布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん
翔悟が15日16日と旅行に行くから顔を出せないと言ってきたのは、10日の午後イチくらいだった。急だよ。まぁなんとなーくその日に仕事が入らないように立ち回っているのは感じていたので、別に驚きもしなかったが。
『その間、俺はどうやって移動すりゃいい』
『あかりさんと松ヶ谷先輩に声かけとくから、ここに直接電話したらいいよ』
そう言って、電話番号と横に名前を添えられたメモを渡された。勢いだけよくてとっ散らかった、子供っぽい字だ。翔悟の先輩は2人ともタクシー会社に勤務している。世話になったことは何度かある。なんなら電話番号はちゃんとアドレス帳に入れてある。それでも、なんとなく不安というかうら寂しくて、書いてくれたメモはお守りのように胸ポケットにしまっていた。元々、日曜日はイベントがなけりゃ休むことが多い。だから、土曜日の今日1日だけなんとか出来ればどうとでもなる。どうとでもなるのだが。
(歳取ると侘しくなっちまっていけねぇ)
1人で暮らすには、広すぎる我が家だ。2階なんてもう何年もあがっていない。翔悟が定期的に掃除をしてくれ、荷物があると上に持ってってくれるから、なんとか意味がある場所になっている。家族のアルバムだとか、何十年も前の卒業証書だとか、何故だか処分出来ないものも多分どこかで眠っている。毎日見返すわけでもなし、それでも捨てられないってのはなんでなのかね。思い出だって、年を追うごとに忘れていってしまうのに。前を向くばかりで、後ろを振り向く時間などなかった。いや、振り向こうとはしなかった。とっくの昔に置いてきたなにかを、2階のどこかぽつねんと残る思い出たちは、今でも記して残している。置いてきたくせに捨てられねぇ。
(受け継いでくれる人間など、いねぇのに)
翔悟の顔が浮かぶ。金や家ならまだしも、こんな老ぼれの思い出なんて渡したところで仕方がない。語り継ぐほどの人生じゃない。馬鹿らしいな。近いうち、整理してしまわないと。思い立ったらすぐ動くのが信条だが、翔悟がいねぇとどうしたって不便である。煩わしいもんだね。とりあえず、冷蔵庫にあるものでなんか作って食べるか。麻婆豆腐の素を買ってきてもらっておいた。木綿豆腐を多めに入れて作ろう。
(1人だと飯を作るのも億劫だ)
2日間なにも食わねぇわけにはいかねぇし、自分を蔑ろにすると翔悟が怒るので。そういえば、翔悟は自分のことを大事にしない人間に敏感である。てめぇのことはわりと後回しにしてるように見えるが。そっちのが心配だよじじいは。
飯を食って、少し仕事をして。暇なので事務所の中の掃除なんかをして。日が暮れてきたな。随分、伸びたもんだ。来月はもう4月か。1年の4分の1がもうすぐ終わると思うと、毎度末恐ろしい気持ちになる。年々、年が過ぎるのが早い。決算もまとめなくては。翔悟が帰ってきてからでいいか。夕飯も食わねぇと。あぁ面倒くさい。外食にするか。アドレス帳から松ヶ谷を検索して、かけてみた。
「おう、俺だ。高倉だ。呼んでいいか?」
「飯食いに外に出たくてよ……いや食うもんは決まってない」
「タクシー運転手だろ、美味い飯屋知らねぇのか?」
「選べねぇって……あぁまあお前はそういう奴だったな」
「いやわざわざ翔悟にかけなくてもいいよ」
「ええい、分かった。ご馳走してやるから付き合え。美味い飯教えてやる」
「はい、20分後な。分かった」
松ヶ谷にご馳走するハメになってしまった。松ヶ谷はなんというか、ちゃっかりしてるというか少し図々しいというか。太い奴だ。20分後だ、支度をしねぇと。コートを羽織り、帽子を被り。杖を持って、動き出す。財布の存在をポケットの中確かめて。玄関を出れば、もうタクシーは待っていた。ほっと安心してしまう自分がいた。認めたかないが、人恋しかったんだろう。松ヶ谷が運転席から降りて、乗るのを手伝ってくれる。
「ありがとな」
