くんだ、高値つけてくれる奴がいいに決まってる」
「わぁ……カッコいい!」
「、カッコいい? そう?」
なぁに9歳も歳下の、しかも8歳のガキにドキドキしてんだか……。
「じゃあ、将来……オレのお嫁さんになる?」
自分のくしゃみで、目が覚める。酔って忘れようとしたのに、うたた寝でこんなこと思い出すなんて。オレってば、そんなにあの子のこと好きだったのかな。
今日、1年半ぶりに会ったリジュちゃんは、手紙で書いていた通り王子様に買われていた。オレに向ける笑顔こそ変わらなかったけれど、王子様に向けるそれは、そりゃもう輝いていた。知っていたけど、実際に目の前にした光景はオレには辛くて。駆け寄ってきたリジュちゃんが、今だって可愛くて仕方なかったけど。
「君の雇い主の機嫌を損ねちゃダメだろ?」
そう言って追い返した。よく分かっていない顔が懐かしくて、胸がキュッと締めつけられる。その痛みを、誤魔化したくて酒に頼ったのに、このザマだ。明け方の冷たい風が肌を撫でて寒い。
(いや、いいんだ。いいんだよ。あれで彼女が幸せなら……あんな幼い頃の約束なんて。なのになんでこんなにモヤモヤするの)
「なんでこんなに泣きたくなるのかなぁ……?」
その問いに答えてくれる奴なんかいない。オレはまた一つ、階段を降りていった気分だった。
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