本編
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「だぁー疲れたー!」
椅子に座ったまま、伸びをする。書類作業は苦手だ。いつもは太刀川さんや出水に投げているが、今はいない。だってみんなは近界遠征に行っているから。一緒にお留守番の唯我に任せきりにするわけにもいかないので、なんとか集中力を絞り出して、机に向かい合う。
「もうすぐみんな帰ってきますね」
「そうだな。留守番中助かったぜ、唯我」
「はい!ありがとうございます!」
太刀川隊だと俺は飴になるんだろうか。唯我は俺には素直だし従順だ。サボり癖はあるけど、叱ればちゃんとやるし。太刀川さんや国近は唯我に無関心で、出水は世話は焼くけど結構厳しい。唯我の入隊経緯に、思うことがないわけじゃないけど、せっかく同じ隊なのだからどうせなら仲良く過ごしたい。
「僕はずっとノリさんと2人でもいいです」
「無茶言うな俺が無理」
「小林隊、作らないんですか?」
「作るわけねーじゃん」
俺は太刀川さんに恩義があるし、隊長として尊敬している。太刀川さんが俺を必要とする限り、俺は太刀川隊を抜ける気はない。
「もったいない……宜嗣さんほどの人が隊長をやらないなんて」
「俺は向いてないよ。唯我こそ、早く頑張って独り立ちしたらどうだ」
「……僕は、「おいこら唯我ぁ!宜嗣さんに迷惑かけてねぇーだろうな!?」」
唯我の言葉を遮って、出水が帰ってくる。唯我は青ざめて縮こまる。可哀想に。
「かけてませんよ!開口一番にそれですか!?酷い!」
「どうせおんぶに抱っこだったんだろ。宜嗣さん優しいから」
「そんなこと!ないです!」
「そんなことねぇよ出水」
間に入って弁解してやると、出水が疑わしい目を向けるので苦笑する。
「本当に。任務もちゃんとこなしたし、書類もだいぶ手伝ってもらった。助かったよ」
「……宜嗣さんがいいなら、いいけどさ」
出水は唯我を押し除けて、俺の向かいに座る。ま、なにはともあれ。
「お疲れ、出水。おかえり」
「うす。元気そうでなにより」
出水はテーブルの煎餅に手を伸ばす。国近は早々にゲームをする準備をしている。
「国近もおかえり」
「ただいま〜ねぇノリさん、ポケモンやろ?」
「おっいいねぇ」
「唯我、茶!」
「人使いが荒いんですよ出水先輩は……」
普段通りの太刀川隊が戻ってきた。やっぱこの方が調子出るな。安心する。
「そういえば、太刀川さんは?」
「ん、報告と、なんか会議あるみたいっす」
「ほぉん」
隊長は大変だなぁ。感謝しかないや。帰ってきたら、太刀川さん餅食うだろうし、ストック確認しておくか。
「太刀川さん、おかえり〜」
いつもの飄々とした顔で、太刀川さんは帰ってきた。どかっと俺の隣に座る。
「餅ある?」
「そう言うと思った」
給湯室に餅を焼きに行こうと、立ちあがろうとしたら太刀川さんに腕を引かれ止められる。振り払わずに着席する。
「唯我、餅焼いてきて。隊長命令」
「……はい〜」
俺の代わりに唯我が給湯室に入る。なんだろう。俺は黙って太刀川さんの言葉を待つ。
「今日の夜、玉狛を襲撃する。目的は、近界民が持ち込んだ黒トリガーの確保だ」
「え……」
きな臭い任務が入ったなぁ。玉狛の襲撃?いつもつるむ友達の顔が浮かぶ。あいつに視えてないわけがない。
「なんで玉狛と?玉狛もボーダーじゃん」
「玉狛は黒トリガーを持ち込んだ近界民を庇って、支部に入隊までさせた。パワーバランスが崩れる前に確保する」
ボーダーは一枚岩じゃない。太刀川さんは城戸派だ。城戸さんの命令なら、動かざるを得ない。けど、俺は。
「……嫌だなぁ迅と対立するの。玉狛には京介もいるし」
素直な感想を溢した。全然乗り気がしない任務だ。黒トリガーは危険だけど、死んだ誰かの遺産でもある。無理矢理に奪うなんて、考えたくはない。
「太刀川隊が受けた命令だからなぁ。どうしても嫌なら置いていくけど」
お前の隊長は俺だろ?そんな視線を向けられる。太刀川さんの命令なら、俺は従うしかない、けど。
「じゃあ太刀川さん。ひとつお願い」
弱い俺の切実な願いをひとつ、隊長に託す。太刀川さんはゆるりと笑った。
「おーけー。それでいい。じゃ、餅食ったら作戦詰めに会議室行くぞ」
唯我が焼いた餅を食べる。スマホを確認すると、迅からLINEが着ていた。
『先に謝っとく。ごめん。太刀川さん達が玉狛に来る時間教えて』
俺は怪しまれないように、さっと一言だけ返した。
『今日の夜』
