三角錐で見る夢
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トルキエ暦74年、陶器月チニリ4日。ブチャク将国ではひと月前ほどから将子ベイオウル同士の争いがあり、ジン商会の武器商のスィラーフイスマイルもピリピリとした空気の中にいた。彼を一番近くで護衛するリジュも、張り詰めた緊張感でしばらくよく眠れずにいる。しかし、問題事はイスマイルの策略であらかた片付き、ほっといつもの時間が戻りつつあった。
(はぁ……流石に疲れたな)
イスマイルは天幕チャドルのクッションに身体を沈めると、リジュを呼んだ。
「は、い。イスマイル様」
駆け寄る彼女の、身体がふらついていることに違和感を覚える。イスマイルがリジュの額に手を当てると、明らかに熱を出していた。
リジュが夏風邪をひいた。俺の元に来て5ヶ月弱、一度も体調など崩したことのない彼女がだ。夏風邪、というだけで、柄にもなく俺は焦燥した。
「お前、いつからだ? いつからこんな熱……」
「えっと……昨日の夜、から」
ゼーゼーと荒い呼吸音、赤く蒸気した頬。本人が一番辛いだろうに、#リジュ#は笑ってみせる。
「大丈夫、です。ちゃんと、ちゃんとお守りしますから」
「……!! 馬鹿か。俺に感染うつったらどうしてくれる」
夏風邪なんか拗らせて、寝込んでしまうわけにはいかない。俺は兄貴と同じ道は辿りたくない。
「部屋で寝ておけ。食事はリザンに運ばせる」
「でも、」
「命令だ。今日は休め」
リジュは一瞬寂しそうな顔を見せた後、ぺこりと頭を下げて部屋へ戻った。俺は大きく息を吐くと、しばらくぼんやり上を見上げていた。
「イスマイル様、ちょっといいですか?」
10分くらいした後、リザンが顔を出した。彼は妹の不調を謝りながら、護衛のシフトについて説明に来たようだ。配置に文句などはないが、ちっとも頭に入ってこない。
「イスマイル様もお休みください。警備は強化しますので」
「あぁ……リザン」
「なんでしょう」
「あいつ……リジュは大丈夫だよな?」
ぽつり、と漏らした言葉にリザンは瞬きをした後、一言告げてくれた。
「貴方がそう望むのなら」
「……??」
「イスマイル様は、もう見ているだけの子供ではないでしょう?」
言われていることの意味を察して、俺は帽子を被り直した。そうだ、兄がみるみるうちに死に追いやられた、あの夏とはもう違う。俺は奪うことも、守ることも選択できる。町一番の医者を呼ぶようにリザンに言いつけ、俺はリジュの部屋に向かった。
#リジュ#が風邪をひいたのは、どう考えても俺のせいだ。連日の警護に、慣れない環境も影響しただろう。なんで早く気づかなかったのか。あれでも、まだ14歳の女の子ーー
(女の、子)
女であることを今更ながらに思い出して、買ってきた当初の恥ずかしさが蘇る。14歳の女の子を、一目惚れして買った、なんて。本人に言えるわけもなく(本人が山の楽団オルケスタ・デ・モンターニャとして雇われたと思い込んでいるから尚更)、ずるずる5ヶ月も経ってしまった。そんな女の、寝室に今向かっている。ドクドクと脈打つ心臓が気持ち悪い。
(ええい、別に様子を窺うだけだ! ただ、生きてるか確認するだけ……!)
