本編
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作詞作業
「ん〜……」
一人きりの部屋で、作詞作業をしていた。時折、メロディを流して確認しながら、言葉を紡いでいく。俺が得意としているのは、切なさと薄暗さのある歌詞で、最後には前を向くんだけど、全体的にアンニュイなものが多かった。今回のは、メロディが爽やかなので、いつも通り書くわけにもいかないなと思っていた。前向きな気持ち、ポジティブな歌詞……。
(ラブソング、書けないんだよな)
ラブソングを書いたことはなくて、それは俺が恋をしたことがないからなんだけども。創作者の端くれだ、想像は出来るけど。あんまり沁みるように刺さる歌詞は書けない気がして、手を出していない。でも、具体的に誰かをイメージして書くのはありかもしれない。やったことないけど、やってみるか。真っ先に思い浮かんだのは、生まれた時から一緒の幼馴染だった。
『違った魂 持って生まれた けれど歩く道は一緒』
書けそうだな、と思って続けていく。途中でやっぱり手癖が出て、ポジティブか爽やかか分かんなくなったけど、まぁこれも味だしと開き直った。40分くらいかけて、まとめていく。
『どんなに変わっても 変わらないものがひとつあればいい』
書き終わった。これ、拓磨にバレたら恥ずいな。ま、分かるわけないか。意外に他人は文章の意図なんて考えてない。大丈夫大丈夫。
新曲
宜嗣を部屋に呼んで、のんびりと過ごしていた。俺は椅子に座って、宜嗣はベッドに寝転ぶ。いつもの定位置。
「そういえばさ、新曲出来たから聴いてよ」
宜嗣が有線イヤホンを俺に差し出す。受け取って耳につける。宜嗣は作曲担当のギターと組んで、楽曲を作っている。アコギの音が流れる。いつになく爽やかな曲だな。宜嗣の歌声が聴こえる。歌詞を聞き取って、頭で理解していく。
(ん……?んん……?)
俺のこと歌ってないか、これ。俺のことだよな、これ?宜嗣の方を確認する。いつも通りの、気の抜けた笑顔を向けている。いつも通りすぎて、怖い。訊けねぇ。これは誰のことを歌っているのかなんて。俺じゃなかったら凹むどころじゃない。
「……いいんじゃねぇのか」
混乱する頭で、なんとか口にする。にへら、と宜嗣が笑うので、ギュッと胸を締め付けられる。
「いつもと書き方変えたか?」
「あー分かる?実は拓磨イメージして作ったんだよね」
「は」
さらっと爆弾を落とされる。こいつは少し照れ臭そうに頭を掻いている。受け止めきれなくて、呼吸も忘れそうだ。こいつ、どんな顔して、どんな声で歌ってた?再生したくなるが、恐ろしいような気もする。
「……歌詞カード、全部見せろォ」
「え嫌だよ恥ずかしい」
すっとぼけるので、じゃれついて誤魔化す。誤魔化す?手と手が触れる、身体が近い。気がおかしくなりそうだ。げらげらと宜嗣が笑う。どうしようもなく、好きで溢れる。
「よかったら、たくさん聴いてよ」
結局、歌詞カードは見せてもらえなかった。たくさん聴いてよ。その言葉に導かれるがままに、もう一度再生ボタンを押す。良い曲だ、うん。
『きみにであえた しあわせにあふれている』
……どんな顔して、聴けばいいんだ。くすぐったくてしょうがねぇ。画面の中で、宜嗣がふっと笑う。妙に艶っぽく見える。あーもう、くそ。全部支配されていく。
「来週に、お披露目なんだよね」
「は?」
嵐のように渦巻く思考が、止まって数秒。お披露目?言葉の意味を考えて、ようやくこいつが人前で歌うことを思い出す。え、無理だ俺が。
「やめろ馬鹿俺が恥ずかしい」
「えーせっかく作ったのに」
人前で、あんな、情熱的に、俺への気持ちを歌うな。俺のためだけに。そこまで思考して、あまりに馬鹿な独占欲を抱いてることに気付く。はー閉じ込めてしまいたい。
