布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん

健ちゃんが起き上がる気配で目覚めるが、まだ眠いのでそのまま身体を横たえていた。そのうち、健ちゃんがベッドサイドでタバコを吸い始める。寒いんじゃないかな、と思って暖房の電源を入れてやる。それから、掛け布団の下でもごもごとやり過ごしていた。健ちゃんが寝室を抜け出る気配がしても、放っておいた。どれくらい、そうしていただろうか。
「いい加減起きないの?」
「ん……今何時……」
「もうすぐお昼だよ」
時計を確認すれば、11時半より前だった。嘘吐きめ。より一層、掛け布団を丸め込んで包まる。健ちゃんの柔らかなため息が聞こえる。
「本当、朝弱いね?」
「健ちゃんも似たようなもんだろ」
「ボクは気圧低い時だけだよ」
どっちだっていい。朝は俺らの時間じゃない。仕事以外で早起きなんて、まっぴらだ。掛け布団が引っ張られて頭が外気に触れる。健ちゃんの呼気が耳にかかる。
「ボク、今日お洋服見に行きたいんだけど」
「…………」
そう耳打ちして、離れていく。それなら、起きないといけないな。健ちゃんはなに着てたって綺麗だけれど、彩りを俺が選んでもいいっていうなら、そんなに楽しいこともない。ま、俺がいいって言っても着てくれないことはザラにあるが。それは俺もだし、ご愛嬌。重たい頭を持ち上げ、上体を起こす。もう一度ベッドに倒れる。何回か繰り返して、結局転がり落ちるようにしてベッドを這い出る。トーストの焼ける匂いがする。
「バター塗っちゃっていい?」
「うん、ありがとう」
部屋が暗いので、カーテンを開ける。日の光が健ちゃんの白い素肌を透かすように差し込む。二の腕あたりを撫でる。滑らかでまるで陶磁器のよう。俺には与えられなかったもの。別に今更、持ち得ないことを嘆いたりしないけれど。俺の理想は健ちゃんが叶えているのだから、それでいい。健ちゃんは俺の手と指を一瞬絡めて、払った。
「紅茶は自分で淹れて?」
「……めんどくさいから、牛乳でいい」
冷蔵庫から牛乳を出して、コップに注ぐ。健ちゃんは彼のためにだけ家に置いてある、コーヒーマシンでコーヒーを淹れる。俺は淹れ方を知らない。なんか、好きなの選んでいいって言ったら随分高いやつを強請られた。まぁ、コーヒーマシンの相場もよく知らないけれど。
「いただきます」
健ちゃんがソファーに座って、トーストをかじる。倣うように、俺も食べ始める。静かだ。静寂のために28階に住んでるようなものだしな。
「今日、可愛い格好で出かけようよ」
「えぇ……あれ結構手間なんだよ」
健ちゃんは可愛い格好しないくせに……。化粧だってリップぐらいのもんだ。ユニセックスな服は俺も健ちゃんも好きだけど、健ちゃんは自分の心と齟齬の出る服は着ない。
「早く出かけたいんじゃないの」
「隼人がおめかしするなら待てるよ♡」
おねだりする時の、茶目っ気出した顔。機嫌良さそうにして。牛乳を飲み干して、ひとつ息を溢す。まぁ、いいか。やってあげても。
「1時間はかかるからね」
「やった~!!」
嬉しそうでご機嫌で可愛いから、頬に軽くキスを落とす。クローゼットの、ロリータとかゴシックが並んでいる場所に立つ。今日はゴシックの気分。黒地の生地に紫のレースをあしらったビクトリア・ブラウス、スパイラルスカート。コルセットを着けてエックス・ラインを意識する。脚は出したくないから厚手の黒タイツ履いて。手元はレースカフスで隠す。ドレスコートにケープレットを重ねれば、首の太さと肩幅を幾分誤魔化せる。メイクも手は抜かない。ファンデーションをいくら重ねたところで、健ちゃんには敵わないが。眉を整え、アイブロウを引く。目元は1番気を使う。アイラインとシャドウを念入りに。チークはあまり入れない、血色悪い方が今日の格好には合う。紫のリップを塗って、ふと爪先を見ると不恰好だから、マニキュアを取り出す。
「こだわるねぇ」
「言っただろ時間かかるって」
「急かしてないよ。褒めてる」
別に、女装が好きなわけではない。健ちゃんが喜ぶのと、やるからには完璧にこなしたいから、佇まいから化粧まで研究しているまでのこと。俺は完璧になりたい。完全になりたい。マニキュアを乾かしている間に、健ちゃんは着替え始める。今日はきれいめでパリッとした服にするらしい。俺が好む、しっかりめのファッションだ。爪が乾いたから、最後にウィッグを慎重につけて立ち上がる。健ちゃんが手を差し出すから、迷わずに取る。
「おまたせ」
「うん、今日も隼人かわいい♡」
「健ちゃんも綺麗だよ」
玄関先に向かって、健ちゃんがサングラスを忘れているのに気づいて、部屋に引き返す。テーブルの上に乱雑に置かれたそれを、健ちゃんにかけてあげる。
「ありがと、忘れてた」
サングラスで顔が隠れるのは残念な気もするけど、健ちゃんくらい綺麗なら丁度いいのかもしれない。どんな健ちゃんも俺は知っているし、不満はない。外に出たら、普段みたいには歩かない。淑やかに、ゆっくりと。
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