三角錐で見る夢
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トルキエ暦75年、塩月トゥス1日。前日の奇岩アカイプ会戦の終結により、第45将子クルク・ベシュ・ベイオウル武器商のスィラーフイスマイルは、ブチャク将国の新将王イエニ・スルタンとなった。マフムート軍人ベイの扇動の甲斐もあり、内乱終結後はスムーズに即位の儀、鎮魂祭へと進み、新しい将王スルタンは民衆に受け入れられたようだった。連日続いた祝辞も、そろそろ落ち着こうかという塩月トゥス7日。イスマイルは誰にも言えない悩みを抱えてしまった。
(眠れねぇ…………)
彼のために用意された王宮の、寝室で寝付くことが出来なかったのである。
イスマイル様はあの日以来しっかりと眠れていない。それは寝室警備を任されている私には、隠しようもないことだ。だんだんと濃くなる目の下の隈に、心配は募る。宝石の宮殿ムジュヘル・サライに入ってから、日中は休む暇もない。
「イスマイル様、」
「あ?」
「少し休まれてはいかがですか……?」
私を見下ろし、少し長く目を瞑った後、
「必要ない」
と、背を向けて業務に戻られてしまう。私は、その後ろをついて歩くことしか出来ない。なにかお手伝い出来ればいいのに……と思うが、傭兵として買われた身分の私には叶わぬ願いである。イスマイル様はずっと前から将王スルタンであったかのように振る舞っている。その姿を誇らしく思う反面、ちょっぴり切なくも感じるのだ。
そうやって、イスマイル様のことを一日中考えて、また夜になる。王宮の寝室はなんだかやけに広くて、冷たく感じる。それがイスマイル様が寝付けない理由なのだろうと思う。ベッドも広すぎて、かえって居心地が悪い。大きな窓の外では、秋雨が降っていた。星明かりもなく暗い部屋でも、イスマイル様が眠っていないことは分かる。
「イスマイル様、今日も眠れなさそうですか?」
「気付いてたのか」
「そりゃ、気付きますよ」
「いつも俺より先に寝落ちるお前がか?」
「ね、寝てても気付いてますもん……!」
そう、私は夜更かしが苦手なのだ。主人より先に寝てしまうのは不敬とは思っているけれど、イスマイル様が許してくれてるので甘えている。今だって、必死に眠気と戦いながらイスマイル様と話している。ふっと、イスマイル様が私の右耳に触れる。撫でつけながら引っ張られて、少し目が覚める。
「リジュ、もう少しだけ起きてられるか?」
「?? 起きていろとおっしゃるなら……」
「よし、じゃあ。ここを出るぞ」
ニヤッとイタズラを始める子供のような顔をする貴方に、完璧に目が覚めた。イスマイル様はそーっとベッドから降りると、寝静まった王宮の廊下へ足を踏み出した。私もそろそろとついていく。驚くことに、誰の目にも触れずに王宮から出ることが出来た。
「念のため、人目につかない通路を考えていたんだ。正解だったな」
王宮に入ってから1週間、他の業務をこなしながらそんなことまで考えていたとは。私の主人は、やはり頭が切れる。
「今の道順、誰にも喋るなよ」
「もちろんです」
雨の中走って、商会の天幕チャドルに入る。見慣れた布団と匂いに、ホッとする自分がいた。急速にまた眠気がくる。
「ほら、こっち来い。寒いんだよ」
「ん、イスマイル様……」
イスマイル様の傍まで近寄ると、ぐっと抱き寄せられた。少し混乱するが、安心感と眠気が勝つ。
「なーにが休まれてはいかがですか? だ。お前だって疲れてるだろうよ……無理させたな」
ぽんぽん、と背中を叩かれて、完全に私は眠りの淵に落ちた。
「イスマイル、さま……ありがとう……ございま……す」
「ふん。別に……」
「……きろ。起きろ!」
「ふぇ!?」
いつもの体内時計より、早い時間に起こされて驚いた。イスマイル様は私の髪をするりと撫で、私の手を取り引っ張り起こす。
「王宮にいないとなれば、なに言われるか分かったもんじゃないからな。まだ明け方だが、戻るぞ」
「はーい」
雨の音は止んでいた。天幕チャドルから出ると……。
「すっごい!すっごいキレイです!」
「お前は詩の才能とかはからっきしないなぁ……」
