本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『トリオン切れた』
朝起きて、LINEを確認するとひと言だけメッセージが入っていた。宜嗣は昨日夜間任務だったはずだ。忙しかったのだろう。
『大丈夫か?』
『無理。死んでる』
宜嗣はトリオン切れを起こすと、体調が悪くなる。トリオンは身体機能の一部なので、そういう奴だっているだろう。いつものことだが、気の毒に思う。朝の講義に出る支度をしながら、LINEを気にかける。
『昼に食えそうなもんは』
出かける時間になっても、既読がつかない。寝てるな、これ。昼も起こしてやらないと飯が食えねぇかもな。
『午後お前の家寄るわ』
当たり前のように、宜嗣の家に行く宣言だけする。そんなことは日常茶飯事で、俺と宜嗣の間では変わったことでもなんでもない。仲が良いなと言われるし、距離が近いとも言われるが、気にしない。俺達は生まれた時からの幼馴染だ。家を出て、大学に向かう。今日は快晴だ。
講義を真面目に受けて、終了のチャイムと共に足早に大学を出る。すぐにLINEを確認する。
『ありがと。待ってる』
返事が着ていることに安心する。宜嗣は常に感謝を忘れない奴だ。言葉にもする。だから、宜嗣の世話をすることを嫌だと思ったことはない。なにか買っていってやるか。ゼリーなら食うかな。
『今大学終わった。向かう』
スーパーに寄って、真っ直ぐ自宅に向かって歩く。自宅の斜向かいの、マンションの101号室を訪ねる。インターホンを鳴らすと、しばらくしてから鍵が開く。こちらからドアを開け、中に入る。宜嗣は背中を丸めて、奥のリビングへ進む。遠慮なくついていく。
「飯は食ったのかァ」
「まだ」
「さっさと食っちまえ」
うーんと決まりの悪い返事をする背中を叩く。宜嗣は、観念してキッチンに向かった。俺は、L字のソファの手前に腰掛けて待つ。肩に重みを感じる。宜嗣が俺にもたれかかってきた。少しドキリと心臓が波打ったのに、気づかないフリをする。
「しんどい〜頭痛ぇ」
「お疲れさん」
頭を軽く叩いてやる。レンジのチンが鳴る。温もりと重みが離れていく。宜嗣は冷凍の炒飯を持って、ソファの奥に座った。ゆるゆるとした動きで、食前の漢方を飲み込み、炒飯を口に運ぶ。その様子を黙って見ていた。
「お水、欲しい」
空のコップを差し出される。何も言わずに汲んできてやる。
「ありがとう」
受け取り、半分を一気に飲み干す。宜嗣は半目開きでだるそうで、まだ具合が悪そうだ。
「ゼリーあるけど、食えるか?」
「ゼリー?」
ちょっと目が輝いた。感情に裏表がなくて、読み取りやすいところがこいつの良いところだ。
「食っていいの?」
「そのために買ってきたんだろぉが」
「わぁいありがとう〜」
2つ買ってきたゼリーの、ミックスが選ばれて食べられる。残った桃を俺は食べる。すっかり機嫌を良くしたのか、宜嗣は鼻唄なんかを歌っている。単純な奴。
「やっぱ拓磨いないと俺ダメだなぁ〜」
何気なく呟かれたそれに、嘘つけ。と心の中で毒を吐く。誤魔化していた薄暗く湿っぽい感情に支配される。
『あ、その日俺ボーダーの入隊式だわ』
いつも通りに遊びに誘って、帰ってきた断り文句。受けた衝撃は今でも忘れない。生まれた時からいつも一緒だった。2人でいればなんでも出来たし、最高に楽しかった。中学は宜嗣が休みがちになったけど、いつだってつるんで遊んでいた。ずっと、こいつとは一緒にいるんだろうと、無垢に信じていた。
『ボーダー?』
『うん。ボーダー入ったんだ、俺』
屈託なく笑ったお前に、目の前が真っ暗になったように感じた。なにひとつ俺に相談もせずに、遠くに行ったことが信じられなかった。追いかけるように俺も入隊したが、気付けばお前は太刀川隊に入っていて、一緒に隊を作ることも叶わなかった。いつも一緒だ、と口にするくせ、お前はいつだって俺を置いていく。俺はせめてどっちに歩き出すのか、目を見張っていることしか出来ない。
「拓磨?」
「……今日は天気がいいから、動けるなら出かけようぜ」
「ん!」
あの日と変わらぬ、屈託ない笑顔を見せられる。くそったれ、と思わなくはない。それは俺に対してなのか、宜嗣に対してなのか。
「どこ行く?」
「お前に任せる」
「え〜どうしよっかな」
宜嗣はソファに寝転んだ。俺は宜嗣が残した水を勝手に貰って飲み干す。気怠そうに宜嗣があくびする。その間抜け面を眺めて、騒ついた気持ちが治まっていくのを感じる。本当は分かっている。この関係がベストなことも、宜嗣が俺を裏切らないことも。分かっているのに、想いが澱むのを止められない。
「16時になったら、動く!」
「おう」
待ってる間、なにをしようか。宜嗣の本棚でも漁ろうか。宜嗣は、最近お気に入りらしい音楽を流し始めた。昔から変わらない、なにより大切な時間が流れる。お前がどこへ行ったとしても、隣は俺のために空けておいて欲しい。あまりにもダセェ願いを、口にすることは叶わない。
