布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん
「終わった!」
1週間の業務がようやく終わった。程よい疲労感。伸びをひとつして、猫のハンドレストを撫でてから定位置に戻す。さっさと退勤。帰る前に寄り道でもしようか。金曜日だし。駅前のビルに入っているLOFTに立ち寄る。文房具のコーナーを、目的はないが見て回る。文房具はなにかと見ると買ってしまう。数少ない趣味のひとつ。とりあえず学習ノートが安く出ていたので手に取る。そのあと、普段あまり見ないがシールのコーナーに立ち寄った。猫のシールが目に止まり、手を出しかけて引っ込める。
(シール、使うか……?)
可愛い。猫は可愛い。けど、シールは使うあてがない。なんか、メモとかノートに貼るのに使うか……?いや、付箋で充分な気がする。猫の付箋あるし。あとなにに使える?ノートの表紙にでも貼るか?意味あるかそれ。
(うーん……でもなにかに使うかもしれないし。シートのやつだから枚数はないし)
いろいろと言い訳して、手を伸ばした。
「ふーんそういうの買うんだ、意外」
「ふぁっ!?」
変な声が出た。振り返ると仏頂面の栗平と目が合い、さーっと血の気が引く思いをする。栗平は俺に構わず、猫のシールの横にある犬のシールを手に取った。
「……なにに使うんだ?」
「うん?ボクは日記とか書くから、手帳飾るのに使ってるね」
意味あるのか、それ。というか、日記書くのか。意外というかなんというか、女性らしい。前にそう評したらめちゃくちゃキレられた。理屈は分かるので、反省はしている。ただ、理解が追いつかない感覚をずっと抱いている。
「国領さんは買わないの?」
「いや、見てただけだから……」
「ふーん、そう」
栗平は然程興味なさそうな声で、追求はしてこない。
「たまにはお茶でもしようよ。明日休みでしょ?」
何故お茶に誘われるのか分からない。目的が読めない。俺と話したところで、栗平にプラスなことはないように思えるが。
「まぁ、いいけど……」
けれど、断ることが出来ない。潜在的に、俺は栗平が怖いようで。栗平は人好きのする笑みを浮かべると、会計してくるとレジに向かった。俺もノートだけ精算する。
「タバコ吸えるとこでいい?」
喫煙室のある喫茶店に来た。煙い。柴崎と布田で慣れてはいるが、煙いもんは煙い。店員を呼んで注文する。ブラックひとつと頼むと、ボクもそれでと栗平が被せる。栗平は甘いものが好きだが、飲み物はいつもブラックを頼んでいる気がする。栗平がタバコに火をつける。所作のひとつひとつに自信がみなぎっているように見えて、気後れする。
「最近どう?順調?」
「まぁ、順調というか……いつも通り」
何故そんなことを聞くんだ?疑問ばかり浮かぶ。栗平の顔を見れば、特になんの感情も映さない。まつ毛が瞳に影を落とすのが、酷く色っぽく見える。なにかを品定めしているようで、怖い。彼からしたら、俺は大変つまらない人間だろう。つまらない人間で構わないと思うが、彼から「つまらない」とはっきりレッテルを貼られるのはたまらない。他人の評価をこうも気にしている時点で、つまらない人間だ。
「栗平は……最近どうなんだ」
「翔悟さんが足りない!!」
栗平は肘をつき、ため息混じりに笑う。冗談めかして言うが、栗平は会いたい人には会いたいと言える人間だ。柴崎に対しても唐木田に対しても、そう見える。
「お前は柴崎と唐木田、どっちが好きなんだ……?」
「どっちも同じくらい好きだよ。なにか矛盾してる?」
矛盾してはいない。してはいないが。どうにも喉の奥に小骨が刺さったような、引っかかりが残る。誰かを同時に愛してもいいもんなのか?友情なら許されるか?栗平のそれは、明らかに友情ではない。けれど、それっていけないことなんだろうか。好きになってしまったもんは、仕方ないのか。
「難しい顔してる」
「……すまん」
「いいんじゃないの、なんと思われたって構わないよ。国領さんの感じたままを大事にすれば」
「…………」
それはそう、言う通りだ。けれどそうやって突き放されては、自分が弱くて薄情な人間のようで、嫌だ。
「…………栗平がそういう人間だってことは、理解する」
「無理しなくていいよ」
栗平は笑った。その表情があまりにも優しかったので、呆気に取られた。なんで、そんな堂々としていられるのだろう。羨ましい。羨んでなにもしないのは、情けないことだ。理解したい、気持ちが追いつかない。自分の思考に制限がかかっている。鍵を外して解放すべきなのか否か、ずっと迷い続けている。鍵を外したら、それはもう自分と呼べないのではないか。
「翔悟さんも隼人も、ボクのものだし」
今度は不敵に笑う。理解が追いつかない。こんな奴とずっと一緒だなんて、唐木田は大変だなと思う。
「人をモノ扱いするなよ」
なんとかそう言い返して。栗平のことは怖いけれど、おそらくちゃんと向き合わなければならない人間だと。そう理解している。
1週間の業務がようやく終わった。程よい疲労感。伸びをひとつして、猫のハンドレストを撫でてから定位置に戻す。さっさと退勤。帰る前に寄り道でもしようか。金曜日だし。駅前のビルに入っているLOFTに立ち寄る。文房具のコーナーを、目的はないが見て回る。文房具はなにかと見ると買ってしまう。数少ない趣味のひとつ。とりあえず学習ノートが安く出ていたので手に取る。そのあと、普段あまり見ないがシールのコーナーに立ち寄った。猫のシールが目に止まり、手を出しかけて引っ込める。
(シール、使うか……?)