水平線から登る朝焼けが、宝石の町ムジュヘルを照らす。朝焼けくらい見たことはあるけれど、何故だか今日のは一等キレイに見えるのだ。雨上がりの爽やかな空気が、辺りに漂っている。また1日、主人に仕えることが出来る。
「イスマイル様、ありがとうございます!」
「いや、俺が太陽を回してるわけじゃないが」
呆れた顔をした後、イスマイル様が私の前を歩く。その後ろを、私はご機嫌でついていった。
(眠れねぇ…………)
彼のために用意された王宮の、寝室で寝付くことが出来なかったのである。
イスマイル様はあの日以来しっかりと眠れていない。それは寝室警備を任されている私には、隠しようもないことだ。だんだんと濃くなる目の下の隈に、心配は募る。宝石の宮殿ムジュヘル・サライに入ってから、日中は休む暇もない。
「イスマイル様、」
「あ?」
「少し休まれてはいかがですか……?」
私を見下ろし、少し長く目を瞑った後、
「必要ない」
と、背を向けて業務に戻られてしまう。私は、その後ろをついて歩くことしか出来ない。なにかお手伝い出来ればいいのに……と思うが、傭兵として買われた身分の私には叶わぬ願いである。イスマイル様はずっと前から将王スルタンであったかのように振る舞っている。その姿を誇らしく思う反面、ちょっぴり切なくも感じるのだ。
そうやって、イスマイル様のことを一日中考えて、また夜になる。王宮の寝室はなんだかやけに広くて、冷たく感じる。それがイスマイル様が寝付けない理由なのだろうと思う。ベッドも広すぎて、かえって居心地が悪い。大きな窓の外では、秋雨が降っていた。星明かりもなく暗い部屋でも、イスマイル様が眠っていないことは分かる。
「イスマイル様、今日も眠れなさそうですか?」
「気付いてたのか」
「そりゃ、気付きますよ」
「いつも俺より先に寝落ちるお前がか?」
「ね、寝てても気付いてますもん……!」
そう、私は夜更かしが苦手なのだ。主人より先に寝てしまうのは不敬とは思っているけれど、イスマイル様が許してくれてるので甘えている。今だって、必死に眠気と戦いながらイスマイル様と話している。ふっと、イスマイル様が私の右耳に触れる。撫でつけながら引っ張られて、少し目が覚める。
「リジュ、もう少しだけ起きてられるか?」
「?? 起きていろとおっしゃるなら……」
「よし、じゃあ。ここを出るぞ」
ニヤッとイタズラを始める子供のような顔をする貴方に、完璧に目が覚めた。イスマイル様はそーっとベッドから降りると、寝静まった王宮の廊下へ足を踏み出した。私もそろそろとついていく。驚くことに、誰の目にも触れずに王宮から出ることが出来た。
「念のため、人目につかない通路を考えていたんだ。正解だったな」
王宮に入ってから1週間、他の業務をこなしながらそんなことまで考えていたとは。私の主人は、やはり頭が切れる。
「今の道順、誰にも喋るなよ」
「もちろんです」
雨の中走って、商会の天幕チャドルに入る。見慣れた布団と匂いに、ホッとする自分がいた。急速にまた眠気がくる。
「ほら、こっち来い。寒いんだよ」
「ん、イスマイル様……」
イスマイル様の傍まで近寄ると、ぐっと抱き寄せられた。少し混乱するが、安心感と眠気が勝つ。
「なーにが休まれてはいかがですか? だ。お前だって疲れてるだろうよ……無理させたな」
ぽんぽん、と背中を叩かれて、完全に私は眠りの淵に落ちた。
「イスマイル、さま……ありがとう……ございま……す」
「ふん。別に……」
「……きろ。起きろ!」
「ふぇ!?」
いつもの体内時計より、早い時間に起こされて驚いた。イスマイル様は私の髪をするりと撫で、私の手を取り引っ張り起こす。
「王宮にいないとなれば、なに言われるか分かったもんじゃないからな。まだ明け方だが、戻るぞ」
「はーい」
雨の音は止んでいた。天幕チャドルから出ると……。
「すっごい!すっごいキレイです!」
「お前は詩の才能とかはからっきしないなぁ……」
水平線から登る朝焼けが、宝石の町ムジュヘルを照らす。朝焼けくらい見たことはあるけれど、何故だか今日のは一等キレイに見えるのだ。雨上がりの爽やかな空気が、辺りに漂っている。また1日、主人に仕えることが出来る。
「イスマイル様、ありがとうございます!」
「いや、俺が太陽を回してるわけじゃないが」
呆れた顔をした後、イスマイル様が私の前を歩く。その後ろを、私はご機嫌でついていった。
