短編

陽が落ちるのが早くなる。空が、貴方の色に染まっている時間が減る。もう冬眠か。アンタークはもう起きたのか?周りをご覧、きっと心配りするにたり得るもの。そんな輝かしいものばかりが転がっているから。あんたの口癖。疲れるから、たまにしかやんねーよ。でも今日は、フォスフォフィライトに声かけてやったし、ルチル助けたし。双晶アメスシストと意見交換した。もう、眠ったっていいだろ?あぁ、そういえば。あんたは冬眠もろくにしなかったな。

パライバトルマリンが生まれたのは、アンタークチサイトが生まれたのと同じ年だ。誰とペアを組ませるか、先生はあれこれ悩んでいたが、結局のところはパライバとアンタークが組むことになった。アンタークは冬にしか活動出来ない。だから、パライバもほとんど冬は起きていた。というか、寝ようとしてなかったと聞く。光が少ない図書室で、朝の僅かな時間だけ本を読むのが日課で、流氷割りはアンタークの方が上手くて、手際が素晴らしいので見惚れてしまう。帰ってからは、アンタークがイラつくまで語らいをやめなかった。パライバは、誰かと喋りたくて仕方ない石だった。ここまで、俺がパライバ本人から聞いた話だ。

「ゴーシェの右腕がくっつかない?」
それはまだ俺たちがギリ若者扱いされる年。ルチルが首を傾げながら、ゴーシェナイトの右腕を見つめ撫でる。ゴーシェはといえば、不安そうに視線を揺らして、俺と目が合うと窓の外を見た。俺はルチルに向き直る。
「…………もうぜってぇくっつかねぇの?」
「そんなことはありません。ただ、インクルージョンの疲労に左右されてるだけかと思われます……最近、襲撃も多かったことですし、ゴーシェナイトには少し長めの休養を提案します」
確認するように、ルチルがゴーシェナイトを見る。ゴーシェは俺を見る。
「えっなんだよ。しょーがねぇじゃん。休んでおけよ」
「でも……君が1人になるし、1人じゃ見回りも出来ないでしょ。退屈なの、嫌いじゃない」
「そんな嫌いとか、言ってる場合じゃないだろ……」
ゴーシェは、いろんな心配事を勝手に集めてきて、自分のことのように考える。そういうところが、いいとは思うけど。今は、自分の心配をする時間だろ。
「やれやれ、小雨の降る夕刻は優雅だね」
医務室に、パライバが入ってきた。パライバの声は、静かに空気を切り裂くような強さがあり、耳に届くと少しピリッとする。パライバは、辺りを見渡して、そうかそうかと声をあげた。
「ゴーシェナイトが戦闘に出られそうもない。ルチルは長期休養を提案、モルガナイトのことがあり、ゴーシェナイトは否定的である…………ここまで、推察は合っているかな?」
「流石パライバ、お見事です」
ルチルが拍手すると、パライバは頬を染めてゆっくり笑顔を作った。身体の周りにパチパチと静電気が走っている。この電気がパライバの賢さの元なのだと、金剛先生はおっしゃっていた。
「そうだねぇ。回答はシンプルにいこう。モルガ、しばらくは俺と組まないか?」
「え、えー?パライバと俺が?」
「あぶれている石は、今のところ俺くらいなもんだからな。俺が見回りに出れれば、ゴーシェナイトが空けた穴は埋まるだろ?」
「ま、まぁ。そうだけどよー」
「安心しろ、上手くやる。案ずるよりもってやつさ」
パライバはルチルに、先生に許可を取ってくると声をかけて、部屋を出ていった。

朝礼のあと、無意識にゴーシェナイトを探していたら、パライバがネオンブルーの髪を靡かせ、つま先から踏み出す変わった歩き方で、俺のところへ来る。
「こん!ご機嫌いかがかな?」
こん!ってのは、パライバがよく使うあいさつ。
「…………なんか、若干緊張してる」
「よしよし、素直で正直。直すことなかれ」
パライバはよ分からないことを、口籠もるようにして言っている。大事なことははっきり言う、というかうるさいレベルだ。だから、口籠ったことまでは、訊ねない。
「さて、出かけようか。見回りだね」
パライバが帯刀する。なんだか可笑しかった。なんか思いっきり刀に拒絶されてるみたいで、似合わない。俺は少し緊張を解いて、パライバと一緒に歩き出した。
「モルガ、君は俺が思ってるよりも周りが見えているねぇ」
「あ?なんだよそれ」
雲が流れて、太陽を隠す。熱を覚ますような風が吹く。自分の身体がピリッとする感覚。この感覚を引き起こしているのが、目の前にいるパライバトルマリンだと分かっている。だから、遮らなかった。
「知る力があるということは、話すか話さないかの自由があるということ」
「だからなんのことだって」
「モルガ。出来ることなら、みんなにもっと心配りをしてご覧」
俺はついには眉を寄せた。パライバは眉を下げ、困ったように笑う。そのせいで、今の話が法螺話でないと信じてしまいそうだ。
「モルガ、君は視野が広いから。きっと強くなれる」
雲間が切れて、太陽が丘を照らし出す。パライバは黙って俺の先を歩き、また思い出したようにくだらない話を話した。聞き流しながら、ずいぶん博識な奴だなにか仕掛けがあるのか?と気になって。夜にでもルチルに聞きにいこうと思った。