スマホを仕舞う。やっぱり、迅と争うことになりそうだ。嫌だな。憂鬱を掻き消すように、笑顔を作る。誤魔化す時は、いつだって笑顔だ。笑っていれば、なんとかなる。笑っていれば、福が来る。今回だって、きっとそうだ。
『目標地点まで、残り1000』
気付けば任務に突入していて、あっという間に玉狛は目の前だ。走るのに疲れた気がする。
「止まれ!」
太刀川さんのひと声で、足を止める。前方を見れば、迅が立ち塞がっていた。俺が作った状況に、安心と恐怖が織り混ざった、複雑な感情に揺さぶられる。酔いそうだ。ぼんやりと、どこか浮世離れしたような、乖離した気持ちで太刀川さんと迅のやり取りを聞いていた。
「実力派エリートとして、かわいい後輩を守んなきゃいけないな」
「仕留めるのになんの問題もないな」
「持ち主本人にしてみれば命よりも大事な物だ」
「お前1人で勝てるつもりか?」
「俺はそこまで自惚れてないよ」
「「俺1人だったら」の話だけど」
レーダーに複数の反応があり、顔を上げた。その時、一瞬迅と目が合った。俺は太刀川さんの部下だ。でも、迅の信じる未来を俺も信じたい。
「嵐山隊、現着した。忍田本部長の命により、玉狛支部に加勢する!」
嵐山が迅に味方するなら、もう迷っている時間はない。俺は、真っ直ぐ迅のいる方へ走り出した。脇目も振らず、ただ一直線に。身体が崩れる、真っ二つになって。旋空を抜いた、太刀川さんが見えた。
「ありがとう、太刀川さん」
『トリオン体活動限界、ベイルアウト』
身体が本部へ飛ばされる。なにも出来ないけど、これでいい。こうするしかない。
『俺が裏切りそうになったら、遠慮なく斬って』
太刀川さんは約束を守ってくれた。俺は裏切ったのに。どうするのが正解だった。きっと答えなんてない。けど、自分の気持ちは通したから、満足だ。
「揉めないでほしいよな〜同じボーダーで」
1人ごちて、緊急脱出用のマットレスから降りる。国近がオペレートをしている。戦闘は始まってしまったようだ。
「国近、俺帰るから。あとよろしく」
「うぃ〜」
忙しく機器を操作する彼女を邪魔しないように、そっと隊室を出る。あとで迅には詳しいことを説明してもらおう。悪いことが起きなければいいな。気晴らしにどこか行こうか。拓磨、暇してるかな。なにも知らない街に繰り出して、忘れたように笑う自分が視えた気がした。
椅子に座ったまま、伸びをする。書類作業は苦手だ。いつもは太刀川さんや出水に投げているが、今はいない。だってみんなは近界遠征に行っているから。一緒にお留守番の唯我に任せきりにするわけにもいかないので、なんとか集中力を絞り出して、机に向かい合う。
「もうすぐみんな帰ってきますね」
「そうだな。留守番中助かったぜ、唯我」
「はい!ありがとうございます!」
太刀川隊だと俺は飴になるんだろうか。唯我は俺には素直だし従順だ。サボり癖はあるけど、叱ればちゃんとやるし。太刀川さんや国近は唯我に無関心で、出水は世話は焼くけど結構厳しい。唯我の入隊経緯に、思うことがないわけじゃないけど、せっかく同じ隊なのだからどうせなら仲良く過ごしたい。
「僕はずっとノリさんと2人でもいいです」
「無茶言うな俺が無理」
「小林隊、作らないんですか?」
「作るわけねーじゃん」
俺は太刀川さんに恩義があるし、隊長として尊敬している。太刀川さんが俺を必要とする限り、俺は太刀川隊を抜ける気はない。
「もったいない……宜嗣さんほどの人が隊長をやらないなんて」
「俺は向いてないよ。唯我こそ、早く頑張って独り立ちしたらどうだ」
「……僕は、「おいこら唯我ぁ!宜嗣さんに迷惑かけてねぇーだろうな!?」」
唯我の言葉を遮って、出水が帰ってくる。唯我は青ざめて縮こまる。可哀想に。
「かけてませんよ!開口一番にそれですか!?酷い!」
「どうせおんぶに抱っこだったんだろ。宜嗣さん優しいから」
「そんなこと!ないです!」
「そんなことねぇよ出水」
間に入って弁解してやると、出水が疑わしい目を向けるので苦笑する。
「本当に。任務もちゃんとこなしたし、書類もだいぶ手伝ってもらった。助かったよ」
「……宜嗣さんがいいなら、いいけどさ」
出水は唯我を押し除けて、俺の向かいに座る。ま、なにはともあれ。
「お疲れ、出水。おかえり」
「うす。元気そうでなにより」
出水はテーブルの煎餅に手を伸ばす。国近は早々にゲームをする準備をしている。
「国近もおかえり」
「ただいま〜ねぇノリさん、ポケモンやろ?」
「おっいいねぇ」
「唯我、茶!」
「人使いが荒いんですよ出水先輩は……」
