本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
名前/弓場拓磨
「拓磨」
「なんだ」
「呼んだだけ」
「あァ?」
生まれてから、ずっと一緒の幼馴染の、呼び慣れている、けれど飽きることはない名前を呼ぶ。随分背丈は越されたけれど、変わらず隣にいてくれるのに安心する。疑いもしない。多分これから先も一緒だ。
「寂しいなら寂しいって言えや」
上からヘッドロックをかけられる。ゲラゲラ笑いながら、腕を叩く。解放されて、顔を見合わせる。鏡のように笑ってくれる君がいる。
「で?なんだよ」
「マジで呼んだだけ」
「なんだそりゃ」
呆れた笑いに変わる。優しさも含まれる、その笑顔が好きだった。
「ノリ」
「なに」
「呼んだだけだァ」
また顔を見合わせて笑う。こんな日々がずっと続けばいいと思う。そのためなら、戦うことも厭わない。自分の半身と呼べる友がいることを、俺は誇りに思ってる。
煙草を吸う予定/弓場拓磨
「拓磨はさ、煙草吸う?」
「あァ?そうだなァ」
深くは考えてなかった。大して憧れもないが、喫煙室でのコミニュケーションにはちょっと興味がある。どうせ俺が吸ったらこいつも吸うんだろうし。
「俺が吸ったら、お前も吸うんだろ?」
「そうそう」
にへら、と笑うこいつには、いつも毒気を抜かれる。一緒にいて、ここまで穏やかな気分になる奴はいない。
「煙草、憧れはあんだけど、声変わるかなーって迷って。だから、拓磨が吸うなら吸うわ」
全然、理屈通ってないが。可笑しくなって、ふっと笑った。いつも、俺の隣で、俺の真似をして、それでいて全く違う男。
「吸う時は言うわ」
「おう。吸う時は一緒な」
約束、と小指を差し出される。容易く結ぶ。ふと、お前が隣から消える想像をする。ぞっと背筋が冷える。でも、本当のところこいつは、1番大事なことは自分で決められるし、勝手に俺を置いていくことは分かっている。けれど、置いていかないでなんて、ダサくて言えねぇだろうが。
「拓磨?」
「なんでもねェ」
せめて、どんな変化も見逃さないように。こいつが歩き出す時、ちゃんと追いかけられるように。お前のことを、俺はしっかり見ている。
絶好の昼寝場所/当真勇
天気がいいので、ボーダーの屋上で昼寝でもしようと上がってきたら、先客がいた。
「よぉ当真」
「ノリさん」
当真は気怠げに片腕を挙げて返事をする。なんとなしに隣に座る。そうして、真似るように寝転んだ。空が高い。雲が流れていく。
「こんなとこで昼寝?悪い子だね、ノリさん」
「お前も同罪だろ〜」
「俺は元々悪い子だからいいんだよ」
「なんだそりゃ」
陽射しが当たるところが暖かくて、暑いくらい。吹き抜ける風が心地よい。
「ノリさんが悪いことしてるって思うと、なんかドキドキすんな?」
「意味が分からないんですけど」
別に俺は聖人君子じゃない。いい子ちゃんは演じない。俺がいい子に見えるとすれば、実際いい子ってことなんだろうけど。そんな評価にはこだわらない。
「当真はなんでこんなとこで昼寝すんの」
「俺?俺はさー」
2人して同じ空の、違う雲を眺める。
「自分のテリトリーで仕事サボってんのが、なんか快感ってか落ち着くんだわ」
「ほぉん」
まぁ近界民が来ればここは戦場だしな。当真なりの美学があるんだろう。眠くなってきた。俺があくびをすると、当真にうつる。2人して、会話もそこそこに微睡んで過ごした。
仕事終わりのラーメン/生駒達人
深夜帯の任務の一つ前のコマ、防衛任務を終えて本部に帰ってきた。肩を回して、身体をほぐす。
「あっ生駒っち!」
今日は太刀川隊が他の区画を担当していたらしく、宜嗣とすれ違う。ぶんぶん手を振りながら、こちらにやってくる様は、犬みたいやなぁと思う。
「おぉノリ。お疲れさん」
「お疲れ!今からラーメン食いに行こうぜ!」
「今から!?」
日付はとうに跨いでいる時刻。今からそんな重いもん食うんか?