可愛い。猫は可愛い。けど、シールは使うあてがない。なんか、メモとかノートに貼るのに使うか……?いや、付箋で充分な気がする。猫の付箋あるし。あとなにに使える?ノートの表紙にでも貼るか?意味あるかそれ。
(うーん……でもなにかに使うかもしれないし。シートのやつだから枚数はないし)
いろいろと言い訳して、手を伸ばした。
「ふーんそういうの買うんだ、意外」
「ふぁっ!?」
変な声が出た。振り返ると仏頂面の栗平と目が合い、さーっと血の気が引く思いをする。栗平は俺に構わず、猫のシールの横にある犬のシールを手に取った。
「……なにに使うんだ?」
「うん?ボクは日記とか書くから、手帳飾るのに使ってるね」
意味あるのか、それ。というか、日記書くのか。意外というかなんというか、女性らしい。前にそう評したらめちゃくちゃキレられた。理屈は分かるので、反省はしている。ただ、理解が追いつかない感覚をずっと抱いている。
「国領さんは買わないの?」
「いや、見てただけだから……」
「ふーん、そう」
栗平は然程興味なさそうな声で、追求はしてこない。
「たまにはお茶でもしようよ。明日休みでしょ?」
何故お茶に誘われるのか分からない。目的が読めない。俺と話したところで、栗平にプラスなことはないように思えるが。
「まぁ、いいけど……」
けれど、断ることが出来ない。潜在的に、俺は栗平が怖いようで。栗平は人好きのする笑みを浮かべると、会計してくるとレジに向かった。俺もノートだけ精算する。
「タバコ吸えるとこでいい?」
喫煙室のある喫茶店に来た。煙い。柴崎と布田で慣れてはいるが、煙いもんは煙い。店員を呼んで注文する。ブラックひとつと頼むと、ボクもそれでと栗平が被せる。栗平は甘いものが好きだが、飲み物はいつもブラックを頼んでいる気がする。栗平がタバコに火をつける。所作のひとつひとつに自信がみなぎっているように見えて、気後れする。
「最近どう?順調?」
「まぁ、順調というか……いつも通り」
何故そんなことを聞くんだ?疑問ばかり浮かぶ。栗平の顔を見れば、特になんの感情も映さない。まつ毛が瞳に影を落とすのが、酷く色っぽく見える。なにかを品定めしているようで、怖い。彼からしたら、俺は大変つまらない人間だろう。つまらない人間で構わないと思うが、彼から「つまらない」とはっきりレッテルを貼られるのはたまらない。他人の評価をこうも気にしている時点で、つまらない人間だ。
「栗平は……最近どうなんだ」
「翔悟さんが足りない!!」
栗平は肘をつき、ため息混じりに笑う。冗談めかして言うが、栗平は会いたい人には会いたいと言える人間だ。柴崎に対しても唐木田に対しても、そう見える。
「お前は柴崎と唐木田、どっちが好きなんだ……?」
「どっちも同じくらい好きだよ。なにか矛盾してる?」
矛盾してはいない。してはいないが。どうにも喉の奥に小骨が刺さったような、引っかかりが残る。誰かを同時に愛してもいいもんなのか?友情なら許されるか?栗平のそれは、明らかに友情ではない。けれど、それっていけないことなんだろうか。好きになってしまったもんは、仕方ないのか。
「難しい顔してる」
「……すまん」
「いいんじゃないの、なんと思われたって構わないよ。国領さんの感じたままを大事にすれば」
「…………」
それはそう、言う通りだ。けれどそうやって突き放されては、自分が弱くて薄情な人間のようで、嫌だ。
「…………栗平がそういう人間だってことは、理解する」
「無理しなくていいよ」
栗平は笑った。その表情があまりにも優しかったので、呆気に取られた。なんで、そんな堂々としていられるのだろう。羨ましい。羨んでなにもしないのは、情けないことだ。理解したい、気持ちが追いつかない。自分の思考に制限がかかっている。鍵を外して解放すべきなのか否か、ずっと迷い続けている。鍵を外したら、それはもう自分と呼べないのではないか。
「翔悟さんも隼人も、ボクのものだし」
今度は不敵に笑う。理解が追いつかない。こんな奴とずっと一緒だなんて、唐木田は大変だなと思う。
「人をモノ扱いするなよ」
なんとかそう言い返して。栗平のことは怖いけれど、おそらくちゃんと向き合わなければならない人間だと。そう理解している。
