布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん
かくして3人は、小田原城に到着した。国領がしきりに正面入口から入りたいと要求するので、布田が地図を見て先導する。門が見えてきたところで、国領は満足気に頷くと意気揚々と足音を弾ませた。柴崎は池に飛んできたユリカモメを見て、ほぉー海が近いからカモメが来るんだと興味津々で観察を始める。国領と柴崎が方々に散って離れていくので、布田はいつものことだけど慌ててしまう。
「ちょ、集まって。勝手に各々動かないで!」
布田の声にすぐ気づくのは柴崎で、悪ぃと謝りながら戻ってくる。国領は足を止めて振り向くだけ。国領に追いついたら、柴崎はとりあえずは国領について歩こうと決めた。決めたけれどもじっとはしておらず、国領が案内板に足を止めると周辺をうろちょろと歩く。柴崎が門の形や作りを直感的に観察する間、国領は案内板をじっくり読み込んで納得するように頷く。布田は国領の隣にいて、同じように案内板を読み、分からないところを国領に説明してもらっていた。門を2つ潜るのに、40分はかかってしまう。ようやく天守閣に辿り着くと、柴崎は真白な城を見上げて疑問を口にする。
「小田原城って誰の城なんだ?」
「誰の城」
布田は来るな、と思って身構える。国領は一呼吸置くと……。
「小田原城は室町時代に西相模に進出した大森氏が築いた城郭を前身として小田原北条氏が整備していった城で、15世紀中頃に建てられてる。1500年頃に伊勢宗瑞が小田原に進出して、そこから100年関東を牛耳るんだが、2代目の氏綱によって本格的に小田原北条氏の本拠地として整備された。今見てきた総構を完成させたのは5代目の氏直で「猛強の大将」って呼ばれてて、豊臣秀吉の天下統一の最後の障害となったのが小田原北条氏なんだよ。で、小田原合戦で北条氏が負けた後に新たに城主となったのは大久保忠世で、その息子が改易されてからはしばらく番城になる。幕府が直接支配する城ってことだ。稲葉正勝が小田原藩主になると、寛永小田原大地震で北条氏が築いた小田原城は無くなっちまう。稲葉氏が再整備して一新するけど、その後も度々災害に見舞われて財政難に悩みながら明治維新を迎えて、廃城になった。城跡は陸軍省とか宮内省の管轄時期を経て、1960年に天守閣が復興。今は小田原市の所有地で国指定史跡になってる」
柴崎は黙って国領が語り尽くすのを待って。
「ほーん。で、誰の城?」
「……一般的には戦国時代に城主だった北条氏の城じゃない?」
「へー。そうなんだ」
布田は要約が合っているか国領に視線で確認を取るが、国領は説明を話したいだけ話したから満足らしく、特に異論はないようだった。柴崎はと言えば、これだけ説明されたにも関わらず特に覚えるということはなく、おそらくまた来る機会があれば同じことを聞くだろう。誰も特には相手のことを気にしておらず、また満足している。強いて言えば、布田は2人のことを変だとは思っているが。天守閣に入城する。国領は限定の御城印も買う。
「………英訳と見比べてるんだっけ?」
布田が国領に問いかける。国領は展示の説明に目を走らせて、視線は外さない。
「英訳と中国訳とハングル訳、おんなじ文章で書かれているのを同時に見れるのって限られるからな」
つまりは、国領にとって展示の内容は大抵もう全て頭に入っていることで、説明を読むのは翻訳の違いを楽しむのがメイン、あとは確認作業なのである。布田は毎度感心しながら、自分は横で日本語の説明の良し悪しを吟味する。柴崎は展示物を気の向くままに見て回り、国領と布田が一周する間に四周くらいする。それをフロア毎に繰り返す。途中、柴崎が気になる展示まで国領を引っ張っていき、国領は思考の邪魔をされたのであーだこーだ文句を垂れ、それでも柴崎の質問には畳み掛けるように答えて、最後に布田が要約して柴崎に伝える、という流れが2回ほどあった。最上階に辿り着く頃には、柴崎はなにを質問したかも忘れたが。