「太りますやん……??」
「えーだって腹減って寝られねぇもん」
「マジで?自分カービィはんか?」
「そんな食ってねぇよ?」
いやいや。そういえば宜嗣はいつもよく食べるよなぁと思い起こす。美味そうに食うんよなぁ。
「トリオン使ったら腹減るじゃん。働いた分食わねぇと!」
にかっと笑う顔を見ていたら、なんや自分も腹が減った気になってきた。
「そやな。行こか!」
「よっしゃ!奢るわ」
「ええんですか先輩!?」
「ええよええよー」
俺に釣られて、出鱈目な関西弁を使うとこがかわええ。ほな、犬ちゃんみたいなカービィはんと、夜泣きラーメンと洒落込むか。
些細なことでも/弓場拓磨
「最近どうなんだお前」
「最近?」
ふらりと立ち寄ったカフェで休憩中。お前はいつも通り、でかいサイズのアイスティーを飲む。ガムシロップはひとつだけいれる。ストローはほんの少し噛む。
「いつも通りだよ」
何気ない調子で答える。いつもの通りの、詳細がこっちは知りてぇんだが。
「配信は」
「あー配信は最近ちょっと人増えた」
訊けば答えるが、訊くまでこいつはなにも語らない。自分から話す時は、よっぽど機嫌がいい時だけ。……些細なことでも、把握しておきたいと思うようになったのはいつからだったか。
「人増えるの嬉しいけど、コメント捌くのが大変なんだよな」
「あんま無理すんなよ」
「しないよ」
お前はふんわりと笑う。楽しい時でも辛い時でも、同じように笑うから、俺は安心することが出来ない。ちゃんと見極めてやらなきゃと思う。
「拓磨は最近どうなの?」
「俺は、」
お前のこと考える時間が増えているのを、見ないフリをしてる。言えるわけがねぇけど。呑気にアイスティーを飲んでる姿を見ると、なんでこうなっちまったかなと、自分を後ろめたくもなる。確実に渇いていく心に、いつまで耐えられるのか、自分に自信がなかった。
飲めないコーヒー/弓場拓磨
「カフェラテ、ひと口頂戴」
「?飲めねぇだろぉ、お前」
急に恨めしそうに俺のカップを見るので、少しびっくりする。宜嗣はコーヒーが飲めないから、紅茶党だ。今だって、宜嗣の手には紅茶が入ったカップがある。
「ちょっと飲んでみたい」
「前もダメだっただろ」
「飲めるようになってるかもしれないじゃん」
ね?と首を傾げられる。いちいち可愛いのがムカつく。俺とお前は身長差があんだから、必然とお前は上目遣いになるんだよ。分かってんのか?