「ま、言わなきゃ分かんないだろうし!」
こっちはこんなに乱されているのに、飄々となにも変わらないこいつが憎たらしい。憎たらしく思ったところで、この気持ちを素直に表に出すなんて、そんなことは出来ないけれど。どんな気持ちで、歌ってんだ。少しだけ、期待してもいいか。俺と同じ気持ちを、お前も抱えているって。生まれてからずっと一緒にいるのに、お前の気持ちなんてちっとも分からないんだ。ずっと、見ているのにな。
(俺のためだけに、歌って欲しかった)
またひとつ、言えないわがままを心の隅に仕舞う。いくつ積み重ねたら、お前からも見えるだろうか。お前は知らない方が、幸せだろうか。
お披露目後
「宜嗣の新曲あるやん?あれ、弓場ちゃんのことやんな」
お、盛大に吹き出した。咽せる弓場ちゃんに、ハンカチを渡してやる。でも、ふーん。やっぱそうなんや。他人の色恋は可愛くていい。によによと視線を投げると、睨み返される。
「……誰に聞いたァ」
「いや、言われなくても分かるであんなん」
「そうかよ」
弓場ちゃんはメガネをあげて、渋い顔をしている。本当は嬉しいくせに。もうちょいつついたろ。
「よかったやん。完全にラブソングやろあれ」
「それ、は」
弓場ちゃんは言葉に詰まって、みるみる頬を染める。男だけど、その様子は可愛らしい。へー!
「完全に恋する乙女の顔やで」
「うるせぇしばかれたいのか生駒ァ」
今の弓場ちゃんに凄まれても、全然怖ない。恋って人をこんなにも変えるんやなぁ。眼福。
「もう告ったらええやんか」
「…………それはねぇよ」
弓場ちゃんは頑なに、想いを告げようとしない。まぁ付き合いの長さを考えれば、怖いのもしゃーないとは思うが。男同士やしな。迷いも葛藤もあるだろう。
「俺は応援しとるで!」
「……おう」
弓場ちゃんは少し落ち着きを取り戻して、平然と残りのコーヒーを飲む。ギャップ面白。面白おかしく応援するのは許して欲しい。だっておもろい。ちゃんと2人とも幸せになれって気持ちはあるから、堪忍してや。
「ん〜……」
一人きりの部屋で、作詞作業をしていた。時折、メロディを流して確認しながら、言葉を紡いでいく。俺が得意としているのは、切なさと薄暗さのある歌詞で、最後には前を向くんだけど、全体的にアンニュイなものが多かった。今回のは、メロディが爽やかなので、いつも通り書くわけにもいかないなと思っていた。前向きな気持ち、ポジティブな歌詞……。
(ラブソング、書けないんだよな)
ラブソングを書いたことはなくて、それは俺が恋をしたことがないからなんだけども。創作者の端くれだ、想像は出来るけど。あんまり沁みるように刺さる歌詞は書けない気がして、手を出していない。でも、具体的に誰かをイメージして書くのはありかもしれない。やったことないけど、やってみるか。真っ先に思い浮かんだのは、生まれた時から一緒の幼馴染だった。
『違った魂 持って生まれた けれど歩く道は一緒』
書けそうだな、と思って続けていく。途中でやっぱり手癖が出て、ポジティブか爽やかか分かんなくなったけど、まぁこれも味だしと開き直った。40分くらいかけて、まとめていく。
『どんなに変わっても 変わらないものがひとつあればいい』
書き終わった。これ、拓磨にバレたら恥ずいな。ま、分かるわけないか。意外に他人は文章の意図なんて考えてない。大丈夫大丈夫。
新曲
宜嗣を部屋に呼んで、のんびりと過ごしていた。俺は椅子に座って、宜嗣はベッドに寝転ぶ。いつもの定位置。
「そういえばさ、新曲出来たから聴いてよ」
宜嗣が有線イヤホンを俺に差し出す。受け取って耳につける。宜嗣は作曲担当のギターと組んで、楽曲を作っている。アコギの音が流れる。いつになく爽やかな曲だな。宜嗣の歌声が聴こえる。歌詞を聞き取って、頭で理解していく。
(ん……?んん……?)