「めっちゃ景色いい~!!」
柴崎は気持ちよさそうに伸びをする。小田原城下と海を一望出来る展望デッキの見晴らしは、雲も飛んで晴天となったため清々しく澄んでいた。暖かな南風が吹いて、春の気配を運んでいる。風を頬に受けながら、3人は言葉はなく美しい景色を共有した。柔らかな陽射しに包まれて、穏やかな時間が流れる。3人とも満たされた顔で、階段を降りていく。一階の土産屋まで戻ってきた。
「ガチャガチャ!」
柴崎は階段脇の細やかなガチャコーナーを見つけて、真っ先に階段を降りていってラインナップを見た。
「これ、どっちかやろーぜ!」
「……3人で?」
「記念にさ!」
柴崎に満面の笑みで言われると、国領は気が引けるような思いをする。柴崎が指差すガチャガチャは、ひとつは可愛い子供のキャラクターのアクリルキーホルダーで、ひとつはシマエナガと小田原モチーフのタオルハンカチ。どちらも俺たちが持つには可愛すぎる。国領は可愛いのが嫌いなわけではないが、恥ずかしくて仕方がないのだ。
「この2つならこっちのがいい」
さりげなく布田が最終決定をする。布田が柴崎に乗っかってしまうと、国領はただ顔を赤くして黙るしかなくなる。
「100円玉足りねぇ」
「両替してくるよ」
12枚の100円玉を、1枚1枚ガチャマシンに吸わせて、4枚毎にハンドルを回す。布田と国領のが被って、柴崎は1番欲しかった物を当てる。
「よっしゃ~!!」
まぁ柴崎がここまで喜ぶならいいか、と国領は無意識のうちに納得する。手の中のアクリルキーホルダーが、それなりに大事なものに見えて、無くさないようにリュックにしまった。布田も似たようなものだった。さて、城から出ようと布田が足を進めようとすると、国領も柴崎も動かずに寂しそうな顔をしている。
「もう一周しないのか?」
「もう一周したいんだが……」
2人が口を揃えて言うので、布田は小学生の引率の先生の気分になる。力が抜けて笑い、もう一周に付き合うのだった。
「ちょ、集まって。勝手に各々動かないで!」
布田の声にすぐ気づくのは柴崎で、悪ぃと謝りながら戻ってくる。国領は足を止めて振り向くだけ。国領に追いついたら、柴崎はとりあえずは国領について歩こうと決めた。決めたけれどもじっとはしておらず、国領が案内板に足を止めると周辺をうろちょろと歩く。柴崎が門の形や作りを直感的に観察する間、国領は案内板をじっくり読み込んで納得するように頷く。布田は国領の隣にいて、同じように案内板を読み、分からないところを国領に説明してもらっていた。門を2つ潜るのに、40分はかかってしまう。ようやく天守閣に辿り着くと、柴崎は真白な城を見上げて疑問を口にする。
「小田原城って誰の城なんだ?」
「誰の城」
布田は来るな、と思って身構える。国領は一呼吸置くと……。
「小田原城は室町時代に西相模に進出した大森氏が築いた城郭を前身として小田原北条氏が整備していった城で、15世紀中頃に建てられてる。1500年頃に伊勢宗瑞が小田原に進出して、そこから100年関東を牛耳るんだが、2代目の氏綱によって本格的に小田原北条氏の本拠地として整備された。今見てきた総構を完成させたのは5代目の氏直で「猛強の大将」って呼ばれてて、豊臣秀吉の天下統一の最後の障害となったのが小田原北条氏なんだよ。で、小田原合戦で北条氏が負けた後に新たに城主となったのは大久保忠世で、その息子が改易されてからはしばらく番城になる。幕府が直接支配する城ってことだ。稲葉正勝が小田原藩主になると、寛永小田原大地震で北条氏が築いた小田原城は無くなっちまう。稲葉氏が再整備して一新するけど、その後も度々災害に見舞われて財政難に悩みながら明治維新を迎えて、廃城になった。城跡は陸軍省とか宮内省の管轄時期を経て、1960年に天守閣が復興。今は小田原市の所有地で国指定史跡になってる」