「ひと口だけ!ひと口だけでいいから!」
「はいはい分かった」
別にお前にならいくらでもやるよ。カップを交換してやる。別に駄賃というわけでもないが、俺もひと口紅茶を飲む。宜嗣は、じっとカフェラテを睨みつけたあと、意を決してひと口飲んだ。途端に渋い顔をする。
「うぇ」
「ほらみろ」
「ダメだった」
カップが返却される。宜嗣は口直しとばかりに紅茶を飲んだ。カフェラテを口にする。そんな苦いか?これ。平気な顔で、飲み続ける。宜嗣が信じられないものを見る目で俺を見るので、思わず笑ってしまう。
「あ!笑うなよ!苦いじゃんだって」
「いやぁ苦くねぇよこれは」
「苦い!苦いもん!」
ふいっと視線を逸らし、不貞腐れて紅茶を飲むので、頬の緩みが抑えられない。可愛いぞって言ったら、まぁ怒るだろうな。
失敗した/弓場拓磨
「…………勉強、終わった?」
「まだだァ」
「そっか〜」
完全にしくった。勉強が終わったらすぐ遊べるように、宜嗣を部屋に呼んだ。思ったより手こずってしまい、終わらない。宜嗣が気になって気が散る。宜嗣が邪魔をしてこないのが逆に辛い。いい奴だなぁお前は。
「なんの勉強してるの?」
「日本史のレポートまとめてる」
「そうなんだ」
生物とかだったら、少し興味持って覗きに来ただろうか。そんな不純な理由で専攻変えるわけもないが。黙って待っている宜嗣の優しさが刺さる。刺さってかえって気が散る。詰んだ。いっそ気晴らしに少し遊ぶか。
「宜嗣、……!!」
振り返って声をかけるが、宜嗣は俺のベッドで昼寝を始めていた。まぁそうだよな。お前はよく寝る奴だもんな。うん。
(……終わらせるかァ)
長くため息を吐き、集中力を取り戻す。とりあえず、宜嗣は逃げねぇし。さっさと終わらせて、飯食いに行こう。気持ちを切り替えたら、嘘のようにすんなりレポートは終わった。枕元に立ち、宜嗣の寝顔を見つめる。まつ毛長ぇなこいつ。
(………………)
徐にスマホを取り出し、黙って宜嗣を撮る。何事もなかったかのように、宜嗣の肩を叩く。
「ん、終わった?」
「あぁ」
「お疲れ様〜」
ゆるりと笑うので、力が抜ける。後ろめたさを忘れて、これからこいつと飯を食いに行く。
相合傘/弓場拓磨
外に出ると、土砂降りの雨。さっきまで降っていなかったのに。別に折り畳みぐらいあるが。こういう時、昔の話を思い出す。まだ帰り道がいつも一緒だった頃の、最強だった2人のこと。
『げ、傘忘れた』
下駄箱で降り出した雨を睨み、宜嗣は立ちすくんだ。俺はランドセルに入っていた折り畳み傘を出す。
『今日は降るって言ってただろォ』
『えー聞いてないよ』
『マヌケ』
ケラケラ笑えば、お前はむくれた。言い返しもしないところが意地らしかった。
『おら、入れてやるよ』
『……お邪魔しまーす』
2人でひとつの傘を半分こ、俺は右肩を濡らして、お前は左肩を濡らした。そのうち、雨足は強くなる。
『わっすご……』
『ノリ、これ持て』
傘を押し付けて、1人で濡れた。どちらか1人でも濡れない方がマシと思った。
『え、なんで。拓磨の傘じゃん』
『どっちかだけでも濡れねーからいいだろ』
『よ、よくない!そんなら俺も濡れる』
宜嗣は傘を閉じて、俺に突き返した。お互い、あっという間にびしょ濡れになる。それだけのことが、可笑しくなって笑い合う。転げ回るように、走って家まで帰った。
『バカだなぁ、お前』
『拓磨もバカでしょ!』
……今は相合傘をするなんて、そんなタイミングはない。今はあいつも、傘忘れるなんてないだろうし。野郎2人で相合傘なんて、狭くて仕方ない。けど、そんな時があったら、今でも一緒に濡れてくれるだろうか。
君宛てのラブレター
「あのっこれ弓場くんに渡してくれませんか……?」
「……拓磨にぃ?」
顔に出たと思う。すっごく嫌だ。でも突き放すことも出来なくて、渋々受け取ると、逃げるように女の子はどこかへ行った。ラブレターはシンプルな薄ピンクの封筒に入っていて、ハートのシールで封がしてある。裏も表もマジマジと見る。中身は見えないけど。どうしようかな、これ。
(なんでこんなにモヤモヤすんだ?)
