布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん

『今度の三連休、どこかで食事しませんか?いつでも構いません』
10日前くらい、唐木田からそうメールが来た。スケジュールと課題の進捗とにらめっこして、気分転換も兼ねて中日の日曜に会うことになった。無難に1週間こなして、土曜は課題を集中して進めて、日曜の朝。クローゼットの前で立ち尽くす。
(もういいかスーツで)
唐木田はものすごくオシャレなのだ。俺でも分かるくらいに。生憎、私服は極力最低限しか持っていない。組み合わせパターンもそんなにない。いつも結局、スーツなら問題ないかとスーツにしてしまう。普段はかけないアイロンをかける。
「よし」
メガネを外し、コンタクトをする。忘れ物を確認して、家を出る。待ち合わせの10分前には着けるはずだ。

「……おはよう」
「おはようございます」
一瞬、声をかけるのを戸惑った。唐木田はやはりオシャレで。なんて言ってたかな、確かトラッドだとかブリティッシュが特に好きだと言っていた。でも、唐木田は大抵の服はなんでも着こなす。身長は俺よりも低いんだが。いつも彼とつるんでる栗平より、だいぶ小さい。
「行きましょうか。僕が店選んでいいです?」
「任せる」
唐木田が歩き出すので、恐れ多くも隣に並ぶ。街は人でごった返している。唐木田が路地を曲がる。唐木田はとても姿勢が良く、かと言って胸を張りすぎるような嫌味もなく、スマートに颯爽と歩く。
「ここでいいですか?」
「…………うん!」
めっちゃ高そうな店だが?けど、後輩の前で持ち合わせが心許ないなんて言えるわけもなく。入店する。最悪、カード切ろう。少し混んでいて、カウンターしかないという。唐木田がそれでいいと言うので、カウンターに横並びで座る。メニューを開いたら、思ったよりもリーズナブルで驚く。よく店知ってんだなぁ。
「ついこの前出てた「蚊が人の周りを周回した時に最も命を落とすタイミングと、諦めて離れるタイミングの関係性について」って論文、読んだか?」
「すいません、気にはなっていたんですが中国語だったので……まだ読めてません」
「俺の翻訳でよければ、送ろうか?」
「拝読したいです。よろしくお願いします」
唐木田とは、布田の紹介で出会った。唐木田は布田の会社の歳下先輩だ。医療機器メーカーの開発部で、発案もするし図面も引けるらしい。なんでだか知らないが、俺みたいのに懐いていて(多分)、たまに連絡が来ると食事に行ったり、一緒に本屋に行ったりする仲だ。
「昼から飲みます?」
「んーこのあと本屋行きたいしな……アルコール入ってると判断力下がるから」
「たしかに。絶対買いすぎますよね」
けどま、酒は飲みたいのでノンアルのビールを注文する。飯はなににするか。デミグラスのハンバーグ定食にすることにした。唐木田は唐揚げ南蛮の定食。料理が来るまで、好きな話をする。最近のニュースのこととか、最近知って驚いたこととか。あとは柴崎の愚痴。唐木田は俺の話によく耳を傾けてくれて、とても合理的な意見を言う。そういうところの価値観が近い。唐木田の声は低くて落ち着いているので、俺が語るよりも説得力がある気がする。
「お待たせしました、こちらハンバーグ定食です」
店員が料理を俺の前に置く。どうでもいいが、こういう時に店員に話を遮られるのが苦手だったりする。
「いただきます」
2人で食べ始める。さっきより会話は減るが、意見の交換をしながら。唐木田は食べるスピードが遅いので、唐木田が食べ終わる前に俺の膳は下げられた。ノンアルのビールを飲む。やっぱなんか物足りないというか、こう。風味が。
「ああ、そうだ」
「ちょっと待て」
唐木田がなにかを思い出して、こちらを向く。口の周りが汚れていたので、紙ナプキンで拭いてやった。唐木田は、ちょっと食べるのが下手くそなんだよな。唐木田は大きな瞳を少し見開いたあと、お冷を口に運ぶ。
「すみません、ありがとうございます」
唐木田がああそうだのあとを、言うことはなかった。食べ終えてから、真っ直ぐ大型書店に向かう。予算決めておかねぇと。
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