布田くんはたまにめんどくさくて国領くんはクソ真面目、柴崎くんはちゃらんぽらん

またやってしまった。1人だと自分を保てなくなるのは何回目なんだろう。柴崎も国領も俺の側に居続けてくれるけれど、それはきっと奇跡に近いものなのだと、幼い自分が冷たい口調でずっと告げている。お前は愛されないと、あの日の母がずっと怒鳴っている。いい加減、しんどい。死にたくはならない、ただただ、苦しくて沈むだけ。暗い水の底でなんとか呼吸を手伝ってくれるのは、大好きな祖母の、残していったぬくもり。
「布田、着いたぞ」
柴崎の眠そうな声が、俺を呼ぶ。アイマスクを外すと、思った以上に柴崎の顔が近くて驚く。柴崎は俺と目を合わすと笑って、大欠伸しながら離れていく。
「俺、寝てていい?」
「……うん、ありがとう」
ごめんな。柴崎はシートを倒すと、ハンドルに足をかけて寝始めた。ぼやけた思考で、海を見つめる。真っ暗で、なにも見えはしない。細い弓張月の光が、心許なく海面を照らしてはいるが。それなら、星はよく見えるだろうか。車を降りて、一歩、二歩、波打ち際に近づく。星は都会にいるよりはずっと綺麗に、たくさん見つけられた。自分が暗闇にいても、何光年先から届けられる光は、逃さずに掴みたいと思う。
「あんま、そっち行くと危ねぇと思うけど」
声に車を振り返れば、柴崎も車を降りてきて俺の隣に来る。
「寝てたんじゃないの?」
「いや、布田降りたの分かって心配で起きてきた」
あぁ、ごめん。ごめんなさい。ちゃんと伝えられないこと、仄暗い喜びを覚えること。全部胸に閉じ込めて、いつまでも口には出来ないこと。柴崎は知っているのだろうか。知ってても知らなくても、おそらく結果は変わらない。柴崎は柴崎だ。俺のせいで曇ることは、ない。
「寒くねぇ?」
「……俺は別に」
「ふーん、ならいいけどよ」
柴崎は夜空を見上げる。柴崎の瞳に星が降りて、どんな光を届けているだろう。俺は一等星にはなれないが、ちゃんと拾ってはくれるだろうか。そんなことを、心配する必要などないはずなのに。今だって、隣にいるのだから。
「国領いたら、あれこれ星の話聞けるんだけどなー」
「あいつは柴崎と違って、星座見つけられないだろ」
「まぁそうなんだけどよー」
柴崎はオリオン座を指差し確認して、北極星を見つけて嬉しそうにしている。隣にいてもいいかなと、思わせてくれる。甘えてもいいかなと、つい甘えが出る。
「日の出までまだ少し時間あるから、寝ておこうぜ」
「…………うん」
車に戻る。波の音に後ろ髪を引かれる。振り向かない。そこにあるのは暗闇だけだから。車は俺には窮屈だが、家で眠るよりは安心出来た。柴崎のいびきが聞こえだす。心の安まりを感じながら、意識を手放す。祖母が俺に微笑みかけた気がして、じんわり胸を焦がした。貴方は今の俺を見て、まだ可愛いと抱きしめてくれますか。
11/45ページ
スキ