自分の気持ちの変化を疑問に思う。モヤモヤの原因を探る。第一に、渡してきた女が好みじゃない。これは俺の話だけど。拓磨の彼女になったとして、仲良く出来そうにない。そもそも、ラブレターなら直接渡せばいい。タイマン張れない奴は信用ならない。第二に、このラブレターの文章が確認出来ないから。ちゃんとグッとくるような文章なんだろうか。文章が汚い奴に拓磨はやれない。やりたくない。そこまで考えて、第三に。拓磨が俺といる時間を取られるのが嫌だ。拓磨の中の優先順位が変わるのが嫌だ。ラブレターを渡すのはやめよう。…………それはちょっと、独断すぎるか。そもそも、この子と拓磨が付き合うって決まったわけじゃないし、決めるのは拓磨だし。親友だからって、そんなこと勝手にしちゃダメだよな。うん。手紙を持って、弓場隊作戦室に向かう。何も言わずに渡せばいい。選ぶわけないって、大丈夫。
メガネ選び/弓場拓磨
お互いメガネのフレームが古くなってきたので、一緒にメガネを買いに来た。久々に2人で街中まで来たので、ドキドキする。こいつはそんなこと知りもしないんだろうけど、腕を大きく振って歩くのを見るに、ご機嫌なんだろう。メガネ屋に到着して、あれこれ試しにかけてみる。宜嗣はフチに色がついてるやつが似合う。
「拓磨はいいよな〜細いのも太いのも合うから」
「そうか?」
「どれ勧めたらいいのか、迷う」
自分のじゃなくて俺のを先に探していることに、なんとなく優越感というか、フワフワした心地になる。俺も宜嗣にかけて欲しいメガネを探す。丸めでレンズが大きめの、赤いメガネを渡してみる。
「んーこういうのは俺、可愛くなっちゃうからなー」
宜嗣が試しにかけて、こちらを向く。
「……それ、どういう顔?」
可愛くていいんじゃないですかって顔です。言えねぇけど。お茶を濁しているうちに、赤いメガネは返される。
「俺、拓磨には青いメガネして欲し〜」
細身の濃い青のメガネを渡される。試しにかける。満足そうにお前が笑うので。
「それはどういう顔だァ」
「クールでカッコいいねって顔!」
これにします。
「拓磨」
「なんだ」
「呼んだだけ」
「あァ?」
生まれてから、ずっと一緒の幼馴染の、呼び慣れている、けれど飽きることはない名前を呼ぶ。随分背丈は越されたけれど、変わらず隣にいてくれるのに安心する。疑いもしない。多分これから先も一緒だ。
「寂しいなら寂しいって言えや」
上からヘッドロックをかけられる。ゲラゲラ笑いながら、腕を叩く。解放されて、顔を見合わせる。鏡のように笑ってくれる君がいる。
「で?なんだよ」
「マジで呼んだだけ」
「なんだそりゃ」
呆れた笑いに変わる。優しさも含まれる、その笑顔が好きだった。
「ノリ」
「なに」
「呼んだだけだァ」
また顔を見合わせて笑う。こんな日々がずっと続けばいいと思う。そのためなら、戦うことも厭わない。自分の半身と呼べる友がいることを、俺は誇りに思ってる。
煙草を吸う予定/弓場拓磨
「拓磨はさ、煙草吸う?」
「あァ?そうだなァ」
深くは考えてなかった。大して憧れもないが、喫煙室でのコミニュケーションにはちょっと興味がある。どうせ俺が吸ったらこいつも吸うんだろうし。
「俺が吸ったら、お前も吸うんだろ?」
「そうそう」
にへら、と笑うこいつには、いつも毒気を抜かれる。一緒にいて、ここまで穏やかな気分になる奴はいない。
「煙草、憧れはあんだけど、声変わるかなーって迷って。だから、拓磨が吸うなら吸うわ」
全然、理屈通ってないが。可笑しくなって、ふっと笑った。いつも、俺の隣で、俺の真似をして、それでいて全く違う男。
「吸う時は言うわ」
「おう。吸う時は一緒な」
約束、と小指を差し出される。容易く結ぶ。ふと、お前が隣から消える想像をする。ぞっと背筋が冷える。でも、本当のところこいつは、1番大事なことは自分で決められるし、勝手に俺を置いていくことは分かっている。けれど、置いていかないでなんて、ダサくて言えねぇだろうが。
「拓磨?」
「なんでもねェ」
せめて、どんな変化も見逃さないように。こいつが歩き出す時、ちゃんと追いかけられるように。お前のことを、俺はしっかり見ている。