「いえいえ。どこに行きます?どこへでも走りますよ」
「そうだなぁ」
せっかくだから、都心離れてちょっと遠くまで行こうか。こういう日には少し贅沢をするに限る。
『その間、俺はどうやって移動すりゃいい』
『あかりさんと松ヶ谷先輩に声かけとくから、ここに直接電話したらいいよ』
そう言って、電話番号と横に名前を添えられたメモを渡された。勢いだけよくてとっ散らかった、子供っぽい字だ。翔悟の先輩は2人ともタクシー会社に勤務している。世話になったことは何度かある。なんなら電話番号はちゃんとアドレス帳に入れてある。それでも、なんとなく不安というかうら寂しくて、書いてくれたメモはお守りのように胸ポケットにしまっていた。元々、日曜日はイベントがなけりゃ休むことが多い。だから、土曜日の今日1日だけなんとか出来ればどうとでもなる。どうとでもなるのだが。
(歳取ると侘しくなっちまっていけねぇ)
1人で暮らすには、広すぎる我が家だ。2階なんてもう何年もあがっていない。翔悟が定期的に掃除をしてくれ、荷物があると上に持ってってくれるから、なんとか意味がある場所になっている。家族のアルバムだとか、何十年も前の卒業証書だとか、何故だか処分出来ないものも多分どこかで眠っている。毎日見返すわけでもなし、それでも捨てられないってのはなんでなのかね。思い出だって、年を追うごとに忘れていってしまうのに。前を向くばかりで、後ろを振り向く時間などなかった。いや、振り向こうとはしなかった。とっくの昔に置いてきたなにかを、2階のどこかぽつねんと残る思い出たちは、今でも記して残している。置いてきたくせに捨てられねぇ。
(受け継いでくれる人間など、いねぇのに)
翔悟の顔が浮かぶ。金や家ならまだしも、こんな老ぼれの思い出なんて渡したところで仕方がない。語り継ぐほどの人生じゃない。馬鹿らしいな。近いうち、整理してしまわないと。思い立ったらすぐ動くのが信条だが、翔悟がいねぇとどうしたって不便である。煩わしいもんだね。とりあえず、冷蔵庫にあるものでなんか作って食べるか。麻婆豆腐の素を買ってきてもらっておいた。木綿豆腐を多めに入れて作ろう。
(1人だと飯を作るのも億劫だ)
2日間なにも食わねぇわけにはいかねぇし、自分を蔑ろにすると翔悟が怒るので。そういえば、翔悟は自分のことを大事にしない人間に敏感である。てめぇのことはわりと後回しにしてるように見えるが。そっちのが心配だよじじいは。
飯を食って、少し仕事をして。暇なので事務所の中の掃除なんかをして。日が暮れてきたな。随分、伸びたもんだ。来月はもう4月か。1年の4分の1がもうすぐ終わると思うと、毎度末恐ろしい気持ちになる。年々、年が過ぎるのが早い。決算もまとめなくては。翔悟が帰ってきてからでいいか。夕飯も食わねぇと。あぁ面倒くさい。外食にするか。アドレス帳から松ヶ谷を検索して、かけてみた。
「おう、俺だ。高倉だ。呼んでいいか?」
「飯食いに外に出たくてよ……いや食うもんは決まってない」
「タクシー運転手だろ、美味い飯屋知らねぇのか?」
「選べねぇって……あぁまあお前はそういう奴だったな」
「いやわざわざ翔悟にかけなくてもいいよ」
「ええい、分かった。ご馳走してやるから付き合え。美味い飯教えてやる」
「はい、20分後な。分かった」
松ヶ谷にご馳走するハメになってしまった。松ヶ谷はなんというか、ちゃっかりしてるというか少し図々しいというか。太い奴だ。20分後だ、支度をしねぇと。コートを羽織り、帽子を被り。杖を持って、動き出す。財布の存在をポケットの中確かめて。玄関を出れば、もうタクシーは待っていた。ほっと安心してしまう自分がいた。認めたかないが、人恋しかったんだろう。松ヶ谷が運転席から降りて、乗るのを手伝ってくれる。
「ありがとな」
「いえいえ。どこに行きます?どこへでも走りますよ」
「そうだなぁ」
せっかくだから、都心離れてちょっと遠くまで行こうか。こういう日には少し贅沢をするに限る。
