布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん
30歳になってから2ヶ月くらい経つのか。なんも変わんねぇ。体調も精神も、これといって。日付も変わる頃、今夜は遊びにも出ず、父さんと静かにニュースなんかを観ている。父さんは酒飲まないから、俺だけジュースみたいな度数低い酒をちまちま煽っていた。やがて、おやすみと父さんが部屋に引っ込む。珍しく早いな。俺は酒が残っているので、まだ居間にいる。タバコに火をつける。煙が肺に満ちて巡り、気管を通り抜けて口から出ていく。寿命を削られる感覚はあれど、酒とタバコはやめられない。なんでなんだろな。ニュースが高校野球について流し出す。少し、昔のことを思い出す。
今でこそ、顔が広いなんて言われるが。中高時代の友達なんて、国領と布田と、松ヶ谷先輩くらいしか残っていない。それだけ残ってるだけでも、幸せなことなんだろうが。国領との付き合いが、1番長い。なんで仲良くなったかは忘れたけど、中学1年生の時にクラスが一緒だった。俺も国領も、友達がいなかった。未だに不思議に思ったりもするが、国領は勉強が出来すぎて、俺は運動が出来すぎた。加えて、国領は多分友達なんて必要としてなかったと思う。それでも、国領は俺が隣にいることは許してくれた。
「なに解いてんだ?」
「三角関数」
「ほえー」
なんのこっちゃ、って思いながら、斜陽が差す教室で2人だけで過ごす時間があった。国領はテニス部だったが、何故か試合に出ないという条件で入部していて。俺はと言えば、野球は好きだったけれどメンバーを好きになれずによくサボっていた。サボったって、人より投げれてしまったし。今思えば、これが良くなかったんだろうな。2人して部活サボって、国領はずっと勉強をしていた。
「あ、いた柴崎くん」
決まって部活が始まってから40分くらいすると、松ヶ谷先輩が迎えに来て。迎えが来ると、しぶしぶ練習に出ていた。俺がいなくなっても、国領は帰るまで勉強を続けた。
中学2年生になると、いじめが目に見えて分かる形になった。匿名性の高い、陰湿なものが多かった。教科書隠されたり、グローブ隠されたり。上履きに画鋲入ってた時は、流石に身の危険を感じた。なんか球拾いしかさせてもらえなかったり。けれど試合になれば、みんな俺の左腕を頼るんだから酷い話だ。怖かった。誰が俺を嫌っていて、誰がこんな酷いことをするのか。見当がつかないことが。知ってしまうことが。怖くてたまらなかった。それでも野球は好きだった。
「どうしたらいいと思う?」
相談する先が、国領しかいなかった。国領は勉強をしながら、俺の話を聞いた。いじめの内容を、事細かく説明した気がする。国領は斜め上を見たあと、またノートに目を落として。
「野球部やめればいいんじゃないか?」
と。それだけ言った。俺が戸惑ったのを横目に見て、それでも手は止めずに続ける。
「いじめられたくないなら、それが合理的だろ」
なんて冷たい奴だ。そう思った。でもその冷たさが、俺の本音を暴いてくれた。俺は野球がしたかった。いじめられたって、やりたかった。合理的かは分からないが、思ったよりも心はシンプルだったんだ。
「俺、野球続ける」
「そうか」
「やっぱやりてぇもん」
「なら、そうしたらいい」
国領は、俺の決断を否定も肯定もせず。ただ、ノートに向き合っていた。国領がノートの内容を、俺に必死に説明し出したのは、もう少し先の話。けれど、国領は今だってあの頃と変わらず、ノートを書き続けている。息をするように、勉強をする。その作業の時間だけ、共有するのが心地がいいんだ。
野球を続けると決めたら、不思議といじめは減っていった。そのうちに3年生になったし、高校に入ったら全くなくなった。高校でも松ヶ谷先輩とバッテリー組んで、布田と出会って。そこからは、幸せなことばかりだ。恵まれた人生だと思う。両親にも、友達にも、オジキにも。感謝しかない。
(この先は?)