絶好の昼寝場所/当真勇
天気がいいので、ボーダーの屋上で昼寝でもしようと上がってきたら、先客がいた。
「よぉ当真」
「ノリさん」
当真は気怠げに片腕を挙げて返事をする。なんとなしに隣に座る。そうして、真似るように寝転んだ。空が高い。雲が流れていく。
「こんなとこで昼寝?悪い子だね、ノリさん」
「お前も同罪だろ〜」
「俺は元々悪い子だからいいんだよ」
「なんだそりゃ」
陽射しが当たるところが暖かくて、暑いくらい。吹き抜ける風が心地よい。
「ノリさんが悪いことしてるって思うと、なんかドキドキすんな?」
「意味が分からないんですけど」
別に俺は聖人君子じゃない。いい子ちゃんは演じない。俺がいい子に見えるとすれば、実際いい子ってことなんだろうけど。そんな評価にはこだわらない。
「当真はなんでこんなとこで昼寝すんの」
「俺?俺はさー」
2人して同じ空の、違う雲を眺める。
「自分のテリトリーで仕事サボってんのが、なんか快感ってか落ち着くんだわ」
「ほぉん」
まぁ近界民が来ればここは戦場だしな。当真なりの美学があるんだろう。眠くなってきた。俺があくびをすると、当真にうつる。2人して、会話もそこそこに微睡んで過ごした。
仕事終わりのラーメン/生駒達人
深夜帯の任務の一つ前のコマ、防衛任務を終えて本部に帰ってきた。肩を回して、身体をほぐす。
「あっ生駒っち!」
今日は太刀川隊が他の区画を担当していたらしく、宜嗣とすれ違う。ぶんぶん手を振りながら、こちらにやってくる様は、犬みたいやなぁと思う。
「おぉノリ。お疲れさん」
「お疲れ!今からラーメン食いに行こうぜ!」
「今から!?」
日付はとうに跨いでいる時刻。今からそんな重いもん食うんか?
「太りますやん……??」
「えーだって腹減って寝られねぇもん」
「マジで?自分カービィはんか?」
「そんな食ってねぇよ?」
いやいや。そういえば宜嗣はいつもよく食べるよなぁと思い起こす。美味そうに食うんよなぁ。
「トリオン使ったら腹減るじゃん。働いた分食わねぇと!」
にかっと笑う顔を見ていたら、なんや自分も腹が減った気になってきた。
「そやな。行こか!」
「よっしゃ!奢るわ」
「ええんですか先輩!?」
「ええよええよー」
俺に釣られて、出鱈目な関西弁を使うとこがかわええ。ほな、犬ちゃんみたいなカービィはんと、夜泣きラーメンと洒落込むか。
些細なことでも/弓場拓磨
「最近どうなんだお前」
「最近?」
ふらりと立ち寄ったカフェで休憩中。お前はいつも通り、でかいサイズのアイスティーを飲む。ガムシロップはひとつだけいれる。ストローはほんの少し噛む。
「いつも通りだよ」
何気ない調子で答える。いつもの通りの、詳細がこっちは知りてぇんだが。
「配信は」
「あー配信は最近ちょっと人増えた」
訊けば答えるが、訊くまでこいつはなにも語らない。自分から話す時は、よっぽど機嫌がいい時だけ。……些細なことでも、把握しておきたいと思うようになったのはいつからだったか。
「人増えるの嬉しいけど、コメント捌くのが大変なんだよな」
「あんま無理すんなよ」
「しないよ」
お前はふんわりと笑う。楽しい時でも辛い時でも、同じように笑うから、俺は安心することが出来ない。ちゃんと見極めてやらなきゃと思う。
「拓磨は最近どうなの?」
「俺は、」
お前のこと考える時間が増えているのを、見ないフリをしてる。言えるわけがねぇけど。呑気にアイスティーを飲んでる姿を見ると、なんでこうなっちまったかなと、自分を後ろめたくもなる。確実に渇いていく心に、いつまで耐えられるのか、自分に自信がなかった。
飲めないコーヒー/弓場拓磨
「カフェラテ、ひと口頂戴」
「?飲めねぇだろぉ、お前」
急に恨めしそうに俺のカップを見るので、少しびっくりする。宜嗣はコーヒーが飲めないから、紅茶党だ。今だって、宜嗣の手には紅茶が入ったカップがある。
「ちょっと飲んでみたい」
「前もダメだっただろ」
「飲めるようになってるかもしれないじゃん」
ね?と首を傾げられる。いちいち可愛いのがムカつく。俺とお前は身長差があんだから、必然とお前は上目遣いになるんだよ。分かってんのか?