普段通りの太刀川隊が戻ってきた。やっぱこの方が調子出るな。安心する。
「そういえば、太刀川さんは?」
「ん、報告と、なんか会議あるみたいっす」
「ほぉん」
隊長は大変だなぁ。感謝しかないや。帰ってきたら、太刀川さん餅食うだろうし、ストック確認しておくか。
「太刀川さん、おかえり〜」
いつもの飄々とした顔で、太刀川さんは帰ってきた。どかっと俺の隣に座る。
「餅ある?」
「そう言うと思った」
給湯室に餅を焼きに行こうと、立ちあがろうとしたら太刀川さんに腕を引かれ止められる。振り払わずに着席する。
「唯我、餅焼いてきて。隊長命令」
「……はい〜」
俺の代わりに唯我が給湯室に入る。なんだろう。俺は黙って太刀川さんの言葉を待つ。
「今日の夜、玉狛を襲撃する。目的は、近界民が持ち込んだ黒トリガーの確保だ」
「え……」
きな臭い任務が入ったなぁ。玉狛の襲撃?いつもつるむ友達の顔が浮かぶ。あいつに視えてないわけがない。
「なんで玉狛と?玉狛もボーダーじゃん」
「玉狛は黒トリガーを持ち込んだ近界民を庇って、支部に入隊までさせた。パワーバランスが崩れる前に確保する」
ボーダーは一枚岩じゃない。太刀川さんは城戸派だ。城戸さんの命令なら、動かざるを得ない。けど、俺は。
「……嫌だなぁ迅と対立するの。玉狛には京介もいるし」
素直な感想を溢した。全然乗り気がしない任務だ。黒トリガーは危険だけど、死んだ誰かの遺産でもある。無理矢理に奪うなんて、考えたくはない。
「太刀川隊が受けた命令だからなぁ。どうしても嫌なら置いていくけど」
お前の隊長は俺だろ?そんな視線を向けられる。太刀川さんの命令なら、俺は従うしかない、けど。
「じゃあ太刀川さん。ひとつお願い」
弱い俺の切実な願いをひとつ、隊長に託す。太刀川さんはゆるりと笑った。
「おーけー。それでいい。じゃ、餅食ったら作戦詰めに会議室行くぞ」
唯我が焼いた餅を食べる。スマホを確認すると、迅からLINEが着ていた。
『先に謝っとく。ごめん。太刀川さん達が玉狛に来る時間教えて』
俺は怪しまれないように、さっと一言だけ返した。
『今日の夜』
スマホを仕舞う。やっぱり、迅と争うことになりそうだ。嫌だな。憂鬱を掻き消すように、笑顔を作る。誤魔化す時は、いつだって笑顔だ。笑っていれば、なんとかなる。笑っていれば、福が来る。今回だって、きっとそうだ。
『目標地点まで、残り1000』
気付けば任務に突入していて、あっという間に玉狛は目の前だ。走るのに疲れた気がする。
「止まれ!」
太刀川さんのひと声で、足を止める。前方を見れば、迅が立ち塞がっていた。俺が作った状況に、安心と恐怖が織り混ざった、複雑な感情に揺さぶられる。酔いそうだ。ぼんやりと、どこか浮世離れしたような、乖離した気持ちで太刀川さんと迅のやり取りを聞いていた。
「実力派エリートとして、かわいい後輩を守んなきゃいけないな」
「仕留めるのになんの問題もないな」
「持ち主本人にしてみれば命よりも大事な物だ」
「お前1人で勝てるつもりか?」
「俺はそこまで自惚れてないよ」
「「俺1人だったら」の話だけど」
レーダーに複数の反応があり、顔を上げた。その時、一瞬迅と目が合った。俺は太刀川さんの部下だ。でも、迅の信じる未来を俺も信じたい。
「嵐山隊、現着した。忍田本部長の命により、玉狛支部に加勢する!」
嵐山が迅に味方するなら、もう迷っている時間はない。俺は、真っ直ぐ迅のいる方へ走り出した。脇目も振らず、ただ一直線に。身体が崩れる、真っ二つになって。旋空を抜いた、太刀川さんが見えた。
「ありがとう、太刀川さん」
『トリオン体活動限界、ベイルアウト』
身体が本部へ飛ばされる。なにも出来ないけど、これでいい。こうするしかない。
『俺が裏切りそうになったら、遠慮なく斬って』
太刀川さんは約束を守ってくれた。俺は裏切ったのに。どうするのが正解だった。きっと答えなんてない。けど、自分の気持ちは通したから、満足だ。
「揉めないでほしいよな〜同じボーダーで」
1人ごちて、緊急脱出用のマットレスから降りる。国近がオペレートをしている。戦闘は始まってしまったようだ。
「国近、俺帰るから。あとよろしく」
「うぃ〜」
忙しく機器を操作する彼女を邪魔しないように、そっと隊室を出る。あとで迅には詳しいことを説明してもらおう。悪いことが起きなければいいな。気晴らしにどこか行こうか。拓磨、暇してるかな。なにも知らない街に繰り出して、忘れたように笑う自分が視えた気がした。