不意に投げられる影からの問いは、タバコと共に揉み消した。そろそろ寝るか。歯を磨き、トイレを済まして。消灯する。眠ることに困ったことはない。いつだって目を瞑れば、夢の中へ旅立てる。夢の中でも、俺は幸せでいられる。
今でこそ、顔が広いなんて言われるが。中高時代の友達なんて、国領と布田と、松ヶ谷先輩くらいしか残っていない。それだけ残ってるだけでも、幸せなことなんだろうが。国領との付き合いが、1番長い。なんで仲良くなったかは忘れたけど、中学1年生の時にクラスが一緒だった。俺も国領も、友達がいなかった。未だに不思議に思ったりもするが、国領は勉強が出来すぎて、俺は運動が出来すぎた。加えて、国領は多分友達なんて必要としてなかったと思う。それでも、国領は俺が隣にいることは許してくれた。
「なに解いてんだ?」
「三角関数」
「ほえー」
なんのこっちゃ、って思いながら、斜陽が差す教室で2人だけで過ごす時間があった。国領はテニス部だったが、何故か試合に出ないという条件で入部していて。俺はと言えば、野球は好きだったけれどメンバーを好きになれずによくサボっていた。サボったって、人より投げれてしまったし。今思えば、これが良くなかったんだろうな。2人して部活サボって、国領はずっと勉強をしていた。
「あ、いた柴崎くん」
決まって部活が始まってから40分くらいすると、松ヶ谷先輩が迎えに来て。迎えが来ると、しぶしぶ練習に出ていた。俺がいなくなっても、国領は帰るまで勉強を続けた。
中学2年生になると、いじめが目に見えて分かる形になった。匿名性の高い、陰湿なものが多かった。教科書隠されたり、グローブ隠されたり。上履きに画鋲入ってた時は、流石に身の危険を感じた。なんか球拾いしかさせてもらえなかったり。けれど試合になれば、みんな俺の左腕を頼るんだから酷い話だ。怖かった。誰が俺を嫌っていて、誰がこんな酷いことをするのか。見当がつかないことが。知ってしまうことが。怖くてたまらなかった。それでも野球は好きだった。
「どうしたらいいと思う?」
相談する先が、国領しかいなかった。国領は勉強をしながら、俺の話を聞いた。いじめの内容を、事細かく説明した気がする。国領は斜め上を見たあと、またノートに目を落として。
「野球部やめればいいんじゃないか?」
と。それだけ言った。俺が戸惑ったのを横目に見て、それでも手は止めずに続ける。
「いじめられたくないなら、それが合理的だろ」
なんて冷たい奴だ。そう思った。でもその冷たさが、俺の本音を暴いてくれた。俺は野球がしたかった。いじめられたって、やりたかった。合理的かは分からないが、思ったよりも心はシンプルだったんだ。
「俺、野球続ける」
「そうか」
「やっぱやりてぇもん」
「なら、そうしたらいい」
国領は、俺の決断を否定も肯定もせず。ただ、ノートに向き合っていた。国領がノートの内容を、俺に必死に説明し出したのは、もう少し先の話。けれど、国領は今だってあの頃と変わらず、ノートを書き続けている。息をするように、勉強をする。その作業の時間だけ、共有するのが心地がいいんだ。
野球を続けると決めたら、不思議といじめは減っていった。そのうちに3年生になったし、高校に入ったら全くなくなった。高校でも松ヶ谷先輩とバッテリー組んで、布田と出会って。そこからは、幸せなことばかりだ。恵まれた人生だと思う。両親にも、友達にも、オジキにも。感謝しかない。
(この先は?)
不意に投げられる影からの問いは、タバコと共に揉み消した。そろそろ寝るか。歯を磨き、トイレを済まして。消灯する。眠ることに困ったことはない。いつだって目を瞑れば、夢の中へ旅立てる。夢の中でも、俺は幸せでいられる。