「ひと口だけ!ひと口だけでいいから!」
「はいはい分かった」
別にお前にならいくらでもやるよ。カップを交換してやる。別に駄賃というわけでもないが、俺もひと口紅茶を飲む。宜嗣は、じっとカフェラテを睨みつけたあと、意を決してひと口飲んだ。途端に渋い顔をする。
「うぇ」
「ほらみろ」
「ダメだった」
カップが返却される。宜嗣は口直しとばかりに紅茶を飲んだ。カフェラテを口にする。そんな苦いか?これ。平気な顔で、飲み続ける。宜嗣が信じられないものを見る目で俺を見るので、思わず笑ってしまう。
「あ!笑うなよ!苦いじゃんだって」
「いやぁ苦くねぇよこれは」
「苦い!苦いもん!」
ふいっと視線を逸らし、不貞腐れて紅茶を飲むので、頬の緩みが抑えられない。可愛いぞって言ったら、まぁ怒るだろうな。
失敗した/弓場拓磨
「…………勉強、終わった?」
「まだだァ」
「そっか〜」
完全にしくった。勉強が終わったらすぐ遊べるように、宜嗣を部屋に呼んだ。思ったより手こずってしまい、終わらない。宜嗣が気になって気が散る。宜嗣が邪魔をしてこないのが逆に辛い。いい奴だなぁお前は。
「なんの勉強してるの?」
「日本史のレポートまとめてる」
「そうなんだ」
生物とかだったら、少し興味持って覗きに来ただろうか。そんな不純な理由で専攻変えるわけもないが。黙って待っている宜嗣の優しさが刺さる。刺さってかえって気が散る。詰んだ。いっそ気晴らしに少し遊ぶか。
「宜嗣、……!!」
振り返って声をかけるが、宜嗣は俺のベッドで昼寝を始めていた。まぁそうだよな。お前はよく寝る奴だもんな。うん。
(……終わらせるかァ)
長くため息を吐き、集中力を取り戻す。とりあえず、宜嗣は逃げねぇし。さっさと終わらせて、飯食いに行こう。気持ちを切り替えたら、嘘のようにすんなりレポートは終わった。枕元に立ち、宜嗣の寝顔を見つめる。まつ毛長ぇなこいつ。
(………………)
徐にスマホを取り出し、黙って宜嗣を撮る。何事もなかったかのように、宜嗣の肩を叩く。
「ん、終わった?」
「あぁ」
「お疲れ様〜」
ゆるりと笑うので、力が抜ける。後ろめたさを忘れて、これからこいつと飯を食いに行く。
相合傘/弓場拓磨
外に出ると、土砂降りの雨。さっきまで降っていなかったのに。別に折り畳みぐらいあるが。こういう時、昔の話を思い出す。まだ帰り道がいつも一緒だった頃の、最強だった2人のこと。
『げ、傘忘れた』
下駄箱で降り出した雨を睨み、宜嗣は立ちすくんだ。俺はランドセルに入っていた折り畳み傘を出す。
『今日は降るって言ってただろォ』
『えー聞いてないよ』
『マヌケ』
ケラケラ笑えば、お前はむくれた。言い返しもしないところが意地らしかった。
『おら、入れてやるよ』
『……お邪魔しまーす』
2人でひとつの傘を半分こ、俺は右肩を濡らして、お前は左肩を濡らした。そのうち、雨足は強くなる。
『わっすご……』
『ノリ、これ持て』
傘を押し付けて、1人で濡れた。どちらか1人でも濡れない方がマシと思った。
『え、なんで。拓磨の傘じゃん』
『どっちかだけでも濡れねーからいいだろ』