柴崎は黙って国領が語り尽くすのを待って。
「ほーん。で、誰の城?」
「……一般的には戦国時代に城主だった北条氏の城じゃない?」
「へー。そうなんだ」
布田は要約が合っているか国領に視線で確認を取るが、国領は説明を話したいだけ話したから満足らしく、特に異論はないようだった。柴崎はと言えば、これだけ説明されたにも関わらず特に覚えるということはなく、おそらくまた来る機会があれば同じことを聞くだろう。誰も特には相手のことを気にしておらず、また満足している。強いて言えば、布田は2人のことを変だとは思っているが。天守閣に入城する。国領は限定の御城印も買う。
「………英訳と見比べてるんだっけ?」
布田が国領に問いかける。国領は展示の説明に目を走らせて、視線は外さない。
「英訳と中国訳とハングル訳、おんなじ文章で書かれているのを同時に見れるのって限られるからな」
つまりは、国領にとって展示の内容は大抵もう全て頭に入っていることで、説明を読むのは翻訳の違いを楽しむのがメイン、あとは確認作業なのである。布田は毎度感心しながら、自分は横で日本語の説明の良し悪しを吟味する。柴崎は展示物を気の向くままに見て回り、国領と布田が一周する間に四周くらいする。それをフロア毎に繰り返す。途中、柴崎が気になる展示まで国領を引っ張っていき、国領は思考の邪魔をされたのであーだこーだ文句を垂れ、それでも柴崎の質問には畳み掛けるように答えて、最後に布田が要約して柴崎に伝える、という流れが2回ほどあった。最上階に辿り着く頃には、柴崎はなにを質問したかも忘れたが。
「めっちゃ景色いい~!!」
柴崎は気持ちよさそうに伸びをする。小田原城下と海を一望出来る展望デッキの見晴らしは、雲も飛んで晴天となったため清々しく澄んでいた。暖かな南風が吹いて、春の気配を運んでいる。風を頬に受けながら、3人は言葉はなく美しい景色を共有した。柔らかな陽射しに包まれて、穏やかな時間が流れる。3人とも満たされた顔で、階段を降りていく。一階の土産屋まで戻ってきた。
「ガチャガチャ!」
柴崎は階段脇の細やかなガチャコーナーを見つけて、真っ先に階段を降りていってラインナップを見た。
「これ、どっちかやろーぜ!」
「……3人で?」
「記念にさ!」
柴崎に満面の笑みで言われると、国領は気が引けるような思いをする。柴崎が指差すガチャガチャは、ひとつは可愛い子供のキャラクターのアクリルキーホルダーで、ひとつはシマエナガと小田原モチーフのタオルハンカチ。どちらも俺たちが持つには可愛すぎる。国領は可愛いのが嫌いなわけではないが、恥ずかしくて仕方がないのだ。
「この2つならこっちのがいい」
さりげなく布田が最終決定をする。布田が柴崎に乗っかってしまうと、国領はただ顔を赤くして黙るしかなくなる。
「100円玉足りねぇ」
「両替してくるよ」
12枚の100円玉を、1枚1枚ガチャマシンに吸わせて、4枚毎にハンドルを回す。布田と国領のが被って、柴崎は1番欲しかった物を当てる。
「よっしゃ~!!」
まぁ柴崎がここまで喜ぶならいいか、と国領は無意識のうちに納得する。手の中のアクリルキーホルダーが、それなりに大事なものに見えて、無くさないようにリュックにしまった。布田も似たようなものだった。さて、城から出ようと布田が足を進めようとすると、国領も柴崎も動かずに寂しそうな顔をしている。
「もう一周しないのか?」
「もう一周したいんだが……」
2人が口を揃えて言うので、布田は小学生の引率の先生の気分になる。力が抜けて笑い、もう一周に付き合うのだった。
