布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん

朝から、なにか我慢してるなーとは思ってた。あんまり細やかにケアすると、年寄り扱いするなと怒られてしまうので、とりあえず言い出すまで様子見てたんだけど。お昼になり、明らかに食事が進んでないのを見てたまらず声をかける。
「オジキ、どっか痛いか?」
「……歯が痛い」
「歯かぁ」
そりゃ食べ辛いし、しんどいわな。唐揚げ定食をお粥とかに出来ればいいが、俺には無理だし。まつたけのお吸い物とかなら、飲めそうか?一度キッチンに行き、お湯注ぐだけのものをあれこれ出す。カップスープとかでもいいな。
「オジキ、お吸い物とカップスープ」
「…………吸い物」
お吸い物の粉末をスープマグに落とし、ポットのお湯を注いで持っていってやる。オジキは相当痛いらしく、しょぼくれた顔で受け取って、本当にちまちまと飲んだ。午後は、特に会議とかなかったはずだ。
「オジキ、杉田さんとこ行こうな」
「……医者は嫌だ」
「杉田さんとこならマシだろ?」
「むむぅ」
実のところ、検診もすっぽかしていて杉田さんからも連れて来いって言われてる(布田経由で)。オジキの携帯を拝借し、杉田歯科医院に電話をかける。程なくして、のんびりとした杉田さんの声が聞こえる。
「柴崎です、お世話になってます。はい、まぁぼちぼち」
「それでさ、オジキが歯ぁ痛いって言ってんだけど……うん」
「いや、布田は俺が引き取るんで……はい、15時から」
「……多分オジキの治療終わるまで待つと思いますよ、布田は」
「そんな心配しなくて大丈夫ですって。オジキ結構痛そうなんで診てあげてください」
「はい、よろしくお願いします。じゃ」
布田が15時から来るからって断られるとこだった。いやまぁ……布田を気遣ってくれる大人がいるのはいいことだけど(俺たちもそろそろいい大人だが)。布田には親いねぇしな。俺とか国領みたいに、とはいかないのかもしれない。オジキを見ると、お吸い物を飲むのはやめて、腕を組んで目を瞑っている。
「オジキ、15時に歯医者予約取れたから。それまで寝とくか?」
「うん」
オジキの手を引き、寝室まで連れていってやる。ベッドに寝かせて掛け布団しっかりかけてやり、寝室を離れる。さて、14時半くらいまで郵便物の整理でもしておくか。

時間になり、オジキを連れて杉田歯科医院へ。専用の駐車場がなくて、コインパーキングからもちょっと離れてるのが難点。今日は風あって寒いし、オジキも歯が痛いせいでいつも以上に歩くのが遅い。
「オジキ、おぶっていくわ」
「ん」
オジキをおぶって、寂れた商店街を歩いていく。潰れた古書店の脇の、階段を上がって杉田歯科医院へ。ここ、階段も急だからお年寄りには辛いんだよな。杉田さん夫妻はよくあの歳で毎日ここ登ってるもんだ。入り口を潜ると、呼び鈴が鳴る。レトロで響きのいい音色。
「あらまぁ高倉くん、いいねぇ柴崎くんに運んでもらって」
いつもならオジキは照れ臭くて言い返すんだろうが、今日は静かだ。オジキをゆっくり床に下ろす。珍しく黙って診察台に自分から向かったので、杉田さんは頷きながら追いかける。
「相当痛いんだねぇ。どっち側?」
「右奥」
俺は待合のソファーに腰掛けて待つ。杉田さんの奥さんが、お茶を淹れてくれたのでもらう。しばらくお茶を飲んでぼんやりしていたら、呼び鈴がまた鳴る。布田は俺を見つけると、少し混乱した顔をして室内を見回した。
「…………オジキの治療?」
「そ。ちょっと急患でさ」
「そっか……」
布田はコートを脱ぎながら、俺の横に座った。奥さんから同じようにお茶をもらい、啜る。見るからに、ちょっとご機嫌ななめ。
「終わったらすぐ帰るからさ。ちょっと待てって」
「……別に、邪魔なんて言ってないけど」
「でも、杉田さんと話したかったんだろ?」
布田は素直に頷く。たまにものすごく子供っぽくて、可愛いと思う。肩をポンポンと叩いてやる。
「俺も話聞くぜ?なんだって」
「うん、今はいい」
「……杉田さんに話せて、俺には話せないってこと、あるのか?」
「…………そりゃ、あるさ」
「そっか」
別に構わないし、当たり前のことと思う。話したくないなら聞かないし、詮索したりしない。2人で静かにお茶を飲み、治療が終わるのを待った。ゆったりで少し眠い。ソファーでうとうと船を漕ぐ。布田に押し返されて、体勢を戻す。それを何度か繰り返した。鳩時計が鳴いたのを聞いて、それからしばらくして。
「終わったよー」
杉田さんの声で目覚める。伸びをして肩を回す。湯呑みを奥さんに返して、帰り支度。
「ありがとうございました!」
頭を下げて、杉田歯科医院を後にする。下りのが人を背負ってると怖い。慎重に下りた。
「布田は置いてきてよかったのか」
オジキがそんなことを聞く。
「大丈夫だよ」
俺がいなくたって、布田はちゃんと立っていられるよ。
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