「トルマリン属はみな、生まれつき電気を身体に纏って生まれる、特異体質です。パライバの場合は私たちの理解には及びませんが、電気を操ることで思考を加速させているようです」
そんな話を聞いて、だからたまにピリッとかパチってすんのかって、大雑把に理解した。パライバと組んで1年くらい経つ。今度の冬眠も、アンタークと起きてんのかな。大丈夫なのかそれ?俺と組んで、だいぶハードに働いた。……それでも、眠りそうにないなあいつ。仕方ねぇな、今年は俺も冬眠、ちょこっと起きててやろうか。
「こん。機嫌は良いみたいだが、中断してくれたまえ」
パライバの声で空を見上げる。黒点がひとつ、広がって月人を呼んでくる。溢れて出た月人のたくさんの目が、俺たちを捕らえる。抜け出すように抜刀して、夥しい数の矢を捌く。調子いいな、と思った瞬間。大物の槍で太ももを貫かれた。一気にバランスを崩し、砕ける身体。あ、ダメだ。そう思った途端、ゴーシェナイトのことを思い返すのをきっかけに、あれやこれやくだらなかったことを思い出す。ルチルがパズルをしていてカチコチと音がしてたこと、イエローダイヤモンドが雨の日は窓の外ばかり見ていること、ジェードが掃き掃除をしてる時は、数日間平和が続いてる証。みんなみんな、愛しかった。気付いてたなら、声をかければよかったかもしれない。
「モルガナイト!!」
パライバの声でパチっと視界が戻る。パライバは剣を振りかざして、俺が倒れている場所を足場ごと切り落とし、俺を地上に着地させた。それに群がる月人と、ひとりで戦い続ける。猛襲に足も手も引き剥がされ、崩れ砕かれていく。今度は俺が叫ぶ番だ。叫んだら?俺にまた矛先が戻って、2人で月行き?絶望がひんやりと頭を冷やした時、パライバはしーってジェスチャーを送った。柔らかな微笑みに、喉の奥がつかえた気がする。
「待って、」
パライバを回収して、月人は撤退していく。途端、俺の耳元でバチバチと音がして。小さな囁きが再生される。
(いっぱい言いたいことがあるな。だが、まぁ。みんなみんな、愛していたよ。アンタークに、よろしく)
これを持ち帰るのが、今日の俺の仕事。今日の俺の後悔。脚は動かないけど身体を起こす。名指しされたのがアンタークだったことに、何故か心に曇りを覚えた。あぁ、そっか。俺、パライバのこと、結構好きだったんだよな。ウザいくらい喋り続ける、俺のパートナーのこと。

その後の冬眠明け、ゴーシェナイトは右腕がちゃんとくっついて、俺の元へ戻ってきた。ゴーシェは変わらず優しくて、同族だからやりやすいし、どこにもいかないって安心感があった。あの日みたいなことがあれば、一緒に月に飛ぶような、そんな気がしてる。そんなこと言ったら、「やめてね」って困ったように笑うだろうな。パライバ、あんた俺のことよく見てたよ。あんたと組んでから、世界がほんの少しクリアになって、話す言葉、選べるようになった。
「いい天気だね」
ゴーシェが笑う。穏やかなそよ風が吹いている。どこまでも澄んで広がる空に、パライバがいるんじゃないかなんて探す。もうちょっと、深い色だったかな。まったく、パートナー降りてからもずっと側にいるなんて、あんたらしいわがままだ。
「いい天気のままならいいなぁ」
ゴーシェが丸い目をしている。珍しく、俺が弱音吐いたから。
「そうだねぇ」
それでも、ゴーシェは俺を受け止めて笑うだけだった。これが、信頼ってやつなんだろ。空に問いかける。返事のように一粒の滴が落ちてきて、天気雨になる。いい天気だって言ったじゃねぇかよ!ほんと、空はパライバなんじゃねぇの?俺は可笑しくて声も殺せず笑った。不思議そうにしてるゴーシェの肩に触れた。2人して、笑いながら学校に帰った。日暮れには満足したように、雨は降り止んだ。
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