朝起きて、LINEを確認するとひと言だけメッセージが入っていた。宜嗣は昨日夜間任務だったはずだ。忙しかったのだろう。
『大丈夫か?』
『無理。死んでる』
宜嗣はトリオン切れを起こすと、体調が悪くなる。トリオンは身体機能の一部なので、そういう奴だっているだろう。いつものことだが、気の毒に思う。朝の講義に出る支度をしながら、LINEを気にかける。
『昼に食えそうなもんは』
出かける時間になっても、既読がつかない。寝てるな、これ。昼も起こしてやらないと飯が食えねぇかもな。
『午後お前の家寄るわ』
当たり前のように、宜嗣の家に行く宣言だけする。そんなことは日常茶飯事で、俺と宜嗣の間では変わったことでもなんでもない。仲が良いなと言われるし、距離が近いとも言われるが、気にしない。俺達は生まれた時からの幼馴染だ。家を出て、大学に向かう。今日は快晴だ。
講義を真面目に受けて、終了のチャイムと共に足早に大学を出る。すぐにLINEを確認する。
『ありがと。待ってる』
返事が着ていることに安心する。宜嗣は常に感謝を忘れない奴だ。言葉にもする。だから、宜嗣の世話をすることを嫌だと思ったことはない。なにか買っていってやるか。ゼリーなら食うかな。
『今大学終わった。向かう』
スーパーに寄って、真っ直ぐ自宅に向かって歩く。自宅の斜向かいの、マンションの101号室を訪ねる。インターホンを鳴らすと、しばらくしてから鍵が開く。こちらからドアを開け、中に入る。宜嗣は背中を丸めて、奥のリビングへ進む。遠慮なくついていく。
「飯は食ったのかァ」
「まだ」
「さっさと食っちまえ」
うーんと決まりの悪い返事をする背中を叩く。宜嗣は、観念してキッチンに向かった。俺は、L字のソファの手前に腰掛けて待つ。肩に重みを感じる。宜嗣が俺にもたれかかってきた。少しドキリと心臓が波打ったのに、気づかないフリをする。
「しんどい〜頭痛ぇ」
「お疲れさん」
頭を軽く叩いてやる。レンジのチンが鳴る。温もりと重みが離れていく。宜嗣は冷凍の炒飯を持って、ソファの奥に座った。ゆるゆるとした動きで、食前の漢方を飲み込み、炒飯を口に運ぶ。その様子を黙って見ていた。
「お水、欲しい」
空のコップを差し出される。何も言わずに汲んできてやる。
「ありがとう」
受け取り、半分を一気に飲み干す。宜嗣は半目開きでだるそうで、まだ具合が悪そうだ。
「ゼリーあるけど、食えるか?」
「ゼリー?」
ちょっと目が輝いた。感情に裏表がなくて、読み取りやすいところがこいつの良いところだ。
「食っていいの?」
「そのために買ってきたんだろぉが」
「わぁいありがとう〜」
2つ買ってきたゼリーの、ミックスが選ばれて食べられる。残った桃を俺は食べる。すっかり機嫌を良くしたのか、宜嗣は鼻唄なんかを歌っている。単純な奴。
「やっぱ拓磨いないと俺ダメだなぁ〜」
何気なく呟かれたそれに、嘘つけ。と心の中で毒を吐く。誤魔化していた薄暗く湿っぽい感情に支配される。
『あ、その日俺ボーダーの入隊式だわ』
いつも通りに遊びに誘って、帰ってきた断り文句。受けた衝撃は今でも忘れない。生まれた時からいつも一緒だった。2人でいればなんでも出来たし、最高に楽しかった。中学は宜嗣が休みがちになったけど、いつだってつるんで遊んでいた。ずっと、こいつとは一緒にいるんだろうと、無垢に信じていた。
『ボーダー?』
『うん。ボーダー入ったんだ、俺』
屈託なく笑ったお前に、目の前が真っ暗になったように感じた。なにひとつ俺に相談もせずに、遠くに行ったことが信じられなかった。追いかけるように俺も入隊したが、気付けばお前は太刀川隊に入っていて、一緒に隊を作ることも叶わなかった。いつも一緒だ、と口にするくせ、お前はいつだって俺を置いていく。俺はせめてどっちに歩き出すのか、目を見張っていることしか出来ない。
「拓磨?」
「……今日は天気がいいから、動けるなら出かけようぜ」
「ん!」
あの日と変わらぬ、屈託ない笑顔を見せられる。くそったれ、と思わなくはない。それは俺に対してなのか、宜嗣に対してなのか。
「どこ行く?」
「お前に任せる」
「え〜どうしよっかな」
宜嗣はソファに寝転んだ。俺は宜嗣が残した水を勝手に貰って飲み干す。気怠そうに宜嗣があくびする。その間抜け面を眺めて、騒ついた気持ちが治まっていくのを感じる。本当は分かっている。この関係がベストなことも、宜嗣が俺を裏切らないことも。分かっているのに、想いが澱むのを止められない。
「16時になったら、動く!」
「おう」
待ってる間、なにをしようか。宜嗣の本棚でも漁ろうか。宜嗣は、最近お気に入りらしい音楽を流し始めた。昔から変わらない、なにより大切な時間が流れる。お前がどこへ行ったとしても、隣は俺のために空けておいて欲しい。あまりにもダセェ願いを、口にすることは叶わない。