『よ、よくない!そんなら俺も濡れる』
宜嗣は傘を閉じて、俺に突き返した。お互い、あっという間にびしょ濡れになる。それだけのことが、可笑しくなって笑い合う。転げ回るように、走って家まで帰った。
『バカだなぁ、お前』
『拓磨もバカでしょ!』
……今は相合傘をするなんて、そんなタイミングはない。今はあいつも、傘忘れるなんてないだろうし。野郎2人で相合傘なんて、狭くて仕方ない。けど、そんな時があったら、今でも一緒に濡れてくれるだろうか。
君宛てのラブレター
「あのっこれ弓場くんに渡してくれませんか……?」
「……拓磨にぃ?」
顔に出たと思う。すっごく嫌だ。でも突き放すことも出来なくて、渋々受け取ると、逃げるように女の子はどこかへ行った。ラブレターはシンプルな薄ピンクの封筒に入っていて、ハートのシールで封がしてある。裏も表もマジマジと見る。中身は見えないけど。どうしようかな、これ。
(なんでこんなにモヤモヤすんだ?)
自分の気持ちの変化を疑問に思う。モヤモヤの原因を探る。第一に、渡してきた女が好みじゃない。これは俺の話だけど。拓磨の彼女になったとして、仲良く出来そうにない。そもそも、ラブレターなら直接渡せばいい。タイマン張れない奴は信用ならない。第二に、このラブレターの文章が確認出来ないから。ちゃんとグッとくるような文章なんだろうか。文章が汚い奴に拓磨はやれない。やりたくない。そこまで考えて、第三に。拓磨が俺といる時間を取られるのが嫌だ。拓磨の中の優先順位が変わるのが嫌だ。ラブレターを渡すのはやめよう。…………それはちょっと、独断すぎるか。そもそも、この子と拓磨が付き合うって決まったわけじゃないし、決めるのは拓磨だし。親友だからって、そんなこと勝手にしちゃダメだよな。うん。手紙を持って、弓場隊作戦室に向かう。何も言わずに渡せばいい。選ぶわけないって、大丈夫。
メガネ選び/弓場拓磨
お互いメガネのフレームが古くなってきたので、一緒にメガネを買いに来た。久々に2人で街中まで来たので、ドキドキする。こいつはそんなこと知りもしないんだろうけど、腕を大きく振って歩くのを見るに、ご機嫌なんだろう。メガネ屋に到着して、あれこれ試しにかけてみる。宜嗣はフチに色がついてるやつが似合う。
「拓磨はいいよな〜細いのも太いのも合うから」
「そうか?」
「どれ勧めたらいいのか、迷う」
自分のじゃなくて俺のを先に探していることに、なんとなく優越感というか、フワフワした心地になる。俺も宜嗣にかけて欲しいメガネを探す。丸めでレンズが大きめの、赤いメガネを渡してみる。
「んーこういうのは俺、可愛くなっちゃうからなー」
宜嗣が試しにかけて、こちらを向く。
「……それ、どういう顔?」
可愛くていいんじゃないですかって顔です。言えねぇけど。お茶を濁しているうちに、赤いメガネは返される。
「俺、拓磨には青いメガネして欲し〜」
細身の濃い青のメガネを渡される。試しにかける。満足そうにお前が笑うので。
「それはどういう顔だァ」
「クールでカッコいいねって顔!」
これにします。