俺のこと歌ってないか、これ。俺のことだよな、これ?宜嗣の方を確認する。いつも通りの、気の抜けた笑顔を向けている。いつも通りすぎて、怖い。訊けねぇ。これは誰のことを歌っているのかなんて。俺じゃなかったら凹むどころじゃない。
「……いいんじゃねぇのか」
混乱する頭で、なんとか口にする。にへら、と宜嗣が笑うので、ギュッと胸を締め付けられる。
「いつもと書き方変えたか?」
「あー分かる?実は拓磨イメージして作ったんだよね」
「は」
さらっと爆弾を落とされる。こいつは少し照れ臭そうに頭を掻いている。受け止めきれなくて、呼吸も忘れそうだ。こいつ、どんな顔して、どんな声で歌ってた?再生したくなるが、恐ろしいような気もする。
「……歌詞カード、全部見せろォ」
「え嫌だよ恥ずかしい」
すっとぼけるので、じゃれついて誤魔化す。誤魔化す?手と手が触れる、身体が近い。気がおかしくなりそうだ。げらげらと宜嗣が笑う。どうしようもなく、好きで溢れる。
「よかったら、たくさん聴いてよ」
結局、歌詞カードは見せてもらえなかった。たくさん聴いてよ。その言葉に導かれるがままに、もう一度再生ボタンを押す。良い曲だ、うん。
『きみにであえた しあわせにあふれている』
……どんな顔して、聴けばいいんだ。くすぐったくてしょうがねぇ。画面の中で、宜嗣がふっと笑う。妙に艶っぽく見える。あーもう、くそ。全部支配されていく。
「来週に、お披露目なんだよね」
「は?」
嵐のように渦巻く思考が、止まって数秒。お披露目?言葉の意味を考えて、ようやくこいつが人前で歌うことを思い出す。え、無理だ俺が。
「やめろ馬鹿俺が恥ずかしい」
「えーせっかく作ったのに」
人前で、あんな、情熱的に、俺への気持ちを歌うな。俺のためだけに。そこまで思考して、あまりに馬鹿な独占欲を抱いてることに気付く。はー閉じ込めてしまいたい。
「ま、言わなきゃ分かんないだろうし!」
こっちはこんなに乱されているのに、飄々となにも変わらないこいつが憎たらしい。憎たらしく思ったところで、この気持ちを素直に表に出すなんて、そんなことは出来ないけれど。どんな気持ちで、歌ってんだ。少しだけ、期待してもいいか。俺と同じ気持ちを、お前も抱えているって。生まれてからずっと一緒にいるのに、お前の気持ちなんてちっとも分からないんだ。ずっと、見ているのにな。
(俺のためだけに、歌って欲しかった)
またひとつ、言えないわがままを心の隅に仕舞う。いくつ積み重ねたら、お前からも見えるだろうか。お前は知らない方が、幸せだろうか。
お披露目後
「宜嗣の新曲あるやん?あれ、弓場ちゃんのことやんな」
お、盛大に吹き出した。咽せる弓場ちゃんに、ハンカチを渡してやる。でも、ふーん。やっぱそうなんや。他人の色恋は可愛くていい。によによと視線を投げると、睨み返される。
「……誰に聞いたァ」
「いや、言われなくても分かるであんなん」
「そうかよ」
弓場ちゃんはメガネをあげて、渋い顔をしている。本当は嬉しいくせに。もうちょいつついたろ。
「よかったやん。完全にラブソングやろあれ」
「それ、は」
弓場ちゃんは言葉に詰まって、みるみる頬を染める。男だけど、その様子は可愛らしい。へー!
「完全に恋する乙女の顔やで」
「うるせぇしばかれたいのか生駒ァ」
今の弓場ちゃんに凄まれても、全然怖ない。恋って人をこんなにも変えるんやなぁ。眼福。
「もう告ったらええやんか」
「…………それはねぇよ」
弓場ちゃんは頑なに、想いを告げようとしない。まぁ付き合いの長さを考えれば、怖いのもしゃーないとは思うが。男同士やしな。迷いも葛藤もあるだろう。
「俺は応援しとるで!」
「……おう」
弓場ちゃんは少し落ち着きを取り戻して、平然と残りのコーヒーを飲む。ギャップ面白。面白おかしく応援するのは許して欲しい。だっておもろい。ちゃんと2人とも幸せになれって気持ちはあるから、堪忍してや。