布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん

ホテルの部屋で一息入れて、夜の小田原に繰り出す。車でうろちょろしながら、飲み屋を探す。土地柄、海鮮のお店が多いが布田が魚食べられないのでパス。結局、遅くまでやってそうで無難にいろいろありそうな店を選んだ。俺は運転あるから、ノンアルとか普段飲まないジュースなんかを頼む。
「「「かんぱーい」」」
つまみが徐々に運ばれてくる。うん、わりかし回転良くていい感じだ。店内の雰囲気も少し落とした照明がいい感じで、そこまで馬鹿騒ぎしてる連中もいない。ので、あまり馬鹿みたいにはしゃぐのはやめておく。
「どうですか国領さん今回の旅行は」
「綱渡りすぎてヒヤヒヤしてる」
思った通りの答えが返ってきて笑えば、思った通りに小突かれた。酒が飲めなくても、別に楽しい。
「でももう困ることないと思うよ。明日午後に博物館行くだけだし」
「…………不安しかねぇ」
「そんな心配すんなって。心配性だなぁ」
「お前が楽観的すぎるだけだからな」
「布田どう思う?」
「昔っから2人とも極端だよ」
そっかあ。うずらの卵を揚げたやつを口に運ぶ。国領はビールのおかわりを頼んだ。こういう時じゃないと、国領が気の済むまで飲みに付き合えないからな。
「今日は好きなだけ飲めよ~」
「……おう。そうする」
国領はなにか考え事してるような、ちょっと心配事があるような、曖昧な表情をしている。気にかかるけど、特になにも言わない。いつだって聞いてやるから、話すタイミングは本人が決めたらいいんだ。

「梅酒のソーダ割り」
「よく飲むねぇ」
国領1人で、テーブルの半分ジョッキだとかグラスで埋まった。まぁ適度に下げてくれるから、窮屈ではないけど。つまみ食べ終わった皿を重ねる。
「国領はなんか悩み事あったんじゃないの」
布田がカシスオレンジ飲み干して、そう訊ねる。布田の顔もほんのり赤い。
「なやみごと……」
国領は舌が回ってない発音で、ぼんやりしている。と思えば、カッと酒を一気飲みしたので俺は慌てた。
「おいおい一気に飲むなって」
「…………結婚したい!!!!」
「お、おう」
結構デカめの声で言うからびっくりした。返答に迷っていると、今度はテーブルに突っ伏して震え出した。どうやら、泣いている。とりあえずよく分からないが、背中を撫でてやる。
「なんだ、別に今からでも遅くないんじゃね?」
「そうだよ、今時手段なんていくらでもあるよ」
「……違う、違うんだ」
国領がすすり泣くので、布田と顔を見合わせる。そんなに悲観することだろうか。まぁ、国領はわりとマイナス思考だから、思い詰めてしまったのかもしれない。
「国領、なにが違うのさ」
布田の問いかけに、国領は身体を起こして目を擦ろうとする。
「擦るのはやめとけって」
「楽しい」
「うん?」
「お前らといる方が、ずっと楽しいんだよ」
ふっと音が消える。国領が鼻をすすって、また声を荒げて泣きじゃくり始める。
「ほら!やっぱおかしいって!恥ずかしい!」
「ごめんごめん!別に嫌だとか恥ずかしいとか思ってないから!」
慌てて布田が弁明して。なんだか笑けてきて、なおも恥ずかしいと喚く国領の、肩を抱いてやる。
「なんだよもう~じゃあ俺たちと結婚しとけ!」
「無理だろばかぁ」
いつもみたいに押し返されないから、しっかり抱き止めて肩を叩いて。落ち着かせる。国領はやがて泣き止んで、しゃっくりを繰り返す。
「うーん?別に結婚したって友達辞めるつもりはねぇし。俺たちといて楽しいなら、このままだっていいんじゃね?」
「そうかなぁ」
「心配したって仕方ねぇって。な」
布田に同意を求めると、頷いてくれた。
「相手あってのことだしさ。でも今から相手探しが煩わしいなら、結婚自体が向いてないから、無理しなくていいと思う」
「うーん……」
国領はこめかみ辺りを指で掻く。飲むものを探しているようなので、お冷を差し出した。また一気飲みする。
「……何回考え直しても、3人でいた方が楽しいんだよ」
「じゃあそれでいいじゃん!俺も楽しい!」
「うん。俺も楽しいよ」
布田が柔らかく笑うから、俺も笑って。それ見て国領も、やっと安心したように笑うから、これでいいんだよな。
「3人でいたら心配なことなんてないって」
「いや俺はずっと柴崎が心配だぞ雇用されてないのはまずいだろどう考えても」
「また心配する~」
「2人が極端なんだって」
夜が更けていく。なんだか自分の小さな不安も、ほぐれて温まった。そっか。布田も国領も、俺といて楽しいんだな。よかった。かけがえがないと思う。だからどんなに歳を重ねても、大切にしていきたい。変わらないものなんてきっとないけど、だから何度だって確かめたい。俺だけが知らないうちにひとりぼっちは、嫌だから。
42/45ページ
スキ