言い聞かせ、扉をノックする。咳き込んだ返事が来て、そっと扉を開けた。
「ゴホ、ゴホ……イスマイル、様?」
「…………熱は下がったか」
「すみ、ません。まだ……」
「医者を呼んだ。午後になったらかかるといい」
「えっそんな。申し訳ないです、ただの風邪で……ゴホゴホ」
人が心底心配しているのに、能天気なもんだな。まぁ、口にも出せない俺は意気地なしだが。
「早く治ってもらわないと俺が困るんだ」
「……ほんとですか!」
急に眩しい笑顔を見せないでほしい。ポーカーフェイスが崩れないか、不安になるから。
「私、早く治してまたお役に立ちますね!」
「あ、あぁ……無理せず治せよ」
「はい!」
笑顔から逃げるように退室した。#リジュ#が思ったよりも元気で(から元気かもしれないが)安心する。俺は調子を取り戻し、仕事に戻った。
(はぁ……流石に疲れたな)
イスマイルは天幕チャドルのクッションに身体を沈めると、リジュを呼んだ。
「は、い。イスマイル様」
駆け寄る彼女の、身体がふらついていることに違和感を覚える。イスマイルがリジュの額に手を当てると、明らかに熱を出していた。
リジュが夏風邪をひいた。俺の元に来て5ヶ月弱、一度も体調など崩したことのない彼女がだ。夏風邪、というだけで、柄にもなく俺は焦燥した。
「お前、いつからだ? いつからこんな熱……」
「えっと……昨日の夜、から」
ゼーゼーと荒い呼吸音、赤く蒸気した頬。本人が一番辛いだろうに、#リジュ#は笑ってみせる。
「大丈夫、です。ちゃんと、ちゃんとお守りしますから」
「……!! 馬鹿か。俺に感染うつったらどうしてくれる」
夏風邪なんか拗らせて、寝込んでしまうわけにはいかない。俺は兄貴と同じ道は辿りたくない。
「部屋で寝ておけ。食事はリザンに運ばせる」
「でも、」
「命令だ。今日は休め」
リジュは一瞬寂しそうな顔を見せた後、ぺこりと頭を下げて部屋へ戻った。俺は大きく息を吐くと、しばらくぼんやり上を見上げていた。
「イスマイル様、ちょっといいですか?」
10分くらいした後、リザンが顔を出した。彼は妹の不調を謝りながら、護衛のシフトについて説明に来たようだ。配置に文句などはないが、ちっとも頭に入ってこない。
「イスマイル様もお休みください。警備は強化しますので」
「あぁ……リザン」
「なんでしょう」
「あいつ……リジュは大丈夫だよな?」
ぽつり、と漏らした言葉にリザンは瞬きをした後、一言告げてくれた。
「貴方がそう望むのなら」
「……??」
「イスマイル様は、もう見ているだけの子供ではないでしょう?」
言われていることの意味を察して、俺は帽子を被り直した。そうだ、兄がみるみるうちに死に追いやられた、あの夏とはもう違う。俺は奪うことも、守ることも選択できる。町一番の医者を呼ぶようにリザンに言いつけ、俺はリジュの部屋に向かった。
#リジュ#が風邪をひいたのは、どう考えても俺のせいだ。連日の警護に、慣れない環境も影響しただろう。なんで早く気づかなかったのか。あれでも、まだ14歳の女の子ーー
(女の、子)
女であることを今更ながらに思い出して、買ってきた当初の恥ずかしさが蘇る。14歳の女の子を、一目惚れして買った、なんて。本人に言えるわけもなく(本人が山の楽団オルケスタ・デ・モンターニャとして雇われたと思い込んでいるから尚更)、ずるずる5ヶ月も経ってしまった。そんな女の、寝室に今向かっている。ドクドクと脈打つ心臓が気持ち悪い。
(ええい、別に様子を窺うだけだ! ただ、生きてるか確認するだけ……!)
言い聞かせ、扉をノックする。咳き込んだ返事が来て、そっと扉を開けた。
「ゴホ、ゴホ……イスマイル、様?」
「…………熱は下がったか」
「すみ、ません。まだ……」
「医者を呼んだ。午後になったらかかるといい」
「えっそんな。申し訳ないです、ただの風邪で……ゴホゴホ」
人が心底心配しているのに、能天気なもんだな。まぁ、口にも出せない俺は意気地なしだが。
「早く治ってもらわないと俺が困るんだ」
「……ほんとですか!」
急に眩しい笑顔を見せないでほしい。ポーカーフェイスが崩れないか、不安になるから。
「私、早く治してまたお役に立ちますね!」
「あ、あぁ……無理せず治せよ」
「はい!」
笑顔から逃げるように退室した。#リジュ#が思ったよりも元気で(から元気かもしれないが)安心する。俺は調子を取り戻し、仕事に戻った。
